第10話 ドレスなんか着れるか! 男なら甲冑だコラァ!
街の中心街にある高そうな仕立て屋。
ここは服を新調する店だが、俺たちは明日街を出るため、店に並んでる古着から選ぶことにした。
だが、ざっと見る限り男物の服は皆無。
フリルだらけのヒラヒラした服しか置いていない。
「女物の服なんか着たくねえな……」
俺は顔をしかめたが、店主は俺を見るなり目を丸くした。
「まあまあ、なんて綺麗なお嬢さん!」
「くっ……」
顔をほめられるたびに俺の心は削られていくが、店主はそんな気も知らずメジャー片手にやる気満々だ。
「さあさあ、お嬢さんにぴったりのドレスを探してあげますよ」
――だが数十分後。
「色々試してみたけど、サイズの合うドレスが見つからない……こんなことって」
「これもアカン、あれもアカン。今着てるヤツも胸がはち切れそうや」
「確かに苦しい……息がつまりそうだ」
別の服を試着しても、
「ダメだ……今度は腰回りがきつい。しゃがむと尻がビリッといきそう……」
「ホンマや。しかもスカート丈が足りてへんし、ソックスが見えてもうてるわ」
「いろいろ試着して気づいたが、俺って無駄にデカくないか?」
とまあこんな感じで、ドレスはどれも、胸が入らねぇか、尻が入らねぇか、丈が足りねぇかの三択。
ついには店主が白旗を上げた。
「この見事なプロポーション……お嬢さんはまさか」
すると王子が苦笑する。
「実は彼女、貴族なんです。しかもかなり高位の……」
「やっぱりお貴族様でしたか……」
「なんでやっぱりなんだ?」
俺が尋ねると王子が、
「貴族と平民では体格が違うんです。貴族の方が全体的に身体が大きく……」
「何で?」
「食事が違うからです」
「栄養でそんな変わるものなのか?」
「何百年も続ければ、格差が定着します」
俺は昔から何でもモリモリ食べていたが、背はチビのままだった。
この国と日本で何が違うんだろうと首をかしげていると、早乙女が不貞腐れたようにしみじみ言った。
「リリアナって、ほんまスタイルええなあ。背ぇ高うて脚も長いし、胸やお尻まで大きいなんて反則やで。ほんま羨ましいわ」
「好きでこんな身体になったんじゃねえんだけどな……」
改めて鏡に映った自分を見ると、そこには絵画から抜け出たような金髪碧眼の美女。
だがスタイルが良すぎて普通の服が入らねえなんて、本末転倒にもほどがある。
「そう言えば、レイカも背が高いですね」
王子は今さら気づいたようだが、コイツは図体ばかりデカいスケバン総長。背が高くて当たり前だ。
「……って、あれ? お前、俺と同じぐらいの背丈じゃないのか?」
チビだった俺は、早乙女とタイマン張る時はいつも見上げていた。だが今は目線が同じ高さになっている。
「早乙女、ちょっと俺の隣に並んでみろ」
二人並んで鏡に映ると、やはりというか、ほとんど同じ身長だった。
「この大女と同じ身長……そりゃ店の服じゃサイズが合わねえ訳だ。ていうかお前、貴族だったのか?」
「はあ? 何いうてんねん、リリアナ」
「それにメチャクチャ美人だし、歩き方もさまになってる。よし、姫を交代しようぜ!」
「なななな、何ゆうてんねん!」
俺がそういうと、早乙女が真っ赤な顔で、
「ウチが姫なんて、からかわんといて!」
バシ! バシ! バシ! バシッ!
「いってぇ! だからメリケンサックで俺を殴るな!」
「ウチが姫なんて、恥ずかしいわぁもう!」
バシ! バシ! バシ! バシッ!
「分かった! もう言わねえから、メリケンサックはやめろ!」
結局、平民の服ではサイズが合わないことが分かり、ドレスの購入は断念することとなった。
「結果オーライだ。ウシシシ」
俺がほくそ笑んでいると、王子が困った表情で考え込んだ。
「貴族街には入れないし、他に大柄の女性の服をたくさん扱っている店……そうだ!」
「何か心当たりがあるのか?」
「ドレスではないのですが、冒険者には大柄の女性が多い。つまり装備で当面をしのぐのです」
「装備か……悪くねえな!」
「ドレスじゃなく本当に申し訳ありません」
「いやいや、むしろ好都合! 今からカッコいい甲冑を買いに行くぞ!」
そう言うと俺は、仕立て屋を飛び出した。
◇
冒険者御用達の装備屋に到着。
店に入ると、剣や槍、兜に鎧が所狭しと並んでいた。
「おおおおっ!」
見てるだけで胸がときめく。
男ならやっぱ甲冑だろ!
「これだよこれ! ヒラヒラしたドレスより金属製の甲冑だぜ、コラァ!」
真っ先に分厚い甲冑の前に立つと、試着室に持って行こうとそれを持ち上げた。
だが、
「……重っ!?」
鎧どころか、兜を持ち上げただけで腕がプルプル震える。
「重くて持てねぇ……そうだ身体強化!」
オーラを全身に循環させて筋力を強化。それでどうにか鎧兜を抱えることができた俺。
だが、
「それでも重い……くそっ」
そんな俺に、王子が笑顔を見せる。
「それは『重騎士の装備』です。騎士団でも特別な訓練を積んだ重騎士にしか身に着けることができない、特別な甲冑」
「重騎士しか身につけられない……か」
すると、俺たちの来店に気づいた店主のオヤジがやって来て、頭のてっぺんからつま先まで俺をジロジロと舐め回した。
そして、
「嬢ちゃんなら身体もデカいし、女格闘家の装備をお勧めするよ」
「格闘家か! たしかに俺は俊敏さと一撃必殺のパンチ力を活かした喧嘩スタイル。動きの遅い重騎士よりそっちの方が合ってるな」
「そうこなくっちゃ!」
妙に嬉しそうなオヤジに連れられ、女格闘家装備のエリアに案内された。
そこには動きやすそうな革鎧や、肩当て、籠手などが並んでいる。
「よし、早速着てみるか!」
試着室から出てきた俺に、だが早乙女からいきなりのダメ出し。
「アカン、アカン。そんなん絶対アカンて!」
「え、なんで?」
王子がサッと視線を外し、店のオヤジは鼻の下を伸ばしている。
「あんた、ちゃんと鏡見たんか?」
「一応見たけど……」
「へそが見えてるし、太腿も丸出し。しかも胸とお尻がはみ出しそうやんか!」
「いや、一応納まったし」
「そんなん戦いが始まった瞬間にポロリや」
「女のくせにポロリ言うな! お前はオッサンかよ!」
店のオヤジもニヤニヤしながら、
「嬢ちゃんみたいなグラマー美人に、やはりこの装備は無理だったな」
「やはりってお前、こうなることが分かってたのか! なら、何でこれを勧めた!」
「こんな美人のネェちゃんがウチの店に来ることなんて滅多にないし、ワシの目の保養にちょうどいいと」
「アホかっ!」
思いっきり店主の頭を叩くと、だが店主はむしろ喜んだ。
「ちっ! こんなエロオヤジに身体強化はもったいねぇ。早乙女やれ!」
「分かった。ええ加減にせぇよ、ドアホ!」
バギャッ!
「ぎゃあああっ!」
ドンガラガッシャーン!
メリケンサックで殴られ、もの凄い勢いで吹っ飛ばされたエロ店主は、重騎士装備のエリアに身体ごと突っ込み、鎧兜の山の下敷きになった。
「よっしゃ、成敗完了や!」
早乙女がいい笑顔でサムズアップすると、王子がヤレヤレといった風に笑顔を見せる。
そして店の奥を指差し、
「リリアナには『バトルシスター』の装備が合ってると思います」
「バトルシスター? なんだそれ?」
「魔力で戦う女格闘家です。回復魔法も使えれば、パーティーメンバーとしてとても重宝される職種です」
「魔力で戦う……つまり今の俺の喧嘩スタイルにピッタリじゃないか!」
「それに格闘家用の軽防具と違って布面積も大きく、素肌が見えることもありません」
「よし、ちょっと見てみるか」
店の奥に行くと、そこには黒を基調とした修道服がいくつも並んでいた。その中から一番サイズの大きな服を手にする。
一見地味だが、胸元や裾のところに銀の刺繍が入っている。
「この修道服には魔金属の糸が織り込まれていて、装備した者の魔力に応じて身体能力を強化します」
「いいじゃんそれ!」
早速俺は、試着室に入って袖に手を通した。その瞬間、
ブワッ――!
服が淡く輝き、一瞬つむじ風が舞った。
「うおおっ?」
羽織っただけなのに、身体に力がみなぎってくる。
「オーラの循環を意識しなくても、身体が勝手に強化されるのか……すげぇ」
全身の筋肉に魔力が流れ込んでくる感覚。この貧弱な身体が、戦闘用に作り替えられていくのが分かる。
「これだ!」
試着室から飛び出すと、みんなも目を見開いて驚く。
「すごい……リリアナの膨大な魔力に、ちゃんと対応できています」
「そうなんだ! この装備をつけるだけで、力がみなぎってくるんだ!」
軽く拳を振るだけで、ビュンッと空気が鳴った。
「でもなんやろ。その服見てると、なんか足りひんというか……」
「足りないだと? 別に普通の修道服だと思うが」
「うーん……なんやろ。そや!」
早乙女は何かに気づいたのか、店の中をキョロキョロ見渡した。
そして突然走り出すと、赤い布切れを持って戻って来た。
それを俺の襟に巻き付ける。
「これで良しと。完璧や!」
すると王子もポンと手を打って、いい笑顔を見せた。
「さすがレイカだ。その『魔法のリボン』は魔力を強化してくれるアイテム。キミたち二人に買ってあげよう」
「え? ウチにも買ってくれるん?」
「もちろん。よければリリアナと同じ修道服も着るといい」
「そこまではええわ。だってこのセーラー服がウチの戦闘服やし、リボンだけはありがたく貰っておくことにする」
そう言って早乙女は、もう一つリボンを持って来ると、セーラー服の赤いリボンと取り換えた。
それを見た俺は、嫌な予感がした。
「まさか……」
慌てて試着室に駆け込むと、鏡で自分の姿を確認。
「おい、これスケバンじゃないか!」
すると早乙女がドヤ顔で、
「どないや、かっこええやろ!」
「アホか! この俺様がスケバンなんかになれるわけねえだろ!」
俺は硬派番長、黒崎鉄也。
不倶戴天の敵であるスケバンなんか、死んでもなれるか!
だが早乙女は、
「リリアナは、姫とスケバンを両立させたらええねん」
「どっちもやりたくねえよ!」
「ですが、そのリボンを身に着けていると魔力が強化されますし、修行の効果も上がると思いますが」
「そうなのか? つまり最強を目指す俺にとって必要なアイテム。強さを得るには代償を払う必要がある……か。仕方ねぇな」
スケバンに魂を売ったみたいでなんかスッキリしないが、俺はこの装備を受け入れてやることにした。




