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バンカラ転生 ~番長の俺が姫だとっ!? 宿敵スケバンまで来やがって、正体バレたら末代までの恥! 切腹不可避!~  作者: くまひこ


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第36話 決着

 アルヴェルト王国人体魔石化計画。


 そのすべてを狂わされ、メリザンドは怨嗟に顔を歪めながら両手を広げる。


 その瞬間――謁見の間の空気が変わった。


 辺りを満たしていた魔力が一気に収束し、いくつもの魔法陣が宙に浮かび上がる。


【――原初の炎よ。我が魔力を喰らい、すべてを焼き尽くせ! 火属性上級魔法――フレア・トルネード!】


 ゴオオオオオオッ!


 無数の巨大な火球が渦を巻きながら、俺たち目がけて殺到する。


【――水神の加護よ。蒼き奔流となりて、彼の者を打ち砕け! 水属性上級魔法――ガーディアン・ブリザード!】


 俺が詠唱を終えた瞬間、無数の氷柱がメリザンドめがけて放たれた。


 ジュオオオオオッ!


 炎と氷が真正面から激突し、凄まじい熱気とともに大量の水蒸気が謁見の間を覆い尽くした。


「……ギリッ!」


 メリザンドの顔が醜く歪む。


「わらわと同じ高速詠唱術を……」


「ちっ! かなり鍛えたつもりだったが、人外のテメエにはまだまだ足りねえか」


「いい魔石にしようと、騎士団で鍛錬を積ませたのが裏目に出たか……」


「欲をかきすぎだテメェ……喰らえっ!」


【――天雷よ、轟け!】


 バチバチバチバチーーン!


 空間が白く染まり、凄まじい雷撃がメリザンドを貫かんとエネルギーを蓄える。


【――白銀よ、舞え!】


 だが、メリザンドは間一髪で銀色の電子雲を展開して、その中に身を隠す。


 直後、轟音とともに雷撃が直撃した。


「ちっ、一瞬遅かったか」


【――天翔ける風よ、万物を切り裂け】


 さらにメリザンドの魔法が発動し、無数の風刃が空間を切り裂く。


「させるか!」


【――怒れる大地よ、山となりて打ち砕け】


 俺も即座に魔法で風刃を跳ね返した。


【――黎明の光よ、闇を払いて浄化せよ】


【――深淵の闇よ、光なき世界を現出せよ】


挿絵(By みてみん)


 炎、氷、雷、風、光、闇――次から次へと放たれる魔法が激突し、王城全体が大きく揺れる。


 互いの魔導結界には無数の亀裂が走り、砕け散っては再構築を繰り返した。


 やがてそれも間に合わなくなり、ついには防御を失った俺たちの身体が凄まじい衝撃に弾き飛ばされた。


 ドゴオオオオンッ!


「ぐはあああっ!」


「うぐうううっ!」


 同時に壁にめり込む俺とメリザンド。


 そんな激しい衝撃を幾度となく受けた王城は、ついにその威容を支えきれなくなった。


 壁に穴が空き、天井が落下し、太い石柱が音を立てて崩壊していく。


「なんやねん……これ……」


 魔法の頂上決戦について来れず、ただ見守るしかなかった早乙女は、自らを強固な結界で包んで魔力の奔流から身を守った。


 そしてメリザンドも、まさかの苦戦に驚愕の表情を浮かべている。


「そんな馬鹿な……このわらわと互角に戦えるなんて……」


 魔力を一気に使い果たし、肩で息を吸うメリザンドは、結界を張り直すたびにいとも簡単に突き破られ、攻撃魔法に身を焼かれた。


 対する俺は、途中から結界を展開せず、すべての魔力を攻撃魔法に費やしていた。


 ゆえに、魔法を食らうたびに身体が切刻まれ、血飛沫が舞った。


 それでも次の瞬間には、傷口が完全に塞がり、肉体が元通りに再生していく。


「なあ、メリザンド」


 俺は詠唱を止め、彼女に問いかける。


「俺が着ているこの最高法衣は、お前が昔着てた服だってな。今では闇堕ちして、治癒魔法も十分に使えなくなったようだな」


「ちっ……!」


 メリザンドの身体を覆うオートキュアも、常軌を逸した修復能力には違いねぇ。


 それでも俺のオートキュアに比べれば、その治癒力は遠く及ばなかった。


 そんな俺の戦いを結界の中から見ていた早乙女が、呆れたように声を上げる。


「アンタいつの間に、そんなぎょうさん呪文を覚えたんや……?」


「言っただろ」


 俺は右手を掲げる。


「すべての記憶が甦ったって」


「記憶って……エルヴァリア王国のか?」


 指先に巨大な魔法陣が浮かび上がる。


「ああ。実は俺――魔法が得意だったんだ」


「アホの子のアンタが……信じられへん」


「残念だったな早乙女。エルヴァリア王国では秀才で名が通っていたのさ、この俺様は」


 自分よりバカだと安心しきっていた早乙女が悔しそうに地団駄踏をむが、そんなやり取りがメリザンドの癇に障ったのか、凄まじい魔力が空気を震わした。


 ゴゴゴゴゴゴゴ……!


 膨れ上がった魔力が、周囲の瓦礫を浮かび上がらせる。


「……調子に乗るな、小娘どもっ!」


 怨嗟の炎をまといながら、仁王立ちするメリザンドの周りを、衛星のように瓦礫が回転する。その身体から噴き出す魔力は、先ほどとはまるで比較にならなかった。


 崩れ落ちた城の天井。ぽっかりと開いた大きな穴から夜空が覗いており、空を埋め尽くすほどの巨大な魔法陣が、いくつも重なり花を咲かせた。


「これで終わりだっ!」


 メリザンドの口元が、邪悪に吊り上がる。


【――天より降り注ぐ漆黒の槍よ!】


 ズズズズズ……!


 夜空を覆う巨大な魔法陣から、無数の黒い槍が次々と出現する。


 その切っ先が、一斉に俺へ向いた。


――《黒天魔槍》


 ドドドドドドドドドッ!


 漆黒の槍が、豪雨のように降り注いだ。


――《万象障壁》


 だが俺は、頭上に光の障壁を展開すると、超速で落下する無数の黒槍が次々とその結界に突き刺さった。


 バキバキバキ……ッ!


「ヤベッ……」


 だが、光の障壁に無数の亀裂が走ると、あっという間にそれを突き破って、俺の身体を闇槍が貫いていった。


「リリアナーーーっ!」


「まだだっ!」


 俺は歯を食いしばり、全身の魔力を一気に解放。身体の傷も瞬時に塞がり、砕けた光の障壁も再生する。


「うおおおおおおっ!」


 さらに魔力を爆発させると、


 ドォォォォン!


 さらに振り注ぐ漆黒の闇槍を、まとめて弾き飛ばした。


「コイツを全部返すぜ」


 宙をクルクルと舞う闇槍が空中で静止し、一斉に方向を定める。


 そして――


 シュボボボボボボボボボボボ!


 そのすべてが、メリザンドに殺到した。


「くっ!」


 メリザンドが慌てて結界を展開するが、


 ズガガガガガガッ!


 無数の闇槍が彼女の結界に猛烈な勢いで衝突し、その衝撃波が王城を激しく揺らした。


「まだまだっ!」


 俺は魔剣を握り直すと、間髪入れずに魔法を叩き込んだ。


――《煉獄炎》


――《絶対零度》


 紅蓮の炎と極寒の冷気が同時に放たれ、辛うじて形を保っていた王城が物理限界を迎えて、その寿命を終えた。


 巨大な柱が根元から砕け、轟音とともに倒壊していく。


 柱を失った壁が轟音と共に崩落し、床が耐えきれずに底が抜ける。


 ドドドドドドドドド……。


 瓦礫と砂塵に視界を失い、俺たち三人は崩壊する王城とともに奈落へ落下していった。


「リリアナあああっ……!」


 早乙女が俺に助けを求める声がする。


「大丈夫か、早乙女っ!」


 俺は辛うじて早乙女を手繰り寄せると、浮遊魔法を発動。


 次々と落下してくる瓦礫を縫うように宙を駆け抜け、どうにか足場になりそうな瓦礫の上へ無事に着地する。


「間一髪セーフ。大丈夫か早乙女」


「リリアナ……♡」


 腕の中で、早乙女が頬を赤く染めている。そのまま俺にしがみついて離れない。


「……ウチ、姫さんになった気分や!」


「そうか……最低な気分だろ?」


「ううん……最高の気分♡」


「……ああ、そうかよ」


 俺は苦笑しながら、早乙女をそっと瓦礫の上に下ろす。


 すると早乙女は頬をぷくっと膨らませて、不服そうに俺を睨んだ。


「そんな早よ下ろさんでもええやん……」


「何言ってんだ。今はバトル中だぞ?」


「そやった……うっかり忘れるとこやった」


「アホか」


 そんなやり取りをしている俺たちを、同じく瓦礫の上に着地したメリザンドが睨みつけている。


「早乙女……俺はそろそろ限界だ」


「え……?」


 懐から取り出したのは、マジックポーションの空瓶。


「魔力はもうすぐ底をつく」


「リリアナ、あんた……」


「それに比べて、アイツはまだ余裕しゃくしゃく。人体魔石を取り込むたびに、魔力自体が底上げされて強くなっていきやがる」


 俺は魔女を睨みながら、拳を握りしめる。


「このまま真正面からやり合えば、いずれ俺たちは負ける」


「ほな、どないすんねん?」


「安心しろ。今までの戦いはただの撒き餌。俺の必殺技を確実に決めるためのな」


「そうやったんか……!」


「ああ。ただ、準備に時間がかかる」


 俺は早乙女を見る。


「その間、ヤツを引きつけてくれ」


「どれくらいもたせればええんや?」


「一分」


「一分か……」


 早乙女がニヤリと笑う。


「――なら、楽勝や!」


 次の瞬間、早乙女は結界を解き放った。


「うおおおおおおおおおっ!」


 彼女の身体に膨大な魔力が満ちて、周囲の瓦礫が爆散した。



         ◇



「……ありえない」


 わらわは、今日何個目の人体魔石を身体に取り込んだ。


 赤黒く脈打つ魔石の魔力が、わらわの身体に吸い込まれ、それと入れ替わるように魔石はサラサラとした白い粉へと変わった。


 数百年間魔石の中で生きていた魂が消滅した瞬間たったが、その代償として凄まじい魔力がわらわの全身を駆け巡った。


 ドクンッ! ドクンッ!


 心臓が大きく脈打つ。


 さらにもう一段、魔力のギアが上がった。


「わらわの肉体もそろそろ限界……でもこれだけ強化すれば奴の魔法攻撃も防げるはず」


 そう思った、瞬間だった。


 ズバンッ!


「え……?」


 右腕が、肩口から斬り飛ばされた。


「痛ううううっ!」


 右手に握っていた魔法の杖が腕と共に地面に叩きつけられ、魔法陣に集まった魔力が霧散していく。


「何が起こっ……ひいいいっ!」


 なんと、結界を易々と突破した女がわらわの懐に潜り込んでいた。


「そんな……バカな……!」


 早乙女レイカ。


 異世界から迷い込んだ魂が、獰猛な笑みを浮かべながら魔剣を握りしめていた。


 バキィィィン!


 慌てて展開した結界が、彼女の一閃で粉砕される。


「物理攻撃!」


 リリアナの魔法攻撃に対抗するため、人体魔石から吸い上げた魔力を、魔法防御強化に使ってしまった。


 物理防御を犠牲にしたのは、リリアナとレイカの魔剣の威力を把握していたから。


 それほど、記憶を取り戻したリリアナの魔法攻撃は人外の威力を誇っていたのだ。


 だが、目の前のレイカは、以前共に旅をしたときのレベルをはるかに超えていた。


「おら、おら、おら、おらああああっ!」


 ズバッ! ザシュッ! ドガッ!


 目にも止まらぬ魔剣の連撃が叩き込まれ、わらわの肉を裂き、骨を断ち、身体中がいいように切り刻まれていく。


【――オートキュア、最大限界!】


 右腕を修復した次の瞬間には、左腕が斬り飛ばされる。


「ぐうううっ!」


 左腕の修復に魔力を回すと、今度は剣先が首筋を掠めた。


「速いっ……!」


 あまりに速すぎる彼女の動きに、目で追うだけでも精一杯。


 そんなレイカの動きが、さらに加速する。


「くっ……!」


 ここから物理防御にシフトしてもリリアナの魔法攻撃を満足に受けきれなくなるし、かと言ってレイカの物理攻撃は一撃必殺の威力を持つ。


 ──このままでは、ジリ貧。


 ならば!


「千魔晶を発動させる!」


 王城地下の兵舎跡地。


 そこには、千魔晶を発動させるための巨大な魔法陣が刻まれており、わらわの手下がその手はずを整えていた。


 リリアナの言が正しければ、魔石はすでに魔導騎士団によって奪われたかも知れないが、わらわの今の魔力があれば、この二人を魔石に変えるだけなら可能。


 これだけの魔力を誇る二つの人体魔石が手に入れば、今回の計画も失敗とは言えまい。


「このまま終わってたまるものか……!」


 レイカに隙はない。


 それでも、強引に振り切ってみせる。


 わらわは全身に魔力を巡らせた。


 筋肉、神経、骨格――肉体のすべてを魔力で強化する。


「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 極限まで身体能力を引き上げる。


 そして――


「これならどうだっ!」


 地面を蹴って身体を弾丸のように加速し、さらに加速を重ねる。極限まで強化した肉体が、ついにレイカの速度を上回った。


 彼女を背後に抜き去った瞬間、わらわの前方にピアノ線のように研ぎ澄まされた魔力が出現した。


 赤、青、緑、黄、茶、白、黒。


 七色のオーラが絡み合いながら天へと駆け昇っていき、やがてそれは七頭の巨大な龍へと姿を変えた。


 龍たちは王都に満ちる魔素を貪るように吸い上げ、膨大な力をその身に蓄えていくと、同時に地上へと舞い降りた。


「なっ……!」


 リリアナだ。


 彼女は七頭の龍を従えると、その膨大な魔力を――まるで喰らうように吸収していった。


 キイイイイイイインッ……!


 右手拳が七色に光り、周りの空間がオーラで歪む。


「そんな……まさか……」


 その凄まじいオーラが背後にも出現し、振り返るとレイカの拳も七色に輝いていた。


 二人は顔を見合わせ――ニヤリと笑った。


「逃げ……っ!」


 だが、もう遅かった。わらわの結界を越えて、二人の少女が間合いに入り込んでいた。


「メガトン、パアアアアンチッ!!」


「ラブリープリンセス、ナックルーッ!!」


「ま、魔王さ……」


挿絵(By みてみん)



 ドゴオオオオオオオオンッ!!


 轟音とともに、俺たちの拳がメリザンドの身体を同時に貫いた。


 七色の魔力が一点に集中し、メリザンドの頭部と心臓を同時に破壊した。


 すると彼女の身体を覆っていたオートキュアが、術者を失い効力を停止し、


 シュウウウウウ……。


 メリザンドだった肉体から、膨大な魔素が流れ出していった。


 黒い煙のような魔素は、天へと昇り、夜空へ溶けるように拡散していった。


 そして――静寂が訪れた。





「なあリリアナ……これで、ほんまに終わったんかなあ」


 早乙女が呟く。


「ああ」


 俺は静かに頷いた。


「これで終りだ」


 祖国エルヴァリア王国を滅ぼし、家族も、臣下も、そのすべてを奪った魔女。


 だが数百年の時を超えて、俺たちの復讐の物語は、今、終わったのだ。

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