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五話:氷は口説けませんでした

あらすじ。初対面のお姉さんにキスされました。



「$#&@#$%&$#$%&$&@」



私はもうすでに人間やめられてそうな奇声を上げながら、お姉さんを押し返す。


彼女の両肩を掴んだまま、急いで辺りを見渡して、


え~~~、リア先生は向こう向いてて、クラスメイトたちも隣の子との話に夢中で......奇跡的に今の、ちゅ、ちゅー......の目撃者はいないっぽい。


あ~~~~よかったセーフッッ、見られてたら絶対大騒ぎになってたもん......いや全然よくないんだよアウトなんだよアウトアウトアウト



「おおおおおおお姉さんなななな何故なにゆえわ、わたっ、ぇ」



ききききキッスされたときってどういう反応をするのが正解なの!?



「落ち着こうお姉さん一旦落ち着——」

「あら~、ごめんなさい~」



お姉さんは片頬にそっと手を当てながら、純粋.....にしか見えない笑顔を向けてきた。少しだけ眉をひそめて、花のオーラみたいなのを散らして、



「天使がお迎えに来てくれたのかと思っちゃって、つい~」

「それ死ぬときに見るやつじゃ——あ、でもこの学校普通に天使いるのか......」

「んふふ~」



え、えっと......どこからツッコめばいいの?


まずお姉さんは、天使がお迎えに来たらその天使さんにキスするの?? 『天使さんがお迎えにきた! キスしよ!』ってなる普通?? 百歩譲ってそれが普通だとして、勘違いで人間にキスしちゃったらもっとこう、慌てるもんじゃない??



私が頭を抱えてる間も、お姉さんはにこやかな表情をキープしながら、不思議そうに首をかしげてる。ド天然......? もしくは面白がられてる......? ど、どっち? ほんとにどっち!?


お姉さんさっきまで寝ちゃってたみたいだし、もしかしてまだ寝ぼけてるとか......? キスしてきたのも夢と現実をごっちゃにしちゃってたから、とか......? そうだとしたらギリ納得できるけど、



「んふ~。んふふ~。あなた、表情がコロコロ変わって可愛いね~」

「可愛——」


——いいのはそう。うん。中身はともかく私の顔は可愛い。


お姉さんが私を天使と間違えちゃったのも、私があまりにも美少女すぎたからかな......顔が良いのも大変だぁ......。



とりあえず、お姉さんは寝ぼけて可愛い私にキッスしたってことにしよう、そういうことにしとこう。それならまだこのお姉さんはまとも(?)ってことになるもんね。


あのキスについてはこれ以上深く考えないように......



「えっとぉ、改めて.....私はウィロー! 『ウィロー・ガーディナー』だよ!」


私は握手のつもりで、お姉さんに手を差し出した。



「はじめまして~」


お姉さんは両手で私の手を包み込んでくる。お、思ってたんと違うけどまぁいっか.....。




「わたくしの名前は............ごめんなさい、忘れてしまったからちょっと名札出すわね~」



あ、わかるぅ~~~~! 名前って定期的に忘れちゃうよね。特に苗字。



「わたくしは......『ミルフォイル・バターフィールド』って言うんですって~」



やばい!!!!

苗字は最初から覚える気なかったけど名前の時点ですでに五文字以上だやばいどうしよう


が、頑張ればいける! 私は一週間で『ネルソービュー』を覚えた女! やればできる!! 呪いを打ち破ってやるーーーっ!!



「み......ミル......ミルフィーユさ......ん?」

「ミルフォイルよ~」

「......。......長いからミルルンって呼んでもいい?」

「いいよ~。わたくしはウィローちゃんって呼ぶね~」



ミルルンが優しくてよかったぁ......。


この人、寝ぼけてたらキスしてくること以外はただの天使って感じだな......あ、比喩的な意味で。綺麗だし、花かんむり被ってるし、聞いてるだけで甘えたくなるような声してるし......。



.....フラグじゃありませんように。



お互い名前も伝え合ったことだし、次は好きな食べ物でも言おうと思って口を開いたら、教壇の方から三回手を叩く音が聞こえた。


振り向くとなんだか嬉しそうな先生がいて、水槽中の魚のしっぽもピチピチってなってて。



「はぁ~~~い!! みんな自己紹介できたみたいだね! それじゃ、本格的にアイスブレーカー始めちゃおっか!」



あ、そうだ!! そのアイスなんちゃらがなんなのか聞こうと思ってたんだった!!


私はリア先生の方に顔を向けたまま、そーーっとミルルンに近づいた。人魚ってどれくらい耳いいんだろ、ひそひそ声とか先生に聞こえちゃったりしないよね......?



「ね、ねぇミルルン、アイスなんちゃらって何......?」

「アイスクリームは食べ物よ~」

「それじゃなくてっ」

「わたくしはバニラが一番好きだわ~」

「私はいちご~」



ついつい一緒にボケちゃってたら、リア先生が勝手に動く水槽&台車と共にこっちに近づいてきたから急いで口を閉じた。

あバレた?詰んだ?怒られる?って思ったけど、先生は満面の笑みのままで、



「それじゃ各ペアに配りま~す!」


何を??


「君たちは二人組だよね?」



よくわからないまま頷くと、リア先生は水槽の中からびしゃびしゃの......三角帽子?を取り出して、まさかそれ渡してくるのかと思いきや帽子の中に手を突っ込んで、帽子の中から——



「はいどぞー」



ゑ?



こ......氷?? 


えデカ、え、ま、待って



「ぇ、あぇ、ぇ......へ......??」

「あら~。あの帽子小さいのに、どうやってこんなに大きなもの入れてたのかしら~?」



先生は全ペアの前にデカ氷をドンッッッて置いた後、水槽から水が零れちゃうくらいのスピードで教壇に戻って、ニカッと笑いながら親指を立てた。



「これは魔法でできた氷で~~す! 今から生徒の皆さんにはぁ、ペアと協力して氷を破壊してもらいま~~~す!!」



アイスブレーカーってそのまんまの意味だったんだ......。


......。


な、なんだろう......私の中にいる誰かが『違う! それアイスブレーカーじゃない!!』ってツッコんでる......違和感が暴れ狂っている......。



「どんな方法を使ってもいいよ! 制限時間は授業の終わりまでで......あ、壊せなくても減点とかにはならないから安心して!! それじゃ、みんな楽しんで~~~!」



先生は私たち生徒に手を振った後、まるで一休みするかのように水槽の中に潜り込んだ。


するとすぐに講義室中で話し声が響き始めて、ほとんどは混乱してたり、笑ってたり......時々冷静に考えてる子もいれば、早速暴の道に目覚めてる子もいる。


とりあえず私はミルルンと顔を合わせた。



「み......ミルルンは何かアイディアある? その......このデカ氷を壊す方法......」

「んふふ~、そうね~.....」



彼女は手を丸めて、そっとデカ氷を叩く。氷というより木材みたいな心地良い音。耳を済ませば炭酸水みたいな余韻も聞こえてきて......普通の氷にしては水色っぽいし、ほんとに魔法でできてるんだろうな。



「叩いて破壊は無理そうだわ~。後ろの子たちみたいに怪我しちゃいそう~」



ミルルンの言う『後ろの子たち』の方を見てみると、彼らは真っ赤になった手を押さえながら机に突っ伏していた。い、痛そう......。



「ウィローちゃんが実は隠れマッチョなら別だけれど~」

「え?多分そんなことはな——うぇ!?」



う、う、腕を揉まれている......筋肉を確認してるってこと? ちょっとくすぐったい......。



「ぶ、物理的に破壊するのはナシとして......でもそれ以外方法なくない? どうする? 道具もないし、とりあえず床とかに投げつけてみる?」

「えへ~、大丈夫だよ~。わたくしに良い考えがあるわ~」



ミルルンは私の腕から手を離して、指先で再び氷に触れる。今度は優しく添えるように、撫でるように。


絹糸のような髪が氷に降りかかって、えっと、み、ミルルンさん??



「ちょ、い、良い考えってまさかっ」

「壊せないのなら、口説けばいいと思うわ~」



あ~~~~びっくりしたっ、氷にキッスするのかと思っ......



「......くど????」

「たくさん口説けば、氷さんもきっと恥ずかしくなって溶けちゃうわ~」



いまいち理屈になってないような気しかしないことを言いながら、ミルルンは氷に向かって優しく目を細めた。



「氷さん、こんにちは~。そんなに固くなっちゃって~......少しは肩の力を抜いたらどう?」



あ......


これは......うん。あれだ。



ミルルン、やべーやつだわ。




「こっちにおいで~......その凍てつく心をわたくしが温めてあげるわ」



......ま、マジ? マジで口説くの? 氷を??



「今日も冷たいのね~......そういうところが好きなんだけどね~......」



まぁそりゃ氷だからね......?



「あなた、綺麗な目してるのね......まるでクリスタルみたい~」



......。


机に置いてある氷の底を見てみるけど、水溜まりどころか水滴すらもできてない。魔法の氷ではあっても、ミルルンの声は一切聞こえてないみたい。


そりゃそうすぎる。ワンチャン......?って少しでも思った自分はもしかしてお馬鹿......?



「ほらほら、ウィローちゃんも一緒に口説きましょ?」

「え!?!?!?!?」



ミルルンは私の腕を掴んで、氷の方に引っ張って、え、え、え、え、えぇ......??


わ、わわわわ私っ、口説き文句なんか知らないよぉ......!! 口説いたことなんて人生で一回もないよ!! 記憶喪失前の私も多分ない!! 知らんけど!!


そもそも口説いても氷は溶けねぇよーーーーーーっ!!



「ウィローちゃん、わたくしウィローちゃんが口説いてるところ見てみたいわ~」

「......っ......ぐ......ぅぅう......」



そ、そんなキラキラした目で見られても屈しないんだから!! ウィローさんそんなにちょろくないんだかr



「ウィローちゃん、お願い......ね?」

「うっっっっっ」



......。


......。


......。




「き......キミ......カワイ~~~ネー......」

「あらあら、んふふ~......氷さん、あなたはわたくしとウィローちゃんどっちを選ぶの?」

「ツキガキレイダネー......」



......。



「安心して~。あなたが溶けてしまっても、わたくしが全部飲み干してあげるわ」

「レンラクサキ、コウカンシナーイ......?」

「例え世界中があなたを嫌っても、わたくしはずっとそばにいる」

「ヘイ! カワイコチャーン......っ......」

「好き。ずっと好きよ」

「キミ、カワイ~......ネ~......」



......私は......


私は、何をやらされとるん......??




***


講義室を出た後、私はずっと両手で顔をパタパタ仰いでいた。


ひぃぃぃぃいいいいぃぃいいい顔あっつぅ......!! 確実に黒歴史爆誕させちゃったよっ、絶対変な目で見られてたよやべ~~やつらだったよぉ~~~~~~~~~~~!!


うぅぅぅううう......廊下の冷房が講義室のよりも効いててよかったぁ......。



「ウィローちゃん、ウィローちゃ~ん」



後ろを歩いてたミルルンは、ナチュラルに私の腕に抱きつきながら話しかけてきた。

子供っぽいのか大人っぽいのかわかんない人だなぁ~......。私より年上なのは間違いないと思うんだけど......。



「ねぇねぇウィローちゃん、次の授業はいつ~?」

「わ、私? 確か午後2時くらいだったような.....」

「あら~、もしかして『魔法道具・基礎』?」

「うん、それそれ!ってことはもしかして——」


「やった~! 一緒だわ~」



ミルルンは目を閉じながら笑って、私の手にそっと指をからめてきた。やっぱり彼女からは、花風味の淡い匂いがする。



「次も隣に座りましょうね~」

「う、うん......そだね......」



嬉しいような、怖いような......? 次も振り回されるのかな......??


ついついちょっと苦笑いになっちゃったけど、ミルルンは全然気づいてないみたいだった。というより、気にしてないだけかもしれないけど。



「い......言っとくけど、もう私氷を口説いたりはしないからね!? もう二度と——」




こういうときに思いっきりお腹が鳴っちゃうのがウィローさんなんですよ。




もうすでに火照ってた顔がどんどん燃えて、溶けて皮膚取れるんじゃないかってくらい熱くなる。目合わせられなくなって、お腹を押さえながら下を向くけど、まだ視野に入ってたミルルンは何故か嬉しそうに笑ってるみたいだった。



「あら~。可愛い音~」

「せめて聞こえなかったフリくらいしてよぉっっ」



そういえば今日朝ご飯食べてないんだった......ちょうど今はお昼の時間だし、そりゃお腹も鳴るわな......うわぁっ......



「次の授業までまだ時間あるし、一緒にご飯食べましょ~? ここからだと、二階の食堂が近いわね~」

「......ウン......」



ミルルンは私の手をそっと引っ張って、先に前を歩き始めた。


周りを見てみると、同じく食堂に向かってるっぽい生徒たちがたくさんいる。魔女、エルフ、ケンタウロス.....でも心なしか、私たちと同じ人間が多い気がする。制服のリボンも同じ色だし、みんな一年生かな?



「あらぁ、そうだわ~。忘れてたわ~」



ミルルンは私の方を振り返って、首を傾けながら微笑む。



「そういえばね~、食堂で待ち合わせしてる友達がいるのよ~。もしよかったら、その子にウィローちゃんのこと紹介してもいいかしら~?」

「え、ミルルンの友達?」


私はとぼとぼ歩いてた足をちゃんと動かして、後ろじゃなくてミルルンのすぐ隣に移動した。今まで待ち合わせのこと忘れられてた友達可哀想......。


「その子がいいならもちろんだよ! 話し相手が増えるのはいいことだし!」



ミルルンの友達となると、可能性は二つある。ミルルンと同じやべぇやつルートか、ミルルンに振り回されてる同士ルートか。ちょっとどんな子なのか想像つかないな......。


頑張ってミルルン友の姿を思い浮かべようとしながら、しばらく廊下を歩く。食堂が近づくにつれ廊下は広くなって、頭上のシャンデリアもアップグレードされていって。


チビドラゴンさんのしっぽを踏まないように歩いて、妖精さんの群れに道を譲って、手汗かいてきたからさりげなくミルルンの手を離して......ってやってると、食堂の扉が見えてきた。



一階の食堂の入口ほど豪華じゃないけど、いかにも『食堂』って感じの存在感なのは変わらない。両開きドアにはいっぱいポスターが貼られてたり、暖色のイルミネーションライトが飾られていたり......看板にも大きく『Cafeteria』って書いてある。



「あら~、いたわ! 扉のすぐ近くにいる子が友達よ~」



ミルルンは友達がいるであろう方向を指差すけど、扉の近くには人が多すぎて誰を指差してるのかわからなかった。


ミルルンの友達っぽい子、ミルルンの友達っぽい子......。



「..................あのマッチョの一年生の子?」

「惜しいわ~。壁にもたれかかってるあの紫の子よ~」



『惜しい』って言うからてっきり屈強な子なのかと思ったけど、壁にもたれかかってる子といえば数人しかいなくて、しかも紫となると......紫のポニーテールのあの子しかいない。


もはや屈強とは真逆の、小さい女の子。


風船ガムみたいな質感に見える髪に、眩しいくらい明るい水色の瞳。

彼女は腕を組みながら壁にもたれかかってて、確かに目つきも表情もキリってしてるけど......一体どこが『惜しい』んだろ......?? あの子にもあのマッチョの子にも失礼じゃない?



「ローリエちゃ~~~ん!! おまたせ~~~!」



ミルルンは手を大きく振りながら友達ちゃんの方まで走っていく。と思ったら両手を大きく広げて、あっ、あれは抱きつくときの構えだな。


ミルルンはローリエ?ちゃんのことが大好きなんだなってちょっと微笑ましくなりながら、私は彼女の後をゆっくり追いかけ



ん、だけど......ローリエちゃんはミルルンを目にした瞬間『ゲッ』て顔して、すぐに壁から離れて飛びついてくるミルルンを避けて、と思ったらミルルンの腕を掴んで、


そしたらミルルンの足が浮いて、彼女は逆さまになって——



「オッラァァァアアアアアア!!」

「ぴゃんっ」



————まさかの背負い投げを目撃して、私はその場で足を止めてしまった。






次話:無理に仲良くしなくていい


です、よろしくお願いいたします

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