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四話:初めての授業でキスされた

「くぁ————~~~~~~んぎぎぎぎぎぎぎっっっ......ふぇ......」


私はベッドの上であくびしながら伸びをした後、猫の如くそっとベッドから飛び降りる。

この高すぎるベッドから降りるのもやっと慣れてきたなぁ。.....今朝はちょっと転びかけちゃったけど。


そのまま机の上に置いておいた......ランプ?を手に取って、スイッチをオフにする。

すると、淡い紫色の光が蝋燭みたいにシュッと消えた。



ネルソービュー学園の掟その一: 寝る前は必ず『ゆめもりくん』を起動しておくこと。



一見ただの可愛い顔付きランプに見えるこれさ、目覚めた当初からあったからなんだろ~って思ってたんだけど、まさかそんな名前がついてるとは思わなかった。


『夢』を『守る』って書いて『ゆめもり』。『ゆめもりくん』。名前の通り、半径なんちゃらメートル内にいる者たちの夢を守ってくれるらしい。


最初聞いたときは『?』ってなったけど、どうやらね、この学校には他人の夢の中に入れる生徒もいるらしくて......いたずらで悪夢にしてきたり勝手に生気を吸ってきたりするんだって。校則で禁止するだけじゃ足りなかったから、最終的に『ゆめもりくん』を導入したらしい。



私は『ゆめもりくん』を机に戻した後、某ルームメイトさんのベッドの方を見てみる。

うん。今日も空っぽっすね。相変わらず朝早いなぁ......いつ起きてるんだろ?


ていうかまずいつ寝てるの?? いつも夜に帰って来たと思ったらまたすぐどっか行っちゃうし、私がベッドに入る時間になっても帰ってこないし。朝起きてもいないし。私が部屋にいない間に帰ってきて寝てるとか? 実は真昼に寝てるとか?


ルームメイトさんとはルームメイトなはずなのに、ほとんど顔を合わせることがない。時々会うことがあったとしても、話しかけたら無視してくるし......



『ついてこないでください』



ひぃぃぃぃいいいぃっっっ!! と、トラウマがぁ......!!!!

やっぱり私避けられてるよね......? 嫌われてるよね......? なんで? ほんとになんで?? なんで初対面から嫌われなくちゃいけないの????


もーーーーーっ! 知らん!! あんなやつ知らんし!! 嫌なやつのことで悩んでたってしょうがないし!



それに......今日は待ちに待った、初めての授業の日なんだから。



部屋に誰もいないのをいいことに、私は自分の両頬を強く叩く。ちょっとやりすぎちゃって、肌のヒリヒリに耐えながら口角を上げて、両手でガッツポーズをして......そのまま勢いよくクローゼットを開けた。


パジャマ代わりにしてる白のワンピースを脱いで、忘れないように先にニーハイを履いて、まだこれまで一度も着たことないシャツに袖を通して......


ね、ネクタイむっず!? え~~~っと、もうわかんないから適当でいいや!

その上に例のアレを上から着て、曲がっちゃったスカート部分を直して......ボタンを閉じ閉じしまして......結ばなきゃいけないリボンは一つだけで、ネクタイに比べたら全然楽だった。


やっと着替えが終わった私は、等身大の鏡の前で両腰に手を当てる。



「......うん! 可愛い!」



こういう服を、制服ロリータっていうんだって。クローゼットの中に大事そうにしまってあるから何かと思えば、まさかネルソービュー学園の制服だったとは......。


首周辺から覗くのはうっす~~~~~い黄色のシャツとネオンシアンのネクタイ。で、その上に被せるように着てるのがロリータ。

基本的にチョコレート色がベースなんだけど、フリルとベルトの模様がコーヒー色だったり、襟の右半分もそうだったりする。襟の左半分はサーモンピンクに近い色で、袖の下の方を飾ってるのもその色の細いリボン。例の結ばなきゃいけなかったリボンは暗めのターコイズで、袖の上の方を飾ってるリボンもその色で............


とにかくね、ファンタジーって感じの制服!


ちなみにリボンとネクタイの色は学年によって違ったりするんだって~! 何色が何年生なのかは忘れちゃったけど、とにかくターコイズが主体ってことは一年生ってことらしい。



......さて、制服の次は私のアイデンティティとも言えるヘアバンドだよね! 


前髪を上げて、良い感じに触覚ヘアを作って......最初はちょっと難しかったけど、これもだいぶ慣れたなぁ。


最後はO字型の黒ピアス。これは......正直、まだ慣れてない......。結構むずいんだってこれ! 鏡見ながらでも中々ピアス穴に入らなかったりするし......。



ようやくピアスをつけられた後、私は改めて自分の可愛さを堪能する。


そうそう、これは最近気づいたんだけど、私の瞳ってよく見たら模様があるんだよね! チェリー色に馴染んだ、ダークチェリー色の木のような......三つ葉のクローバーにも見えなくもない模様。優勝! 最強! 私って本当にお人形さんみたいで可愛い!


せっかくだし決めポーズとかしてみよっかな?

えっと、まず片手でピースして、ウインクもしちゃって......



......。



記憶喪失だからってナルシストが恥ずかしくないわけじゃないからねウィローさん? そろそろ鏡から離れようね? はい......。


私はクローゼットの扉を閉めながら机の方に戻って、先日部屋のポストに届いた時間割の紙を手に取った。



今日、そして今後毎週月曜日にある授業は二つで、最初は『オリエンテーション』って名前のクラス。

10時からか......そういえば今何時なんだろ?


『ゆめもりくん』は夢を守ってくれるだけじゃなくて、どこかに時間も書いてあったはず。

えっとどこだぁ......? ランプの中とか......? それとも台の裏とか......あった!



9時58分、と......なるほどなるほど......


......。



「二分前!??!???!」



鏡の前で決めポーズとか馬鹿なことやってる場合じゃなかった!! これ朝ご飯食べる時間ないじゃん今すぐ向かわないと遅刻じゃん!!!!



「うわぁぁああああぁぁぁあああああやばいやばいやばいやばいやばいえっと名札名札名札どこ名札えっとえっとえっとえ~~~~ぅ~~~~~」




......ネルソービュー学園で目覚めてから、早一週間。


学校初日から遅刻はまずいってわかってた私は、部屋の鍵を掛け忘れたことに気づかぬまま、急いで学生寮から飛び出したのでした。




***


他の生徒さんたちにぶつからないように階段を駆け上がって、花に見えなくもないオシャレなモザイク模様の床を走って、時間割に載ってる番号の部屋に駆け込——

——もうとしたけど、そんな登場の仕方したら目立っちゃいそうだから、私は片方の扉を開けながらそーーーーっと中を覗いてみた。


比較的小さめの講義室。クラスメイトの数は50人くらい。


教壇にまだ先生?教授?はいないっぽくて、生徒たちもみんな自由に話したりキョロキョロしたりしてて......全然中に入りやすそうな雰囲気。



私はできるだけ澄ました顔で中に入って、丁度近くの端の席が空いてたから座る。黒板の上にある丸時計によると、現在時刻は10時4分。うん、めちゃくちゃ間に合ってる!(?)



あぁ~~~......疲れたぁ......まだ一週間くらいしか生きた記憶ないけど、間違いなく人生で一番走ったよ......。


流石に思いっきりため息ついたら『どした??』って思われちゃうから、私は前を向きながらさりげなく机に突っ伏す。講義室特有の横長テーブルが冷たくてきもちい......けどまだ全然体暑い、まだ授業始まってないのにもう制服脱ぎたい。



「——?」



おでこの汗を拭いながら息を整えてると、また講義室の両開きドアがだいぶ勢い強めに開く。


周りもちょっと静かになったし、やっと先生が来たのかな?と思いきや......



だ......台車??



台車の上には大きめの段ボールサイズの何かが置かれてて、その上には赤い布が被せてある。


あの台車、本来は誰かが後ろから押さないと動かないはずなのに、ひ、独りでに動い......? もしかして透明人間がいるとか? それともこれも魔法??


周りのクラスメイトたちもみんな静かになって、勝手に動き続ける台車を眺める。


すると、台車はちょうど教壇の後ろでピタッと止まって、なんだか気まずい静寂が流れて。


少しずつ、講義室のそこかしこでひそひそ話が咲き始める。立ち上がって台車に近づこうとする勇者たちも何人か現




「みっっっなさ~~~~~~~ん!!!! おはよーーーーーございまぁぁぁあああああああああああす!!!!!!」




生徒の7割くらいが悲鳴を上げた。何人かズッコケちゃってる子もいた。


ちなみに疲れてたはずの私も例に漏れず、「んぎゃーーーーーっっっっっっ!?!??」って思いっきり叫んじゃった。



謎の物体を被せていた赤色の布は宙を舞って、そのまま床に落っこちる。


前の方の席に座ってるからか水が飛んできて、一瞬だけ海風みたいな匂いがして。



アクアマリンのように輝く瞳に、ピチピチのわかめみたいにすべすべな髪の毛。

水着の上に紋章付きのローブを羽織ってる、ってことは、彼女は間違いなくネルソービュー学園の先生。

台車の上にある大きい水槽に浸かってて、そこから魚のしっぽみたいなのがはみだして......。



「どう!? みんなびっくりしたでしょ!! まさか台車の上に水槽があるなんて思わなかったでしょ? 中からあたしが飛び出してくるなんて思わなかったでしょ!! ふふっ、やっぱり一年生教えるのだ~~~い好き! 新鮮な反応してくれるもん~~~!」



人間の上半身に、魚の下半身。誰がどう見ても人魚さんだ。



「一年生のみんなーーーーーー!!『オリエンテーション』へようこそ!」



人魚の先生は片頬にあざとく指先を当てて、ウインクしながら星を散らす。



「あたしのことはリア教授でも先生でも、好きなように呼んでくれて大丈夫だよ!!」




リア先生に返事する生徒は一人もいない。ほとんどがあんぐりと口を開けて、ぽっか~~んってなっちゃってる。


ちなみに私も口をぽか~~んって開けながら、無意識に先生のしっぽを目で追ってた。ずっと楽しそうにピチピチピチって動いてるんだよね。教壇の近くびっしゃびしゃになっちゃってるけど大丈夫なのかな......?



「あはは!! みんな緊張しちゃってるみたいだね!! わかるよぉ、やっぱり初日は緊張しちゃうよね!」



若干置いてけぼりにされてる私たちを見ても、彼女は顔と声のテンションを下げない。緊張の『き』の字もない。『わかるよぉ』とか言ってるけどほんとぉ.....?



「みんな、この教室?講義室?探すの大変だった~~? 迷子になっちゃったりした?」



リア先生が質問すると、ようやく何人か躊躇しながら手を上げる。私はねぇ、ふふんっ、なんとねぇ、迷子にならなかったんです!


授業が始まるまでの一週間、ずっと校舎内を探検してたもん! 変な穴に落っこちたり通りすがりの先生に怒られたりしたあの日々は無駄じゃなかったんだ!!


まぁ、寝坊&謎決めポーズのせいで結局遅刻しかけちゃったけど......。



「そっかそっか~~~! あたしもここの生徒だった頃はしょっちゅう迷子になって——おっと! そろそろ授業始めないと時間なくなっちゃう!!」



リア先生はまるで人間のようにハッと息を飲んだ後、教壇の上に両手をバンって置いた。



「出席は......今日はいいや! それじゃあ早速、アイスブレーカーからやっていこーー!」




アイス......????


私と違って言葉の意味をちゃんと理解したっぽい人たちは、背筋を伸ばしたりちょっと嫌そうな顔したりしてる。え、ちょ、ちょっと待って私わかんないんだけど、あ、あれ? 普通わかるもんなの??



「それじゃ、まずは隣の人と軽く自己紹介してね~~~!!」



自己紹介!! 日本語!! それならわかる!

隣の人には、自己紹介するついでにアイス.....なんちゃらがなんなのか聞こっと.....。




端の席に座ってるから、私の隣にいるのは一人だけ。


少し待ってみれば目を合わせてくれるかと思ったけど、彼女はずっと静止していた。



......なんだろう。静かなんだけど、見つめれば見つめるほど浮かび上がってくるような、そんな存在感。わたあめみたいにどこか甘くて、柔らかくて、触れたら優しくくっついてきそう。




「え、えっと......こんにちは!」

「~~......」


?? 無視?? トラウマ再来????


「もしも~~し......? お姉さん......??」

「......んぅ~......」




お姉さんは少しだけ首を傾けるけど、全然こっちを向いてくれない。シルクのような髪が肩からずり落ちて、後ろの長髪と合流して......。



ネルソービュー学園の生徒はみんなアニメの世界の住民みたいで、どこを見ても美男美女なんだけど......この人、その中でも一番綺麗かもしれない。


もちもちしてそうな褐色肌に、薄いクリーム色の姫カットヘア。白の花かんむりをちょっと斜めに被ってて、ずっと儚い笑顔を浮かべてて、半分閉じた緑の瞳は......



......あれ......?

目の焦点......合ってなくない......?


こ、これ、もしかして私のこと無視してるんじゃなくて、



「お、お姉さ~~ん? ユアネームイーズ......?」

「うぅ~ん......あと50分~......」



目開けたまま寝てるぅ......。


すごいなぁ、器用な人もいるもんだ......これ起こさない方がいいよね?

でもどうしよう、一番前の席だから前には誰もいないし、後ろの人は......もうすでに誰かと話してるし、やっぱりこの人以外話せる人なんて——



「————あら~?」



お姉さんはちょっと顔を上げたと思ったら、ゆっくりと私の方を向いてくる。死んでるようにも見えた瞳が少しずつ生気を取り戻して、まるでジャムのように輝き始めて......わかりやすく起きてくれたお姉さんを見て、申し訳ない気持ちと安心が同時に押し寄せてきて、



「お、おはよお姉さん! 眠たいなら寝ててもいいんだよ......?」

「......ん~......」

「私も今日ちょっと寝坊しちゃってさ、それで遅刻しかけちゃったから気持ちわかるよ!」



主に鏡の前で決めポーズ取ってたせいで遅れかけたことは黙っとこう。



「えっと、いま授業で隣の人に自己紹介しようってなってるんだけど.....どうする? とりあえず私の名前だけ——」



左の手の甲が温かくなった。



何事かと思って机の上を見てみると、お姉さんはそっと手を重ねてきていて。自然と指をからませてきて。


お姉さんはぼーっとした笑顔を浮かべたまま、私に優しい視線を向けてくる。


手を握られるなんて初めてだったから、嬉しいような、恥ずかしいような、よくわからないけどなんか唇がムズムズして、



って、ちょ、ちょっと待って? 初対面。初対面だよね......??


な、なるほど? だいぶ距離が近い人なのかな?

びっくりしたぁ......嫌なわけじゃないけど......。


どっかのルームメイトさんと大違いだな。どっかのあのクソメガネルームメイトさんと真逆だね、ケッ、ケッッッッッ! あいつと比べたら全然こっちの方がいい!



「は......初めまして!私はウィ——」



ふわっと花の香りがすると共に、唇が開かなくなった。



肩をキュッて掴まれて。指先の温度が熱くなって。


彼女の髪が頬をくすぐってきて、痛くない蜂に刺されたみたいに手が、脳が、痺れ て 





キ——————っ!?!?!?!?






次話:氷は口説けませんでした


です、氷は口説けません

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