第14話 次のクエストは、潜入捜査!
へとへとになるまでグリムモールを狩った俺たちは、山のような魔獣核を抱えてギルドへ戻った。
ギルドの裏手には獲物を引き取って換金してくれる専用カウンターがあって、そこで魔獣核をドサッと下ろした。
「これほどの魔獣核を、どうやって……」
目を白黒させるギルド職員に俺は、
「鉱山の最深部には、まだまだグリムモールがたくさんいるぞ。今までは小柄な冒険者しか入れなかったから、魔獣を倒せるだけのパワーが足りなかったんだ。でも、俺たちが岩の裂け目を広げてやった。今なら力自慢の猛者どもを送り込めるはずだ」
「そ、それにしても……たった一日でグリムモールをこれほど討伐するなんて……」
「アイツらの弱点は殴る蹴るだ。俺たちには楽勝だったよ」
そう言って、魔力で強化した拳を軽く握って見せると、ギルド職員は顔を真っ青にした。
「分かったから、これ以上ギルドを壊さないでくれ!」
次の町へ行くのに十分な報酬を受け取った俺たちは、裏口からギルドに入り、受付嬢に声をかけた。
「これで転移陣を使わせてくれ」
「ひいいいいっ!」
後ろから声をかけたのがまずかったのか、受付嬢は飛び上がって驚き、その場にへたり込んでしまった。
「これは失礼」
申し訳なさそうに王子が受付嬢に手を差し出し、ゆっくりと立たせる。
そして俺が金貨を差し出すと、受付嬢は真っ青な顔でそれを受け取った。
「これだけあれば十分だろ?」
「は、はいっ! てててて、転移陣室はこちらですっ!」
手と足が同時に出るロボットのようなぎこちない足取りで、受付嬢は俺たち三人をギルドの奥へと案内した。
廊下の突き当たりには『転移陣室』と書かれた扉がある。中へ入ると、床一面に不思議な紋様が描かれていた。
「これ、魔法陣ちゃうん?」
早乙女が得意げに声を上げる。
「だから何なんだよ、魔法陣って」
「そやから、こういう模様のヤツや」
「それ、説明になってないだろ!」
「二人とも、魔法陣の中央に立ってください」
「ほらやっぱり、魔法陣やったやんか!」
ドヤ顔をキメる早乙女の背中を押して、魔法陣の中央に立つ俺たち。
王子が足下に魔石を置くと、床の魔法陣が突然光りだした。
「うおおっ、ななななんだ!」
その模様が上昇して、俺たちの身体をすり抜けた瞬間、どこか遠くに飛ばされる感覚に包まれた。
「うわあああああ!」
ジェットコースターで落下する感覚。
車が急加速する感覚。
上下が逆さまになって、バランスを崩しそうになったその瞬間、
「あれ?」
俺たちはさっきとは違う部屋の中にいた。
「着きました」
「どこ、ここ?」
「サマトリア王国の王都ルーメン。その冒険者ギルドの転移陣室です」
「マジでワープしたのか……俺たち」
さっきより広い部屋には、ギルドの受付嬢が何人も待機していた。
そして俺たちに笑顔で言った。
「ようこそ、ルーメン・ギルドへ」
◇
サマトリア王国は、アルトゥール王子の祖国・アルヴェルト王国の隣国だ。
メディオーラの森は、そのサマトリア王国の辺境にある。
そして俺たちが転移してきたこの街は、王国のほぼ中央に位置する大都市らしい。
「次の街へ転移するためにも、ここでお金を稼がなければなりません」
「分かってるって」
ルーメン・ギルドは王国最大の冒険者ギルドで、転移陣室にも受付カウンターがある。
俺たちはそこで冒険者証を提出。
受付を済ませると、さっそくクエストが貼り出された掲示板へ向かおうとした。
だが――
「ちょっと待って」
「え……?」
受付嬢に呼び止められ、俺たちは再びカウンターへ戻された。
「いいクエストがあるんだけど、話を聞いてみない?」
「どんなクエストだ?」
「潜入捜査よ」
「潜入捜査か……面白そうだな。聞かせろ」
「そうこなくっちゃ!」
クエストの依頼主は、この街の教会を取り仕切る枢機卿だ。
ここ王都ルーメンには、神を祀る『ルーメン大聖堂』があり、その修道院に邪神教徒が紛れ込んでいるらしい。
だが修道院は女人禁制ならぬ男子禁制。男は立ち入れないため、女冒険者を潜入させて邪神教徒を見つけ出したいという。
「話は分かったが、どうして俺たちに声をかけた?」
「あなたたちが魔力持ちだからよ」
「俺たちが魔力を持ってるって、どうして分かったんだ?」
「転移陣でここまで来たのに、転移酔いひとつしてないでしょ。しかもサザンボルトからの長距離転移ともなれば、相当な魔力耐性がないと耐えられないのよ」
「ふーん、なるほどな」
何を言ってるのか、さっぱり分からん。
だが番長たるもの、相手に弱みは見せられねぇ。ここは『適当に話を合わせる』の一択だ。
「バトルシスターなら知ってると思うけど、修道女にはランクがあるでしょ」
「それな」
んなもん、知らん。
「ちなみに、一般の修道女の上には『癒やしの魔法』が使えるシスターがいるわ。さらにその上が巫女や聖女よ」
「お、おう……当然知ってるけど、それがどうしたんだ?」
「すでに何人もの女冒険者を修道院に送り込んでるんだけど、聖女院に潜り込める人材がいなかったの」
「聖女院……それで?」
「そこへ現れたのがあなたたちなの。どう? やってみない?」
「ふーん……どうする、早乙女?」
聖女と聞いた途端、急にやる気がなくなった俺。
潜入捜査は面白そうだが、修道院での生活は何だか面倒くさそうだ。
それなら洞窟で魔獣をぶん殴ってる方が、よっぽど性に合っている。
だが早乙女は、目をキラキラさせながら受付嬢に尋ねた。
「つまりウチらって、聖女になれる素質があるゆうこと?」
「もちろんよ! あなたたち以上の適任者はいないと思うわ!」
「よっしゃ! 受けたる、そのクエスト!」
「マジかよ……お前」
「ウチ、修道院に入ってみたかったんや。女の園やで!」
「女の園……マジで行きたくねぇな」
「何言うてんねん。絶対おもろいで!」
そう言って早乙女はいつものマンガを懐から取り出し、とあるページを開いて見せる。
そこには、大勢の修道女が描かれていた。
「こいつら、何やってんだ?」
「王家を追放された主人公のリリエールが、先輩シスターたちに厳しくしごかれとるところや。ここは身分をはく奪された貴族令嬢の巣窟で、派閥争いがドロドロなんや」
「……何だよそれ。普通に嫌なんだけど」
「でも、こんな機会でもなかったら、一生修道院なんか入られへんで?」
「一生行きたくねえよ!」
「ちなみに、成功報酬はかなり高額です」
受付嬢が提示した金額を見て、王子が大きく頷く。
「これだけあれば、国境近くまで一気に転移できます」
「つまり、このクエストが終われば、もう金稼ぎは必要なくなるってことか」
「ええ。しかしこの報酬額……教会はよほど切羽詰まっているのでしょう」
「……分かった。女の園なんか行きたくねえが、こうなったのもギルドをメチャクチャにした俺たちの責任。腹をくくって、聖女どもの待つ修道院へ乗り込んでやるか!」




