第11話 最強番長の俺が、Fランクだとっ!
「いい服も見つかりましたし、今から冒険者ギルドに向かいましょう」
王子がそう言うと、早乙女の目が輝いた。
「冒険者ギルドっ! 異世界に来てまず最初にやることは、ギルド登録や!」
「はあ? 何だよその冒険者ギルドって」
「レイカの言う通り、冒険者ギルドに登録しておくと旅がしやすくなります」
「旅? つまりJAFみたいなもんか?」
「ただし、今回は別の目的もあります」
「いや、ギルドが何かも分かってないのに、別の目的と言われてもな」
「これは失礼しました。冒険者ギルドとは、冒険者同士が助け合う互助組織で、冒険に必要なサービスを有料で利用できます。今回僕たちが利用するのはギルドの転移陣で、僕の国との国境の街まで一気に移動します」
「……スマン、何を言ってるのかますます分からなくなった。まあ、ツベコベ言ってもしゃあないし、そのギルドとやらに行くぞ!」
◇
繁華街の一角にその建物はあった。
中に入ると酒場になっていて、昼間っから飲んだくれたオッサンどもが騒いでいる。
筋肉ダルマみてぇな大男。
巨大な斧を背負った獣人の大男。
黒いローブを着た魔法使いの大男。
いかにも荒くれ者って連中が、酒を飲みながらくだを巻いていた。
「タバコくせえし、酒くせえ。場末の飲み屋って感じだな」
「これや、これや! マンガに出て来る異世界ギルドそのものやん!」
ウンザリする俺とは反対に、早乙女のテンションは爆上がり。
「そんな大声を出すな。目立つだろ」
案の定、周囲の視線が俺たちに集まる。
「騒ぎになる前に、冒険者登録をしてしまいましょう」
王子は苦笑すると、俺たちの背中を押してカウンターに向かわせた。そして受付嬢に自分の冒険者証を見せて、
「この二人の冒険者登録をお願いしたい」
「分かったわ。見るからに初心者ね」
「……はい。今日は急ぐので、スキル判定なしの簡易登録でお願いします」
そう言って王子はチラッと酒場に視線を向ける。それを見た受付嬢がコクリと頷くと、黙って書類を書き始めた。
そして、
「はい、これで登録完了よ。二人は今日からFランク冒険者ね」
「そ、そうか……」
俺は何のことだか分からず、小さなカードを受け取ったが、早乙女はなぜか受付嬢に食ってかかった。
「何でウチらがFランクやねん!」
「ですがその……これは規則でして……」
「ウチ、納得いかん!」
「なあ早乙女、Fランクの何がダメなんだ」
「あのなあ、Fランクは最弱なんやで」
「何だとっ!」
ドガアアンッ!
俺は思わずカウンターを叩いた。
「この俺が、最弱なわけあるか!」
「ひいいいっ!」
受付嬢が真っ青な顔で震えあがる。
「ウチら、森の魔物をボコボコにして来たんやで!」
「でででで、ですが規則ですので……」
だが酒場からは、俺たちをバカにする笑い声が聞こえた。
「ギャーッハハハハ!」
「おいおい、随分と威勢のいい姉ちゃん達じゃねえか!」
「Fランクの雑魚がイキってんじゃねえよ!」
「だが、随分とベッピンさんだな二人とも」
「俺っちは、黒髪ロングのねえちゃんを食っちまうぜ」
「じゃあワシは、パツキンボインちゃん!」
――ブチッ!
「テメェら……覚悟しろよ」
「あんたら……覚悟しいや」
俺がボキボキ指を鳴らし始めると、早乙女もメリケンサックを指にはめ直して薄ら笑いを浮かべた。
コイツが完全にキレた時の顔だが、アイツら自分がどうなるかも知らずに、ヘラヘラ笑っていやがる。
「おい、仲間の兄ちゃん。テメェはいらねえから、姉ちゃん置いてさっさと帰んな!」
「俺たちが心行くまで楽しんでやる。あとで感想を聞かせてやってもいいぞ。ガハハハ」
「うひゃひゃひゃひゃ!」
王子に向かって、下卑た笑い声をあげる酔っぱらい連中。
その瞬間──
俺と早乙女が同時に飛び出すと、俺は大男のアゴを、早乙女は獣人のこめかみを、
──同時にぶち抜いた。
ドゴォッ!!
バゴォッ!!
「「ぐはああああ!」」
ガラガラガッシャン!!
他の冒険者も巻き込み、テーブルの上に並んでいた料理や酒を巻き散らしながら冒険者どもが床を転がった。
一瞬の静寂。
だが、一気にボルテージが上がる。
「この野郎! 女がイキってんじゃねえ!」
そして周りで見ていた他の冒険者たちも、一斉に飛びかかって来た。
「女だからって、手加減抜きだ!」
「徹底的に、分からせてやるぜ!」
「ひゃっはああああ!」
目を血走らせた野郎どもが、俺たちに襲い掛かる。
椅子が飛び交い、テーブルがひっくり返えされ、ジョッキや皿が割れ、料理や酒が辺りに飛び散る。
オリャアアアア!
イテマエエエエエ!
ドゴォッ!!
ガボオオオッ!!
グシャアアアアッ!!
ギャアアアアア!
数分後──、
ギルドから完全に音が消えた。
床には料理や酒の残骸が撒き散らされ、血だらけの男どもがピクリとも動かない。
真っ二つに折れたテーブル。
粉々に割れた皿やジョッキグラス。
ガラスが無くなったすべての窓。
半壊した受付カウンター。
その片隅で、唯一無傷の受付嬢が真っ青な顔でガタガタ震えていた。
「「……で?」」
受付嬢がビクッと肩を震わせる。
「これでもまだ俺たちが最弱のFランクに見えるのか?」
「ひぃぃっ……!」
「ウチら、そんなに弱そうに見えるん?」
「めめめめ、滅相もございません!」
受付嬢は半泣きになりながら、冒険者証を書き直した。
「しっ、至急修正します!」
そして新しい冒険者証を受け取った俺たちは、早速それを確認した。
【Cランク】
「おおっ!」
「やるやんウチら!」
「でもAじゃねぇのか」
すると受付嬢は、ギルド規則を説明する。
「Cランクまでは戦闘の強さや、魔力や体力などの能力値を基準に昇格することができます。実際あなたたちが倒した冒険者の中にはCランク冒険者もいました。ですがBランク以上はそれだけでは昇格できません」
「じゃあ、どうすればいい」
「クエスト実績が必要です。指定された難度の魔獣討伐の実績と、基準以上の討伐ポイントの累積」
「つまり魔獣をぎょうさん倒したら、Aランクになれるんやな」
「はい、その通りです」
「よっしゃ! ウチ、Aランク冒険者になったるで!」
早乙女が嬉しそうに笑う。
「だったら片っ端から魔獣をブッ飛ばしてやろうぜ!」
俺も拳を握る。
「でも今回はちょっと調子に乗りすぎたみたいやな。ギルドがボロボロ。ちなみに受付カウンターを壊したんはアンタや、リリアナ」
「そう言うテメェなんか、どさくさに紛れて受付嬢さんに椅子ぶん投げてたじゃないか」
「見てたんか。アンタ意外と目ざといなぁ」
「嫌あああああ!」
「まあええわ。こんな辛気臭い場所におっても気が滅入るだけやし、今から街の観光でもせえへん?」
「お、いいな! ついでに街の不良どもを締めに行くぞ! 魔獣も不良も似たようなもんだし、とっととBランクに昇格するぜ」
「ええアイディアやん! そやけど、姫さんはそんなことしたらアカン。街の番を張るんはアンタやのうて、スケバン総長のウチや」
「んだとコラァ! じゃあ競争だ。半殺しにした人数が多い方が、この街の番長な」
「ええで。絶対にウチ負けへんから!」
腕まくりした俺たちがギルドを出ようとすると、王子が慌てて飛んできた。
「そんなことしたら街の警備兵に捕まってしまいます! 今日は大人しく観光だけして、美味しい物でも食べに行きましょう」
「ちっ、仕方ねえな。今日はオッサンどもといい運動したし、飯食って寝るか」
「ホッ……じゃあ、早速行きましょう」
涙目の受付嬢に王子が何かを手渡すと、俺たちは意気揚々と冒険者ギルドを後にした。




