デートは殺し合いではありません
私、魔法少女アメリア。
鬼畜王太子に正体がバレた、可哀想な女の子。
日中は人目を憚らずに求婚した挙句、
去り際に人を呼びつけるなんて……うん、今度こそ闇に葬ることができる、いい機会かも。
自室の窓から空を見上げ、
神から、暗〇計画の許可が下りないかと期待してみたが、返事はない。
「無視したら、また大聖堂まで押しかけてきそうだし……行くしかないか」
本当は魔法少女に変身したくないけど、神殿服しかないしなー。
「そうだ!」
私は思い出した。
神殿に来た女の子に、
祝福の盛りすぎで全身を発光させ、目元だけ真っ黒にしてしまったことを。
「ふっふっふっ……今に見てなさい。
私に求婚するほど血迷っている、その頭を正気に戻してやるんだから!」
◇◆◇◆◇
そして迎えた、王太子が勝手に指定した時間。
廃墟へ到着すると、すでに王太子が待っていた。
……あれ? 護衛が見当たらない。
辺りを見回すが、
姿はなく、気配すら感じられない。
なのに、
王太子は廃墟の壁に寄りかかったまま、一人で笑みを浮かべ、佇んでいた。
……こわっ、友達いないのかしら。
闇に紛れて、
王太子を観察していたら、ばちっと目が合ってしまった。
さっさと登場すればいいだけなのに、
何故か気まずくて、凍りついたように動けなくなる。
じいぃぃー。
すっごく凝視されてるけど、
闇に包まれた今の私なら、絶対にバレないはず。
そう自分に言い聞かせても、
額からは変な汗が滲み、心臓はうるさいほど鼓動している。
王太子は片方の手のひらに、もう片方の拳をぽんっと打ちつけ、閃いたような顔をした。
そして、迷いなく私の方へと歩きだす。
「隠れんぼがお好きだとは。
知りませんでしたよ……魔法少女?」
にっこりと笑って、
王太子は私の肩に手を乗せた。
ばしゅっ。
それと同時に、
私が身に纏っていた闇魔法が打ち消された。
「おや。
そのドレスは魔法ではないのですか」
「変態!」
私は握りしめている杖で、ぶん殴りたい衝動を必死に堪えた。
消えたのが、闇魔法だけでよかったけど、
変身衣装まで打ち消されていたら、あられもない姿を晒すところだった。
「このドレスも魔法で作られてると分かっているなら、触らないでよ!」
声が震え、視界が滲む。
変身衣装に、
ベールを付けなかったことを後悔する日がくるなんて!
「いえ、求婚してますので。
順番が逆になったくらい、問題ありませんよ」
さわやかに言い放つ王太子。
「〜っ、この鬼畜!」
私の込み上げる感情は、限界を突破した。
──数分後。
「で、どうやって私に気づいたわけ」
月明かりしかない暗さで、
完全に闇と同化していたのに。
……はっ!
もしかして、本当に私のことを?
「眼球だけ浮いてましたよ」
「そっちか!」
反射的に突っ込んでしまった。
王太子は不思議そうに首を傾げている。
「最初は暗殺者か、幽霊かで悩みましたよ。
ですが、そんな間抜けな隠れ方をする暗殺者は見たことがないので」
……むかつく!
「でも、魔力の気配は一滴も漏れないよう、
物質みたいに圧縮して偽装したのに。なんで……私だと分かったの」
「あぁ、それは──」
ごくり。
次の言葉を聞く前から、なぜか全身に力が入った。
どうせ、ろくなことは言わない。
それなのに私は逃げることも忘れ、息を詰めて彼の答えを待っていた。
「これほど高度な魔力操作を、
こんな間抜けな……いえ、個性的なことに使うのは、あなたしかいないでしょう?」
「あぁん、〇るぞこら!」
「ははっ!」
「笑うな!」
王太子は指で目尻を拭い、笑いを堪えようとした。
だが、抑えきれない楽しげな声が、何度も口からこぼれている。
そんな彼を前にして、私は呆気にとられた。
あの胡散臭い笑顔ではなく、
年相応……いや、それよりも幼い顔で笑っているのだ。
「そんな顔も、できるんだ」
王太子は私の言葉に、はっと我に返った。
こほん、と咳払いをすると、
いつもの胡散臭い笑みを貼りつける。
けれど、水色の瞳は一瞬だけ私から逃げ、耳の先もわずかに赤かった。
「それで、そのドレスが消えない理由を教えていただけますか」
……逃げたな。
これをネタに、やり返そうか。
そんな悪魔の囁きに、
ぐらつく心と、背中に走る寒気。
うん、やめとこう。
「見せた方が早いわね。両手を出して」
王太子は怪訝そうな顔をしながらも、素直に両手を差し出した。
私は右手の指先に、
闇の魔力を集め、球体を作り出す。
左手を開き、握っていた杖をふわりと浮かせる。
そして闇の球と杖を、王太子の左右の手へ同時に向かわせる。
闇の球は、片方の掌に触れた瞬間、煙のようにほどけて消えた。
一方、もう片方の掌へ届いた杖は、
浮力こそ失ったものの、形を保ったまま彼の手に残っている。
「今消えたのが、身体の外へ放出していた魔力。
杖とこのドレスは、魔力を物質として定着させているの。
だから蓄えてある魔力を失っても、形までは消えないわ」
そこまで説明すると、
王太子はドレスと杖を、熱心に見比べていた。
「素晴らしい発明ですね。
ちなみに、変身したまま魔力が尽きたらどうなるんですか」
想定していなかった質問に、私は目をぱちくりさせる。
「それはもちろん、脱げないわ」
「……えっ?」
王太子は笑顔のまま固まった。
「変身も解除も魔力で動かしてるから、尽きたら元の姿に戻せないの。
ドレスは防具より丈夫に作ってあるし、魔力が尽きた時こそ、着たままの方が安全でしょ?」
「……それはいわゆる、呪いの装備では?」
……さっきから失礼な男ね。
私は王太子の手から、杖をひったくった。
私に被害なく、
ひと泡吹かせる方法を思案していたら、夜空を見上げた王太子が声を漏らした。
「もう月があんな位置に……そろそろ帰らなくてはいけませんね」
……帰る!?
私の心は一気に盛り上がり、
さっきまでの怒りは、嘘のように霧散した。
「随分と嬉しそうですね」
ぎくり。
王太子の黒い笑みに、逆らってはいけないと本能が叫んでいる。
「ソ、ソ、ソンナコトナイワー」
優雅に答えるつもりが、
口から出たのは、カタコトの言葉。
「まぁ、いいでしょう。
もっとあなたのことを知りたいのに、楽しい時間はあっという間ですね」
……へーへー。
「そうだ。今度、私とデートをしましょう」
「でぇと?」
デート。でーと……デッド。
「殺し合い!?」
「違います。恋人同士がする方です」
私の反応に、
本気で言ってると分かったのだろう。
王太子は信じられないものを見るように、こめかみを押さえた。
恋人同士がするって言われても、
神殿に来た人から、聞いた話しか知らないし。
「……あっ、もしかして痴情のもつれ?」
「どうして、そちらへ行くんですか」
王太子は呆れたように息を吐いた。
「二人で街へ出て、話をしながら買い物をしたり、おいしいものを食べたりするんですよ」
その言葉で、
私の頭の中に、初めて具体的な光景が生まれる。
王太子と並んで街を歩く。
好きなものを選んで、おいしいものを一緒に食べる。
想像した途端、
雷に打たれたような衝撃が、全身を駆け抜けた。
「へあっ!?」




