七十二話:ウィローさんがサッカーボールにされるまで、あと一話
............それで。
サキュバスの先輩を、転生観覧車のところに連れて行った瞬間、
麻酔銃みたいなのを撃たれて......
起きたら、人間サイズの鳥かごの中、と。
しかもただの鳥かごじゃなくて、木箱の中の鳥かごで。
つまり、木箱の中にも閉じ込められてるってことで......。
「ぎゃーーーーーっ!! ぎゃーーーーーーーーっ!!!! やっ、やばいやばいやばいやばいもぉぉおおおおぉぉおおお私のばかぁぁぁぁあぁあぁ!!!!」
怪しいってわかってたのに!! 怪しんでたのに!!
急に背後から麻酔打ってくるのはずるいって!! 避けようないってぇ!!!!
「だ、だだ、出せーーーーっ!! ここから出せぇーーーーーーっ!!!!」
私は早速鳥かごの格子に掴みかかって、何回も何回も揺らす。
だけど、木箱の外から聞こえる車輪の音と、鉄が暴れる音が共演するだけで終わる。
そ、それになんかこの鉄格子、感触に違和感が......?
鉄格子だけじゃなくて、どんぐりも一緒に握りしめてるような——
「......え......LEDライトが巻き付いて......??」
薄い暗闇の中、目を凝らしてみると......うん。やっぱり、LEDライトだ。
灰色っぽいワイヤーに、ちっちゃい電球がいっぱい付いてるもん。
なんていうんだっけあれ......イルミネーションライト......? ほら、クリスマスツリーとかに巻き付けるやつ!
あれの、電源が点いてないバージョンが、鳥かごの至る所に巻き付けられてる。
しかも、私が閉じ込められてる鳥かごだけじゃなくて......木箱の中に並ぶ、他の空っぽな鳥かごも全部そんな感じ。
鳥かごが飾り付けされてる理由はわからない。
閉じ込められた子に少しでもクリスマス気分を......とかではないよね、流石に。
っていうか、そもそもクリスマス終わってるし! もう一月だし!
あ~~もうなんか腹立ってきた!! なんで毎回毎回こんな目に遭わなくちゃいけないの!?
ウィローさんが騙されたせいですねっ! はいそうです!! こんちくしょーめが!!!!
「すぅぅぅううぅぅう......ふぅぅぅううぅぅううう............」
い......一旦冷静になろう、ウィローさん。
きっとここから出る方法はあるはず。
辺りをちゃんと見渡せば、なんかこう、奇跡的に鍵が落ちてたりするはず!
私はウィロー・ガーディナー! 数々の修羅場を駆け抜けてきた女っ!
大天使科の二年生っ!
今回もなんとかなるはず!
絶対!!
......なんとか......しないと......。
今度こそ......。
「あははっ......頭脳派ウィローさんの次は、名探偵ウィローさんかぁ......ふむふむ............」
私はとりあえず、檻にぶつけないように、腕と翼をのび~~~ってする。
微妙に残ってた眠気も、重い思いも、オールグッバイ!
脳内虫眼鏡を手にして、いざ! 捜査開始っと!
「え~~っと......まず、携帯は......」
制服のポケットの中から、くしゃくしゃの保管ハットを取り出してみる。
帽子の中に手を突っ込んで、指をもぞもぞ動かして......あ、あった! 携帯!
あった、けど......繋がらない、と......。
ま、まぁ、ここまでは想定内だよ。想定内......。
杖は、ある。魔導書もある。IDカードもある。
財布は......うわっ、ない! ないじゃん!!
あのサキュバスのヤロォ、さりげなくお金盗みやがってぇ......前のバイトの給料がぁ......。
と、とにかく!
魔法は使えそうってことは、解錠魔法で檻から......、
「ひ......『開けゴマ』!」
魔導書を開いて、杖を鍵穴の裏側に向けて、去年習った解錠魔法を小声で唱えてみる。
やっぱり、魔導書を発明した魔女さんたちに拍手を送りたいよ。
これのおかげで、自分で考えた呪文で魔法使えるし!
ラテン語バージョンを覚える必要はないし!
......まぁ。魔法は失敗したんですけどね。
鍵、開かなかったんだけどね。
「なんで?? なんで!? 杖はちゃんと光ったのに!」
入口をガシャガシャってやっても、ビクともしないじゃん!
ま......魔力が足りない、だとぉ......!?
私、魔力自体は低いわけじゃないはずなのに......制御が下手ってだけで......。
「うぅぅううぅ......やっぱり、そう簡単には出られないかぁ......」
......自分が動かなくなるだけで、押し寄せるように静寂がやってくる。
木箱の中には、私以外誰も閉じ込められてないみたい。
そういえば、さっきまで鳴ってたガタンゴトンって音......なくなってる......?
動かなくなった? 目的地に着いた、とか?
私......一体どこに連れて行かれちゃったんだろ......?
気を失う直前、あのサキュバスの子がなんか言ってたような気がするんだけど......。
「誘拐......檻......ま、まさかっ、人身売買!? このまま奴隷として売られちゃうとか!?」
そ、それとも、ぞ、臓器とか、売られっ......で、でも私、もうすでに死んでるはずだし、ただの魂のはずだし......
その辺は、どうなるのかわかんないけど......痛い目に遭う、のは......私............。
「っ......想定内......ふぅぅぅう............これも想定内............」
まだ諦めるのは早いよ! 絶対出る方法があるはずだもん!
つ、次......次の策は......。
やっぱり、空気魔法かなぁ?
空気魔法でドッカーーンってやったら、檻も木箱も全部吹っ飛んで、バラバラになって......
でもそれだと、自分の身も危なすぎるような気が......。
「......お? あれは......」
私が入った鳥かごの、横にある鳥かご......てっきり空っぽだと思ってたけど、よく見るとなんか入ってる。
格子の隙間から覗いてみると......赤い丸が二つ......リンゴ、かな?
鳥かごの中にリンゴがあるのは謎すぎるけど......でも......。
このリンゴに向かって、例の『植物の成長を早める魔法』を唱えれば......こう......。
リンゴの木が成って、内側から鳥かごも木箱もぶっ壊してくれるんじゃない?
他の鳥かごも一緒にぶっ壊してくれて、ウィローさん脱出成功の巻じゃない!?
う~ん......ゴリ押し感半端ないけど......去年はこの魔法で命救われたしなぁ......。
『地獄ダンジョン』にいた『化け物』をなんとかできたもんなぁ。
それに、空気魔法ぶっ放すよりは安全かも! わかんないけど!
「よ......よぉし......!」
私はn回目の深呼吸をして、細剣を構えるように杖を持って、
二つのリンゴに集中を注いで————
「『咲き誇r」
————呪文を、最後まで唱えることすらできなかった。
いやあのね、魔法は成功したの。
成功したからなの。
だからさ、呪文を言い終わる前に、リンゴは二つともパンッパンに膨れ上がっちゃって。
すごいサイズの芽が生えてきて、気づけば視界が緑でいっぱいになって、
「に゛ゃーーーーーーーーーーっ!?!?」
体が浮く感覚がした瞬間、私は鳥かごの格子にしがみついて、
ぎゅって目を閉じた。
しばらくずっと、胃がぐるぐる回ってるような気がして。
剣と剣がぶつかる音よりも、ずっと耳に優しくない音が連続で鳴って、
「うわぁぁぁぁぁぁあぁああなんダ!?」
————知らない声も、聞こえた。
......手をぎゅってして、目もぎゅってして、膝も翼もぎゅってして、
体を丸めること、三十秒......くらい?
やっと静かになって、揺れが収まったから、
私は片方の目だけを開けてみた。
自分は、鉄格子を掴んだままで......鳥かごは......歪んでるけど、壊れてはない。
横に倒れちゃってて、起き上がろうとしても起き上がれない。
透明なイルミネーションライトは、変わらず巻き付いたまま。
乾くことのない雨みたいな匂い。
時々、石鹸みたいな匂いもする。
外......? うん。木箱の外だ。木箱の外に出られたんだ。
私はやっと、両目を開けた。
「ぅ......で......出ら、れ............?」
肝心な鳥かごの外には出られてないけど、少なくともあの木箱はぶっ壊せたっぽい。
横長の木箱——というより、荷車——があったであろう場所には、融合しちゃった二本のリンゴの木が成っている。
船の舵に似てなくもない車輪が、四つ程その辺に転がってる。
空っぽの鳥かごたちも、その辺に一緒に落ちてる。
荷車の外側の世界は、一応外......なんだけど、室外でもなくて......室内、でもなさそうで......
洞窟の中、だよね。ここ。
湿った石色の地面の上に、薄いオレンジ色のカーペットが敷いてある。
ベッドが置いてあったり、物だらけの棚が壁沿いに並んでたり。
ランプに、メイク道具に、万年筆に......手鏡まである。
出入り口は、お酒の樽みたいな扉でちゃんと塞がれてる。
天井から垂れ下がっているチェーンには、色んな食べ物が詰まった鳥かごが引っかけられてる。私が今閉じ込められてる鳥かごと、おんなじやつ。
「こ、ここ......どこ......?? ちょっと待って、私——」
ちゃんと辺りを見渡そうと、寝返りを打ったその時でした。
目が、合ってしまったのです。
「......」
「......」
......ゆ......ユニコーン。
ユニコーンだ。どう見ても。
白い毛並みに、パステルピンクのタテガミ。
金色の角。
彼女......彼......?の頭上には、どこにも繋がってないシャワーヘッドが魔法で浮かんでいる。
どこにも繋がってないから、当然水は一滴も出てきてない。
背中やタテガミ、ひづめには、淡い水色の泡々がついている。
シャボン玉も浮いてたりするし、石鹸っぽい匂いもするから、多分普通にボディーソープ。
ユニコーンは口をあんぐりと開けて、鼻の穴を広げたまま、
そのつぶらな瞳を私に向けてきた。
......あの~......。
「ほ......ほんとに誰————」
「いや゛ぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあ゛ア゛!!!!!!」
ユニコーンは野太い悲鳴を上げながら、片方の前足で胸元......?を隠そうとする。
顔中を真っ赤にして、結局その場でスッ転んじゃって、ゴキブリみたいな暴れ方をして、
「えっち゛ぃぃいいいいぃいいいぃいいいぃいいぃイッ!!」
「なんでぇ!?!?」
***
両者、状況を把握する&落ち着くのに時間がかかっちゃって。
しばらくずっとギャーギャー騒いじゃって。
ようやく呼吸する暇ができると、私は鉄格子の外に腕だけを出して、
ユニコーンさんをビシィッッッって指差した。
「誰!? 何奴!? 君が私をここに連れて来たの!?」
......横に倒れた鳥かごの中に寝そべってるせいで、多分いまいちカッコついてない。
ユニコーンさんが口元にひづめを当てて、プークスクスって笑ってきたのも、そのせいなのかもしれない。
「ひ~~っひひひ......もうオレサマのことを忘れちまうなんて、いくらなんでも薄情なんじゃあねぇノ?」
「『もう』......? え、私たちって初対面のはずじゃ......??」
「お手本みてぇな反応だナ......んじゃっ、これを見てもお前は同じことが言えるのカ?」
ユニコーンさんは(どうやったのかわかんないけど)指を鳴らす。
すると、彼 or 彼女の、か、体が溶けて......虹色に光った、と思ったら、
なんかぐにょぐにょぐにょ~~ってなって、き、気持ちわ——
「————あっ、あーーーーーーっ!! 君は!!!!」
「ふふっ......私は天才だから、こんなこともお茶の子さいさいなのよ」
パステルグリーンが混ざった、灰色の長髪。
黒い角。羽。尻尾、
サキュバス、の、っ
じゃ、じゃあやっぱり、私をここに連れて来たのは先輩でっ
い、今......変身、して......っ......!?
「もちろんこれは、本当の姿ではないわ。オレサマには、たくさんの仮初めの姿があるノ」
『サキュバスの先輩』は、黄緑色のネクタイを掴みながら、赤い舌をペロッと出した。
すると、また体が虹色のスライムみたいになっちゃって、小さくなって、
こ......今度は、キューピッド......!?
「オレサマの名は、ジャックポット! ネルソービューの魂ちゃんは知らねぇだろうナァ」
キューピッドの次は、またユニコーン。
ユニコーンの次は、ドワーフ。
ドワーフの次は、エルフ。
ネルソービューの制服を着てるときもあれば、何故かメイド服を着てるときもある。
「オレサマはなぁ、ポエナでは有名な盗賊様サ! ポエナの連中に一度も捕まらず、ネルソービューにだって簡単に侵入できる、まさに正真正銘の天才ダ!」
「ね......『ネルソービューに侵入』......!? そもそもネルソービューの生徒ですらなかったってこと!?」
「ひ~ひひひっ、見事に騙されてやがんノ! さっきは転生観覧車まで連れて行ってくれてありがとナッ!」
ジャック......なんちゃらは、変身する度に、声もちゃんと変えてるっぽい。
基本的に、それぞれ別方向で性格の悪そうな女性の声だけど、時々男性っぽい声だったりするときもある。
彼女は何回も変身を繰り返した後、最終的に、ラベンダー色の髪の姿で止まった。
......人間の、姿......?
「さぁ、恐れヨ! オレサマこそが、かの有名なジャックポット様であり——」
ジャックさんは肩まで伸びてる髪をバサァッてやって、舌なめずりをして、
また牛乳みたいな匂いを漂わせて、
「最強最悪の人外と呼ばれる、『グール』の生き残りであルッ!」
笑いながら、その小さな八重歯を見せつけてきた。
......ま......待って。
グール......? なんかそれ、すっごい聞いたことがあるような......——っ
「ひ~~っひひひ......! ネルソービューの魂は、闇市じゃあ高く売れるもんでナァ」
グールさんは私が閉じ込められた鳥かごへ近づくと、勢いよく上に足を乗せてくる。
格子に絡みついたイルミネーションライトが、いくつか割れてしまう。
中がものすごく揺れて、実際に蹴られたわけじゃないのに、私は一瞬目を瞑っちゃう。
「や、やみい......う、売られ......っ......!?」
影が落ちる。
鉄格子が冷たい。
鳥かごの中が、急に狭くなったような......っ
「っ......わ、私、ジャックなんちゃらさんの思い通りになんか——」
「久しぶりに、いい獲物が獲れたんダァ......」
下からだと、彼女の足がよく見える。
デニムの短パンの下に広がるのは、茶色の......火傷跡、みたいな。
その他にも、古い切り傷みたいなのがたくさんある。
でも。
そんなことは、どうでもよくなるくらい。
私を見下ろす彼女の瞳は、
冷たく、真っ赤に光っていた。
「今回は、絶対に逃がしはしな——」
「へーーーーいJackpot~~~!」
洞窟にはめ込まれた扉が、勢いよく開いた。
ジャックさんが目を丸くしながら振り向いても、客人は止まることはなく、
「お前のう〇こちょ~~~~だいっ!」
ある意味最悪で、
ある意味最高のタイミングで、
「ん? ジャックポットぉ~、お前いつの間にリンゴの木なんか育て——」
両手でお椀を作りながら、登場したのは。
「————あっれぇ~? ウィローじゃん! なんでポエナにいんの~~?」
死神さん、および。
ゾディさんだった。
次話:う○こ
です。シリアスな話でもあるかもです




