七十九話:真実と挑戦は紙一重
ゾディさんは空のワインボトルを抱きしめながら、満面の笑みで床をゴロゴロしてた。
「ウィロ~~~。ウィローち~~~ん。あそぼ~~~! あそぼぉよぉ~~~~」
「うわーーーーっ!! ゾディさんが死んでるーーーーっ!!!!」
100%ウザ絡みされる気しかしなかったから、とりあえず何も見なかったことにしてUターンしようとした、けど、
「ねーねーねーねーどこ行くの~~~?? 僕ちんと遊ぼぉよぉ、かまってよぉぉおぉおお」
死神さんはワインボトルをその辺にポイっと捨てると、私の足にしがみついてくる。
「『真実か挑戦か』ゲームしよぉよおぉぉおお! たのしいよぉ~~~??」
「ぜっっっったいヤダむりヤダーーーーッ!! 嫌な予感しかしないもんっ!!!!」
「んぉ~~~?? その反応ぉ、『真実か挑戦か』のルールを知ってるにゃあ~~??」
『真実か挑戦か』ゲームとは、とってもシンプルなパーティーゲームである!
1:ジャンケンとかで勝敗を決める!
2:負けた側は、『真実』か『挑戦』どっちかを選ぶ!
3:『真実』を選んだ場合は、勝った側が考えた質問に答えなければならない!
4:『挑戦』を選んだ場合は、勝った側が考えた命令に応えなければならない!
つまりは泥沼。特大修羅場!
だいぶ前に、ローリエ&ミルルン&私の三人でやったことあるけど......うん......。
「やだ!! 絶対やだ!! ゾディさん絶対私にやばいことさせるつもりでしょ!!!!」
「らいじょうぶだよぉ、ふへへ......優しくするかりゃあ~~~」
「やだやだやだやだやだやだやだやだやだや——っっ」
すると、世界が反転した。
足のバランスを崩しちゃって、そのまま後ろに倒れる。
でも、頭をぶつけることはなくて。ぶつけないように、死神さんが後頭部に優しく手を添えてくれていて。
わからなかった。
死神さんに足を引っ張られたからなのか、私が勝手に転んじゃっただけだったのか。
とにかく、気づけば......ゾディさんは、私の上に覆いかぶさっていて。
私を押し倒していて。
影が落ちていてもくっきり見えるくらい、赤みを帯びた灰色の肌。
真っ黒な瞳は、今だけ、私の姿を鏡のように映し出していた。
沈黙の間、ワイングラスが遠くへ転がる音しか聞こえなくて......。
「っ............ぇ......しにがみ、さ............——」
「んぇ~~~~~~????」
ゾディさんの顔がふにゃ~~~ってなった瞬間、私は途端にスン......ってなった。
あ。はい。うん。ですよね。
そういう雰囲気ではないですよねこれ。
「命令~~~~~。ウィローちんに命令ぃ~~~~。僕ちんと、『真実か挑戦か』ゲームをしろぉぉぉおぉぉお」
「め、命令? もしかしてもうゲーム始まってる??」
「すっごく楽しいよぉおおぉおお? 僕ちんにどんな質問も聞けるチャンスだよぉぉお?」
「——!」
た、確かに!
ずっと気になってたこととか、聞きづらかったこととかなんでも聞けるじゃん!
ゾディさんのことをもっと知れる、良い機会で......!
......で、でもなぁ......私もなんか変な質問聞かれたり、変な命令されたりするのかもしれないってことでしょ......? なるほど、これがギャンブル......大人の嗜み......!(?)
「そ、そもそもゾディさん、そんな酔っぱらってる状態で——」
「らいじょうぶだってばぁ~~~っ! うへ、うへへへへへっっヒッック!」
「駄目そう......」
「そんじゃ~~~ん! さっそく~~~ん! いってみよ~~~~ん!」
ゾディさんは歌いながら立ち上がると、ふら~~~っとしながら、アトリエの真ん中にある丸テーブルのところに座った。
両腕で、テーブルの上に置いてあったもの全てを払い落として......うわぁ~、大惨事~~!
そんで何気に、ウィローさん押し倒し事件もなかったことにされてるし......ほんとになんだったんだろさっきの......?
「ウィローち~~ん! ちんち~~ん! はーーやーーくーーーー」
死神さんは前へ伸ばした手で机をバシバシ叩きながら、そのままゆっくりと突っ伏していく。
ぼや~~っとしてる目は、一応私を捉えてる。多分、向かいの席に座れって言いたいんだろうなぁ。
「ねぇゾディさん、今さりげなくアウトなワード言わなかった??」
「? ちんち——」
「繰り返さんでいい!! もーーーわかったからぁっ、付き合ってあげればいいんでしょお、付き合ってあげれば!」
「?? 僕ちんたち、付き合ってるのー?」
「ちゃうわ!! ゲームに付き合ってあげるって言ってるの!!」
私は心の中にローリエを宿らせながら、ゾディさんの向かい側にストンって座った。
ゾディさんは満足げに笑いながら、テーブルに置いた手をパタッと横に転がす。
天井に向けた手のひらを、そのままぎゅっと握る。
すると、ワイングラスやら新しいワインボトルやら、真っ黒なシャーペンやらが、テーブルの上にポンっと現れた。
「ふへ、ふへへ......魔法って便利らねぇ?? ねぇウィロー? ねぇねぇねぇねぇねぇ~~」
「あのゾディさん、もう十分酔ってるのにまだ飲むつもりなの?? 絶対やめといた方がいいよ????」
「それじゃあ、『真実か挑戦か』ゲームぅ、スタぁートぉー!」
な~~んも聞いてねぇゾディさんは、突っ伏していた頭を起こして、丸テーブルの真ん中にシャーペンを置く。
ペンの真ん中に人差し指と親指を添えて、そのままくるっと回して......やがてペン先は、ゾディさんの方を差したまま止まった。
「は~~い、僕ちんの番~~! ウィローは『真実』か『挑戦』どっちが良い~~??」
「あれ???? ジャンケンで勝敗決めないの? ペン回しで決めちゃうの??」
「ジャンケンじゃないと駄目ってルールはないでしょお~~~?」
「じゃ、じゃあ、もしシャーペンが私の方もゾディさんの方も差さなかったらどうするの?」
「そんときは~~~~、そんときぃ~~~~~!」
う、うぅ......早速ウィローさんが負けた側になるとは......。
そうだなぁ~~、どっちの方がマシかなぁ~~......?
ミルルンたちと遊んでたときは、大体『挑戦』って言って散々自爆してきたし......よ、よし、
「し、質問! じゃなくて『真実』!」
「おーきぃどーきぃ~~、レモンスクイージィ~~~! それじゃあ~~......」
ゾディさんは両手で頬杖をつきながら、私に微笑みかけてきた。
「ウィローちん、なんでいっつもクソダサいTシャツ着てるの~~?」
「いやあなたがクソダサTシャツしか用意してくれてないからですけど!?!?」
私は台パンしながら立ち上がる。きっと、『毎日がエビフライ』Tシャツも綺麗になびいたに違いない(?)
「クローゼットの中! 天使が着れるやつ! 三着しかないの!! 『毎日がエビフライ』か『それって死亡フラグじゃない?』か『君のTENSIONがFIVEしてSO GOOD......』しか選択肢がないのーーっ!!」
一応、ネルソービューの制服もあるんだけどね? ちゃんと洗濯してあるんだけどね??
あれはパジャマには適してないし......それにさ、このTシャツたちさぁ、ムカつくけど制服よりずっと着心地いいんだよねぇ......。
「うぇぇえ~~、マジでぇ~? そういえばあのクローゼット、翼用の穴空いてる服ほとんど入ってなかったっけぇ~~?」
「そうなの!! だからクソダサTシャツも着たくて着てるわけじゃないの!!」
「アッハハハハハハハハハハッ!!!!」
「笑うなーーーーっ!!」
「はい次~~~~!」
ゾディさんはまた小さくしゃっくりをしながら、右手で軽くペンを回した。どうやらウィローさんには回させてくれないらしい。
そんで、またゾディさんの番になっちゃったし......。
「ほいウィロー、『真実』or『挑戦』?」
「じゃあまた『真実』で......」
「ウィローはどんな本が好きぃ~~~?? 今度娯楽小説買ってこようと思っててさぁ、せっかくなら助手ちゃん好みのやつも買ってあげようと思ってぇ~~」
あっ、よかった、思ってたより普通の質問だ......。
「ふふん、本はねぇ、私結構読むんだよねー! 意外でしょー!」
「んぃ~~~? そこまで意外じゃにぇーけどな......」
「私はねぇ、最近は特にミステリーラノベが好き! もちろんファンタジーも好き! SFも好き、だけど......時々ちょっと難しすぎるんだよねぇ......」
すると、酔いで頭がぐらぐらするのか、ゾディさんはゆ~~~~っくりと首を傾けた。
「らのべ......? らのべってなに~?」
「知らない? ライトノベルのことだよ! 可愛い挿絵とかがあってね、読みやすいの!」
とはいえ、挿絵がないラノベもあると思うけど......。
「らのべ、かぁ......聞いたことはある気がするんだけどぉ~............」
「まぁ多分、最近の若い子しか知らな——」
「あーーーーっ!! 思い出したぁっ!!」
急に大声出されるものだから、私は危うく椅子ごと後ろに転倒するところだった。
「び、びびびびっびっくりしっっっ」
「あれでしょお!! 7000年前に特に有名だったやつでしょ~! 懐かしいなぁ、小さい頃学校で習ってさぁ、読まされてさぁ......どんなタイトルだったっけぇ~?」
「え.....な......7000年前????」
ラノベが......7000年前......?
い、いやいや。いやいやいやいやいや。
だって、だってラノベってさ、もうちょっと最近に生まれたジャンルなんじゃないの? せいぜい数十年の歴史とかなんじゃないの??
「確か、人外への憧れが一番強い時代とかなんちゃらでぇ~~、ファンタジー小説がめちゃくちゃ流行って......そうそう、僕ちんが読まされたやつもファンタジーだった!」
7000年前って、確か......人外が生まれる前の時代、でしょ......?
まだ人類しか存在してなかった、大昔の、時代、
......大昔............?
「ウィローさんに電流走るっ!!」
「?? ウィローどしたぁ~?」
今。
思えば。
私、ネルソービューに目覚めたばっかりの時、人外の存在に驚いた、じゃん。
人外が実在することに驚いてたじゃん。
でも、今は人外が生まれてから7000年以上後の世界なんだから、人外がいるのは当たり前のはずで。
それでもびっくりしたのは、記憶喪失になったからだって、ずっと思ってたけど。
「マジでどしたのウィローちん?? ミステリー小説の主人公みたいな顔しちゃって~」
......考えたことなかった。こんな可能性。
もし......もしも、だよ?
私が人外の存在にびっくりした理由も、
私が、ラノベはもっと最近のものだって思い込んでた理由も、
もしかしたら————!
「......実は......私は......7000年前に死んだ人間、だった......っ......!?」
「あっっっっっは、アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!」
ゾディさんは椅子から転げ落ちて、お腹を抱えながら笑った。
顔を真っ赤にして、時々掃除機みたいな声を出して、
「なっ、なに言い出すのかと思えば!!!! そんなわけねーーーじゃんアッハッ、っふはははああははああははははははあはあーーーーっははははは~~~~~ッッ!!」
「そんな笑う!?!? わ、私、結構名推理だって思ってっっ」
だって!! その可能性もなくはなくない!? よくよく考えたらありえるくない!?
ネルソービューが、7000年前に死んだ魂を集めてさ、こう......なんか......知らんけど......!
「うぃ、ウィローちん、こ、今年からネルソービューの二年生っしょ?? だったらっ、ふひひひっ、2~3年前に死んでるはず、だよっふふ、あっは......!! 酸欠ぅ~~~......っ!」
「そうなの?? そ、そういうものなの??」
「そういうもんだよ!! あ~~~~っははっ、ア~~~~~」
......どうやらウィローさんは、まったく意味のない推理をしてしまったそうです。
なので!! 今の全部忘れてください!! なかったことにしてください!!!!
うぅぅううぅぅうっ、恥ずかしいよぉ......! 珍しくめちゃくちゃ頭冴えてるって思ったのにぃ、当たり前のように的外れだったよぉ......!
「おもしろっ、あぁあぁああオモシロッ! 笑いすぎてちょっと酔い覚めちゃったよぉ~~」
「もう次! 早く次いこ! 早くシャーペン回してっ!」
「あっははっ......まぁでも、ウィローちんの推理は——」
「早くっ!!!!」
「へいへい~、くっふふふふっ クルクルクルゥ~~~っ!」
シャーペンは、真ん中に留まらずに回って、ゾディさんのワイングラスにぶつかる。
グラスが倒れたりすることはなく、ペンはそのまま止まって......あっ!
「や、やった! やっと私の番だっ! ゾディさん、『真実』か『挑戦』かどっち!?」
「『挑戦』~~~!」
くっ......! こやつ、私が色々と根掘り葉掘り聞こうとしてることを知って......!
で、でも想定内だもん! ゾディさんは『真実』選んでくれなさそうだなって思ってたもん!
だから......!
「挑戦ね! なら『下界とは一体なんなのか』、『ネルソービューには具体的にいつ帰れるのか』、『眠りココアの本当の効果はなんなのか』をそれぞれ300字以内で述べよ!」
「それは流石にズルじゃない?」
泥酔ゾディさんにも、まだツッコミができるほどの理性は残ってるみたいだった。
「それもう僕ちんが『真実』選んだみたいになってるじゃん、しかもさりげなく三つも質問聞いてるじゃん!」
「うるせぇうるせぇ!! さっき私に恥をかかせた罰だもんっ! ふんっ!!」
「んぇ~~~?? 僕ちん何もしてないのにぃ~~~~!」
死神さんは頬を膨らませながら、ワインのコルク栓を引っ張った。
意外と非力なのか、ただ指の包帯が邪魔で開けづらいのか、中々ボトルが開かない。
......っていうかそもそも、コルクって素手で開けられるものじゃなくない??
「え~~っと、まずはなんだったっけ......下界がなんなのか、だっけ? 下界はあれだよぉ、地獄でも天国でもない場所だよぉ~。生前のウィローちんが多分いた場所!」
「あっ、一応答えてくれるんだ......」
「ほとんどの人外や人間は、み~~んな下界にいるんだよ~~? ポエナ出身の人外も、地球全体で見ると結構珍しいんだよね~。つまり僕ちんはSPECIAL」
『下界』は、生前の私がいたであろう場所......。
これは......驚きというよりは、『やっぱりか~』って感じかな。『ポエナ』が地獄で『ネルソービュー』が天国なら、『下界』は現実世界って感じのイメージだったし。
いや、ポエナもネルソービューも現実世界ではあるんだけど......。
「次はあれだっけ、いつネルソービューに帰れるのか、だっけ? 前も言ったじゃ~~んっ、準備には時間がかかるってぇ~! 準備が終わり次第言ってあげるってぇ~~!」
「う......わ、わかってるけどぉ......」
でも、もう何気にポエナに来ちゃってから、一週間以上経っちゃってるし。
きっとみんなすごく心配して......。
「別に急かしたいわけじゃないんだよ?? ただ、も、もうちょっとその、具体的にどれくらいかかりそうなのかを言ってくれたら、もっと安心......できるから......」
「そんなこと言われてもぉ、わかんねぇもんはわかんねぇんだってぇ~~!」
ゾディさんは大人しく魔法でコルクを抜いた後、ワインをグラスに注——
——ぐことはなく、そのまま直に口に注いだ。しかもゴクゴクゴクって、何口も。
すると、顔だけじゃなくて、死神さんの首やら耳やらもどんどん赤くなっていく。
まるで、赤ワインの色をそのまま吸収しちゃってるみたいで。
良い子のみんなは、こんな飲み方しちゃだめだよ! 絶対にね!
「っっっぷはーーーーーっ! ふぇぇえ........んぇぇぇええ......」
「ちょ、ちょっと、ほんとに飲みすぎじゃない?? 死ぬよ????」
「んふふふへ......僕ちんはぁ、真っ黒のパンティーを履いてるよぉ~~?」
あ。終わった。
「そ、そっか! よかったね!(?)」
「ぅぁ......んじゃ......次行こっかぁ~......」
え? もう終わり? 『ネルソービューには具体的にいつ帰れるのか』には、『わかんない』で終わりなの?
しかもまだ『眠りココアの本当の効果はなんなのか』に答えてもらってなくない?? ゾディさん????
「ペンをくるくる~~......クルクルルンルン、Rooibos tea」
ゾディさんはワインボトルに頬ずりしながら、テーブルに顎を乗せた。
顔は真っ赤っ赤で、瞳はもはや光を失っちゃってて。唇から、よだれやらワインやらが少しだけ垂れてる。
こ......これはもう駄目なやつっぽい......何言っても話通じなくなってそう......。
「......ふひっ......また、僕ちんの番だねぇ~......」
「?? まだペン回してないよ??」
「『真実』か『挑戦』か~......そっかぁ~、ウィローちんは『挑戦』を選ぶのかぁ~」
「まだ何も言ってないよ????」
「それ、なら......なら............ならららららら............」
ゾディさんはゆっくりと体を起こすと、寝起きのヒトみたいにマントの留め具を外す。
そのままケープを脱ぎ捨てて、肩を揺らしながら笑っ......違うな、これしゃっくりだぁ......。
半袖なのに、手首まで続いてるらしい透明の袖(?)か何かをまくった後、
テーブルに、包帯だらけの腕を一本置く。
そして、死神さんは前のめりになって、焦点の定まらない瞳で私を捉えて、
首をかしげながら、満足げに笑った。
「僕ちんの、腕の包帯。ほどいてよ」
次話:包帯の裏、地獄の裏
です。何があるのでしょう




