六十八話:ネルソービューの制服を着た悪霊
「ブレイズ! あんた全然野菜食べてへんやないか!!」
あらすじ!
キャベツくんを除くいつメンで朝ご飯を食べてたら、ミルルンがブレイズくんを強制連行してきました。
そしたら......
「そんでもって、炭水化物多すぎやろ!! 体壊すぞ!? 太るぞ!?」
「太りませんよ。......もう死んでいるのですから」
「関係ないわ!! 飯食えてる時点であんたもあーしも同じようなもんやろがい!!」
......ブレイズくんのママが増えました。
「百歩譲って、サラダを一個も頼まないのはわかるけど、ラーメンのニラすら食わんて! 子供か? ガキ舌なんか??」
ローリエは頬杖をつきながら、ブレイズくんの食べてるラーメンを睨みつけた。
ラーメンの次は牛丼を、その次はパスタを、その次はサンドウィッチ......。
ブレイズくんってもしかして、結構大食い......?
「......もやしは食べましたよ?」
「もやしは野菜に入らん!」
「入ります」
「ったく、綺麗に緑色ばっか残しやがって......ニラもほうれん草もレタスもみ~~んなしくしく泣いとるで?」
「野菜が泣くわけないじゃないですか」
ブレイズくんは椅子に座ったまま、一ミリずつ彼女から離れていく。
もうすでに、ローリエの隣に座ったことを絶賛後悔中の顔してる......。
「俺の食事情なんて、お前には関係ないでしょう。何をそんなに怒っているのです?」
「怒っとらん! ツッコんどんねん!」
「『ツッコミ』......? それは違うでしょう。ツッコミというのは、ボケ側がいないと成立しないものです」
「そういうとこやぞあんた」
「......?」
「んふふ~。それならブレイズく~ん、わたくしが食べさせてあげるわ~」
ちゃんと会話を傍から聞いてたらしいミルルンは、勝手にブレイズくんのフォークを手に取った(奪った)。
ほうれん草だけじゃなくて、パスタの麺も一緒にフォークに絡みつけて、
ブレイズくんと肩をくっつけながら、ふにゃっと笑って......。
「はいブレイズくん、あ~~ん」
「いりません」
「ほうれん草さんが、『食べてほしいよ~』って言ってるよ~? 悲しんでるよ~?」
「そんなことよりも近いです、離れてください」
案の定ブレイズくんは下を向きながら、フォークを............じゃなくて、ミルルンの頬を押し返した。
流石にあれかな。フォーク(+パスタ+ほうれん草)を手で押し返すのは痛いからかな。
「お前といいビューリューといい、なぜ野菜に感情を抱かせようとするのですか?」
「ほう? さてはあんた、『薬用植物学』取っとらんやろ?」
「え......『薬用植物学』では、喋る野菜と対峙を......?」
「ん? 普通に適当言っただけやけど?」
「............」
ミルルンともローリエとも顔を合わせたくなくなったらしいブレイズくんは、ジッと前を見ながらフォークを奪い返した。
そのまま、不満そうにパスタを頬張った。
私と目が合ったのは、たまたまなのかな。それとも助けを求められてるのかな。俺の代わりにこいつら二人をなんとかしろって言ってるのかな。
わかんないけど、とりあえず私は、
頬いっぱいに詰め込んでた天ぷらうどんを飲み込——
「ぶ......ブレイズさん! あの、ぼ、ぼく......ずっと気になってたんだけど......」
——む前に、オリーブくんが沈黙を破る。
彼はちょっとだけ前のめりになりながら、ブレイズくんと一生懸命目を合わせた。
「ぱ、パスタはあれ、だけど......ラーメンとかは、お箸の方が食べやすくない、かな......?」
「......そうなのですか?」
「少なくともぼくは、そ、そう思う、けど......」
フォークを手にポカンとするブレイズくんを見て、オリーブくんは少しだけ頬を染めながら微笑む。
「よ......よかったら、ぼくのお箸あげよっか? ぼく、今日は使わないのに、いつもの癖で、その......もらっちゃって......」
「......」
「あ、あげるよ! はい......これ......!」
オリーブくんは腕を伸ばして、ラーメン鉢に橋を掛けるように、箸を置いた。
あ! 『はし』だけに!
「............」
ブレイズくんはしばらく箸を見つめた後、まるで木の枝を拾うかのように、そっと握るように手に取る。
そして、瞬きをしながら箸を見つめ続けて、箸の太い側を下に向け......て......?
「......」
グーで握ったままの箸を、そのままラーメンの中にぶち込む。
二本とも。
「............、」
そして、箸で麺を刺そうとするけど、当然一本も刺さらず。
何回バシャバシャってやっても、醤油スープがその辺に飛び散るだけで。
「..................」
やがて彼はスープの中から、箸を掬い上げるけど。
ただただ、箸の持ち手部分が濡れただけだった。
「「「「「............」」」」」
私が吹き出さずに済んだのは、口いっぱいの天ぷらうどんを吐き出すまいと、唇を押さえてたおかげです。危ない危ない......。
「え......っと......ブレイズさん......」
オリーブくんは、苦笑いを浮かべながら、そっと首を傾けた。
「お箸の使い方......教えてあげようか........?」
すると、ブレイズくんは箸をその辺にポイッて捨てながら、ズレたメガネを直して、
「結構です。フォークの方が......効率的、ですので......」
......いつもよりも、ほんの少しだけ鋭めの声で、呟いた。
ブレイズくんを除く我々四人は、それぞれ、若干種類の違う笑みを浮かべていた。
「ご、ごめんね、ブレイズさん! みんながみんな、お箸を使えるのが当たり前なんて、か、勝手に思い込んじゃってて......」
「あんた、今日キャベツがここにいなくてよかったなぁ......あいつおったら絶対笑い散らかしとったで」
「大丈夫よブレイズく~ん、お箸の使い方、わたくしが教えてあげるからね~」
私もブレイズくんをいじりたいのに、イカ天ぷらが中々飲み込めないせいで、全然喋れない。
だから、拗ねるブレイズくんと、ブレイズくんを赤ちゃん扱いするママ(x3)の構図を眺めることしかできなかった。
「箸が使えなくても、フォークが使えればそれでいいじゃないですか」
「それはそうかもしれんけど、箸使えた方が便利なときだってあるで?」
「そうよブレイズくん、わたくしが教えてあげるから~。ほら、おてて出してね~」
「ば、バターフィールドさん、は......ブレイズさんに近づきたいだけなんじゃ.....?」
......ブレイズくんが、みんなに『悪霊』だってバレちゃったあの事件から、数日経ったけど。
ミルルンだけじゃなくて、ローリエもオリーブくんも、ブレイズくんを責めたりすることはなくて。
先生とか、他の生徒たちに言いふらすこともなくて。
そこまでは予想できたよ。だってみんな、すっごく優しいもん!
みんな優しくて、なんだかんだ、なんでも受け入れてくれて、
『わたくし............あなたを幸せにする』
『あなたを愛すわ』
『ブレイズくんにキスしようとすると、頬がぽぽぽ~ってなるわ~。どうしてかしら......?』
............ミルルンが、恋に落ちた相手を......受け入れないはずが、ないもんね。
でも、まさか......
「結構だと言っているでしょう! どうしてどいつもこいつも、余計な世話を焼こうとしてくるのですか......」
「当たり前やろ! あんた色んな意味で危なっかしいんやもん!」
「それにブレイズくん、とっても可愛いんだもの~」
「ぼ、ぼくも、その......話してみたら意外と、面白い、というか......えへへ......」
みんなが一斉に、ブレイズくんに甘々になるとは思わなんだ......。
そりゃあまぁ、あんなに号泣するブレイズくんを見ちゃったらね。
『愛されてはいけないんだ』とか、『幸せになる権利はない』とか。
『人外のいない世界を作らなくちゃいけない』、とか......そんな、重いこと言ってるの、聞いちゃったら......。
私......だって............。
『おれは もう にんげんじゃ なくなって しまった』
......どうして、ブレイズくんは......こんなに苦しんでまで——
「が......ガーディナー。見てないで助けてください」
「むっ!? わはひ!?」
急に話しかけられた驚きと、存在を忘れかけてた天ぷらうどんのせいで、危うく窒息するところだった。
ブレイズくんは三人のママに挟まれながら、私に目を向け続ける。
瞳の全体がほんの少し揺れていて、瞳の中の炎もだいぶ揺らいでて、
眉をひそめて......でも......。
「ま、まっへ! いっはん......いっはんのみほまへ......」
「は?」
私は高速でイカ天ぷらを噛みまくった後、飲み......飲み込..................
飲み込めた!!
みんなの視線が集まる中、私は頬の内側を軽く舐めた後、空いた口で息を吸い込んで、
さぁ! 刮目せよっ!
ウィローさんの第一声を!!
「——ブレイズくんは、赤ちゃんだったんだね!」
「はっ倒しますよ?」
だって!!
ブレイズくん、なんだかんだ満更でもなさそうなんだもん!!
ウィローさんは見逃してねぇぞぉ~~~?? 三人に甘やかされてるとき、ほんのちょ~~っと口角上げてましたよねぇ~~~??
「ふふん......ウィローさんの目は誤魔化せねぇぜぇ......?」
「本当になんなんですか?」
これ以上いじったらほんとにはっ倒されちゃいそうだから、口の中をチョコ饅頭でいっぱいにして誤魔化した(?)
......嬉しいなぁ。
ブレイズくんともこうして、いつものみんなと一緒に......楽しく話せて......
みんな、ブレイズくんと仲良くしてくれて......。
今日はキャベツくんいないけど、キャベツくんも多分、仲良くしてくれるだろうし......。
「......ガーディナーも炭水化物ばかりではないですか」
「わはひはひーんはよ」
「野菜も避けてますよね?」
「いやいやまはかぁ、ひのせいきのせい」
ブレイズくんのこと。まだまだ知らないこと、たくさんあるけど。
満更でもなさそうではあるけど、ブレイズくん......時々......ほんの一瞬だけ、暗い目、しちゃってるときあるけど。
考えすぎは良くないよね。
一件落着、なんだから。
ブレイズくん、またみんなと話してくれるようになったんだから。
みんなが、ブレイズくんと仲良くしてくれてるんだから。
知りたいとは、どうしても思っちゃうけど。
相手の事情に、無理やり踏み込もうとするのは......やっぱり、私には......。
「ビューリュー、ガーディナーにも制裁を下してやってください。俺ばかりを狙うのは不公平です」
「よっしゃ、任せい!」
「まままままままままっへ待っっっっローリエママぁっっ!!」
12月27日。
何年......なのかは、わからない。ずっとわかんないけど。
とりあえず、今年が終わる。
二年生も、もう半分終わっちゃったんだ。
去年に比べて、すごくあっという間に感じたのは......ここの生活に慣れたから、なのかな。
もちろん変わったことはたくさんあるよ。
大天使科に入ったし。周りのみんなも、どんどん人外に近づいてきてるし。
角が生えたり。肌の色が変わったり。翼が生えたり。
目に模様が現れたり、光るようになったり。
バイトができるようになったり。
部活には......結局入らなかったけど、入れるようになったり。
それでも、今のところ、二年生は......一年生よりは、平和。
......多分。
このまま、二年生も。
三年生も、四年生も。
その先も。
みんなとずっと、一緒に過ごせますように。
ブレイズくんも、みんなも、平穏に過ごせますように。
幸せに......なれますように。
「みずいろの——おねえ、ちゃん。」
「いぎゃぁぁぁぁあぁぁあああぁぁぁぁうわぁぁぁあぁああぁぁぁぁぁぁあぁぁあ」
一枚、二枚、五枚、n枚。
お皿がどんどん割れる音がする。
飛び散る。
幸い、肌のどこにも刺さらなかった。
火傷することもなかった。
......私のせいじゃないよ。
「~~~~~出っっ、ででででででっっな、なんで、なななななんああななな」
「ひさし——ぶり。みずいろの......おねえちゃん。こんなところに——いたん、だ。」
固まってるのは、私だけじゃない。
ブレイズくんも。
オリーブくんも。
ミルルンも。
ローリエも。
私たちのテーブルの近くに座ってる、他の生徒たちも。
そりゃそうだよ。
だって、ヒナタくん、堂々と私たちのテーブルの上に現れたんだもん。
醤油ラーメンもパスタもサンドウィッチも、天ぷらうどんもチョコ饅頭もアイスクリームも箸もフォークもコーンポタージュもオムレツもスプーンも全部、
踏んだり、こぼしたり、蹴飛ばしたりして。
食堂のド真ん中に現れたんだもん。
しかも......。
「えへ——へ。あの......ね。いまの、みた......? てれぽーと?できるように、なったんだよ。ふしぎな......どうぐで。テオの——おか——げ。」
............ネルソービューの、制服着てる。
一年生用の——水色の、ネクタイ。
長すぎる袖が、彼の膝に落ちてる。
手足の穴はほとんど隠せてはいる、けど......
顔の穴も、目の穴も露出して......——
「ひっっっっっぁ、っっっあああ、あく、ゆ、幽霊......!?」
オリーブくんは、椅子から転げ落ちそうになりながら後ずさった。
ローリエも、あんぐりと口を開けたまま、テーブルに置いていた両手をずり落とす。
ミルルンも、両頬にそっと指先を添えながら、キラキラした目でヒナタくんを眺める。
ブレイズくんは。ただ静かに青ざめてる。
......やばい。
やばいやばいやばいやばい絶対やばいやばいみみみみみんなに見られ
「みずいろの——おねえちゃん......ウィローおねえちゃん、だっけ? あのね、テオが——」
「うわぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁあ」
とりあえず私は本能のままに、ヒナタくんの手首を掴んで、
そのまま、食堂の外へダッシュしたのでした。
***
「なんでヒナタくんがここにしかもなんでネルソービューの制服着てしかも一年生でえ待ってどういうことねぇなんでっていうか食堂に急に現れるのやめて悪霊ってことで消されるというか退治されちゃうかもしれないんだからあのじっと見られたのがローリエたちでまだよかったかもだけど全然他に目撃者いたからあの」
「う......ゆっくり——いって。いっきにいわない——で......」
「それはごめん!!」
食堂の外に出ても、なかなか人目のつかない場所は見つからなくて。
とにかく廊下を走り回って、結局本校舎の外に出ちゃって、
草むらの上、極寒、影、校舎裏なう、ですけど......。
私は一旦冷たすぎる空気を吸い込んで、物理的に体を冷やして......改めて、ヒナタくんを見下ろした。
何度見ても、ネルソービューの制服。
あまりにもサイズが合ってない。無理やり走らせちゃってたときも、しょっちゅう裾につまずいちゃってたし......。
でも、それ以外はびっくりするほど変わらない。
一切光を反射しない黒豆みたいな、大きな穴のような瞳。
吐いた息と同じくらい真っ白で、血の気のない肌。
最後に会ったのは......一年生の時、だったよね?
死神さんと、ブレイズくんのところに連れていかれて......
そこで、ネルソービューの生徒は、みんなもう死んじゃってるって知って......。
『なん——で? なにがちがうの? ママと、ネルソービューのせいと......ぼくと、ネルソービューの——せいと......なにが——ちがう、の?』
『なんで、ママだけ——けされちゃう、の?』
「......えっとぉ......い......一旦いい?」
「うん。」
「ヒナタくんは、ネルソービューの生徒になった......の??」
「あはっ! そんなわけ——ない、じゃん」
よかったぁ~~~~~~~~
~~~~~~~って思うのは、さ、流石に最低だよウィローさん??
いや......別に、ヒナタくんが嫌いなわけじゃないんだけどさぁ......。
可哀想だと思うよ? こんなに穴だらけで、壊れちゃってて、お母さんもネルソービューに消されちゃって......。
でも......ヒナタくんがいるときって、大体なんか......やばいことが............。
「この——せいふく。テオが......くれた。ぬすんだって、いってた」
「ぬ、盗み......?? テオく......んは確かにやりそうだけど、なんで......?」
「せいふく、きて——こうしゃ、あるけって。いわれた......」
ヒナタくんは、芝生に着いた袖を眺めながら、ゆっくりと首を横に振った。
「......なんでなのか——わから、ない。テオのかんがえてること、よく——わからない」
「わ......わからないねぇ............私も全然わかんない............」
かけるべき言葉すらもわからなくて、私はとりあえず、ヒナタくんの頭を撫でる。
ちょっとだけゴツゴツしてるような気もするけど......それ以外は、普通の人間の頭って感じ。
テオくん......ほんとに何考えてるの......??
始業式のときも、『ネルソービューの生徒ってみんな死んでるんだよ~~?』って言って場を凍らせてたし。そのときは、教授側の隠蔽でなんとかなったけど......。
『悪霊』として警戒されてるヒナタくんに、ネルソービューを歩かせるとか......なんで? なにゆえ?? WHY????
もし捕まっちゃったら、ヒナタくん消されちゃうかもしれないんだよ??
ヒナタくんは、テオくんの大事な友達なんでしょ??
もし消されちゃったら......悲しくないの......?
「あ————そう、だ。そうだ。おもいだした。テオに——でんごん、たのまれた」
ヒナタくんは、私の手を両手で包み込む。
外がすでに寒すぎるおかげで、あんまり冷たく感じなかった。
彼の笑顔を見て、鳥肌が立たなかったのも......慣れてきた証拠、なのかな。
「で......伝言? 私に?」
「うん。ウィローおねえちゃんに、てつだってほしいことが......ある、って」
『悪霊』の笑顔に慣れるのは、良いことなのかな。
良いこと、だよね。
『悪霊』みんなが......悪いわけじゃ、ないもんね。
きっと......——
「『ネルソービューの生徒の記憶を、改ざんする手伝いをしてほしい』——って......テオが、いってたよ」
「ふぁ????????????」
次話:ネルソービューの生徒の記憶を、改ざんする手伝い(!?)
です。大変なことになってきました




