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婚外カフェ  作者: 蒼狐
第1部 影の檻

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第九章 新しい始まり

葵は封筒を握りしめたまま、佐伯の顔を見つめていた。


「私……まだ、決められない」


悠人が驚いた顔で振り返った。


「葵?」


「全部捨てて新しい人生を始めるのも、怖い。でも、このまま佐伯さんの掌の上で生きるのも、嫌なの」


佐伯は静かに微笑んだ。怒りも苛立ちも見せず、ただ穏やかに言った。


「それも一つの選択です。では、提案があります」


彼はカウンターの奥から、一枚の古い鍵を出した。


「この店の地下に、もう一つのフロアがあります。表の店とは別の、本当の『婚外カフェ』。そこは、選ばれた者だけが入れる場所です。あなたがた二人が望むなら……新しい名前と新しい人生を与えましょう。ただし、代償はあります」


美咲が低く笑った。


「代償ね……面白くなってきた」


葵と悠人は顔を見合わせた。


その夜、二人は佐伯に導かれ、店の奥深くにある隠し階段を降りた。


地下フロアは、地上よりもさらに静かで、濃密な空気に満ちていた。そこにはすでに、何人かの「選ばれた客」がいた。彼らは皆、地上の生活を捨て、新しいアイデンティティで生きることを選んだ者たちだった。


佐伯が静かに言った。


「ここは、結婚という契約から完全に逃れた者たちのための、最後の聖域です。

ただし、一度ここに入ったら、二度と地上の『元の自分』には戻れません」


葵は悠人の手を強く握った。


心臓が激しく鳴っていた。恐怖と、未知への興奮が同時に襲ってくる。


「私は……」


彼女は深く息を吸い、ゆっくりと言った。

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