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バンカラ転生 ~番長の俺が姫だとっ!? 宿敵スケバンまで来やがって、正体バレたら末代までの恥! 切腹不可避!~  作者: くまひこ


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第27話 リリアナ・ディ・エルヴァリア

 もう一度辺りを見回すが、早乙女以外に誰もいない。その早乙女も、目を見開いたまま微動だにしない。


「おい、早乙女!」


 肩を揺すっても反応がない。まるで時間そのものが止まってしまったようだ。


「一体、どうなってる?」


 その時――。


『どうして……リリアナがここにいる?』


「ちょっと待て……この声」


 耳で聞いているというより、頭の中に直接響いてくる。


「この魔石……」


 手の中の魔石が赤く脈打つと、再び男の声が聞こえる。


『……まさか、そなたまで魔女に捕まってしまったのか!』


「魔女に捕まった? 一体何のことだ?」


『そうか……魔女に捕まった訳ではないのだな。よかった……』


「お、おう……それよりなぜ俺の名を?」


『たとえ目が見えなくても魔力は感じることができる。そこにいるのは確かに私の愛する妹――リリアナだ』


「妹……だと?」


 胸がざわついた。


 俺のことをリリアナと呼び、しかも妹だと言う。


 いったい、こいつは何者だ?


「お前は……誰だ?」


『まさか……この私を忘れてしまったのか』


「忘れたも何も、お前の声を聞くのは今日が初めてだ」


『……そういうことか』


 男の声が、わずかに沈む。


『永い眠りの中で記憶を失ってしまったのか。だからそのような乱暴な口調を……』


「質問に答えろ! お前は誰だ! 魔女って誰なんだ!」


『我らを襲った魔女の名は――』


 そこで、声が途切れた。


『……くっ』


「どうした?」


『魔女の呪いか……。その名を口にしようとしても、声が出せない』


「また呪いかよ……」


 どいつもこいつも呪い、呪い。


 この世界は呪いのバーゲンセールでもやっているのか?


『記憶を失ったのなら仕方ない……すべてを話そう。我らに何が起きたのかを』


「なんか怖えけど……教えてくれ」


『私の名はアルフォンス・ド・エルヴァリア。エルヴァリア王国第一王子……だった者だ』


「エルヴァリア王国の第一王子……」


 その言葉に、俺は息を呑んだ。


「じゃあ、お前の言うリリアナってのは、エルヴァリア王国の王女だったのか?」


『そうだ。そなたは私の妹、第二王女リリアナ・ディ・エルヴァリア』


「……リリアナ・ディ・エルヴァリア」


 その名前を口にすると、不思議な感覚が胸をよぎる。


 もしかすると、この身体の本来の持ち主の記憶がそうさせるのかも知れない。


『そなたが幼い頃から、その魔力をずっと感じてきた。たとえ目が見えなくても、兄である私にはすぐに分かった』


 俄かには信じられないが、嘘をついている気配はない。


『リリアナ、よく聞いてほしい』


 アルフォンスの声が、重くなる。


『私は――魔石にされたのだ』


「……え?」


 手の中の、赤く脈打つ魔石。


 そこから語られたのは、とても信じられない話だった。





 エルヴァリア王国。


 かつて栄華を誇った大国を、一人の魔女が滅亡へと追い込んだ。


 魔女は何食わぬ顔で王国に入り込み、家臣の一人として王家に仕えていた。


 それから間もなく次々と家臣が姿を消し、その異変に気づいた時には、すでに手遅れだった。


 大半の家臣が魔石に変えられ、それを糧に魔女は強大な魔力を獲得し、ついには王族にまで魔の手が及んだという。


『我らも必死に抵抗した。だが……奴の魔力はあまりにも強かった』


 アルフォンスの声に、悔しさが滲む。


『父上も母上も……姉上も、弟も、妹も。皆、魔石に変えられてしまった』


「……そんな」


『だが、そなただけは逃がすことができた』


「俺だけ……逃がした?」


『そうだ。王家に仕える二人の大魔導師に命じた。魔女の手が届かぬ場所へそなたを逃がせ、と』


「……魔女の手が届かない……場所?」


 心臓が、ドクンと大きく鳴った。


『メディオーラの森の最奥に城を築き、そなたを眠りにつかせよ――私はそう命じたのだ』


「メディオーラの森だとっ!」


 そこはまさに、俺がこの世界で目覚めた場所だった。


 魔獣すら近づけない、茨に覆われた古城。


『あの森は人が入ることができないほど魔素が強い。魔女といえど簡単には踏み込めぬ。我が大魔導師たちは、自らの命を依り代に、そなたをそこへ封じた』


「自分の命を犠牲に……!」


『すべては、エルヴァリア王家の命脈を残すために』


 衝撃の事実に、俺は言葉が出なかったが、一つだけ納得できないこともあった。


「……確かに俺はリリアナを名乗っている。だが本当の名前は黒崎鉄也。日本人だ」


『何を言っている。そなたは間違いなく我が妹リリアナだ』


「なぜ断言できる!」


『そなたの魂が、そう告げているからだ』


「いやいやいや!」


 思わず声が大きくなる。


「よく聞け魔石! リリアナってのは近所のメス犬の名前なんだ! 俺が黒崎だってバレないように、適当に付けた名前なんだ!」


『そなたこそ何を言ってる! そなたの名はリリアナ・ディ・エルヴァリア! 誇り高きエルヴァリア王国の王女なのだ!』


「いやだから、リリアナは近所のメス犬の」


『父は国王レオニード。母は王妃エレオノーラ。姉は第一王女セレスティア。弟は第二王子ルシアン。そして妹の第三王女マリアベル』


 次々と語られていく王族の名前。


 それだけではない。


 王城に仕えていた家臣たちの名、その役職、さらには城内の細かな事情まで。


 アルフォンスは、まるで昨日までそこにいたかのように語り続けた。


 だが――。


 俺にはどれ一つとして心当たりがない。


挿絵(By みてみん)


『……その皆が、魔石にされたのだ』


 アルフォンスの声が沈んだ。


『だが、そなたを逃がすことができたのは、不幸中の幸いだった』


「不幸中の幸い?」


『我が王家にあって、そなたは飛び抜けて強い魔力を持って生まれた。だからこそ、そなただけは何としても逃がさなければならない。私はそう決断した』


 俺は自分の手を見つめた。


 確かにこの身体には桁外れの魔力がある。


 騎士団で訓練を始めてから、その異常さを実感するようになった。


 騎士団の誰よりも魔力が強い。


 騎士団長どころか、アルトゥール王子すらも凌ぐほどに。


 この魔力があったからこそ、身体が魔獣化することなく、あの森で長い眠りにつくことができたのかもしれない。


『そなたさえいれば、エルヴァリア王家は必ず復興できる』


 魔石の中から響くアルフォンスの声に、力がこもる。


『生きるのだリリアナ! エルヴァリア王家最後の希望――それが、そなたなのだ!』


「最後の……希望……」


 その言葉が、ずしりと胸に響く。


 この身体が……本物のリリアナの記憶が、今の言葉に反応しているのか。


『そしてもう一つ伝えておかねばならない』


「何だ、言ってみろ」


『魔女は、すぐ近くにいる』


「……え?」


 背筋が凍った。


『今すぐ逃げろ! そなたが目覚めたことなど、すぐに奴の知るところとなる!』


「逃げろと言われても、今の俺に行く当てなんかない。それなら……倒せばいいんじゃねえのか?」


『……無理だ』


 即座に否定された。


『今のそなたでは、絶対に勝てない』


「……やってみなくちゃ分からんだろ」


『私には分かる。そなたの魔力がどれほど強大でも、今のままでは歯が立たない』


 アルフォンスは、静かに言葉を続ける。


『仲間を増やせ。そして、自らも強くなれ』


「仲間……か」


『確実に魔女を倒せる力を手にするまで、そなたの正体は決して明かしてはならない』


「正体を……隠すのか」


『魔女は仲間と共に潜んでいる。そなたが誰なのか、決して気づかせてはならない』


 その言葉に、俺は息を呑んだ。


 もしかすると、俺はすでに魔女と接触しているかも知れない。


『時が来るまで動くな。焦るな。じっくり力を蓄えるのだ』


「……分かった」


『兄は常にそなたと共にある。この魔石を、肌身離さず持っておけ』


 俺は小さく頷いた。


 コイツを完全に信用したわけじゃない。


 だが、嘘だというには話が生々しすぎる。


 そして俺の勘が告げている。


 ――俺の知らないところで、とんでもない何かが動いている。


『私のことは誰にも話すな』


「……早乙女にもか?」


『誰であろうと、絶対に話すな!』


「……分かった」


 俺は魔石を強く握りしめる。


『……そろそろ魔力が切れる……また兄に会いたければ……先ほどのように魔力を込めればよい』


 魔石の中で脈打っていた赤い光が、少しずつ弱くなっていく。


『リリアナ……どうか、生き延びてくれ』


「おい!」


 呼びかけても、もう返事はなかった。


 赤い光が消え、魔石は再びただの黒い石へと戻った。





「魔女がすぐ近くにいる……か」


 アルフォンスの言葉が、頭から離れない。


「どないしたん、リリアナ?」


「おわあああっ!」


 突然声をかけられ、思わず飛び上がった。


「ああ、ビックリした……」


 さっきまで微動だにしなかった早乙女が、不思議そうに俺を見つめている。


「何ビビっとんねん。変なリリアナやな」


「お待たせしました。良さそうな魔術具をいくつか見繕ってきましたわ」


「おわああっ! 今度はセラフィーナか……今までどこにいたんだ?」


「どこって……ずっとここにいましたけど?」


 そう言って、セラフィーナは俺のすぐ隣で首をかしげている。


「いやいや、誰もいなかったぞ……そこ」


 セラフィーナが立っている場所。


 そこにはさっきの魔石が転がっていただけ。


(まさかコイツ……いや、さすがにねぇか)

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