第六話 重なる嘘
剛の態度が、明らかに変わった。
由依が帰宅すると、夫がリビングで待っている日が増えた。笑顔は優しいままなのに、視線が以前より長く自分に止まる。ある夜、剛がさりげなく言った。
「最近、帰りが遅い日が多いな。編集部、そんなに忙しいのか?」
「大きな企画が重なってるの。ごめんね」
由依は練習したように微笑んだ。剛は「そうか」と頷いたが、その目は完全には納得していないように見えた。翌朝、由依が寝室を出た後、剛が彼女のコートのポケットを無意識に確認する仕草をしたことに、由依は気づいていなかった。
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その夜、由依は黒木からのメッセージに即座に返信した。
『今夜、行ける。剛が少し様子がおかしい。早く会いたい』
店に着くと、黒木はすでに三号室で待っていた。会った瞬間、二人は言葉少なに抱き合った。キスは深く、ほとんど食い入るようだった。由依は黒木のシャツを乱暴に開き、胸に顔を埋めた。
「怖い……なのに、あなたに触れていないと落ち着かない」
黒木は由依の髪を掴むように抱き、低く応じた。
「俺もだ。妻の目が最近、俺を追う。それでも、お前を手放せない」
服が床に落ちる。黒木は由依をベッドに押し倒すと、いつもの優しさを少しだけ抑えて、貪欲に身体を求めた。唇が胸を這い、指が秘部を丁寧に、しかし執拗に愛撫する。由依はすぐに甘い声を上げ、腰をくねらせた。
「もう……入れて」
黒木は由依の脚を大きく開き、一気に深く入った。由依は背中を反らし、抑えきれない喘ぎを漏らす。黒木の動きは前回より激しく、まるで二人の不安を打ち消すように腰を打ちつけた。由依は何度も達し、そのたびに黒木の名前を呼んだ。男もまた、由依の中で果てる直前に、彼女の耳元で掠れた声を落とした。
「由依以外で、こんなに欲情したことない……もう、止められない」
事後、二人は汗ばんだ身体を重ねたまま、長い時間黙っていた。
由依がぽつりと言った。
「剛が、私の帰りを計ってる気がする。このままじゃ、いつかバレる」
黒木は由依の肩を抱き寄せ、静かに答えた。
「バレたら、どうする? 俺は……お前を失いたくない」
その言葉が、甘くて重かった。由依は答えられず、ただ黒木の胸に顔を押しつけた。快楽の余韻と、壊れていく日常の予感が、同時に胸を締めつける。
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店を出る直前、佐伯が二人に声をかけた。
「最近、お二人とも頻度が増えましたね。表の世界は、思っているより目が多いものですよ」
穏やかな忠告に聞こえたが、由依には警告のように響いた。
帰宅すると、剛が玄関で靴を揃えて待っていた。
「今日も遅かったな。タクシーはどこで降りた?」
由依の心臓が大きく跳ねた。
「……駅前よ」
剛はそれ以上何も聞かなかった。ただ、由依の髪に触れるふりをして、首筋に残るわずかな赤い痕を、一瞬だけ視線で追った。
小さな亀裂は、確実に広がっていた。




