六十三話:もう人間じゃないね
キャベツくんを飲み込んだ後も、カエル人間は頭を抱えながら暴れ続けた。
「あ゜え゜うぇわ゜か゜おろ゜えお゜おおう゜ぇ゜れうせ゜うどお゜う゜あ゜し゜は゜」
体が崩れるスピードが早まって、鼻水のような液体がどんどん零れ落ちて、
どんどん、人の面影が消えて。
......え......え? キャベツくん、食べ、られ......?
無事、だよね。大丈夫だよね。
きっと今頃、カエル人間のお腹の中で、なんじゃこりゃーってなってて、
生き、て、
無事だよ。無事に決まってるよ。
そもそも私たち、もう、死ねないはずなんだから——
「あら~。駄目だよ~、キャベツくんは食べ物じゃないよ~」
青ざめていなかったのは、ミルルンただ一人だった。
彼女はカエル人間に微笑みかけて、優しく手を伸ばす。
「ほら、『ぺっ』しましょうね~」
「......あ゜......みあ゜し゜あ............」
カエル人間は静かに振り返ると、今にもポロッと落ちそうなビー玉のような目で、ミルルンをただ見つめる。
ミルルンはその場から動かずに、首を横に傾けた。
「キャベツくんを解放してあげよう? 大丈夫よ~、あなたなら——」
カエル人間の顎だけが、彼の足元まで落ちた。
真っ黒な空洞は、音も立てずにミルルンの体を吸い込む。
口を閉ざしたあと、カエル人間は舌なめづりをしながらお腹を撫でた。
残ったのは、ミルルンの花冠から落ちたであろう白百合だけだった。
「————っ、」
ブレイズくんは歯を食いしばりながら、銃を引き抜く。
銃弾は、ほぼ液状なはずの頭を貫くことなく、表面に留まる。
そのままゆっくりと、ドロドロの体に沈んでいく。
すると、ブレイズくんはすぐに銃をその辺に捨てて、
空いた手をカエル人間に向けて、その手をグッと丸めて、
「あ゜あぁぁ゜ぁあぁ゜ぁあ゜ぁぁい゜あぁぁあああ゜ぁぁ゜あ゜あ゜あ゜ぁあ」
青く、燃え盛る。
ブレイズくんの炎魔法だ。
カエル人間の体はあんなに燃えてるのに、寮の部屋自体に被害は広がってない。前見たときよりも、コントロールが効くようになったのかな?
銃弾と違って、ちゃんとダメージは通ってるっぽい。スライムのような腕から煙が出てるし、悲鳴が耐えず響いてるし、
い、いやでもっ、ほ、炎って、
「ぶ、ブレイズくん!! 炎はだめだよっ、中にいるキャベツくんもミルルンも火傷しちゃうかもじゃん!!」
私は杖を取り出して、申し訳ないけどブレイズくんを押しのけてっ
この間、唯一無詠唱に成功した魔法を思い浮かべながら、
「~~~~ごめんっ、でも二人を返せーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
結局何かは叫んじゃいながら、
杖をカエル人間のお腹に向けた。
風が吹いて、杖先に白い空気が集まって。
それが花よりも大きくなった後、放つ。
「ひあ゜ぁああ゜ぁぁぁう゜あぁ゜ぁぁうあぁぁぁ゜うあ゜うあ゜うあぁうあう」
「よ......っ、よし!! なんか効いてる!! 効いてるよ!!!! このままお腹を攻撃し続けたら、二人を吐き出してくれるよ!! 多分!!!!」
ブレイズくんに目を向けると、彼は頷いてくれる。
さっき捨てた銃を拾って、手のひらを銃口をお腹に向ける。
私も。役に立てる。
私も戦えるんだ。ブレイズくんと一緒に、みんなを助けられるんだ!
もうただの人間じゃない。
空気魔法で攻撃し続ければ、そ、そうだ、光魔法も効くかもしれないっ、
大丈夫。二人は無事。
このまま——
「————~~~~二人ともやめてっっっ!!!!」
強く背中を引っ張られて、髪が引っ張られるよりも痛くて——っ
——違う。背中じゃない。だって、背中を後ろに引っ張るなんて、できるはずないもん。
翼だ。ニット服の裏に隠れ切れてない、成長途中の翼を引っ張られたんだ。
オリーブくんに。
「っ......や......やめて......二人ともやめて......!」
彼はひどく息を切らしながら、私の翼とブレイズくんの袖を掴んでいた。
蜜柑色の瞳を揺らして、何度も首を横に振る。
「か、カエル人間、さんを......攻撃するのは......もう......!!」
「何故です? こいつに情けをかけるつもりですか?」
ブレイズくんはオリーブくんの方を振り返りもせずに、彼の手を振り払う。
青い炎を止めることなく、冷たい声で彼を刺す。
「今頃二人は窒息しているのかもしれないのですよ? 胃酸に溶かされているのかもしれないんだぞ? なのに——」
「違う!! ち、ちがうのっ、だ、だって、か、カエル人間を攻撃したらっ」
オリーブくんは震える手で、ローリエを指差した。
ローリエは背中を丸めながらその場にうずくまって、
床に爪を立てて、指先が真っ白になっちゃってて、
肩で息をしていて、
汗なのか涙なのかわからない透明が、滴り落ちてて、
お腹、を......抱えて......っ......、
「ま、さか、まさか、」
私はつい杖をその場に落としちゃって、でももう拾う気にはなれなくて、
私、が、
わ......たし、
「カエル人間を攻撃したら......ローリエにもダメージが——」
「あ゜ぁぁ゜ぁぁぁ゜あ゜あぁぁぁ゜ぁ゜あいぁあ゜ぁ゜ぁぁぁぁあ゜ぁぁ゜ぁ゜!゜!」
カエル人間は雄叫びをあげると、己の体の一部をまき散らしながら、部屋の扉を蹴破る。
そのまま、地を這うように逃げていく。
廊下には、乾きかけた筆で描かれたような、一本の足跡が残っていた。
「っ、待て! どこに行くつもりだ!!」
動いたのは、ブレイズくんただ一人。
銃を握りしめながら、強く床を蹴って、カエル『人間』の後を追う。
部屋に残ったのは、私と、オリーブくんと、ローリエだけ。
静寂が急に訪れると、ローリエのヒューヒュー鳴ってる呼吸が、一層よく聞こえる。
「......ろ......ローリエ、だ、大丈夫?」
私は立ち尽くしてるオリーブくんを横切って、ローリエの前に座る。
彼女の前髪は、汗でくっついていた。
全然顔を上げてくれない。
ローリエはずっと、白く青く染まっていく、自分の指先を眺めてる。
「ご、ごめんローリエ、私......召喚術の仕組み、よく知らなくて......っ」
「......」
「しょ、召喚されたやつ攻撃したら、召喚......した人?ヒト?も、ダメージ食らっちゃうんだね......ごめん、ほんとごめんっっ、痛かったよねっ」
「......あ......あーし......」
ローリエはやっと顔を上げる。
呼吸は浅いままで、脂汗が浮かんでて。
いつも付けてるはずの星のチェーンピアスが、重くて痛そうに見えた。
今にも、倒れちゃうんじゃないか、って、
「あ、あーしのせい......や......あーしが、っあーしが失敗したからっっ」
「いやいやいやいや違うよ!! 召喚術って難しいんでしょ? ローリエは悪くないよっ、もし私が召喚術やろうとしたら、ぜ、絶対もっとやばいことに——」
「あーしのせいや!!!! あーしのせいやねん!!!!!!」
ローリエは手を震わせて、
頭を抱えるべきか口を押さえるべきかすらもわからなくなったのか、上げた手をただ見つめたり下を見たり周りを見たり
一度も、瞬きせずに、
「しょ、しょうかっ、召喚術、は、あ、あーし、っっ」
彼女の瞼が赤くなる。
瞳孔がどんどん縮んで、白目部分が蝕むように広がって、
っえ
......ローリエの目が......光っ......て............?
「召喚術はっ、じ、実際に召喚するんちゃう、くて......っ......」
「複製体、こ、コピー作、る、だけやからっっ」
まるで傷口から溢れる血のように、涙が滲む。
シアン色の光を反射させる。
チカチカッて、やっぱり、光ってる。
ローリエの目が、信号機みたいに光ってる。
「あ、あーしの想像力、が......試さ......、」
光ってるだけじゃない。
ローリエの瞳に、暗いシアンの模様が浮かび上がってる。
片方には、小さな雷。
もう片方には、泡のような。毒のような。
......魔女になったから?
これが、魔女の特徴なの......?
「あーし、がっ......余計なこと考えたからっ......!!」
ローリエは両目を覆って、引っ掻くように押さえて、
「あーしのせいでキャ、ベツがっっミルフォイルが」
「ろ......ローリエ、違うよっ、ローリエは——」
「ど、うしよ、どうしようっも、し、もしあ、あいつら、が、~~~っ」
呼吸がどんどん荒くなっていく。
今にも発狂しだしちゃうんじゃないかって。
こんなに取り乱したローリエを見るのは......あの時以来、で......。
『~~~っさわらないで!!!!』
「、ローリエ......」
私は、つい伸ばしそうになった手を下ろした。
ど......どうしよう。
カエル人間は攻撃しちゃだめ。ローリエが痛い思いするから。
でも、早くキャベツくんとミルルンを助けてあげないと、大変なことになるかもしれない。
そもそも、ブレイズくんを一人で行かせてよかったのかもわからない。
もし今頃、ブレイズくんまで食べられちゃってたら......。
か、考えなきゃ。なんとかしてあげなきゃ。
私は天使になるんだよ? 『大天使科』だよ?
誰も安心させてあげられない天使なんて、そんなの......、っ
「ロー、リエ、だ、だいじょうぶ、で——」
「ビューリューさん」
小さな足音が近づいてくる。
胸に冷水が広がる。
オリーブくんのこと、忘れかけちゃってたから。
でも......オリーブくんは......。
「......あの......あの、ね。お、落ち着い、て。き、きっと大丈夫、だから......」
オリーブくんは、思ってたよりもずっと穏やかな表情を浮かべていた。
てっきりローリエみたいにパニックになっちゃってるんだろうなって、勝手に思ってて。私。
オリーブくんはそっと息をつきながら、私の隣で正座する。
膝の上で指をもぞもぞさせて、そっと目を細めて。口角を上げて。
彼の唇は、そこまで震えていなかった。
「え、っと......その......ビューリューさん......」
「あっっあーし、っっは、はぁっ、ご、め——」
「目を......閉じてくれる、かな?」
オリーブくんは苦笑いしながら、垂れ耳のように跳ねた髪をいじる。
彼の目は、いつも通り泳いでいた。
「......目......目? あ、あーし、が? 目を、な、んで」
「ご、ごめん! えっと、す、すぐ終わる、から......」
目を閉じる......? 魔法でも使うのかな?
でもなんで目を閉じてもらう必要が——
「ビューリューさんも......が、ガーディナーさんも! 目を閉じてくれる、かな?」
「......へ??」
え?? わ、私も?? 私も目閉じなきゃいけないの????
「い、いい、けど......オリーブくん、何をするつもりなの......?」
「......」
オリーブくんは眉をひそめながら、あせあせと笑う。
三日月型のアホ毛が、少しだけ下がってる。
言えないんだなって。すぐにわかった。
「......わかった............」
私は大人しく目を閉じる。
きっ......気になるぅ~~~~~っっっけど駄目だよウィローさん?? 駄目だよ??
相手はオリーブくんだからね? キャベツくん相手ならまだ良いかもだけど、お、オリーブくんだからちゃんと言うこと聞いてあげようね?
でも......ほんとに何してるんだろ?
ローリエだけならわかるけど、なんで私まで目を......?
それになんか、ずっとカチャカチャ鳴ってるような......??
ん、ん~~????
「ふ、二人、とも。もう開けて大丈夫、だよ......」
思ってたよりも時間かからなかったから、目を開けても『眩しいっ!』とはならなかった。
肝心のローリエは、まだ目に涙を浮かべてたけど......
肩の力がちょっと抜けてるような。瞳孔の震えが収まってるような。
そ、そして何より、目がチカチカ光るのがなくなってる!
浮かび上がってた雷と毒の模様も、目をよく凝らさないと見えないくらいしなってるし......。
「びゅ、ビューリューさん......ど、どう? 少しは落ち着いた......かな......?」
オリーブくんはちょっと不安そうに笑いながら、
ローリエの手を、
掴——
「おおおおおおおおおおオリーブくんダメダメダメそれはダメさわっちゃダ——」
————メ、って。オリーブくんを引き離そうと手を伸ばしたけど、もう遅くて。
オリーブくんはローリエの手を握って。
でも。
でも。
で、も、
「っ......、......?......??」
ローリエは、掴まれた手を眺めてた。
眺めるだけ、だった。
指先と指先が触れても。重なっても。ローリエは眉をひそめるだけだった。
自分でも、なんで平気なのかわからないって顔してた。
ローリエが......さわられても......殴らない......??
怖がらない? パニックにならない??
なんで......? だって、だってローリエはっ
急に平気になるなんてありえないはず、で、
「落ち着いた、かな。ごめんね、勝手に......その......」
オリーブくんはローリエの手を、両手で包み込みながら、そっと首を傾ける。
「ま......まずは、落ち着かせてあげなきゃ、って......お、思って......ま、まだ嫌だったら、突き飛ばしていいからね! う、うまくいったか、じ、自信ない、というか、え、っと......」
オリーブくんが何を言ってるのか、よくわからない。
それはローリエも同じみたいだった。
「......オリーブ......あんた......」
ローリエは制服の袖で涙を拭った後、握られた手とオリーブくんを交互に見る。
彼女の目にはまだ、不安と戸惑いが残って......。
「あんた......あーしに何をしたん......?」
「え、えへ......えへへへへ............。............」
オリーブくんはパッとローリエの手を離すと、そのままゆっくりと立ち上がる。
そして、私たち二人を見下ろしながら......どこか嬉しそうに、笑った。
「よ、よかった! ぼ、ぼくも......役に立てた、みたい......で......」
逆光の中、目を凝らしてみる。
彼の、灰茶色の髪をよく見てみると......黒い棘......?のようなものが覗いている。
つ......角、だよね。これ。
成長途中でまだ短い、真っ黒な角。
「じゃ、じゃあ、早くみんなを追いかけよう......! き......きっと、みんなを助ける方法があるはず、だ、から......!」
オリーブくんがなんの人外に成ろうとしてるのかは、未だにわからない。
私もみんなも、ずっと聞けずにいるの。『オリーブくんは何科に入ってるの?』って。
聞くたびに誤魔化されたり、トイレに逃げられたりしちゃうから。
どんどんタイミングを失って。聞いちゃいけないような気もして......。
「「......」」
私とローリエは、顔を見合わせた。
ローリエの目は、点滅しなくなった代わりに、光を失っちゃっていた。
***
なんというか、拍子抜けだった。
あのね。
ローリエが落ち着いたみたいだったから、急いでカエル人間を追いかけに行くでしょ?
でも、私たちがたどり着いた頃には、もう全部解決してるっぽかったの。
「あら~、ローリエちゃんたちだわ~。やっほ~~」
「......随分遅かったですね」
みんなは、寮のロビーのド真ん中にいた。
カエル人間は、床に描かれたコンパス模様の上にうつ伏せていて。
動かなくなっちゃってて。
ブレイズくんとミルルンは、カエル人間のすぐそばに座って、二人で仲良く彼の顔を覗き込んでいて。
キャベツくんもその辺に寝そべってて。
「え?? え!?!? み、ミルルンにキャベツくん!! いつの間に出てきたの!?!?」
私は一応キャベツくんの様子を見て上げた後(息はしてたよ、目がぐるぐるになっちゃってたけど)、カエル人間の元に駆け寄る。
彼は寝転んだまま、一切動こうとしなかった。
肩は上下してるから、息はしてるっぽいけど......?
「えと......どういう状況?? も、もしかして、やっつけちゃったの? カエル人間......」
で、でも、カエル人間に攻撃しちゃったら、ローリエにも影響があるはずで......。
「俺にもよくわかりません。追いかけていたら急に立ち止まって、泣き出して、と思ったら急に落ち着いて......」
ブレイズくんはメガネを直しながら、銃でカエル人間の頭をつつく。
四角い跡が、スライム状の体に残る。
「バターフィールドと......誰かさん......を吐き出した後——」
「オレはキャベツ・グッドネスだ!!!! っっウォエッ、叫んだせいで吐き気が......ッ」
「......このように、カエル人間は動かなくなってしまったのです」
『急に泣き出して』......『急に落ち着いて』......??
私はつい、まだ後ろにいたオリーブくんたちの方を見た。
オリーブくんはポカンとした表情で、何回も瞬きしてて。
ローリエは、カエル人間からもオリーブくんからも顔を逸らして......。
もしかしなくても......ローリエとカエル人間って、痛覚だけじゃなくて、感情も繋がってたりする?
わ、わかんないけどね! もし完全に繋がってたら、『キャベツくん食ってやる!』なんてならないだろうし!
「でもねでもね~、動かなくなっちゃっただけじゃなくてね~、ずっと何か言ってるのよ~。耳をすましてみて~」
ミルルンは濡れた長髪を絞りながら、指先でカエル人間の腕をつつく。
丸い跡が、スライム状の体にできて、すぐ消える。
「頑張れば、なんて言ってるかわかりそうなのよね~。ね~ね~、ブレイズくんはなんて言ってると思う~?」
「わかりません」
「んふふ~、興味もなさそうだね~」
そんなこと言われたら気になっちゃうから、ウィローさんは恐る恐る耳をすましてみる。
確かに、謎のブクブク音に加えて、日本語っぽいのが聞こえなくもなかった。
でも声量が小さすぎて......う......う~ん......??
「どう~? ウィローちゃ~ん? なんて聞こえる~?」
「......じ......『じっきゃ』......? あ、『実験』......『実験た』......。『実験だ~! わ~い! 石鹸おいしー!』」
「最後の方諦めましたよね?」
すると、カエル人間はゆっくりと起き上がる。
ブレイズくんは速攻戦闘態勢に入ったけど、私はなんとなく脅威を感じられなくて、ただただぼーっとカエル人間を見つめた。
「ほ゜へ゜はほ゜ほ゜へ゜......ひほ゜ほ゜」
「お、おはよっ、カエル人間......さん? もう食べないでね......?? ウィローさんは美味しくないよ~~......?」
「............ほへ゜......」
そしてカエル人間は、急にビシッと立ち上がって。
100メートル走世界一位の人もびっくりな、それはもう美しいフォームで走り出して、
寮の外へ逃げて行ったのでした。
......????????????
「あ~~~~もうええよっ、あいつはほっといて! どうせ時間経過で消えるやろし......」
ローリエはため息をつきながら、オリーブと一緒に私たちの方へ歩いてくる。
両腰に手を当てて。口を尖らせて。
「ご......ごめんな、あんたら。変なんに巻き込んでしもうて......」
「ほんとだよ!!!! チビロリのせいでオレ——ヴォェェエッッッき、気持ちわりぃ......」
「あらら~、キャベツくんは無理しちゃだめだよ~。いっぱいスライム飲み込んじゃったんでしょ~?」
ローリエは咳払いして、キャベツくんとミルルンをガン無視する。
そして、少しだけ頬を赤く染めて......まるで石でも蹴るかのように、片方の足を動かす。
眉をひそめて、手を丸めて......でも、ちょっとだけ笑ってた。
「......なんか......色々悩んどったんが、アホらしくなってきたわ」
彼女は誰にも聞こえないように、そう小さく呟いた。
つもり、だったんだろうけど......私には聞こえちゃってた。
悩みって......あれかな。
食堂のご飯に、薬が盛られてるって、知っちゃったことかな。
「あははっ! アホらし!! もうええわ、もうなんでもええわ!」
「ち、チビロリてっめぇ!!!! ヒトが食われてたってのに何笑ってんだよ!?」
「んふふ~。ローリエちゃんが元気で、わたくしも嬉しいわ~」
......ローリエの独り言、オリーブくんにも聞こえてたのかな。
彼はほっと胸を撫で下ろしながら、ローリエに温かい目を向けていた。
ハッピーエンド。一件落着。
なのに。
「......っ!」
背筋が凍る感覚がした瞬間、後ろから変な音がする。
振り返っても、特に何もなくて。笑ってるみんなしかいなくて。
......あ。なんだ。
私の翼が、勝手に動いた音か............。
次話:ミルルンの良くないところ
です。良くないです




