第24話 やっと、王子の国に到着したぜ!
国境の街エレンザに跳躍した俺たち四人。
足早に冒険者ギルドを出ると、乗合馬車に飛び乗り、街道を東へ進んだ。
そこから半日ほど馬車に揺られ、アルヴェルト王国との国境に到着。そこで乗客全員、馬車を降りた。
街道を塞ぐように築かれた長大な城壁。
その中央に設けられた関所の前では、アルヴェルト王国の衛兵たちが旅人一人ひとりを厳重にチェックしていた。
「僕たちは一番最後にしましょう」
「なんでや? 王子やったら、優先して入れてもらえるのとちゃうん?」
「だからこそです。僕たちが入国するところを、他の誰にも見られたくないんです」
「隠密行動やな……分かった」
王子はよほど警戒しているのか、俺たち全員にフード付きローブを着させ、目立たないよう列の最後尾に並ぶ。
前の旅人が一人、また一人と関所を通過していき、小一時間ほど待ったところでようやく俺たちの番が回ってきた。
周囲を見回し、他に誰もいなくなったことを確認し、王子は衛兵の前に歩み出る。
「お務めご苦労様」
「何だ馴れ馴れしい奴だな。そんなことより早く身分証を……」
仏頂面だった衛兵が王子の身分証を受け取ると、すぐにその目を大きく見開き、顔から血の気が引いていった。
「ああああ、アルトゥール王子っ!」
「シーッ……」
王子は慌てて人差し指を唇に当てる。
「声が大きい……僕は王家の試練で放浪の旅に出ている。父王の許しがない限り、身分を隠しておかなければならないのだ」
「そ、そうでした……!」
衛兵は慌てて身分証を返すと、背筋を伸ばした。
「失礼いたしました、殿下っ!」
「だから声が大きい……」
「も、申し訳ありません殿下っ!」
「もういい……はあぁ」
衛兵は直立不動で敬礼を止めないし、王子が警戒していた理由に納得。旅人の中にスパイがいたら、一発アウトだった。
「ところで後ろの女性は?」
衛兵が俺たちへ視線を向ける。
「大切な客人だ。後は察してくれ」
「お后候補とは気づかず、大変失礼しました!」
「………もういい、今すぐ全員を通せ」
「はっ!!」
衛兵が城門を開く。
だが、アルヴェルト王国側に通り抜ける前に、城壁側面の通用口を王子が開ける。
「どうぞこちらへ」
通用口の中はハシゴが上に伸びていて、王子に続いて俺たちも登って行く。
そこから城壁の上に上がると、目の前には壮大な光景が広がっていた。
「すげぇ……どこまで行っても大平原!」
サマトリア王国とアルヴェルト王国、そのどちら側も地平線が見えるほど何もなく、城門の下には、乗合馬車が俺たちを置いて出発するところだった。
「馬車が行ってしまうぞ。いいのか?」
「構いません。ここから先は軍用転移陣を使いますので」
「転移陣だと? でももう金はないぞ」
「ここはボクの国ですよ。我がアルヴェルト騎士団の転移陣で王都まで跳躍します」
「そういうことか!」
◇
国境から一気に王都までたどり着いた俺たち。王国騎士団本陣の転移陣室では、騎士団長が待ち構えていた。
「殿下、お待ちしておりました!」
「ご苦労。すぐに父王の元に向かうぞ」
「はっ!」
騎士に囲まれた俺たちは、彼らに案内されるがまま、地下へと降りていった。
「なあ、アルトゥールはん。ウチらをどこに連れて行く気や?」
「地下の隠し通路です。王城地下には万が一に備えて兵を動かせる通路が網の目のように張り巡らされているんですよ」
「王家の秘密通路やな! ウチのバイブルにもそんなことが描いてあったわ!」
そう言って懐から取り出したいつものマンガを、俺に見せつける。
「ほら見てみい! 修道院からリリエールを助け出した王子が、地下通路で王城に逃げ込むシーンや!」
「……本当だ。城って、地下にいろんな仕掛けがあるんだな」
「ええ。年月を積み重ねるほど、歴代の王が色んな物を作って、やがて誰も全容が分からなくなるんですよ。困ったものです」
王子が苦笑する。
「いずれにせよ、これから通る通路のことは他言無用。いいですね」
「おうよ!」
薄暗い地下通路を延々と歩き、衛兵の詰所にたどり着く。その大きな扉を開くと、建物の雰囲気が一気に変わった。
「おわっ! 何だこの豪勢な部屋は……」
思わず周囲を見回す。
さすが王城というだけあって、聖女院とは比べものにならないほどの豪華さだ。
「ここはただの廊下です」
「これが廊下だとっ!?」
大広間かと思わせる広い廊下は、真っ直ぐ先に続いている。そんな豪華絢爛な自分の城に、だが王子は妙に緊張していてどこか余裕がない様子。
「……トラブル続きだったが、何とかここまで来た。だがここからが本番だ(ボソッ)」
「なんか言ったか?」
「いいえ、ただの独り言です」
「そうか……」
そこで騎士たちと分かれて、俺たちは四人は王子の案内で王城の奥へと進んでいった。
◇
国王陛下の執務室。
その大きな扉の前で王子が足を止める。
「まずは僕一人で行きます」
「俺たちは?」
「先にボクから事情を話しますので、ここで待っていてください」
「分かった」
王子は深呼吸すると、扉をノックした。
「失礼します、父上」
そう言って王子は、扉の向こうに消えた。
◇
「誰だ貴様は! ……何だアルトゥールか」
突然の来訪者に驚いた父王は、すぐに息子だと気づくと表情を落ち着かせた。
「急ぎでしたので、知らせも寄こさず申し訳ありませんでした」
「構わん。それで何の用だ」
「実は……」
王子は頭を下げると、これまでの経緯を一から説明。
「メディオーラの森に行って来ました」
「メディオーラだとっ! なぜそのような危険な場所なんかに……」
「王位を継ぐため、父上から課された試練でしたが?」
「王位? そ、そうだったな……それで?」
「そこで僕は二人の少女と出会いました」
「バカなっ! あんな魔境に人がいるはず」
「そのうちの一人は、数百年もの間きに渡って眠りについていた姫君でした」
「数百年だと……そんなまさか」
国王が息を呑む。
「そしてもう一人は、異世界から来た少女」
「異世界だと! それこそあり得ん!」
「いいえ、間違いありません。直接会ってもらえればすぐに分かると思いますので」
「会えばわかる……だと?」
「父上、これを」
王子は小さな水晶玉を父王に手渡す。
「これでその娘を見ろと……」
「はい。今から3人の女性を部屋の中に入れます。僕の妻にふさわしいのが誰なのかを、その魔術具でご覧ください」
「どこの馬の骨とも分からない娘をこの国の妃にだと……正気かお前?」
「そこなんですが、実はサマトリア王国で」
ここ数日の出来事を王子が話すと、父王の目が見開いた。
「事情は分かった。今すぐ娘たちをここへ」
◇
「失礼します」
執務室に通された俺たち三人。
国王陛下に失礼のないよう、セラフィーナに自分の真似をするよう厳命された。
先頭を歩くセラフィーナに続き、俺、そして早乙女と続く。
国王の前に三人並ぶと、さっき練習した通り修道服のスカートをつまんでお辞儀した。
く、屈辱……。
「お初にお目にかかります。わたくしはセラフィーナ・ディ・ローゼンベルクと申します。事情があって家門を追放され、ルーメン修道院で聖女見習いをしておりました」
「ローゼンベルクだと? 聞いたことのない家名だな」
「レッサニア王国の公爵家にございますが」
「レッサニア王国……? はて、そんな国あったかな? まあいい、魔力からして王族であることに間違いはないな」
「そしてわたくしの隣にいるのが、リリアナ様とレイカ様にございます。見ての通り二人とも恐るべき魔力を秘めた聖女候補でした」
「どれどれ、これはっ……!」
魔術具を手にした国王は、信じられないという表情で早乙女を見つめる。
そして王子に視線を移すと、
「まさか、本当にこんなことが……」
「これでご納得いただけたかと」
「……そうだな、信じよう」
そんな国王が俺に向き直ると、早乙女とは違って満足そうに頷いた。
「なるほど、この娘がそなたの言っていた姫君だな。確かにこれは凄い……」
「はい、これだけの魔力を誇る姫君は、どこを探しても見つからないと思います」
「うむ。して、リリアナと言ったか。そなたはまだ記憶が戻っておらぬそうだが、自分の国に心当たりがないのか?」
「ああ……いえ、その、はあ……」
早乙女の前で『日本から来ました』なんて言えるわけねえし、どう答えようか迷っていると、再乙女が横から口を挟んだ。
「リリアナ・ハーゲンダッツいうんけど、そんな王族に心当たりあらへん?」
「ハーゲンダッツ……だと?」
国王が首を捻る。
心当たりがないらしいが、アイスの名前だから当たり前である。
「まあよい。いずれ記憶が戻れば、息子との婚姻を結ぶためにそなたの国に挨拶に行くことになる。それまでは城で行儀見習いをしているといい」
「俺は男となんかと結婚……痛えええ!」
俺が断ろうとすると、早乙女が俺の足を思いっきり踏み抜きやがった。
「シーーーッ! アンタはこれ以上喋ったらあかん(ボソッ)」
「何でだよ! このままじゃ俺は……」
「ええからウチに任しとき! 悪いようにはせえへんから」
「本当だろうな?」
こうして俺は、早乙女の策に乗って王子の城にしばらく滞在することになった。




