夜は魔法少女です。
「魔法、しょうじょ?」
女の子が目をぱちくりさせている。
「ありがとう!
あなたのお陰で、長年の悩みが解決したよ」
嬉しくて、
勢いのままに、小さな手を握りしめる。
「どういたしまして……?」
何が起きたか分からず、
返事をした女の子は、困った顔をしていた。
「さっ、もう遅いから早く帰らないと。
安全に帰るために、魔法をてんこ盛りかけてあげる」
私は右手のひらに、
自分の魔力を集中させる。
そこに、光と闇の属性を付与すると、
右手から白と黒の、粉雪のような光があふれ出した。
「まずは対物理効果。
あとは肉体浄化に幸運付与でしょ」
女の子の頭上に右手をかざし、
思いつく限りの安全対策を、片っ端から盛っていく。
「あぁ、あとは悪意を跳ね除けるために虫除けみたいな効果も必要ね」
「お、おねえちゃん?」
呪文のように付与を続ける私と、声を震わせる女の子。
「そうそう。
変態に狙われたら困るから、
襲ってきた人間は、運を根こそぎ吸い取られる付与もかけておくね!」
そうして完成した少女。
「……おねえさん、まぶしいよ」
全身から発光していた。
「少し盛りすぎたかしら」
女の子は、助けを求めるように小さな声を震わせた。
「うん。お月さまより明るいよ」
「心配いらないわ。
闇魔法を圧縮して眼鏡にすれば──」
私は真っ黒な眼鏡を作り、女の子にかける。
すると目元の光だけ、みるみる収まっていった。
「これでよし!」
「おねえさん。
前が見えるようになったよ、ありがとう!」
喜ぶ女の子。
しかし、本人は気づいてない。
眩いほど全身を発光してるのに、
目元だけは、眼鏡の形に合わせて真っ黒になっていることを。
「気をつけて帰るんだよー」
私は足取り軽く帰っていく光の塊……女の子の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
「さてと、やりますか!」
一人になった私は、
自分の部屋に駆け込んで、ベッドの下に隠してあった物を引っ張り出す。
ぱんぱんに詰まった大きな袋。
袋を開けると、
色とりどりの魔石が、ばらばらと音を立て、床にこぼれ落ちた。
そのうちの一つをつまみ上げる。
透き通った輝きは、宝石にも劣らない。
けど、どこにでも落ちてるうえに、加工が難しいから、価値がないと言われてる。
「お礼代わりに貰っていたけど、使う日が来るとはねー」
神殿の奴らは、
金には目の色を変えるけど、魔石は鼻で笑いやがったっけ。
一銭も払わないくせに、
私の稼いだ金で好き勝手しやがって。
……なんだかムカついてきた。
「今度神殿の人間に会ったら、
うなじからじわじわ毛が後退する呪いをかけてやる」
悪態をつきながら、
大量の魔石をベッドの上に広げる。
そして両手をかざし、
光と闇を付与した魔力を注いでいく。
「武器なんて必要ないけど、おしゃれするなら魔法の杖は必須ね」
素手で殴れば、手が汚れるのよねー。
「あとは、変身アイテム!
神殿の服で戦うわけにいかないから、一瞬で可愛い服にお着替えしないと」
作りたいものを、
頭の中で想像しながら、魔力を微調整していく。
大量の魔石は、
粘土のようにぐにゃりと動き、少しずつ混ざりあって形をなしていった。
「ふぅ。できた!」
完成したのは、一つのチョーカー。
淡い黄色のリボンを首に巻く形のチョーカーで、
後ろは小さなリボン結びになっている。
正面には、
ハート型のピンク色の魔石があしらわれていた。
「我ながら、惚れ惚れする腕前ね」
ただ一つ問題があるとすれば、
定期的に私の魔力を注入しないと、
使えなくなるどころか、変身中に煙を吹くことくらい。
私は首筋まできっちり覆う神殿服の襟元を緩め、チョーカーを装着する。
それから襟を戻して、鏡の前で首元を確認した。
「よし。これなら神殿服で隠れるから、普段から付けていてもバレないはず」
私は襟元を再び緩めて、そっと魔石に触れる。
……いつぶりだろう。
胸の奥から湧き上がる高揚感。
「変身」
その思いを口にした時、
チョーカーの魔石が光り、白い神殿服がほどけるように消えていく。
代わりに現れたのは、薄桃色の魔法少女の衣装。
金の装飾とリボンで飾られた上着に、足首まで揺れるロングスカート。
帽子に杖まで揃えたそれは、我ながら気合いが入りすぎていたが──可愛いものは可愛い。
鏡の中の私は、
十年ぶりに、自分で選んだ服を着ていた。
「……」
……言葉が出ない。
バシッ。
私は杖を持ってない手で、
自分の頬を叩き、気合いを入れる。
「しっかりしなさい、アメリア」
神殿を欺きながら、
好きなことを全うするって決めたじゃない!
あとは悪党を退治して、家族の平穏を守るだけ。
私は部屋の窓を開け、外を眺めた。
「この王都のどこかに、悪党が潜んでいる。
すなわち、合法的にボコボコにできる!」
握っている杖を窓の外に向けると、
杖の先についている、ハート型の魔石が光りだした。
「杖なんてなくても、魔法は使えるけど。
魔法少女を名乗るなら、可愛い武器は必要よね」
そのまま風魔法で浮かび上がり、私は窓から外へ飛び出した。
その瞬間。
檻から解き放たれた感覚。
全身で感じる夜風と、
自由に動き回れる世界に心が軽くなった。
やっと、息ができた気がする。
それ以来。
私は人目を忍んで、自分の時間を満喫していた。
深夜に空を飛び回り、
悪党を見つけては、ボコボコにする生活。
毎日が充実していて、とっても楽しかった。
──だから、油断していたのかもしれない。
いつも通りの真夜中で、
私は怪しい男たちの言い争いを、物陰から見ていた。
『お願いだ、やめてくれ……』
『おや、おかしなことを言いますね』
暗闇で相手の姿は見えないが、声で男二人なのは分かった。
『あなたは慈悲深いと言われてたじゃないか。
私のことだって、今回は"許す"って……』
『許す? そんなわけないでしょう。
神殿と癒着して、治療を待つ民から金を巻き上げていたことも知っていますよ』
冷たく吐き捨てた相手は、
腰のあたりに手をやり、何かを引き抜いた。
うっすらと見える、銀色の鈍い光。
……剣だ。
理解した瞬間、
私の心臓が跳ね上がった。
『そのうえ影で私を“無能な偽善者”と揶揄していたそうですね』
剣を抜いた男は、
ゆっくりと相手へ、距離を詰めていく。
止めるべきなんだろうか。
でも、殺されそうな相手も悪いことしてるっぽいし。
『ぎゃあぁぁ!』
悩んでるうちに、
痛みに満ちた悲鳴が聞こえてきた。
「……どうしよう」
悪党なんて、ボコボコにすればいいと思ってたのに、こんな展開は想像してなかった。
残った相手が剣をしまって、立ち去ろうとした時。
「……っ、魔力反応!」
倒れている男の懐から、魔法陣が浮かび上がる。
まずい。
あれはファイアースピアの魔法だわ。
しかも、複数を同時に発射できるようになってる。
あんなのに射抜かれたら、
助かっても、私じゃないと治せない。
「伏せて!」
私は持っていた杖を、
魔法陣に向かって、全力でぶん投げた。
声に気づいた相手は、一瞬で地面に身を伏せる。
バリーン。
入れ違いで、
杖が魔法陣に当たった瞬間、ガラスのように砕け散った。
「ふぅ、危なかった。
もう起き上がっても大丈夫よ……えっ」
声もなく立ち上がった相手に、
月明かりが差し込み、隠れていた姿が露わになった。
金の髪に、澄んだ水色の瞳。
そして整った顔立ちに、私は見覚えがあった。
先日、神殿で怪我の治療で来ていた、胡散臭い笑みを浮かべていた男。
「お、王太子、殿下……」
私が名前を呼ぶと、
王太子殿下は、あの胡散臭い笑みで微笑んだ。
……頬に返り血をつけた状態で。
私はただ、自由を満喫したかっただけなのに。
「どうして、こーなるの!?」




