六話:無理に仲良くしなくていい
控えめなステンドグラスの窓。アンティーク調の壁とドームみたいになってる屋根。もはやお決まりのシャンデリア。
食堂の内装自体は大貴族が住む宮殿って感じなんだけど、設置されてるのは大量のパイプ椅子と丸テーブルなのと、人間と人外の生徒たちが和気あいあいとしてるおかげで神聖な雰囲気が壊されちゃってる。
私はミルルンとローリエちゃんと一緒に料理を注文する場所まで行って、長いけどすぐ進む列に並ぶ。列の先頭には食堂と厨房を繋ぐカウンターみたいなのがあって、そこにいる半人半鼠のシェフに注文したらすぐ料理を持ってきてくれる。
ウィローさんが頼んだのはオムライス! 卵料理は美味しいし栄養もあるって聞くし最強だもんね~。
それぞれ頼んだ料理を手に、三人で空いてるテーブルを探してる間、ついでに私はあの某緑頭くんも探してみる。
「う~ん......今日もいないなぁ......」
何気にキャベツくんとは、ステージを爆破した共犯(?)として生徒指導の先生にお世話になったあの日以来会えてない。
『覚えてろよガーディナー! この恨み絶対いつか晴らしてやるからなぁぁあああ!!』
......え~っと、なんでそう言われたんだったっけ......?
そうそう、キャベツくんの名前に爆笑しすぎて......私のこと避けてるわけじゃないだろうし、多分たまたま何回も入れ違いになっちゃってるだけなんだろうな。
でもなんだろ、あいつとはまたどうせどっかで会う気がするというか、謎の安心感があるというか......同じクラスも一個くらいはあるだろうしね。
次会うときもなんか事件が起こったときだったりするのかな......それはちょっと嫌だな......。
「あら、ローリエちゃん、ウィローちゃ~ん。あそこに空いてるテーブルがあるよ~」
私たちはそのままミルルンが指差したテーブルに料理を置いて、それぞれバラバラのタイミングで椅子に腰かけた。
とりあえずミルルンの隣に座ったら、ローリエちゃんもミルルンの隣に座って......自然とミルルンが真ん中になる。
一瞬二人が食べ始めるのを待った方がいいかと思ったけど、お腹が空きすぎてたからつい一口食べちゃった。
やっぱりここのオムライス、鶏肉がジューシーで......ヤバイいただきます言うの忘れてた! い、いただきますも三秒ルールだもん、食べてから三秒以内に言えばセーフだもん......。
「むぐ......それじゃあ改めて、わたくしの友達を紹介するわね~。」
ミルルンはスパゲッティを舌の上に転がしながら、ローリエちゃんの方を手で差した。
「この子はローリエちゃんでね、とってもしっかり者なのよ~」
「あ、ここに来て自己紹介する感じなん? ちょっと今更感ない??」
ローリエちゃんはしっかりツッコんだ後、改めて咳払いをして、肩をすくめながら自分を親指で差した。
「まぁ、うん。あーしはローリエ。『ローリエ・ビューリュー』」
私は口いっぱいのオムライスを急いで飲み込んでから、ローリエちゃんに笑顔を返した。食べかすとかついてませんように......。
「私は『ウィロー・ガーディナー』だよ! よろしくねー!」
「ん。確かにさっきはろくに挨拶できへんかったもんなぁ、あーしがミルフォイル背負い投げしたのとウィローが思いっきり腹鳴らしたせいで」
「ぎっっっっっっ......忘れてって言ったのに......」
「ウィローちゃんったら、お腹鳴らすのあれで二回目だったのよ~」
「みみみみミルルン世の中には言わなくてもいいことというものが」
「あーしらだけじゃなくて絶対周りのやつらにも聞こえとったよなあれ! 最初カエルの断末魔かなんかかと思ったもん」
「慈悲!! 慈悲をください!!!!」
ローリエちゃんは流石ミルルンの友達と言うべきか、色々と癖が強い。見た目は頑張ってキリっとした顔してる、えっと、よ、幼女?って言っていいのかな.....?
とにかく小さい女の子って感じなんだけど、蓋を開ければ生粋の毒舌ツッコミ職人で、ミルルンの保護者。まさかこの見た目でゴリゴリの関西弁だとは思わなかったな......。
「ねぇねぇ聞いてよローリエちゃ~ん、今日授業で——」
「だぁぁぁあああああもう! さわるなっつってるやろ!!」
ローリエちゃんは伸びてきてたミルルンの手をバシィッッッて引っ叩いて、彼女をキッと睨みつける。
「撫でようとすな手握ろうとすな抱きつこうとすな!! 何回言えばわかるん!? また背負い投げされたいんかワレ」
「んふふ~。ローリエちゃんに背負い投げされるの、痛気持ちいいから良いわよ~」
「うわきっっっしょ寒気したっ、ちょ鳥肌えぐいんやけど見てこれアンタのせいやぞこれ」
「あらあら、ほんとだわ~。ザラザラして——」
「さわるなっっっ!!」
ローリエちゃんはミルルンの頭をグーで殴った後、ウギッて顔をしながらまくった袖を戻す。
私の視線に気づくと、彼女はちょっと気まずそうに目を泳がせて、そのままそっぽを向きながら唇を尖らせた。ちなみにミルルンは頭押さえてるけど、ゆるっゆるの笑顔浮かべてる。
な、仲良いなぁ......ローリエちゃんはさっきからずっと容赦ないけど、ミルルンが殴られても嬉しそうにするおかげで奇跡的に利害が一致(?)してる。
ローリエちゃんがこんなにさわられるの嫌がるのって、ツンデレしてるから? それとも結構本気で嫌がってる? ローリエちゃんも初対面キッスされたから警戒してるとか?
......ありえるな......。
「それで?」
ローリエちゃんは素早くラーメンを一口すすった後、もぐもぐしながら頬杖をついて、私を真っ直ぐ見てくる。星のチェーンピアスと紫髪は、ちゃんと重力の方へ傾いていた。
「あんたはどういう経緯でミルフォイルと出会ってしまったん?」
「オリエ.....さ、さっきの授業でたまたま隣の席で......」
初対面キッスのことは言っていいのかな? 言わない方がいいのかな......?
「そのまま流れで自己紹介することになって、か、課題?も一緒に——」
「二人で氷を口説いたのよね~。楽しかったわ~」
「は?」
「......うん。一緒に氷口説いてた」
「は??」
ミルルンの友達だからワンチャン受け入れてくれるかもしれないって思ったけど、返ってきたのは正常の反応だった。
「まぁ類は友を呼ぶって言うし、どうせ変なやつやろなとは思ってたけど.....」
「変じゃねーわい!! 私は無理やりやらされただけで——」
「ウィローちゃんったら可愛かったのよ~? 口説き文句のレパートリーが少ないのか、13回くらい『君可愛いね』って言ってて——」
「ミルルンさんシャッッットダウゥゥン!!!!」
「それを言うならシャットアップな?」
ミルルンともローリエちゃんとも顔を合わせられなくなったから、私は下を向いたままオムライスをやけ食いした。
私にはオムライスしかいないんだ......ッ! オムライスしか味方してくれないんだ......ッッ!!
「あら~! ウィローちゃん、ハムスターみたいで可愛いわ~」
「いまふねへるかあはなひはへないえ!」
「なんて??」
「まぁまぁウィローちゃん、あーんしてあげるから機嫌直してよ~」
躊躇しながらも振り返ってみると、ミルルンは満面の笑みでチャーハン入りのスプーンを持って、私に近づけてくる。期待に満ちた目をキラキラさせて、相変わらずのほわほわオーラを漂わせて......じゅ、純粋にあーんしたいだけだよね? ね??
私は頬に詰め込んだオムライスをなんとか飲み込んだ後、控えめに開けた口をスプーンに近づける。そういえば何気にまだチャーハン食べたことって——
「はいアウトーーーーーーーーーーッッッ!! アホかあんたらは!?!?」
「いっっっっっっっったぁ!?!?!?!?」
待ってやばいめちゃくちゃ痛いすごい痛いこれ、痛い痛いいたたたたたたたいででででででででででででででで
「んふふ~。痛いわ~」
頭を押さえながらおそるおそる前を向くと、ローリエちゃんは椅子から立ち上がってて、両拳を丸めたまま腕を組んでいて。
「なんで!?!? なんで今叩かれたの私!?!? ほんとになんで!??!?」
「わたくしも心当たりがないよ~」
「いやなんで二人とも忘れとんの!?」
ローリエちゃんは今にもハリセンか何かを取り出してきそうな表情を浮かべていた。
「ほらっっ、オクタゴンのやつ言ってたやん!! ネルソービュー学園の掟!!」
ネルソービュー学園の掟......? えっと、どれの話をしてるんだ......??
『ゆめもりくん』を点けて寝る、は多分違うでしょ? 森の中に勝手に入っちゃいけない、も多分違うし.....『眠りココア』も違うだろうし.....図書館の本を食べちゃいけない、も関係ないし、『ストレスメーター』......はまだ知らなくていいって言われたし——
あ!!!!!!
「しょ......『食堂で自分がもらった料理は、絶対に他の生徒に分け与えてはならない』......」
「そう!! それ!!!!」
「あら~? そんなルールあったっけ~?」
わ、忘れてた! この掟、意味わかんなさ過ぎて完全にスルーしちゃってた!!
別にさぁ、ちょっとくらい分け合ってもよくない?? 『一口ちょーだい』とかやってもよくない!?
掟教えてくれた生徒指導の先生は、『生徒たちがアレルギー反応を起こしてしまうのを防ぐため』とか言ってたけど、そんなの相手にアレルギーないか聞けばいいだけの話じゃん! 分け合いっこ自体禁止するのはやりすぎなんじゃ——
あ、でも......私たち全員記憶喪失なのか......。そういうこと? 生徒たち本人が何アレルギーなのかわかってないからってこと?
ん?? でもそれなら分けるとか分けないとか関係なくない? どうせ自分で頼んだやつでアレルギー反応起こしちゃったりするかもなんだから、他の子と分け合いっこするの禁止したところで......。
??????????
「流石ローリエちゃんね~、そんなルールまで覚えてるなんて~」
「あんたが忘れすぎなだけやから!!」
ローリエちゃんは顔を片手で覆いながら、倒れ込むように再び椅子に座った。あのぉ、さりげなく私もディスられてるこれ.....?
「ほんまにも~~いっつもいっっっつもっ、毎晩毎晩『眠りココア』の説明させられるあーしの身にもなってよぉ......!!」
「ん~? 『眠りココア』ってなんだったかし——」
「『ゆめもりくん』点けてるのも毎回あーしやし!! てか文句言い出したらキリないわ、毎朝こっちが起こさなあかんの意味わからんし勝手にあーしのベッドで寝られんのほんまうざいし『昨日のこと忘れちゃった~?』ちゃうねんなんもなかったやろがいアホンダラ」
あれ?
ローリエちゃんのその口ぶり、まるで......。
「ふ......二人ってもしかして、ルームメイトだったりする?」
「残念ながらな!!」
「あれ~? 言わなかったかしら~?」
ミルルンはどさくさに紛れてローリエちゃんに抱きつこうとする。
ローリエちゃんはそんな彼女の顔を鷲掴みにしながら押し返して、額には怒りマークが浮かんでて、めちゃくちゃ歯を食いしばってて、でも......
「あははっ、二人ともすっごい仲良しなんだね~~! いいなー! 羨ましいなーー!」
「目ついてる?」
「んふふ~。でしょ~」
「やっぱルームメイトだから? やっぱりルームメイト同士って仲良く......なる......もん、なんだ......ねぇ......」
頑張って考えないようにしてたのに、どう足掻いてもあいつが脳裏に浮かんでくる。
ほんと、私とあいつとは大違いだなぁ......ローリエちゃんはいつも怒ってるけど、ミルルンのこと嫌いってわけでは全然ないみたいだし、むしろ愛ある怒りって感じだし。対してあのメガネ野郎の目は冷たくて、あんな、ゴミか何かを見るような、
『ついてこないでください。』
......。
「? どしたん、急に悲しそうな顔して」
「お腹痛いの~?」
無意識に下げてた目線を上げると、ミルルンとローリエちゃんは、え、お、思ってたより心配そうな顔してる......?
私そんな悲しそうな顔してた?? 確かにしょんぼりはしてたけど、そんな暗い顔してたつもりは、、
や、ややややばい心配かけっ
「だ、大丈夫大丈夫ちょ~~~元気!! 元気もりもり!!」
私はニコって笑って、謎の筋肉ポーズをしてみせた。
「なんでもないから安心して! ごめんねなんか、ほんとにそういうつもり?はなくて——」
「あんた、もしかしてルームメイトとうまくいってないん?」
「そそそそそそんなこっ、え、えぇぇええ、そ、即バレ......?」
「わかりやすいねんアンタ」
ローリエちゃんはポニーテールをサッとなびかせた後、ラーメンのお椀を下から掬い上げて、スープをそっと口に運ぶ。お椀の底をテーブルに置くと、身を前に乗り出すようにしながら目を合わせてきて、
「ルームメイトは寮の管理係さんの誰かに相談すれば変えられるかもって聞いたで? 言うだけ言ってみたらどう?」
「いやそこまでじゃないから! 確かにえっとぉ、か、変わった?やつだけど......」
挨拶しても無視するし、しつこく話しかけたら睨んでくるしで、だいぶ嫌なやつではあるかもだけど......あんまり悪口とか言いたくないんだよな......
ほら、あのメガネくんにもなんか事情があるかもだし? あのときはたまたま機嫌悪かったとか、別にほんとは私のこと嫌いなわけじゃ......
......いやあれは絶対嫌いでしょ......。
ぬあぁぁあああぁぁぁぁあああああ!! こんなことで悩みたくないのにーーーー!!『こんなこと』って言うのあいつに失礼かもしれないけどさぁぁぁああああっ
「き、気にかけてくれてありがとね! でもダイジョブだよダイジョブ、ちょ~~~~っとあんま会話できてないだけだから!」
「.....ふーん?」
ローリエちゃんはレモネードのストローを掴んで、あ、上のところ塞いで飲み物すくい上げる遊びしてる......。
「ま、無理してルームメイトと仲良くする必要ないんちゃう?」
「そ......そうだよね~~! 誰とでも仲良くできるわけないからねぇ、やっぱ諦め——」
「あんたにはあーしらがおるんやから、これ以上友達作らんでもいいでしょ」
「..................え?」
ローリエちゃんはレモネードを飲んで、ラーメンを口に含んで、味玉をふーふーして......わざと目を合わせないようにしてるのか、それとも何も考えてないのか、
「ルームメイトがあんたに構わへん分、あーしらが構ったる。寂しい思いはさせへんよ」
味玉を一口で食べて、スープと一緒に飲み込んで、
「だから、ルームメイトとは話さんままでもええんちゃう?」
「......っ......」
私は、自分の顎を下から押して......あんぐりと開いた口を無理やり閉じた。
「と......友達?」
「えっ、ちゃうの!? 気まず......」
「あ、そ、そうじゃなくてっ」
『友達』。
そ......そっか。もう友達だって思ってくれてるんだ。ローリエちゃんとはまだ会ったばっかりだからてっきり私......。
..................
「え、何? あーしなんか変なこと言った? ミルフォイルがニヤニヤしてるときがいっちゃん怖いんやけどちょやめてよ、ねぇ~~~~!!」
......こ......こ......っっ
「ウィローも黙り込んでどうし——」
この幼女、イケメンだぁ~~~~~~~!!!!!!
「......なんかムカつくこと考えてない?」
「考えてない考えてない!! むしろめちゃくちゃ褒めてるよっ、超讃えてるよっ!!」
「そう......??」
なに今の!? なに今のイケメンすぎない!?!? 友達だって!! 寂しい思いはさせないって!! そんな、そんな当たり前のこと言ってるみたいな顔でっ、くぅ~~~!!!!
「へへえへへへっ、これからよろしくねっ、友達のローリエちゃん! 友達のミルルン!」
「お、おう......? てかローリエでいいよ、ちゃん付けとかあーしに似合わんし。ミルフォイルにもなんっっっかいもそう言ってるんやけどなぁ~~~......?」
「そうだったかしら~? ごめんね、ローリエちゃ~ん」
「それわざとやってるんかだけ聞いてもいい??」
その日食べたオムライスは......今までで、一番余韻が残る味がした。
***
「『魔法道具・基礎』ってどんなクラスなのかしらね~? 面白いのかな~?」
「ネルソービュー学園って不思議道具多いし、そこらへん色々紹介してくれるんちゃう?」
「相手の好感度を見れる道具とかあるかしら~?」
「んなもん見てどうすんの......?」
二人の間を歩いてるとき、見えて、しまった。
私は反射的に目線を落として、歩くスピードを落とす。
そのまま二人の後ろを歩いて、彼、を視界の隅に入れて、
廊下の向こうからやってきてた私のルームメイトは、もちろん何も言わずに横を通り過ぎた。
私が目を逸らしたことに気づいたのかわからない。そもそも私に気づいたのかどうかすらもわからない。
足を動かしながら、なんとなく後ろを振り返る。もしかしたら、なんてもちろんなくて、彼が振り返ってくれることはなくて。そのまま人と鬼とユニコーンの中に紛れて、後ろ姿も見えなくなっちゃって。
彼と話すことは、もうないんだろうな。あの黒髪の方をわざわざ振り返るのも、視線を返してくれるかもって期待するのも、これからなくなっていくんだろうな。
「————ねぇねっ、『魔法道具』って言うくらいだし、もしかしたら魔法の杖とか使えるようになっちゃったりするんじゃない?」
私は友達に話しかけながら、再び前を向いた。
「おぉ! そうだとしたらめっちゃアツいやん!」
「んふふ~、楽しみね~」
これでいいんだ。無理やり仲良くする必要なんてないんだから。
私には、ミルルンとローリエがいるんだから。
だから............
次話:次の授業で首を絞められました
です、大変ですね




