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婚外カフェ  作者: 蒼狐
第3部 夜の契約

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第八話 証拠の匂い

剛は、静かに動いていた。


由依が仕事で外出している昼間、彼は妻のカバンの中を丁寧に確認した。レシートの端に、見慣れないホテル名の印字が残っている。スマホの履歴はロックされていたが、充電ケーブルの近くに落ちていた小さな領収書が、決定的だった。渋谷のシティホテル。日付は、由依が「編集部の打ち合わせ」と言っていた金曜日と一致している。


剛はそれを写真に撮り、静かに元の場所に戻した。怒りより先に、冷たい静けさが胸を満たした。優しい夫でい続けようとしてきた自分が、急速に剥がれていくのを感じていた。


---


その夜、由依は黒木からのメッセージに即座に応じた。


『会いたい。剛の様子が、前よりおかしい』


店ではなく、前回と同じホテル。部屋に入るなり、由依は黒木にすがりついた。キスは乱暴で、ほとんど噛みつくようだった。服を脱がせる手も急ぎ、肌が触れ合った瞬間に由依は小さく泣きそうな声を上げた。


「バレそう……なのに、あなたに触れていないと、自分が壊れる」


黒木は由依を強く抱き、ベッドに押し倒した。いつもより言葉少なく、身体で応える。唇が胸を、腹を、秘部を這い、由依はすぐに腰を浮かした。進入は深く、激しかった。由依は枕に顔を埋め、抑えきれない喘ぎを漏らす。黒木は由依の手首を抑え、腰を打ちつけながら耳元で囁いた。


「俺も同じだ。お前を失うのが、怖くて仕方ない」


二人は何度も達した。快楽の波が引いた後も、互いに離れようとせず、汗ばんだ身体を重ねたまま抱き合っていた。由依の頰に、いつの間にか涙が伝っていた。


「このまま、どうなるの……私たち」


黒木は答えられなかった。ただ、由依の髪を優しく撫で続けた。


---


由依が帰宅したのは、午前零時を過ぎていた。


剛がリビングの明かりをつけたまま、ソファに座っていた。テーブルの上には、何も置かれていない。なのに、空気がひどく重かった。


「おかえり」


「……ただいま」


剛は由依の顔をじっと見た。視線が、首筋の薄い赤い痕に一瞬止まる。由依は無意識に髪で隠した。


剛が静かに口を開いた。


「最近の君の嘘、全部とは言わない。でも……いくつかは、気づいてる」


由依の心臓が大きく跳ねた。言葉が出ない。剛はそれ以上追及せず、ただ小さく息を吐いた。


「今夜は、何も聞かない。でも、いつまでもこのままじゃいられないよ」


その言葉が、優しくて、残酷だった。


夜中、由依はトイレに閉じこもり、黒木に短いメッセージを送った。


『剛が、気づき始めてる。怖い』


すぐに返信が来た。


『俺も考える。とりあえず、次は慎重に』


画面の光だけが、暗い洗面所を照らしていた。


小さな証拠は、すでに剛の手の中にあった。


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