第4話 一人で立ちションもできねぇ…
女の下着を覗き見るなど、硬派番長として絶対あってはならねぇ。
のだが――、
「これ脱がねぇと、ションベンできねぇじゃねえかああああ!」
男としての面目と、限界寸前の膀胱。その二つが俺の中で激しくぶつかり合った。
「ぐぬぬぬぬ……!」
その間にも早乙女はさっさと用を済ませ、スッキリした顔を見せていた。
「ふぃ~、生き返ったわ!」
「畜生おおおおっ!!」
もう限界だ。
額に脂汗がにじむ。
(ヤバい……ヤバい……ヤバい……!)
決壊寸前の膀胱に、思わず裾をたくし上げそうになる。
「いやダメだ!」
女の下着を見るな。
触るな。
想像するな。
それが男の美学っ!
男たるもの、女の下着など言語道断っ!
たとえそれが――自分のだとしてもだ!!
「うぐうううっ……」
だが、尿意は待ってくれない。
膝がプルプルと震え始める。
「……もう無理」
俺はついに、苦渋の決断を下した。
「すまん……早乙女」
「どないしたんやリリアナ? なんかすごい汗やで!」
「頼む……下着を脱がせてくれ」
「はあ?」
早乙女が素っ頓狂な声を上げる。
「なんでウチがそんなことせなあかんねん」
「じ……実は脱ぎ方が分からねぇんだ」
ウソなのは丸分かりだ。
自分のパンツが脱げねぇバカが、この世に存在するはずがねぇ。
だが、自分で触れねぇ以上、コイツに頼るしかないのだ。
すると早乙女は、なぜか目を輝かせた。
「……ほんまもんや。やっぱアンタ、ほんまもんの姫さんや!」
「……お、おう。でも何で?」
「姫は何でも侍女にやってもらうって、ウチのバイブルに描いてあったで!」
「侍女って……ションベンの世話までしてくれるのか?」
「当たり前や!」
早乙女は懐から少女マンガを取り出すと、勢いよくページを開いた。
「ほら、見てみい!」
すると確かにそんな場面が描かれていた。
「ウソ……だろ。マジでこの侍女、ションベンの世話をしてやがる!」
「よっしゃ、ほんならウチ手伝ったるわ!」
そう言うなり、俺の寝間着の裾を勢いよくたくし上げた。
だが――
「……なんやこれ?」
早乙女が固まる。
「どうした?」
「この下着、ゴテゴテしすぎやろ……」
俺の股間に顔を近づけ、早乙女が困惑している。
「俺の下着、そんなに変なのか?」
「変ちゅうか……構造が複雑すぎて、どっから脱がしてええのか分からへんわ」
「そんなに複雑なのかよ……」
「なあリリアナ、これどうやって外すん?」
「俺が知るわけねぇだろ!」
「そらそやなあ。アンタ、ほんまもんの姫さんやしなあ……」
勝手に納得した早乙女は、下着の紐を引っ張ったり、レースをめくったりし始めた。
だが、まるで外れないらしい。
「あれ? ここ引っ張ったら絡まってもうた」
「なあ、早くしてくれよ! 漏れそうなんだよ!」
ブルッ……ブルッ……。
モタモタ。
ブルッ……ブルルルッ……。
モタモタ。
「やべぇ……もうダメだ……おい早乙女……急いでくれ」
血の気が引き、視界がチカチカし始める。
「分かってるって。もうちょい待ってえな」
「もう無理……もう待てねぇ……」
ビクンッ、と身体が震える。
限界は、とっくに越えていた。
そして脳内では、ついにカウントダウンが始まってしまった。
「5……4……」
「リリアナが、カウントダウン始めてもたぁぁぁ!」
「3……2……」
「あかん、間に合わへん!」
「1……」
ズルッ。
「外れた!」
「ゼロォ!」
その瞬間――
俺は勢いよくその場にしゃがみ込んだ。
ジョロロロロロロロロロ……
「はあああああああああああ……」
思わず天を仰ぐ。
「ま、間に合った……」
セーフ。
間一髪、セーフ……!
天にも昇る至福の時間が訪れ、早乙女もまた、大仕事を終えたような満足そうな表情を浮かべていた。
「ふう……ほんまギリギリやったなぁ」
「だな。あと一歩で大惨事になるところだった。主に俺のパンツと、お前の顔がな……」
「でも、姫さんって大変なんやな……」
「最悪だよ……姫なんかもうやめてぇ……」
頭を抱える俺の肩を、早乙女がなぜか優しく叩いた。
「安心しい、リリアナ」
「え……?」
「ウチがアンタの侍女になったるわ」
「……はあ?」
「アンタ、自分でパンツも下ろされへんねやろ? じゃあウチがおらんと困るやん」
「……そりゃ、まあ確かに」
「城まではまだ遠いみたいやし、ウチにはこのバイブルがある!」
早乙女は少女マンガを高々と掲げ、ドヤ顔を決める。
「この本を真似て、ウチ、立派な侍女になったるでぇ!」
こうして俺は――不倶戴天のライバルに、下の世話を任せることになった。
「どうしてこんなことに……とほほほほ」




