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九十一話:キャベツくんを勝手にミステリー寸劇に巻き込んでみた~~犯人はミルルン~~

「なぁガーディナー......」



代理医務室へ早歩きで向かってる途中。


キャベツくんはずっと手に持ってた緑色の小瓶を見下ろしたまま、私の耳元に口を近づけっ、て、きた。



「この薬ってやっぱあれだよな? 『成長促進剤』だよな?? 体の成長を早めるとかいうあの......」

「うっ......うん、そうだけど、なんでキャベツくんがそれを知って......?」

「オレもトモル先生にもらってんだよ! 三年生になるまでに、人外化が終わってねぇといけねぇからって!」



キャベツくんは少しだけ目を伏せながら、両腕を撫でるように組む。

パジャマ用であろうTシャツから露出するのは、灰色の羽で覆われてる素肌。


羽は全部下に向かって垂れてるから、もしかしたらその両腕は、翼のようになる予定なのかもしれない。


だとしたら、確かに成長遅れてるな......私の天使の翼よりも翼っぽくないもん。



「でも、キャベツくんまで成長が遅れてるなんて意外! なんというか、キャベツくんならモリモリ成長してそうなイメージがあったというか......」

「......」



彼は首元をポリポリ掻いた後、頭から生えてる羽のような耳に触れた。


うさぎの耳......ではないよね? 犬でもなさそう。猫でもキツネでも......。

昆虫のアンテナ、とも少し違うみたいだし......。


そういえば、キャベツくんがなんの動物とハーフになったのかは、まだ教えてもらったことなかったな。




「ね~キャベツくん、結局キャベツくんは半獣人なの? それとも半虫人に——」


「ついたでーー。代理医務室ぅーーーー。」



ローリエは口を開こうとしたキャベツくんを蹴りながら、目の前の扉を指差した。



「ここにトモル先生がおるはずやーー。いっしょに問い詰めるでーーー」

「問い詰め......あれ? そういやオレらって、なんで代理医務室に向かってたんだっけか?」

「ッチ......これやから素人は......」

「なんでそこの演技だけガチなんだよ!?」



たまたま近くにいた闇属性の妖精が、怪訝な目でこっちを見てくる。ローリエもキャベツくんも全然気にしてないみたいだけど。



「あーしらはなぁーー。ウィローを殺した犯人を捕まえに来たんやぁーーー。トモル先生が殺した可能性が高いから、こうしてわざわざ凸りに来たんやろがいーー」

「あーーーそうだった、そういやそういう設定だったなァ......すぐ隣に全く設定を守ってねぇやつがいるせいで、うっかり忘れるところだったぜ......」



『すぐ隣に全く設定を守ってねぇやつがいるせいで』? だ、誰のことだろぉ、あ、あは......


た、確かに私はもうシナリオ上では死んでるけどっっ



「さっきも言ったじゃんキャベツくんっ! 私は役者なだけじゃなくて、このミステリー寸劇の監督でもあるから——」

「え~~っと、この後の台詞なんやったっけ............あ! トモル先生ーー、貴様が犯人なことはもうわかっているーーーー」

「だからァ、今の時間ぜっってぇトモル先生いねぇってぇ! 夜は代理医務室あいてねぇはずなんだからよォ......」



二人は華麗に私を無視しながら、代理医務室の扉を勢いよく開けた。


こうして。


キャベツくんに悩みを吐かせる計画は、正式にスタートし——




***


うまくいくと思ってた時期が、私にもありました。


......ここからの展開は、あまりにもひどすぎたので割愛させていただきます。



そのぉ......簡単に説明すると......まず、代理医務室に入るでしょ?

トモル先生がいるでしょ? 本来はもう仕事が終わってる時間なんだけど、トモル先生にも協力してもらってたからさ。私たちのために残っててくれてさ。



それで。



「犯人はお前やーーーー」

「ふ、ふふふっ......は~~~っはっはっは! そうさ、僕が犯人さ......!」

「まだなんも推理してねぇのに認めやがったぞこいつ!?」



この時点でキャベツくんに、『おい出てこい監督!!』『ストーリーがクソすぎるぞ!!』って言われちゃったよね。


そこで、追い詰められたトモル先生はその場から逃げ出しちゃうの。



追いかけようとしたら、急にブレイズくんが出てくるの。



「ブレイズ!? オメェまで何してんだよ!?!?」

「俺はブレイズではありません、ブレスユー教授?です」

「誰だよ!?」



ブレイズくん改め、ブレスユー教授には『犯人はトモル先生じゃない』とか、『真犯人は別にいる』って......言ってほしかったの。


その台詞さえ言ってくれれば、まだうまくいってたかもしれないのに。

『ストーリーがクソ』って評価を覆せてたかもしれないのに。



でもね。盲点だったの。

ブレイズくんさ、台詞を一つも覚えてなかったからさ。思いっきり台本を見てたんだけど。



「......は......はん......? は、トモルせ......さい............じゃない......まこと............?」



ブレイズくん、まさかの漢字が一個も読めないみたいで。


そんなブレイズくんのことを、キャベツくんが『へははっ』て笑っちゃって。


ブレイズくんは拗ねちゃって、そのままどっか行っちゃって。



......ブレイズくんがいなくなっちゃったから、話が進まなくなっちゃって。



でも、まだ希望はあったの。

だから私は、犯人役のミルルンが隠れてるベッドの下まで行ったの。




でもミルルンはいなかったの。


どこにもいなかったの。真犯人役が。





「......」

「......」

「......」



......と、まぁ。そんな感じで。


今に至るわけでして。





「もう無理だよーーーっ!!!! ここから続けるなんて無理だよぉおおおお!!!!」



私は頭を抱えながら、その場で崩れ落ちちゃった。



「もうやだ!! 全部やだ!! 今までのこと全部なかったことにしたいぃぃいぃいいい、うぅぅううぅぅぅぅぅううぅ」

「あーしは最初からうまくいくわけないってわかってたけどな」



ローリエはブレイズくんが捨てていった台本の上をまたいで、私の前に立つ。



「あんたの方法は回りくどすぎんねん! もし寸劇がうまくいってたとしても、絶対キャベツに気持ちは伝わらんかったと思うで?『一体何を見せられたんだオレは』で終わってたと思うで??」

「突然の裏切り!? さっきまであんなにノリノリで演技してたくせにーー!!」

「ウィローにはあれがノリノリに見えたんやな」

「実際ノリノリだったじゃんっっ!!」


「おい!! てめぇらオレを置いてけぼりにするんじゃねぇ!!!!」



キャベツくんは地団駄を踏みながら、私たちの間に入ってきた。



「結局なんだったんだよさっきのは!? 『方法』? 『気持ち』??」

「えっとぉ......キャベツくん、できれば今日のことは全部忘れてもらって......」

「深夜1時まで付き合わせておいて『忘れろ』は無理あるだろ!!」

「う、うぅう......」



私は視線でローリエに助けを求めるけど......彼女はわざとズラして被ったミニ魔女帽子をツンツンしながら、速攻私から目を逸らした。

どうやら、私の代わりに説明してくれる気はないらしい。



「そのぉ......う~~~んと......」

「何がしたかったんだお前は? チビロリが言ってた『気持ち』って?? もう気になって夜も昼も寝れねぇよォ、オレもう絶対今日寝れねぇよぉ」

「......ぅ......う......」



色んな意味で顔が熱くなる。

つい俯いちゃって、手と手をもぞもぞさせちゃって、

まだ長さが足りない天使の羽で、顔を隠したくなっちゃって。



「わ、私は......ただ、その......キャベツくんが......し......」

「『し』??」



逆効果だってわかってるのに、目を逸らそうとしたら顔を覗き込まれるだけだってわかってるのに私、っ



あ~~~~もう言うしかないっっここまで来たら言うしかないよウィローさんもう逃げられないよもうっっ

真っ直ぐ、伝える、しか——————!



「し、心配......で......キャベツくんのこと......!」

「............、心配? なんで??」



こ、こやつっ......! しらばっくれやがって......!!

そっちがその気ならもういいもんねっ、もう全部言っちゃうもんね私っ、



「だってこの前、な、泣いてたじゃん!! 代理医務室の前でしくしく泣いてたじゃん!」

「ハァ~~~~?? なななななな泣いてねぇしィ、目にゴミが入っただけだしィ」

「典型的な誤魔化し方しないで!!」



私が一歩前へ踏み出すと、キャベツくんは苦笑いを浮かべたまま後ずさった。



「私っ......キャベツくんのことが心配で......ホントに心配で......」

「あ、~~~あ~~~っっとぉ、だ、だからァ、あれはその——」

「心配だったから、寸劇をしようと思って......!!」

「なんでそうなった????????」



ええーーーーい!

ここまで来たら、もうヤケクソじゃーーーーい!!



「い、一応、最近読んだミステリー小説を参考にして! シナリオとかみんなのセリフとか考えて! 色んなヒトに手伝ってもらって!!」

「ミステリー小説......?? オマエ、小説なんて読むのか......!?」

「でも実際にやってみたらグダグダだし、ブレイズくんは帰っちゃうし、犯人役のミルルンはいないし!!」

「............ん? でもバターフィールドは——」

「キャベツくんよぉ......忘れたとは言わせねぇぞぉ......?」



私はもう一歩前へ踏み出す。キャベツくんはまた一歩後ずさる。


すると、ローリエは何も言わずに彼の背後へ移動した。仁王立ちで出口を塞いだ。

ろ、ローリエナイス! これでキャベツくんも逃げられないはず......!



「わ、私は忘れてねぇからなぁ~......? 一生覚えてるからなぁ~......?」

「なっっっっ..................何をだ??」

「『アンジェリーナ事件』だよ!!!!」



キャベツくんは息を呑む。

だけど、驚きの表情が少しずつ溶けていくと、現れたのは困惑だった。



「あんじぇ......は?? なんだっけそれ??」

「あれだよ!! キャベツくんが......アレを......失くしちゃった事件だよ......っ」

「????」

「キャベツくんが自分のお〇ん〇んを失くしちゃった事件だよ!!!!」

「ア~~~~~ッ!! 懐かしーーーッ!!」



......もう。あれも、一年以上前になっちゃったんだな......。



「私っ、ブレイズくんから聞いたんだからね......? あの時、キャベツくんがアレを失くした演技をしたのは、私を元気づけるためだったって......!」

「クッッッソあの野郎やっぱバラし————ほ、ほぉ~~~ん? それがどうした??」

「だ、だから私も......ふざけたことすれば......笑わせられるかなって......」

「ほ、ほォ......?」

「あわよくば、キャベツくんの悩みも......聞かせてもらえるかなって......!」



私が読んだミステリー小説は。

嘘と愛が招いてしまった、憎しみが原因で起きた事件の話だった。


嘘が、優しさなのだとすれば。

真実は、愛なのだと。

そういう......話、だったの。



だから......私は............。



「そ、そうか......オレのためだったのか......」

「............うん............」

「ったく、不器用なやつだな......結局、その寸劇とやらも失敗してやがるし......」

「きゃ、キャベツくんにだけは言われたくないもん......」

「............」



肩が、温かくなる。

同時に重くなる。


キャベツくんは私の肩に手を置いて、軽く叩いて。

ニッて、歯を見せながら笑ってくれて。


『まるで』、体温のある幽霊に取り憑かれたような——



「ありがとなガーディナー! で、でもオレは平気だぜ!」



——————ぁっ、




「マジで平気だ!! ほ、ほんと、た、大した悩みじゃねぇから!! マジで!!!!」


「ほんとだぜ???? 強いていうなら、最近ちょっと寝れてねぇだけだ!」


「あ、あれだよ、た、確かにあんときは泣いてたけどよぉ、」


「それはあれだ、が、ガーディナーが帰ったから、で、」


「それはマジでホントで」


「それは、っつうか、」


「あぁぁあぁぁあれだっ、無意識にテオのことまだ引きずってんのかもしれねぇけどっっ」




キャベツくんは何回も目をパチパチさせて、顔を逸らしたり合わせたりして、唇を尖らせて、頬を掻いて、歯の隙間から息を吸って、


わかりやすく動揺してるように見える、けど。


それすらも。

仮面、なんじゃないかって。


あえて下手な誤魔化し方をしてるんじゃないかって、

深刻な空気から逃げようとしてるんじゃないかって、

......どうしても............。





「............キャベツくん......」

「だからマジで気にすんなって! でもあれだぜっ、心配してくれんのはまぁありがてぇっつうか、」




こうなるかもしれないって。


もし、キャベツくんが隠そうとしたらどうしようって。



怖かった。


だって。



もし、笑いながら誤魔化されちゃったら、





「————、......ぁ............ぅ............っ......!」





私には、それ以上何かを言う資格がなくなっちゃうから。



前の私も。キャベツくんに心配されたとき、誤魔化しちゃったから。

傷つけちゃったから......っ





......ど......どうしよう。


寸劇、無理やりにでも続けるべきだった?

なかったことにしない方がよかった?

つまんなくても、台詞が全部アドリブになっちゃっても、続きを書くべきだった?



真っ直ぐ、ぶつかっちゃ......だめだった......?





「わた......し————」


「ミステリーっていうのはねぇ、ウィローちゃ~~ん。予測不可能などんてん返しが、醍醐味なのよ~?」




ミルルンの声は、キャベツくんの背後から聞こえた。



だから、代理医務室の出入口から入ってきたのかなって最初は思って、


でもいくら辺りを見渡しても、ミルルンの姿は見当たらなくて、




ローリエ。


の、頭の上に、ずっと乗ってたミニ魔女帽子。




もぞもぞ動いてて、気のせいじゃなくて、


ローリエの頭から飛び降りて——




「んふふ~~。ウィローちゃんに、わたくしの『使い魔の姿』がなんなのか、まだ教えてなくてよかったわ~」




————人間の姿に変身したミルルンは、ふわっと地面に着地しながら、魔法でフルートを呼び出した。




「ごめんね~、ウィローちゃん。でも......」



クリスタルのように透き通ったフルートに唇を添えて、そっと指先で包み込むようにして、




「......ここは、『犯人役』のわたくしに任せてね?」








次話:モヤモヤを忘れないで

です。ギャグ回なはずなのに結局不穏になる運命...(´・ω・`)

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