九話:キャベツくんがロールキャベツになっちゃった...
「さてさて、騒ぎが落ち着いたところで......」
魔女の先生は私たちの方をチラチラと見てきながら、にこやかに笑った。
「『常用魔法①』へようこそ! これが初めての魔法クラスだっていう子も多いんじゃないかしら?」
クラスメイトのほとんどがすでに杖を手に持って、瞳から星を散らしている中、私の左隣と右隣に座ってる某二人は不機嫌そうな顔してる。
先生の制裁でできたタンコブを時々さすりながら、お互いそっぽを向いていた。
何があったのかは......詳しくは、前回をご覧ください。
「『常用魔法って何?』『他の魔法と何が違うの?』と思っている子も多いでしょう。というわけで、本日の授業はその説明と、杖と魔導書の使い方を——......」
「おい、おいガーディナー!」
キャベツくんは肘で私の二の腕をつつきながら、ひそひそ声で話しかけてくる。ひそひそ声って言っても、ギリ先生に聞こえてそうな声量。
とりあえず、一旦無視してみた。
「無視してんじゃねぇよっ」
ですよね。
「なにさー? また私を巻き込む気?」
「別に? かつての悪友に挨拶でもしてやろうと思っただけだけど??」
「悪友!? あのねぇキャベツくん、これでも私は優等生でやってきて——」
「何言ってんだこいつ」
「真顔&ガチトーンやめて?」
久しぶりに会ったけど、キャベツくん全然変わんないな~。
相変わらずすぐ喧嘩売ってくるし、目つき悪いし、髪もキャベツ。野菜嫌いそうな顔しやがってさぁ......(?)
「聞いたぞガーディナー? お前また変なことに巻き込まれたんだってな!」
キャベツくんはニッて笑うと、頬杖をつきながら私と目線を合わせてくる。
「トラブル引き寄せるフェロモンでも出してんじゃねーの?」
「んなフェロモンがあってたまるかぁ!......ん~でも、強いて言うなら......」
私は両手を頬に当てながら、精一杯のきゅるん顔をした。
「Troubleが、私の可愛さに引き寄せられちゃってる......的な?」
「面白くねぇよそれ?」
「はい言い過ぎ~~!! 告訴してやるっ!!」
「ツッコんでやっただけ感謝しろよな!?」
「~~あんたらっ、アホみたいな会話せんとってくれる!? 気ぃ散るわ!」
ローリエは両拳で台パンしながら、私たちの会話に入ってきた。
「あーしは真剣に授業聞こうとしてるのにそっちはずっとベラベラベラベラ喋りよって」
「そうだよキャベツくん、授業はちゃんと聞かないと~」
「寝返りRTAやめろっ」
「あんたとウィローはなんか仲良いみたいやけど、あーしはぜっっっっったいあんたと仲良うせーへんからなっ!」
ローリエは紫のポニーテールと星型ピアスを荒ぶらせながら、ギリ中指が立ってない手の甲をキャベツくんに向けた。
「あんたみたいなガキとは話すだけでアタマ痛なるわ!」
「ケッッッお前なんてこっちから願い下げだっつーの!!」
キャベツくんはそんなローリエに対抗するように、両手の中指を思いっきり立てた。
「そもそもさっきはお前の方から喧嘩売って来たんだろうが!」
「売っとらんわ!! 違うとこ座ってって言っただけじゃん!」
「オレがどこに座るかなんて自由だろ!?」
「あんたデカすぎて前に座られたらなんも見えへんねんもん!」
「だからオメーがチビだから悪いんだろうが!!」
「よしコロす次こそコロす」
「アッッッごめんなさいジャーマンスープレックスはやめてくださ——」
「オ ホ ン !」
「「「あ」」」
魔女の先生は眉をピクピク動かしながら笑ってて、折れるんじゃないかってくらい杖を握りしめてて......良い子のみんなは、授業中の私語は慎もうね!
「......それで、常用魔法とは日常生活で使う魔法のことで......」
せ、先生、すごい圧......私悪くないもん! 騒いでたの主にキャベツくんとローリエだもん!
「要するに、戦闘で使わない魔法のほとんどが、常用魔法だと言えるわね。ネルソービュー学園では戦闘魔法も常用魔法もどっちも習うけれど、個人的には常用魔法の方が役に立つと思って——」
「おいチビロリッ、テメーのせいで怒られたじゃねぇかよ!」
うわぁ、このキャベツ野郎ぜんっぜん反省してねぇ......。
「もし退学になったりしたらどう責任取ってk——い゛っっ!?」
ローリエは自分の魔導書をキャベツくんに向かってぶん投げた後、何事もなかったかのように前を向いた。
そしたらキャベツくんも魔導書をローリエに投げ返、ちょ、危なっ!? いま私の鼻かすったんですけど!?
「......ほう? ふ~ん? ほう?? そうやってあーしを怒らせるんやなぁ?」
ローリエは魔導書を床から拾って、拳をボキボキ鳴らせながらゆっくりと立ち上がる。
「あんたにはもうちょっとわからせた方が良さそうや......」
「ヒッッッう、お、じょ、じょ、じょじょじょじょじょ上等じゃコラ」
「あ~あ! キャベツくん、魔王復活させちゃったねー!」
「テメェも一緒に殴られちまえ!!」
「オ ホ ン ! ! ! !」
「「「あ」」」
良い子のみんなは、授業中に喧嘩を始めるのはやめようね~......。
あ、あれ? 先生の目ってあんなに光ってたっけ? あんなに赤かったっけ......?
「ふふっ、ふふふふふふふ、そうだわぁ! せっかくだし、あなたたちに常用魔法の例を見せてあげる!」
先生は目を見開きながら笑った後、杖を私たちの、ほ、方に、む、向けっ
ななななんで私たちの方に、や、やばいやばいかもヤバイッ
「ご、ごめんなさい先生! でも悪いのはキャベツくんとローリエです!!」
「やめて先生もうタライ落としてくるのだけは——ってウィローそれは聞き捨てならんぞ」
「悪いのはオレ以外です!!!!」
私たち、もしかしてまぁまぁクソガキ......?
「例えば、授業中に騒いでる生徒たちがいるとするでしょう? そういうときは......『サイレント』!」
先生はローリエに杖を向けて、呪文っぽいのを唱える。
すると、杖の先から薄いバツ印が飛び出て、ローリエの唇にぶつかった。
ローリエは口を開いたけど、そこから悲鳴が出てくることはなくて、ローリエは無音のまま喉を押さえてキョロキョロして目を見開いて、
こ、これ......生徒指導の先生が私とキャベツくんにかけてきた魔法だ!
でもあの天使の先生、別の呪文唱えてたような......? そもそも杖も使ってなかったし......。
「へはははっっざまぁみやがれチビロリ!!」
キャベツくんはミュートされちゃったローリエを指差しながら大爆笑する。
「授業中にギャーギャー騒いでっからこうn」
「そして——まだあなたたちには魔力が足りなくてできないでしょうけど——こんなこともできちゃうわ! 『トランスフォーメーション』!!」
先生は大きく杖を一振りして、キャベツくんに魔法の波動?みたいなのをぶつける。
するとキャベツくんが虹色光り始めて、ま、眩しっ
「うわぁぁぁあああぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」
——————!?!?
「ふふっ......流石に効果は数分だけですけどね!」
......あ......あ......っ......
キャベツくんが......ロールキャベツになっちゃった......。
当たり前だけど、本物のロールキャベツになっちゃったキャベツくんは喋らない。浅いスープにつけられたロールキャベツは、お皿の上で微動だにしなくて。
未だに声を失ってるローリエは、そんなキャベツくんを見て、お腹を抱えながら地面にうずくまった。
私は思いっきり口を押さえて、めちゃくちゃに笑いを堪えた。笑ったら次は私の番笑ったら私もミュートされる笑ったら私もロールキャベツにされる笑ったら——
「そして! 常用魔法の代表と言っても過言ではないのがこれよ!」
先生はだいぶ生気を取り戻した目を私に向けて、ニッコニコのまま杖を振り上げて、
あ、
終わった————。
「『バルディング』!!」
***
「——それで、ローリエちゃんは声を盗られて、キャベツくんはロールキャベツにされちゃって、ウィローちゃんはツルピカ頭にされちゃったのね~」
「う、うん......一瞬で戻ったけど......」
『芸術創作・基礎』の授業で先生が来るのを待ってる間、私はミルルンに前の授業で起きたことを全部説明した。何もほんわかする要素なんてなかったはずなのに、話を聞いてる間ミルルンはずっと花を散らしていた。
「わたくしも同じクラスならよかったのに~。楽しそうだわ~」
「......ミルルンもいたらすごいカオスになってただろうなぁ......」
私は彼女と目を合わせたまま、さりげなく自分の髪をさわる。
触覚ヘア、健在。後頭部の毛も健在。アホ毛も健在。
ちゃんと全部生えてるし、抜け落ちる気配もなし。
あ~~びっくりしたぁ!! この歳で一生ハゲたまま暮らさなきゃいけないのかと思った!!
自分が何歳なのか未だにわかんないけど、絶対まだハゲるような歳じゃないもん......。
魔女の先生を怒らせると本当にやべーね......もう二度と調子乗らないようにしよう......。
「わたくしの「常用魔法①」の先生は、そんな面白い魔法見せてくれなかったわ~。うらやましい~」
「ま、まぁ先生、『いま見せた魔法は全部「常用魔法③」の範囲』って言ってたから、元々は見せるつもりなかったんじゃないかな?」
「んふふ~。わたくしもいつかローリエちゃんをぬいぐるみにして可愛がりたいな~」
ローリエ逃げて超逃げて!! ミルルンの『可愛がる』は絶対普通の『可愛がる』じゃないから!! さわられるのが苦手なローリエからしたら絶対たまったもんじゃないから!!!!
......それはそれとして、ぬいぐるみになったローリエって面白そうだな......。
「そういえば、ローリエちゃんとキャベツくんは今頃どうしてるのかしら~?」
ミルルンは片方の頬に手を当てながら首をかしげる。
「キャベツくんはわからないけど、ローリエちゃんの次の授業は1時からだったはずだもの。今頃ご飯食べてるのかな~?」
「さぁ? 私はすぐ次の授業があったからバイバイって言って......最後にチラッと見たときはあの二人また喧嘩してたよ? あのあと案外仲良く食堂で食べてたり——」
話してる途中で、ペガサスの先生が羽を揺らしながら優雅に講義室に入ってきたから、私はギュって口を閉じた。
ほ、ほら、私は優等生だからね。......ペガサスの先生も怒らせたらやばそう......あの立派な馬の足で蹴られそう......。
先生は薄桃色の羽を手みたいに使って、腰に乗っけてた教材を床に降ろす。
そして、めちゃくちゃ馬っぽい鳴き声を上げてクラスを黙らせて、その後は普通にイケボで喋りながら授業を始めた。
......『芸術創作・基礎』は、まぁ想像通りって感じだった。
このクラスは授業って言うよりは、各々好きな作品を作るのに使う時間って感じらしい。
絵を描いてもよし、詩を書いてもよし、曲を作ってもよし、彫刻を掘ってもよし——とにかく自分の作った作品を期限内に提出するのを繰り返せば、『簡単に単位が取れるはず』とのこと。芸術に触れることで、今後の自分の魔法スタイルに影響を与えたりするんだって~。
ミルルンはノートと鉛筆を先生からもらって、早速絵を描き始めてた。ちょっと横から覗いてみたんだけどね、びっくりしてつい口をポカーンって開けちゃった。
「う、うううううううまっ、ミルルン絵うまっ!? 経験者!?」
「んふふ~、そうみたい~。鉛筆が手に馴染むの~」
ミルルンはゆっくりと喋りながら、すごいスピードで鉛筆を動かしてた。綺麗な百合がどんどんページを埋め尽くしていく。そういえばミルルンって左利きだったんだ......。
こうしちゃいられないと思って、私もミルルンと同じノートと鉛筆をもらって、早速描き始めたんだけど......。
......。
......。
「あら~、ウィローちゃんの絵可愛いわ~。芋虫かしら~?」
「......ロールキャベツ......」
「そうなの? 水の中で溺死してる芋虫さんかと思ったよ~」
「ミルルンそれを可愛いって言ってたの????」
もうね、自分でも下手すぎてびっくりしちゃった。
え? どゆこと? ミルルンの画力と差ありすぎない?? 記憶を失う前の私は絵とか描いてこなかったのかな......? そもそもの才能の問題......??
「大丈夫だよ~。先生、絵の上手さを基準に成績はつけないって言ってたもん~」
「え......絵の具使ったらマシになったりしないかな? それっぽくなったりしないかな??」
「それなら、水彩絵の具を使うのはどうかしら~?」
「はいわかりましたミルルン先生!」
すいさい絵の具?ってやつをペガサスの先生からもらおうと、席から立ち上がろうとした。
だけど、机に手をついた次の瞬間。
「————っへ」
視界が、赤に染まったの。
次話:赤、赤、赤
です、いつも読んでくださっている皆様ありがとうございます




