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七話:次の授業で首を絞められました

『魔法道具』の授業で一番最初にもらったのは、まさかのスマホだった。


もうすでに透明のケースが付けられていて、でもそれ以外は手が加えられてないのがわかるくらいピカピカしてる。ってことは新品。


黒の液晶画面。音量ボタン。充電するところ。縦に並んでる三つのタピオカサイズのカメラ。魔法っぽい要素は一切見つからない、普通の紺色のスマホ。


クラスのみんな全員に一台ずつ配られて、充電器までセットで渡されて。


急に現代的?というか、現実的な物をもらってみんなびっくりしてたけど、魔法の杖をもらったときくらいみんな盛り上がってた。



「え~、こちらは説明しなくてもわかりますよね......スマホです......」



講義室に入ったときからやる気のなさそうだったエルフの先生は、クラスに向かってぼそぼそと語りかけてくる。



「アプリは......全部説明してたら日が暮れてしまうので......各々で調べてください......あなたたちの方がスマホには詳しいはずなので......」



先生の方をちゃんと見てる生徒は少ない。

みんな携帯の画面を見てたり、隣の子と話してたり。


え、私? わ、私はちゃんと話聞いてるよ? ほんとだよ?? 先生の方見てないってだけでちゃんと話は聞いて——



「ねぇウィローちゃ~ん、連絡先交換しましょ~」



ミルルンは真っ白な携帯を両手で持って、携帯の上部分を顎に当てながら私に近づいてきた。



「イミスタ交換しましょ~。LIFEも交換しましょ~。ネルコードも交換しましょ~。全部交換しましょ~」

「いいよ——って、アカウント作るの早くない!? 私まだ一個も作り終わってないのに!」

「んふふ~。手先は器用なの~」

「手先の問題?」



ミルルンは私の前に携帯を添えながら、至近距離で微笑んでくる。な、なんだろう、いつも通りの純粋な笑顔なはずなのに、心なしか不敵な笑みにも見えるような......?




「皆さん......連絡先?を交換するのは後にしてください......」



先生は私たちに向かって言ってるのか、それとも私たちも含めた不特定多数に向かって言ってるのかわからなかった。



「携帯についてですが......一台は無料で支給したものの......二台目以降はお金がかかるので......そこのところ頭に入れておくように......」



とりあえず私はミルルンの携帯画面の写真を撮って、フレリクを送る用のQRコードをカメラロールに入れてから、携帯の電源を切った。これ以上怒られたくないし、あれだよ、ウィローさんは良い生徒だからね。優等生だから!......。......。


一応記憶喪失なはずなのに、スマホの使い方とかイミスタの仕組みとかはちゃんと脳に入ってるみたい。

初めての経験だって気が全然しない。やっぱりほんとに全ての記憶をなくしたってわけじゃないのかな? もし全部忘れてたら、日本語も忘れちゃってるだろうしね。



「え~......それでは次の道具の説明に入りますが......皆さん、机から手を離してください......」



手を離せって言われたから、私は『警察だ! 手を上げろ!』って言われた人みたいなポーズを取る。そしたら、左隣に座ってるローリエに顔しかめられちゃった。


エルフの先生はだるそうな顔のままローブのポケットから、あ、つ、杖!を取り出して、何かを呟きながら杖をくるって回す。


すると、私たち一人一人の頭上に何かが現れて、そのまま机の上にぺしょって落っこちた。



ぼ......帽子? 三角帽子??

ってあれ、これってオリエ......なんちゃらで、リア先生が持ってたやつじゃない? 確か、この中から魔法のデカ氷を大量に取り出して......。



「ドワーフの帽子です......通称『保管ハット』と呼ばれるもので......」


先生は杖をしまうと、息をつきながら教壇にもたれかかる。魔法で疲れたのか、それともただ彼が人生に疲れてるだけなのかわからない。


「見た目は少し小さいですが、人間の一人や二人は保管できる優れものです......大量の物を簡単に持ち運びすることができます......」



『保管ハット』! 五文字以上だけど名前覚えやすい! 用途もわかりやすい!!


人間サイズのものも入れられるなんてすごいなぁ......ってことは、ここに大量のお菓子を詰め込んで登校してもいいってこと? 食堂でもらった料理の残りもここに入れちゃって良いってこと?? 問題は、どうやって先生の目を盗んで食べるかだなぁ......。



「皆さんに配った保管ハットの中には......『魔法道具・基礎』で生徒に支給しなければならない物が全て入っていて......」


先生は自分の保管ハットの魔法で召喚する。


「まずは、ネルソービュー学園で使われる通貨の説明でも......あぁ......その前にこの帽子の使い方を説明しなければ......」



先生が『説明』してくれてる間に、私はもうすでに保管ハットの中に手を突っ込んで、勝手に色々取り出しちゃってた。


杖とかないかなーって思ってたら、出た!! 杖!! 一発で!!


やっぱりあったよ杖、これが私の杖なんだ! すごーーい! 木の枝にしか見えない!! あとこれは、本?魔導書?いやノートかな? 開けてみても何も書いてないし......。



他にあるのはえ~~~っと、これは体温計......?

数字が表示されるタイプじゃなくて、赤いのが下がったり上がったりするタイプだ。体温計にしては数字がおかしいというか、0が一番下で150が一番上だから多分違うよね?


もしかして、これが『ストレスメーター』ってやつだったり?



「皆さん......『財布が欲しい』と念じながら、帽子の中に手を入れてみてください......まぁ、何も考えずに手触りで見つけることも可能ですけどね......」



先生がそう言うと、講義室内はやっとちょっとだけ静かになって、みんな帽子の中に手を入れる。あ、あれ? もしかして勝手に帽子さわりだしてたのって私だけ?? みんなちゃんと大人しく待ってたの?? あああああれっ、杖そとに出してるの私だけだやっっっっば、きゅ、急に恥ずかしくなってきっっっ



財布ね? 財布を取り出せばいいんだよね??


私は優等生、優等生......不良じゃない......変な子じゃない......小学生じゃない......。



「財布の中には、『ペタル』と呼ばれる通貨が一定数入っています......この花びらみたいな形のものがそうです......」



え~~っと、財布財布......見た目とか想像した方がすぐ見つけられるかな? 多分コンパクトでしょ? 色は......無難に黒とかかな? それとも私の携帯と同じ紺色?



「毎週金曜日に100ペタル生徒に送られることが決まっていて......金曜の朝に財布の中を見てみれば、勝手にお金が増えているはずです......」



あ......あれぇ......?

おかしいな。杖は簡単に取り出せたのに、全然財布っぽいものが見つからないぞ......??



「食堂の外でご飯を買いたいときや......携帯を壊してしまったときとか......毎週金曜日の夜に開かれるマーケットで買い物するときとかに使ってください......あぁ、でも、マーケットの開催が始まるのはまだだいぶ先ですので......気長にお待ちください......」



ミルルンもローリエも、私以外のみんなはもう財布を外に出してるのに......私だけいくら帽子の中をガサゴソしても見つけられない。そもそもさっきから何も指先に当たってこないし。


これもしかして、私のだけ財布入ってないパターンなんじゃ? これだけ探しても見つけられないって絶対おかしいよね? 私が探すの下手すぎるとかじゃないよね......??


先生の視線がこっちに向くタイミングを見計らいながら、私はそっと手を上げようとした。


ローリエは首をかしげながら私を見ていて。先生は全然こっちを見てくれなくて。



「あ、あのぉ、せんせ——」



待っててもキリがなさそうだったから、もう普通に手を上げながら口を開いて、


周りのガヤガヤを貫けるか貫けないかくらいの声



を、



出した、そのときだった。



帽子の中に入れっぱなしだった方の手に、何かが触れてきた。



まるで何かに掴まれたみたいで、でも生きてるとは思えないくらい冷たくて、




「————っえ」




帽子の中のソレは強く手を握ってきて、


と思ったら自分の体が浮く感覚がして。




「ウィロー!? な————おこっ————————」




最後にローリエの焦った声が聞こえたけど、すぐに途切れちゃって、猛スピードでこだまするように消えちゃって。



冷たい風が吹き荒れて、目も開けられなくなって。悲鳴を上げることすらもできなくて。


とにかく手が痛くて。真っ暗になって。



私はそのまま、保管ハットの中に引きずり込まれたの。




***


「うわぁぁあああぁぁぁあああああああ無理無理無理無理死ぬ死ぬ死ぬ死——......ん......?」



何も聞こえない。落ちてる感覚も引きずられる痛みもない。



私はおそるおそる、ギュって閉じちゃってた目を開ける。


そしたら自分は地面に立ってないことに気づいてまた声を上げそうになった。



まるで真っ黒な水の中にいるみたいで、でも息はできて、自分の姿もはっきり見えて......う、浮いてる。生きてる。生きて......る? 実は死後の世界とかじゃないよね??



辺りを見渡すと、黒、黒、黒。



そして......知らない人の、後ろ姿。


どうしてすぐに認識できなかったんだろうってくらい近くにいる。


真っ黒なのに、どういうわけか暗闇に馴染んでない髪の毛。ミルルンの髪よりもずっと長くて、ボサボサで......。



「こ、こんにち......は......?」



話しかけてみても、お姉さんは一切反応を示してくれない。背中を向けたままずっと俯いて、肩を落として。辛うじて見える肌は蒼白で、血が通っているようには見えなくて......。


こ、この人、もしかしなくとも幽霊......?


幽霊も一応人外だもんね、そうだよ、ね? これまでたくさんの人外を見かけてきたけど、幽霊に会うのは初めてだな。



試しに足を漕ぐように動かしてみると、ちゃんと彼女の姿が近づいてくる。目の前で止まってみても、幽霊?さんは振り返るどころか、指先一つすら動かしてくれなかった。



「あのぉ、ごめんくださ~い?......、」



私は口の横に手を添えながら、さっきよりも大きな声で話しかけてみる。



「き、聞こえてる......?」



お姉さんが喋ってくれないから、どうしたらいいのかわかんなくなってつい上を見上げる。


帽子の入り口がどこなのかわからない。こ、これ、ちゃんと外に帰れるよね?? 一生ここに閉じ込められるとか嫌だよ私??




「————ぁ」


「ひぃっっっ!?」

「ぁ————こ——......」



お姉さんはやっと振り返ってくれて、色のない唇を開いてくれて......その茶色の目は私を捉えていて、でもあまり焦点が合ってなくて。


乾燥した毛。ところどころが破れてる白のワンピース。霜が降ってるように見える肌。


や、やっぱり......100パーセント幽霊だよねぇ......??



「こ——ぁ——————こぁ————......ぁ......」

「お......お姉さんが私をここに引きずり込んだんだよね?」

「ぁ————......わた......し......」



よ、よし、話はギリ通じてるっぽい。急に襲いかかってきたりしたらどうしようかと思ったけどとりあえず大丈夫そう、かな......? 見た目怖すぎるけど悪い幽霊ではなさそう......。



こういうときこそ冷静でいるべきだよね。

れ、冷静に、そうそう私はできる女できる子できる主人公——。



「なんで私をここに連れて来たの? あっ、えっと責めてるわけじゃなくてっっ、私に用があったなら————あ!! あーーーっ!!!!」



冷静でいるって決めた数秒後、私は早速大声を出しちゃった。



「そ、それ!! 財布だよね? 財布だよね!? 探してたやつ!!」



私はお姉さんが片手に握りしめてた黒い財布を指差す。ちょっと破れてるけどどう見ても財布だっっ、



「な......なるほど、お姉さんが持ってたから見つからなかったんだ......」

「こ....ぁ......」

「え、えっとぉ......それ一応私のだからさ、返してくれたら嬉しいなぁ~、なんて......」

「......」



お姉さんは一歩、一歩私に近づいてくる。私と違って足がちゃんと地に着いてて、幽霊なのに浮いてなくて——



「————!?」



彼女は空いてる方の手で再び私の手を掴んできた。



......間違いない。私をここに引きずり込んできた手と同じ感触。


つ、冷たい......だけじゃなくて、さ、寒い......?指先を掴まれてるだけなのに肌全体が凍えて、重いのがひどく、な、って、



「こ——ぁさな——きゃ————......」

「......へ?」

「こわ......さなきゃ......」



財布が深い暗闇の中に落ちていく。私たちが立つ場所よりも深く、下へ、下へ、下へ。


両肩を強く掴まれて、目が離せなくなって、


ね、ね、ねぇ! ちょっと!! 怖すぎない!? 過激すぎない!?!? 幽霊さんってみんなこんな感じなの!?


ていうか幽霊のくせになんで物理型なのっそこは透けようよ通り抜けようよいてててててていたたたたたたたたたたたた



「いっっっった、いっ、ねぇほんとに痛——」

「壊さなきゃ」




お姉さんの目が真っ黒になった。



白目部分がなくなって、まるで大きな穴のようで、丸く、丸く、丸く、丸く、




————あれ?



これ......もしかして、ほんとにまずいやつ?





いや、いやいやいやいや。大丈夫だって。人外が普通にいる学校だよ? 人外に『成る』学校だよ? 


今まで人間の私を襲ってくる人外なんていなかったじゃん、吸血鬼も悪魔もドラゴンだってっ


この幽霊さんだってちょっとふざけてるだけで、ほんとに私を襲うつもりなんて、



「壊さなきゃこぁ——さ——なきゃっ壊さなキャ壊サナきゃ」

「は......なしてっ、あ、あはっ、ちょ、」



もしほんとにやばかったとしても、

きっと、



「お姉さんい、一旦落ち着こう、か」



絶対、

誰かが助けに来てくれるはず、



「ね......っ.....ぇ」



だから——



「————————やっ」

「コワさナキゃ」







お姉さんの体中に黒い穴が空いた。








「あ゛っっっが————ぅ————~~~」



お姉さんの手は冷たくて痛くて苦しくてなのにどんどん熱くなって、


頭が脳が破裂しそうで足を動かしても蹴ろうとしても届かなくてあ、熱、い



「壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャ壊サナキャぁっぁああぁぁああああ許さない許さない返して返シテよ」



お姉さんの肌にぽつぽつと黒い穴が空き続けて、もうどれが目なのか口なのかわからなくて、



「~~~~————~~っ——————っ」



首に纏わりついた手が剥がせない、剥がせない剥がせない剥がせない剥がせない痛い


怖い


苦しい


息が





「アァァァァアアアアアァァァアアアアアア許シテ許サナイデ許さナイ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ壊さなきゃ」




大丈夫


誰か


助けてくれる



はず



だから


いし き










もう









「許さナイ!! 人外を!!!! 絶対に!!!!!!!!」














「————ウィロー!!!!」





次話:ルームメイトが怪しすぎる


です、いつも通りかもしれません

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