第34話 魔女封殺作戦、始動
宣戦布告から二日。
ルーメン聖堂騎士団とサマトリア王国騎士団を従えた俺は、教会最高法衣に身を包んで軍馬を進めていた。
左右を固めるのは早乙女とセラフィーナ。
そのすぐ後ろには、両騎士団長が選りすぐった精鋭たちを率いて、馬を連ねている。
そんな俺たちの行く手を遮るように、アルヴェルト王国騎士団の大軍が立ちはだかる。
両軍合わせて総勢二万。
広大な平原を埋め尽くすほどの大軍勢が、互いに矢を放つ寸前まで迫っている。
一触即発。
だが、サマトリア王国騎士団の先頭に立つ俺の姿を見た瞬間――アルヴェルト王国騎士団に戸惑いとどよめきが広がった。
「リリアナ様がどうしてサマトリアに!」
「まさか……裏切られたのか?」
その動揺をかき分けるように、一頭の軍馬が駆けてくる。
俺の前で馬を止めたのは、アルヴェルト王国騎士団長だった。
「探しましたぞ、リリアナ様!」
騎士団長は安堵したような顔を見せたが、すぐに表情を曇らせる。
「しかし……いったいなぜ、敵軍の先頭におられるのですか」
「……少し込み入った話がある」
俺は周囲を見回し、
「セラフィーナ、『人払いの魔術』を使ってくれ。二人だけで話がしたい」
「承知しました、リリアナ様」
セラフィーナが羽根扇を静かに広げると、次の瞬間、俺と騎士団長を包むように魔力の膜が展開した。
◇
魔力で覆われた俺たちの会話は、外には一切聞こえない。
俺は地面にどっかと腰を下ろし、騎士団長にも向かいに座るよう促す。
「急にいなくなって、すまなかったな」
「本当に驚きました。レイカまで姿を消しましたから、秘密の地下通路を使って王城を抜け出されたことまでは想像がつきましたが、まさかサマトリア王国へ戻られていたとは」
「ちょっと野暮用があってな。それで、やはり俺を探していたのか?」
「それはもう。特にアルトゥール王子が大層心配されまして、王都だけでなく国中に兵を出して、それはもう大騒ぎでした」
「そうか……」
「それより理由を教えてください。なぜ隣国の兵を率いて、我が国に宣戦布告などを!」
「魔女を倒すためだ」
「……魔女?」
俺はエルヴァリア王国が滅亡した経緯と、そこに潜んでいた魔女の存在を話し、今回の挙兵も、アルヴェルト王国と戦争するためでなく魔女を討つためだと説明。
最初は半信半疑だった騎士団長も、赤黒く脈打つ魔石を見せた途端、顔色を変えた。
「これが……人体魔石!」
「ああ。エルヴァリア王国第一王子アルフォンスの成れの果てだ」
「こんな恐ろしいことをする魔女が……我が国に潜んでいたなんて」
恐怖に怯えながらも、騎士団長は魔石から目を離せない。
「ならどうして宣戦布告などを……」
「魔女はできるだけ多くの人体魔石を欲しがっている。ならば逆手に取って、王城にいる貴族たちを外に引きずり出せば、魔法の発動を遅らせることができると考えた」
「そうか! だから、宣戦布告をして我が騎士団を戦場へ誘い出したのですか!」
「王城から魔力を持つ貴族がいなくなれば、せっかくの秘術も空振りに終わるからな」
「さすがはリリアナ様だ……機転が利く」
「だが、騎士団を出動させたのはそれだけじゃねえ」
俺は地図を広げる。
「魔女を確実に倒すには、逃げ道を塞ぐ必要があった」
俺は王都と国境ラインの各所に印を付けて、封鎖地点を指示。
「承知しましたが、肝心の魔女はどこに?」
「王城だ」
「なんと大胆不敵な……」
騎士団長が息を呑む。
「だが、その魔女については……うぐっ!」
「リリアナ様!」
喉を押さえ、苦痛に顔を歪める俺に、騎士団長が身を乗り出す。
「見ての通り、魔女について詳しく話そうとすると、呪いで声が出せなくなるんだ」
俺は息を整えながら続けた。
「だから誰が魔女かは言えねえが、俺の言う通りに動けば必ず追い詰められる」
「承知しました。それで作戦は?」
「まず、ここに集めた両軍二万の兵をさっき示した場所に配置させて、国境を封鎖する。万が一にも魔女を逃がすな!」
「はっ!」
「次に、王都の周囲を騎士団で包囲。魔女が逃げる隙を一切与えるな!」
「はっ!」
「すべての軍用転移陣の使用を停止。各ギルドにもそれを通知し、知り得る限りの秘密通路もすべて封鎖しろ!」
「はっ!」
「最後に――」
俺は騎士団長を見据える。
「両軍から魔力自慢を選りすぐり、決死隊を編成する」
「決死隊……?」
「俺と一緒に王城へ突入して、魔女を討つ」
「はっ! ……え?」
騎士団長の顔が引きつった。
「リリアナ様も戦われるのですか?」
「当たり前だ」
「それは危険すぎます!」
「構わん」
俺は即答した。
「俺は魔女にタイマンを挑む。その間、お前たちは魔女の手下を相手しろ。そしてヤツらが『人体魔石化』の秘術を使う前に、王城にあるすべての人体魔石を回収するんだ」
「それではリリアナ様が……!」
「俺には魔女を倒す秘策がある」
「…………」
「心配するな。こう見えて俺は強い」
騎士団長は大きく息を吐いた。
「……では、レイカをお連れください」
「早乙女を?」
「はい。レイカはリリアナ様の護衛騎士です。何よりお二人は実に息が合っている」
「でも、それじゃタイマンにならねえだろ」
「これは、せめてもの譲歩です」
騎士団長は真剣な顔で俺を見る。
「リリアナ様が一人で魔女と戦うことだけはどうしても認められません」
「…………」
「それにレイカなら、いざという時には必ずあなたを助けられる」
「……分かった」
俺は渋々頷いた。
「俺のプライドに反するが……確実に魔女を仕留めるためだ。早乙女を連れて行こう」
「ありがとうございます!」
こうして俺は、アルヴェルト王国騎士団長の協力も取り付けた。
そして作戦は、最終段階へと移る。
◇
騎士団の配置を終え、決死隊を結成した俺たちは、国境城壁から王都騎士団本部へ一気に跳躍。そこから地下通路を使って、王城へ忍び込んだ。
途中で二手に分かれ、その大部分は地下兵舎跡の『人体魔石化魔法陣』の部屋を強襲し、そこに潜んでいる魔女の手下どもを一網打尽にして、人体魔石を回収する。
一方、俺と早乙女、セラフィーナの三人は、国王の待つ謁見の間へと走った。
「結局アンタも来たんや、セラフィーナ」
「わたくし、リリアナ様専属侍女ですもの。当然ですわ」
「今から魔女とタイマンなんやで。森の魔獣みたいに簡単な相手やないし」
「足手まといにはなりません。それにわたくし、魔法が得意ですから」
そう言って自信ありげに羽根扇を広げる。
「リリアナ様、よろしいですわね?」
「構わん。早乙女がいる時点でタイマンでもなんでもねえし」
「ウチのせいにせんといて!」
「それに、お前の魔法には何度も助けられている。今回も頼りにしてるぜ!」
「お任せください」
セラフィーナが優雅に微笑んだ。
「ということですので、よろしくお願いしますね、レイカ様」
「しゃあないなあ。ほな、足引っ張らんように頑張りや」
「着いたぞ」
俺たちは足を止める。
目の前には、謁見の間へ続く巨大な扉。
俺は勢いよく扉を開け放った。
「失礼するぜ!」
三人が謁見の間になだれ込むと、玉座の国王陛下が目を白黒させる。
「誰かと思えばリリアナではないか! 今までどこに行っていたのだ!」
俺の姿を見た途端、国王の顔に安堵の色が浮かび、その隣に立つアルトゥール王子も、同じようにホッとした表情を見せていた。
「本当に心配していました。一体どこに行っていたのですか、リリアナ?」
「心配かけてすまなかったな。王子」
俺は申し訳なさそうに頭を下げる。
そして――アルトゥール王子の前まで歩み寄ると、
「リリアナ?」
だが俺は、無言で魔剣を抜いた。
ザシュッ!
「うぐっ!!」
とっさに庇った王子の右腕が宙を舞った。
「リリアナ、何を――!」
国王の怒号が響く。
だが、苦痛に歪む王子の切断された右腕から黒い靄が噴き出し、腕が再生していく。
「……ちっ、仕留め損なったか」
俺は目の前の男を睨みつける。
「よう、久しぶりだな。魔女エリザンド」




