九十話:ウィロー、死す
「「【ウィロー】【ローリエ】!! 【キャベツ】【キャベツくん】のことで相談が——」」
「えっ」
「あっ」
7月25日。
珍しくウィローさんは早起きして。
着替えた後、早速ローリエの部屋に行って。
扉の前に立つと、まさかのノックする前に彼女は出てきて。
それだけでも十分奇跡だったのに。
「「............」」
しばらくの間、私たちは顔を見合わせることしかできなかった。
「..................オホンッ」
ローリエは先に沈黙を破ると、苦笑いを浮かべたまま、サッと手招きしてくる。
「とりあえず部屋入る? ミルフォイルは、えっと......——」
「あ!! ローリエ、その帽子可愛いね! 魔女の帽子?」
「え? あ、あぁ......」
部屋の中に入れてもらっていた数秒間、ローリエは魔女の帽子を外して、私に見せてくれる。
ミニシルクハットってあるでしょ? あれの魔女の帽子バージョンみたいな感じ!
真っ黒の帽子に、星型ピアスと同じ色のリボン。小さくてね、ローリエの頭の右側にちょこんと乗ってて......とにかく可愛いの!
どこでその帽子を買ったのかとか、ほんとはもうちょっと詳しく聞きたかったんだけど、『そんなことより......』って話変えられちゃって......。
「そんで? あんたもキャベツのことで相談があって来たんよな?」
「あ!! そ、そう!! そう!! 忘れるところだった!!」
「忘れたりなや......」
とりあえず、私はローリエの机に勝手に座った。
私の机と違って、綺麗に片付いてるなぁ......。
「その......ローリエとこうして話すまで、気のせいかもって思ってたんだけど......」
「気のせいやないやろうな」
「だ、だよね!! やっぱりそうだよね!!」
つい前のめりになりすぎたせいで、危うく椅子から転げ落ちそうになって、
「キャベツくん、最近ずっと元気ないの!! 元気ないっていうか、それだけじゃなくて......なんか......」
「......」
「私たちに、隠し事......してるような............」
私が半年ぶりに、ネルソービューに帰ってきた夜。
たまたま代理医務室の外で、泣いてるキャベツくんを見かけちゃって。
最初はさ。私のせいかなって、思ったんだ。
私が久しぶりに帰ってきて、その......ちょっとは、安心してくれたのかな、とか。
泣くところ見られるの恥ずかしいから、あんな風に逃げ出したりしたのかなって。
私がいなくなったこと、自分のせいにしちゃってるみたいだったし......。
で、でも。
ここ数日、キャベツくんのこと......よく見てたんだけど......。
「その......口数が減った? あんまり笑わなくなった——ってほどじゃないかもだけどなんというか、えっとぉ、」
「あれやろ? あーしらのこと微妙~~~~に避けとる感じするよな」
「それ!!!!!!」
よ、よかった......私だけが避けられてたわけじゃなかったんだ......!
って、いやいや、全然良くはないんだけどっ、
「キャベツくんのことだし、意味もなく私たちのこと避けたりしないと思うけど......。やっぱりあれかな? テオくんのことで相当ショック受けて......それで............」
「それもあるやろなぁ。しかもその後すぐ、あんたまでいなくなって......まぁウィローは戻ってきたからまだええけど」
......やっぱり......テオくん、ずっと行方不明のままなんだな......。
半年以上も、見つかってないんだ......。
「キャベツくん......その......テオくんのことで、私に怒ってたり——」
「それはぜっっっっったいない」
「早っ!? いやでもっ、テオくんがいなくなっちゃったのは私のせい、ではない、というわけでもないというかその」
「ないないない絶対ない!! キャベツがそれであんたのこと避けるわけないやろ!」
「........................そう......だよねぇ............」
だとしたら、私たちを避けるのは......やっぱり......。
「......」
ローリエは両腕を組みながら、ベッドのそばに置いてある台の上にちょこんと座る。
台がないと、ベッドによじ登れないんだろうなぁ。ベッドは高すぎるし、ローリエは小さ——おっと、誰か来たようだ。
「あいつの様子がおかしくなったのは、今に始まったことやないで」
「ほ、ほんと? じゃあ私がいなくなった辺りから——」
「いや。それよりももっと前」
彼女は足を組んで、私を真っ直ぐ見てくる。
「あんたが——ううん。あいつのルームメイトがいなくなる前から、すでに様子が変わり始めてたで」
「え!?!? テオくんがいなくなる前から!?!?」
そ、そうだとしたら私いたじゃん!! そのとき普通にネルソービューにいたじゃん!!
でも私、全然......。
「き......気づかなかった......」
「あーしも当時は気づかんかったよ。ただ、今思い返せば、確かにそうやったなって」
テオくんがいなくなる前って、どれくらい前? ヒナタくんが消されちゃう前......?
だとすれば、キャベツくんが私たちを避けるのは、テオくんが関係してるわけじゃ、
別の、何か、が......。
「......そんで?」
ベッドの下の台と、勉強机の椅子がすぐ近くにあるおかげで、ローリエの瞳がよく見える。
水色に光っていて、泡模様も雷模様も影に染まる。
「なんであんたはキャベツのことを、あーしに相談しようと思ったん?」
「え? それは——って、それを言うならローリエもじゃん! ローリエも私に相談しようとしてきてたじゃん!!」
ハモったときはほんとにびっくりしたよ!
いや、ローリエがキャベツくんのこと心配してるのはそこまで意外じゃなかったんだけど......まさか、お互いがお互いに相談しようとしてたなんて......。
「? そりゃだって、あんたが一番キャベツと仲良いからやろ?」
「え!? そ、そう......? ローリエとキャベツくんもだいぶ仲良——」
「は? 一旦しぬ?」
「突然の殺意!?」
ひええぇぇええぇえ睨まれてるっっっ、目を逸らしてもローリエの目が見えるよぉっ!(?)
「あーしとキャベツが?? 仲良し???? あんたは今まで何を見てきたん??」
「今まで見てきたものの感想をそのまま言っただけだけど......」
「あかん、この子ポエナ行ったせいで記憶喪失なったんかもしれん......っ」
「なってないよ!? あれじゃんっ、喧嘩するほど仲がいいって言うじゃんっっ」
「んなもん所詮子供騙しのテンプレやんけ」
「言い過ぎ言い過ぎ」
すると、ローリエは台をバァンって叩きながら立ち上がった。
「ちーーーがーーーーう!! あーしとキャベツは仲良うない!! あいつのことなんか嫌いやしっ、大っ嫌いやし!!」
「それこそツンデレのテンプレじゃ......?」
「あいつ腹立つしすぐ喧嘩売ってくるし身長馬鹿にしてくるし何回殴ってもしつこく構ってきやがるしっっ」
「でも、キャベツくんのことが心配だから、私に相談しようとしてきたんだよね?」
ローリエは雷に撃たれたような顔をすると、目をまん丸にしたまま後ずさる。
そして、口を長方形にして、頬に怒りマークを浮かべて、
赤くなって、
「ハァ゛ーーーーーーーッ!?!? アホかあんたっっっアホ、アホアホアホアホバカバカバカバカバーーーカバーーーーーーーーッカ」
「あはははっ! ローリエって、キャベツくんのことになると急にIQ3になるよね!」
「あぁあぁぁあヤダヤダヤダ!! ウィローがキャベツみたいなこと言うてくる!!!!」
彼女は頭を抱えながら、何回もブンブンって首を振った。
どんだけ激しく頭を揺らしても、何故かミニ魔女帽子が落ちることはなかった。
「あーーーもーーーーーわかった!! 認めりゃあええんやろ!? そうですぅ、あーしはキャベツのことが心配ですぅ、これで満足かボケナスゴラ」
「......今のローリエ、ちょっとだけキャベツくんに似てたって言ったら怒る?」
「生まれてきたことを後悔させちゃる」
「こわぁ......」
指、が、私の目の前に突き立てられる。
もしかしたら目潰しされるんじゃないかって思って、一瞬だけ目を瞑っちゃう。
ローリエは私をビシィって指差したまま、頬の熱を振り払うように髪をなびかせた。
「あーしを怒らせた罰や!! キャベツをなんとかする方法はあんたが考えて!!」
「え、えっっ、えぇぇえ!? 私が!? な、なんとかするって言われてもっ」
「んじゃ、あいつに悩み事全部白状させる方法!! はい!!」
「『はい』じゃなくて!! それがわかったらローリエに相談しに来てないよぉっ」
「相手はキャベツやぞ!? 適当でええから!!」
「適当でいいの!?」
え、え~~~っとえ~~~~~~~っとぉっ、ほ、方法って言われてもっ、そんなのわかったらこんなに苦労してないしっっ
適当で良いって言われても、そんな————
「————————あっ」
「え、なに? もしかしてほんまに思いついたん??」
......いや......でも流石に......。
..................。
「......ローリエ? ちょっと耳貸して......」
「嫌な予感しかせぇへんねんけど」
「い、言っとくけど、ローリエのせいだからね?」
私は笑いを堪えながら、彼女の耳元に口を近づけた。
「ローリエが、適当で良いって言ったんだからね......?」
***
「キャベツ!! 今すぐ開けんとドアノブぶっ壊して穴あけたるぞコラ!!」
「たのもーーーっ! たのもーーーーっ!」
ドアノブをガチャガチャし続けるローリエの隣に立って、私はとりあえずそれっぽいことを言う。ちなみに『たのもー』の意味は知らない。
「あけた穴ん中手ぇ入れてピースしたるでオンドレェ」
「たのもーーーーっ!」
「中指立てたるでオラッ!!」
「たのもーーーーーーっ!!」
「ずっと意味わかんねぇんだよさっきからァ!!!!」
何かにつまずいたような音と共に、キャベツくんの声が近づいてくる。
すると、ゆっくりと扉が開いて、隙間からギョロッとした目がこちらを覗き込んできた。
ローリエよりも私よりも高い位置にあるその目は、一定の間隔で瞬きする。
「............何してんだオメェら?」
「「借金取り」」
「は??」
私は付けてたサングラスをクイッとあげて、とりあえず両腕を組んだ。
ふふんっ......刮目せよ! ウィローさんの名演技を!!
「へいYO! キャベツくんYO! 金返せYO!」
「いま深夜0時だぞ......」
「おまえの部屋入らせてもらうYO!」
「お前の役って『借金取り』で合ってる??」
一応ツッコんではくれるツンデレキャベツくん(?)を押しのけて、私はローリエと一緒に部屋の中に入った。
143号室に入るのは、なんだかんだ久しぶりで——
「————っ、......。............」
「ホントになんなんだよぉっ、オレこれから寝るとこだったのに......」
窓辺側にあるベッドは、とにかく空っぽだった。
枕も布団もない。シーツすら敷かれてない。残っているのは、藍色のマットレスだけ。
部屋の左側だけ、全ての生活感が失われている。
最初から、テオくんなんて存在しなかったかのように。
ドア側にあるベッドには、ちゃんとクシャクシャの布団が置いてあって......ってことは、こっちはきっとキャベツくんの......。
......サングラス、付けててよかったな。
「きゃ、キャベツくん!! 君はとんでもない罪を犯している!!」
気を取り直して、私はおふざけモードを再起動する。
「お金を返さないのは、その、良くない!! だから返さないとダメ!!」
「語尾に『YO!』はもう付けなくていいのかよ?」
「YO!! 金返せYO!」
「んなこと言われても、オマエから金借りた覚えなんて——」
「とぼけんのもええ加減にせぇ!!」
ローリエは演技なのか本気なのかわからない怒声を上げながら、キャベツくんの胸ぐらを掴んで——あっ、これ真っぽいな。演技という名の真実だな(?)
「今までどんだけあんたに奢らされてきた思っとんねん!? 消しカスしか入っとらん財布見せつけられんのも財布忘れたフリされんのも『わりぃ! 今度返すから!』って言われんのももう限界やねん、今日という今日は絶対に許さんでワレ」
「う、うぉ......お前はガーディナーと違って役にハマってんな......」
............。
「ラーメンにプリンに折り畳み傘、パソコンケースに双眼鏡、風邪薬......これぜぇ~~んぶアンタに買わされたやつやぁ、一個一個上げてったらキリないなぁ?」
「は、ハハッ、なぁ~~~んのことだかァ????」
......えっと......そろそろかなぁ......?
「あ゛ぁ? ヒトと話すときは目ェ見て話せって教わらんかったんか? 親の顔が見てみたいわぁ」
「チビロリおまっ、マジでハマり役すぎるだろ......」
「誰がチビや!!!!!!!!」
「今日イチのブチギレ!?」
よし! そろそろだね! ローリエに合図出してもらったし!
というわけで!!
「——————うぐっっ!?」
私はお腹を押さえながら、その場にパタンっと倒れ込みました。
「ガーディナー!? は、え、どしt——」
「うぐぐっ、うぐぐぐぐぅ~~~! 死んだぁ~~! 私が死んだぁ~~! ウィローさんが死んだぁ~!」
「......」
「う......ぐっ......。.............————ガクッ......」
「............」
ウィローさん、死す。
「......」
「............」
「わーーー。大変やーーーー。ウィローが死んでしもたーー」
ローリエは台本通り、私が急に死んだことにびっくりする。
死んだフリを続けなきゃいけない私は、目を薄っすらと開けながら二人の様子を見た。
「キャベツーー。お前がやったんかーーー?」
「............」
「大変やーー。殺人事件——いや、殺『天使』事件やーー」
「......————ぶっっっふ、」
キャベツくんは片手で口を押さえながら、私たちに背を向けて............!!
「おい、ヒトが死んでんのに笑うなや」
「だっっってよぉ、こ、っっっこれは笑うだろ!! なんだよこれ!? は!?!? 何が起きてんだ今!?」
や、やった! 笑ってくれた!
笑ってくれたらいいなって思ってたけど、ほんとに笑ってくれた!!
「......ふっ......キャベツーー? お前がやったんかぁーーーー??」
ローリエはキャベツくんを何回も蹴りながら、さっきの台詞を繰り返す。
すると、キャベツくんは肩を震わせながら振り返って、深呼吸をして.....。
「............ふぅ......いいかお前ら? オレが本物の『演技』ってもんを見せてやるよ......」
よし! やっぱり乗ってくれた! 計画通りだぜぇ......!
もしかしてこれ、案外うまく行くんじゃ?
「ウワァーーーーーーッ!? こ、こんなところに死体がァーーーーー!?」
「うるさっ」
「キレていい?」
「ウィローをころしたのはあんたか!?」
「ちげぇよ!?」
「......。..................」
ローリエは目を泳がせた後、軽く肩をすくめた。
後頭部を掻きながら、上目遣いでキャベツくんを見つめる。
「......この後の台詞忘れた」
「知るか」
「台詞忘れたときってどうすればいいん?」
「知るか!! そこの死体に聞けばいいんじゃね????」
ローリエが台詞を忘れてピンチっぽいから、私はこっそり手に持ってたポーションを転がす。
転がった緑色の小瓶は、キャベツくんの足に当たって止まった。
「ウワァーーーーーーッ!? 死体が動いたァーーーーー!?」
「あっ、待って思い出し......オホンッ! あーーーー。ウィローの手見てみぃ! なんか持っとるでぇ~~」
「もう持ってねぇけどな、思いっきりこっちに転がしてきてたけどな」
キャベツくんはローリエに踏まれそうになった足を避けながら、小瓶を拾ってくれる。
そのまま目を細めて、まじまじと見つめて......。
「あ......? この薬って......——」
「あーーーーー。薬やーーーー。薬ってことは、代理医務室が怪しいでーーーー」
ローリエは両手を叩いた後、キャベツくんの背中を思いっきり蹴る。
うんうん、これは台本通りだね。
「い゛っっっってぇ!?」
「代理医務室ーー。薬といえばトモル先生やーーー。あいつがウィローに毒飲ませて殺したんやーーー。あいつが犯人やーーーー」
「いくらなんでも話が飛躍しすぎだろ!?」
「ついてこい、キャベツーーー。いっしょに犯人を捕まえに行くでーーー」
彼女はサングラスをその辺に捨てた後、部屋の外へ駆け出していく。
最初に計画を話した時は、全然乗り気じゃなかったくせに......ローリエったらぁ~、結構楽しんでるじゃん!
「おっ、おぉおぉおおいチビロリ!! 今の時間ぜっってぇ代理医務室あいてねぇぞ!?」
なんだかんだローリエのことも放っておけないキャベツくんは、一緒に廊下へ飛び出す。
そんな二人の後を、私はついていった。
「....................................オイ」
「ん? なに?」
「『なに?』じゃねぇよ!! 死体が堂々とついてくるんじゃねぇ!!」
「私は登場人物なだけじゃなくて、これの監督でもあるからっ! ちゃんと最後まで見届ける義務があるのっ!」
「『監督』って言っちまってるじゃねぇか......」
唇を尖らせながら、棒読み演技を続けるローリエ。
死んでるはずなのに、二人の後をついていくウィローさん。
頭を抱えるキャベツくん。
こうして、一人の天使の死を巡る、
世の中すべてを震撼させる(かもしれない)トンデモ激やばミステリーが今、幕を開けたのであった!!
......。
............。
テレビの前のみんなは、忘れてるかもしれないけど。
これ。
キャベツくんに、悩みを白状させるための計画だからね??
うまくいくわけがなかったんだよね。
次話:キャベツくんを勝手にミステリー寸劇に巻き込んでみた~~犯人はミルルン~~
です。いつもふざけてしまってすみません




