第12話 聞くんじゃなかった宿敵の恋バナ
その日の夕方。
街の観光を終えて、繁華街の外れの宿屋に入った俺たち。
酒場で晩飯を済ませるが、そこで王子から予定の変更を聞かされた。
「ギルドの転移陣で僕の国まで一気に跳躍する予定でしたが、そこまで行くお金がなくなってしまいました」
「転移陣って何だっけ?」
「ウチ知ってる! 遠くにワープできる魔法やろ!」
「ワープだとっ! この国には、そんな魔法まであるのか……」
「ええ。ただし、転移陣を使うにはそれなりのお金が必要で、手持ちでは足りなくなってしまったのです」
「足りなくなったって……まさか」
「……はい。二人がギルドをメチャクチャにしてしまったため、その弁償代に……」
「お、おう……なんかスマンな」
「ウチもいろいろ堪忍やで……」
「ですので、クエストでお金を稼ぎながら転移陣を乗り継いで行こうと思います」
「クエストやるんか! 腕が鳴るなあ」
早乙女が指をボキボキ鳴らすが、俺には何のことだかさっぱり分からない。
「何だよ、そのクエストって?」
「アルバイトみたいなもんや。ギルドの掲示板に仕事が貼ってあるから、それをやったらお金が貰えるんや」
「そういうことか。俺たちのせいで金がなくなったわけだし働いて返すのは当然。よし、明日からクエストとやらをやるぞ」
「おお〜っ!」
◇
俺と早乙女は相部屋だった。
とはいっても、部屋にベッドは一つしかなく、そこに枕を並べて眠るだけ。
「女子と同じベッドで寝るなんて初めてだ。王子に無駄遣いさせちまった手前、一人部屋を寄越せなんて言えんし……なんか緊張して来たな」
硬派番長としてのプライドもあるし、俺は心臓のドキドキを押し殺して平静を装った。
(いいか俺。こいつは女じゃねぇ。顔はかわいいが、宿敵のメスゴリラ早乙女だ)
何度も自分にそう言い聞かせて、ローソクを消してベッドに入る。
ふと見ると、カーテンの隙間から月明かりが差していた。
「ちょっと待て! 月が二つあるぞ!」
森では夜空なんか見えなかった。
たから気づかなかったが、なんと赤と青の二つの月が並んでいたのだ。
だが、隣で横になった早乙女が楽しそうな声をあげる。
「ホンマや! さすがは異世界やなあ」
「何を呑気に……そうだ、その異世界ってどこにあるんだ?」
「さあ? ウチ知らん」
「知らんって……じゃあ、どうやって日本に帰るつもりなんだ」
「それこそウチ知らん……あれ? リリアナはなんで日本のこと知ってるん?」
「ギクーーーッ! いやあれだ……早乙女の自己紹介で聞いた。日本から来たって」
「そう言えばそうやったな。ウチ、日本いう国から来てん」
「その日本から、どうやって来たんだ?」
「それが分からへんねん。土手からトラックが落ちてきて、ほんで気ぃついたら茨に絡まってたんや」
「俺と同じだ……」
「え……なんやて?」
「いやいや、こっちの話。それで、お前も日本に帰りたいのか?」
「そら、いずれは帰らんとな。こないなけったいな世界、遊ぶだけやったらええけど一生やとちょっとなあ……」
「だよなあ……」
「それにアイツとまだ決着ついてないし」
「アイツって?」
「黒崎のアホと、決着つけなあかんねん」
「アホだとっ! そういうお前の方がバカじゃねえか!」
「ウチ知りたいねん。アイツの本当の強さ」
「本当の強さって……どうしてお前はソイツのことをそこまで」
「……好きやねん」
「はあ?」
「ホンマはウチ、黒崎のことが好きやねん」
「なななななななな!」
「でもウチ、弱い男は好かんし。そやから、ウチが負けたら告白しようと思とってん」
「ウソ……だろ」
「こんなん黒崎に知れたら、恥ずかしゅうて切腹もんやけどな」
「そりゃ間違いなく、切腹ものだな……」
(お前暴露し過ぎっ! 本人の前で、思いっきり告白してるし!)
「でも、それももうできへん……」
「まさか、お前が日本に帰りたい理由って」
「そや……。タイマンで潔く負けて、ウチのこの気持ちを黒崎に伝えたかったんや」
カーテンの隙間から差し込む月明かりが、早乙女の顔を照らし出す。そんな彼女は頬をほんのり赤く染めている。
(あわわわ……そんな恋する乙女のような顔をするな! 調子が狂うだろうが!)
「……やっぱ、今の話忘れて」
「え……?」
「ウチ、ちょっと喋り過ぎたわ」
「ちょっとどころじゃなかったけどな」
「もし黒崎がこの世界に迷い込んでも、今の話は絶対に言うたらあかんで」
「言うわけないだろ!」
「絶対やで! もし言うたら切腹するから! 幽霊になってリリアナの枕元に立つから!」
「分かった! 分かったから、切腹だけはするなよ!」
「ほんならお休み。ぐうう……すぴー!」
「もう、寝たんかい! それにしてもマズいことになったな。ますます俺の正体を明かせなくなったし、もし正体がバレたら二人とも切腹待ったなしっ!」
チュンチュン。
「朝か……」
昨夜の話が強烈過ぎて、あまり寝付けなかった俺。
それとは対照的に、思いっきり熟睡してサッパリした顔の早乙女。
そんな彼女に着替えさせてもらった俺は、鏡の前で装備の確認。
鏡の中の俺は、黒い修道服に赤いリボンをつけてセーラー服風にアレンジした装束。靴は女冒険者用の革靴で、かなり動きやすい。
早乙女はいつものセーラー服に魔法のリボンを装着。
背丈も同じ二人が並ぶと、スケバンというよりお嬢様学校のクラスメイトのようだ。
「ていうかお前、いつものマスクしないのか?」
「しても無駄やん」
「なんで?」
「アンタが顔出ししてる時点で、ウチだけ隠しても意味ないやん。それかアンタもウチと同じマスクするか?」
「いや……イメージ悪いし、絶対に嫌だ」
そんなことしたら金髪版早乙女になっちまう。硬派番長の最後の矜持として、スケバンにだけは魂売りたくねえ。
◇
昨日の今日で気まずかったが、俺たち三人は冒険者ギルドにやって来た。
酒場はもちろん臨時休業。
大工たちが総出で修繕工事を進めており、掲示板前の狭いスペースにはクエストを探す冒険者たちがすし詰め状態になっていた。
だが俺たちを見ると、
「アイツら、また来やがった!」
「どうかお許しをっ!」
「おおおお、お嬢様方! こちらでゆっくりとクエストをお探しください!」
「その隙に、逃げろおおお!」
そう言って蜘蛛の子を散らすように、全員ギルドから出て行ってしまった。
一方カウンターでは、昨日の受付嬢が俺たちの登場にブルブル震えている。
「……まあいい。クエストを探すか」
「そやな。こんなんいつものことやし、気にしてもしゃあない」
日本に居た時も大体こんな感じだったし、ビビられてナンボの番長稼業だ。
◇
さて、掲示板にはたくさんの張り紙が並んでいる。それを順番に見ていくが、どれがいい仕事なのかいまいちピンとこない。
「なあ王子。俺たちでもできる仕事を適当に見繕ってくれ」
「では、これなんかいいのでは?」
「どれどれ……グリムモール討伐。どういう仕事だ?」
「メディオーラの森の近くに世界有数の魔石鉱山があります。そこに魔石を食い荒らす魔獣が入り込んだらしく、討伐すればお金がもらえます」
「面白そうだな! よし、それにしよう」




