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六十一話:セイレーンとキューピッドとゴブリンと鬼とトロールが合体したら、どうなると思いますか?

「何もかもが思ってたんとちげぇ......」



キャベツくんは頭を抱えながら、私の前をトボトボと歩いた。



「『笑顔拡散委員会』に入るための試練? 試験??あるとか聞いてねぇし......思ってたよりもあいつら......なんつーか......」

「......アホ?」

「それだ!!」



もし『笑顔拡散委員会』の方々に訴えられたら、全部キャベツくんのせいにしよ~っと。



「あいつらがやべーやつらなのはわかってたんだぜ?? レベッカ パイセンから色々聞いてたしよ! でも......でもよォ......!!」

「レベッカ先輩も、なんというか... 思ってたよりも苦労人キャラだったね......」

「パイセンよ、あの例の『ガジェット』はみんなで作ってるっつってたから......全員頭は良いはずなんだけどな......」



彼はその辺に落ちてた白い小石——いや、割れた牙......?を蹴り飛ばす。牙は奇跡的に他の生徒たちの足の間を抜けて、目で追えないところまで飛んでいった。


いや、やっぱ牙なわけないか。廊下に牙落ちてたら普通にホラーだもんね......。



「このオレを圧倒するとは......やるじゃねぇか、『笑顔拡散委員会』......ッ!!」

「またキャベツくんがよくわかんないこと言ってるー」

「オレ今お前の真似したんだが??」

「ふぁ?? いやいやいや全然似てないじゃん100%キャベツくんだったじゃんっ、キャベツくん(CV:キャベツくん)だったじゃん!」

「お前の方がよくわかんねぇこと言ってんじゃねぇか!!」



私とキャベツくんは同時にぷいってした。



「「......まぁでも、【ガーディナー】【キャベツくん】なら【あいつら】【あの人たち】に馴染めそうだな............」」

「「アァン!? 【真似すんじゃねェよ】【やんのかテメーこらぁっ】!!!!」」



私たちは結局お互いを睨みつけた後、結局またぷいってした。



頬でも膨らましたい気分(?)だったけど、『何かわい子ぶってんだテメェ』って馬鹿にされそうだから我慢した。

代わりに唇を噛んだら、マーモットみたいな顔になっちゃった。



この感じ......ちょっとだけ懐かしいな。


思えば、キャベツくんと二人っきりになるのは久しぶり、かも......? いうてそんなに久しぶりではないかな?


どっちにしろ......

............



「お、オホンッ!!!!」

「うぉっっびっくりした、なんだよ急に! パイセンの癖が伝染ったのか??」



私はキューピッドの矢を握りしめながら、視線を向けるべき場所を探した。

キャベツくんと目を合わせるためだけに顔を上げるのは、その、癪だから、そのまま彼の背中の一点を見つめる。


......ジュースの染みみたいなのが付いてる気がするんだけど、流石に気のせい?



「そ、それにしてもぉ......どうすんの? この試験難しすぎない??」

「なんだァ? もう諦めてんのかガーディナー?」

「だってぇ......そもそも『恋してる奴を見つける』って時点でハードルが......」



まつ毛先輩によると。


『笑顔拡散委員会』に入るためにはまず、



1:恋に落ちてるやつを見つける

2:このキューピッドの矢を当てる。ちょんって当てるだけでオッケー

3:無事、恋を成就させる



って、やんなきゃいけないらしくて......。

『笑顔拡散委員会』と恋愛成就に一体なんの関係があるのかよくわかんないけど......。



「......冷静に考えてみなよ。私たちに誰かの恋を成就させられると思う?」

「むしろ無茶苦茶にする予感しかしねぇな」

「でしょお!?」

「でも待て!! 諦めんのはまだ早ぇ!!」



キャベツくんは急に立ち止まると、手のひらを前に出したと思ったら、人差し指をメトロノームみたいに動かす。


私は両腕を組みながら、できるだけ『どうせ馬鹿なこと言うんでしょー?』って感じの顔をした。



「......ワンチャン......ワンチャンよぉ......」

「うん」

「恋してねぇやつに矢ァちょんってしてもバレなくね??」



ほらね。



「だってよ!! キューピッドの矢といえば、恋に『落とす』やつだろ?? まつ毛野郎は『恋心を倍増させるものデシテヨ~~~!』つってたけど、ワンチャン落とすこともできんじゃね??」

「で、でもっ、先輩たちが『改良』したキューピッドの矢だよ?? なんかやばいこと起きそうじゃない??」

「そ......そんときはそんときで......」

「仮に恋に落とせたとしても、倫理観的にどーなのそれ......」

「ウグゥッッッ」



わーい! 珍しく完全論破~~! きもちーーー!!



「とにかく、キャベツくんのアイデアは却下! まったく、油断も隙もないんだから......」

「腹立つゥ......」

「キューピッドの矢は、引き続きウィローさんが預かります! ほれぇっ、働けぇ! 恋を探しやがれぇ!!」



私はキャベツくんの背中を押して、無理やり前を歩かせた。


キャベツくんはなんか色々ぶつぶつ呟きながら、足を引きずるように動かす。どうせウィローさんの悪口言ってるんだろうなー。陰湿ー。陰湿キャベツー!



......とはいえ、キャベツくん一人に探させるのもあれだし、私も一応辺りを見渡してあげた。


仲良く話してる生徒たちはたくさんいる。お互い分厚い教科書を抱えて、歩幅も合わせながら歩いてるゴーレム二名とか。

廊下のシャンデリア付近を飛び回って遊んでる妖精たちとか。


ずっと俯いたまま歩いてるインキュバス......は、一人っぽいな。暗い表情だけど、なんかあったのかな? このあと三時間続く筆記テストがある、とか......? 南無......。



誰と誰が友達っぽいのかは大体わかるんだけど、やっぱり恋ってなるとなぁ......本人に聞くしかないんだろうけど、流石に見知らぬ二年生に『恋しちゃってますか!?』って聞かれるのは怖いでしょ......。



「ガーディナァ~......ずっと人混み見てたら酔ってきたぞオレェ......」

「あれ~? もう諦めちゃうのー?」

「お前もぼーっとしてねぇで探すの手伝えよ!!」

「言われなくても探してますぅ~~」



やっぱ身近なところを探すしかないのかな......。


......身近......。



「クソォ......せっかく二年生になったから、なんかの部活に入りたかっただけなのに......」

「......」



身近って、言われたら......

オリーブくんしか思い浮かばないけど............。



『好き、なんだ。ガーディナーさんのこと......』

『れ、恋愛対象として......見ちゃって、る............』



また、両手でキューピッドの矢を握りしめる。

矢先に埋め込まれた宝石は、私の瞳と同じ色だった。



恋愛を、成就させなきゃいけないって、ことは......私が......。


オリーブくんのこと、本当に好きになるつもりなら......そろそろ............っ、



「......で、も......ぅぅ......なんで私、逃げてばっかりで......」

「ガーディナー?? なんか言ったか?」

「み゜っっっ!?!?!?!?」



危うくキューピッドの矢を真っ二つに折るところだった。


わ、わわわわ私、い、いま、声に、出......!?



「なななななななななんでもないなんでもないほんとになんでもない!!!!」

「なんだァ? オレの悪口かぁ?? 陰湿ガーディナーめ!」

「違うからぁ!! 悪口ならちゃんと面と向かって言うからぁ!!」



私は何度も唾を飲み込んで、胸から出てきそうになる心臓を抑え込もうとする。

おかげで酸欠になるところだった。


これ以上変に怪しまれたり心配されたりしたら嫌だから、


今度は両手で彼の背中を押し——



「————!?!?」

「あ」



はい。


私は愚かです。



これは流石に怒られても仕方ないと思う。

ウィローさん最悪です。ドジっ子で済まされるレベルじゃないです。



「......oh......キャベツ、く......」

「うっっっ......ぐ......!?!?!?」



......えっと......え~~~っとね。



両手でさ。キャベツくんの背中押したじゃん?


片方の手にさ。キューピッドの矢、持ってたじゃん?



......ちょんって。なるじゃん?


矢が......キャベツくんに......当たっ......。




「ち、ちちちち違うのキャベツくん、わ、わざとじゃ——」

「グワァァァァアアァァァァアァァァァァアァァァァァァァアァァァァ!!!!!!」




キャベツくんは天を仰ぎながら、断末魔をあげた。



その瞬間、彼の体が桃色に発光する。



もう一度言います。


キャベツくんの体が、桃色に発光しました。



まるで世紀末かのように、周りもピンクの光に照らされて。

100%キャベツくんから来てる風が暴れ狂って。


立ち止まる生徒。集まる視線。

止まらない断末魔。風。眩しい光。

完全に、ロケットが発射するときのアレみたいになってた。



「ウワァァァアァァアァァァァァアァァアァァァァァァアァァァアァァアァアァアア」

「きゃ、キャベツくーーーーーーーーーーん!!!!」



......しばらくして、一番最初に止まったのは風だった。

そのあとは、少しずつ光が死んでいって。断末魔も止んで。


キャベツくんはその場に座り込んで、ガクッと肩を落とす。



そして、何も起こらなかった。

っていうのは、流石にまだ早いかな......?



「お、お~い......? キャベツくん? 生きてる? いや生きてな——オホンッ!............生きてるぅ......?」



私は四つん這いになりながら、ゆっくりとキャベツくんに近づく。

周りの視線が、ちょっと......だ、だいぶ、くすぐったい。


......当てちゃった。ちょんってしちゃった。キャベツくんに。

キューピッドの矢を。



「ご、ごめんね? その......わざと、じゃ......なくて............」



生徒たちのひそひそ声が気にならないくらい、心音がうるさくて。

まるで、虎か何かに近づこうとしてるような気分で......。


あ、あながち間違ってないのかもしれない。キャベツくんって半獣人科だし。



「お~い? も、もしも~し?」

「......」

「な、なんか言ってよ......ねぇ......」



私は、おそるおそる彼の肩に手を伸ばす。

顔を覗き込む勇気は、どうしても出せなかった。



「あ......あやまる、から——」




掴まれた。



指先が、彼の背中に触れる直前に。



し、しかも、手とかじゃなくて......両頬を。

おっきい手で、むぎゅって。




「んぶっっっ!?」

「. . .」



動けない。


キャベツくんの手は冷たかった。

ちょっとだけ湿ってもいた。



「きゃ、きゃれつく......? しゃうぇれな——んぎッ」



地面に押し付けられた。


彼の指先が頬に食い込んできて、微妙に痛い。



キャベツくんの額は赤くなってた。

見開いた目が、白く光ってるように見える。



影が落ちて、熱も落ちてきて、


酸素が薄くなっちゃって。



そういえば、キャベツくん。最近、マーケットですごい小さいピアス買ってたっけ。

シンプルな黒い丸。左耳にだけ。


私がいつも付けてるやつと違って、全然目立たない。


でも。同じ色。




「. . . . . .」




こ。


これって。



こここここここここここれってっっっっっっ




「んぶ......う......や......め............」

「......ガーディナー......」




ぎゃーーーーーーーーーーっ!!!!!!

ぎゃーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!



こ、これってどっち?? どっち!?!?


恋に『落ちた』の!?

それとも恋心が『倍増』したの!?!?



いや、いやいやいや、きゃ、キャベツくんは多分私のこと好きじゃなかった、


はず、で、



「が、ガーディナー、お、れ」

「あばっ、あばばばばばばばっぶぶぶっぶうあぶあぶあぶあぶあぶぶぶ」



『お前は......オレにとって、特別......だからよ......』



違う!!!! だって、だってあれは結局、っ

そういうことじゃ、なかった、んじゃ——



「............わりぃ」

「——————っ」



あたまがまわらない。

あたたかいにおいがした。


キャベツくんの毛先はくすぐったかった。



だから。もう。




目を閉じるしかなかったの。








「き、君たち!!!! 公共の場で何して——」


「~~~~~っっっやっぱダメーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」




ここからはまた、ある意味奇跡の連続だった。



あのね。まずはね。


ウィローさん史上初の、無詠唱が成功したの。

このタイミングで。



『ダメーーーーーーー』って言いながらキャベツくんを押し返そうとしたら、自分の手から風の塊? 空気の玉??みたいなのが出てきてさ。




「ギッッッッッッッ」



キャベツくんは、天井に頭から突き刺さっちゃった。



それで。たまたま、その辺に置きっぱなしだったキューピッドの矢もね、私の空気魔法で吹き飛んじゃったの。


そのキューピッドの矢は、誰に当たっちゃったと思う?



「うわぁぁぁあぁぁぁあぁあああぁぁあぁあぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁああ」



騒ぎで駆けつけて来た、トモル先生。



先生もキャベツくん同様、真っピンクに輝いてさ。

あまりにも猛スピードで事が進んでいくものだから、その光ってる時間も一瞬に感じて。



「......」



トモル先生はベーコンになっちゃった。


そのまま地面に落っこちて、ぺしょっと音を立てる。



......あのさ。ちょっと待って?


まずさ、『笑顔拡散委員会』さ、ベーコン好きすぎね?

トモル先生、巻き込まれすぎね?



そんで、なんでトモル先生だけベーコンになんの?

キャベツくんは無事だったよね? ただ暴走するだけだったよね??


なのになんで先生だけベーコンに????



「......」



不特定多数がいる中で、こんなに長い沈黙が続いてるのを見るの、初めてかもしれない。



トモル先生の隣にいたらしい校長先生————アポネ先生でさえ、ポカンとした顔でベーコンを見下ろしていた。


天井に突き刺さったままのキャベツくんは、動かなくなっちゃった。



「......」

「......」

「......」



アポネ先生は、足元に落ちていたキューピッドの矢を拾う。

灰色の翼が、ぶわっと広がっていく。




「......一体、誰の仕業で——」


「アテクシが説明させていただきマスワーーーーーーーーーーッ!!!!!!」




こうして。


まつ毛先輩は、満を持して登場したのでした。



「アテクシはキューティー・ハネムーン! キューピッド科代表の、『笑顔拡散委員会』の新リーダー!!!! デスノダワッ!!」



喋ってるのは彼女一人なのに、静寂をぶち壊すには十分な声量だった。

......って、あれ? 新リーダーって確か、セイレーンの先輩じゃ......?



「アテクシが改良したキューピッドの矢は、ターゲットの恋心を倍増させるだけではなく! ターゲットの思いビトが好きなものへ、変身しマスノッ!! つ・ま・り!!」



まつ毛先輩は、アポネ先生を動く縦ロールでビシッと差した(?)



「アポネ先生がだ~~い好きなトモルは!! アポネ先生が大好きなベーコンへ変身いたしましたノヨ----ッ!!!!」



あ......。

この前トモル先生が、ベーコンのコスプレさせられてたのって......そういうこと......?



「オーーーッホッホヘホッホ! これで校長は、ベーコンになったトモルを愛せますわね! よかったですわねっ、トモル!」



トモル先生は何も答えなかった。何故ならベーコンだから。



「............」



アポネ先生は、頭上に浮かぶ天使の輪っかを、強く掴んだ。

いつも以上に、黒く光ってるような気がした。



「言い残すことは、それだけですの?」

「ナッッッ!? アテクシたちを罰するつもりで!?!? 残念でしたワネッ!!!!」



まつ毛先輩はフグみたいな顔で、口笛を吹く。


すると、どこからもなく、浮くディスクに乗ったマーキュリー先輩、



......と......。



「マーキュリー・ルース。セイレーン科。『笑顔拡散委員会』の新リーダー」



あ、これ、全員律儀に自己紹介してくれるパターンだ。

しかも、全員『新リーダー』を名乗るパターンだ。



「ジャスパー・ゴンザレスゑ! ゴブリン科ゑ!! 『笑顔拡散委員会』の新リーダーゑ!」


緑色の肌で、桃色の髪で......ごめん、どちら様??

はじめまして、だよね......?



「ライケル・ヘルブレッドだぜぃ! 鬼科で『笑顔拡散委員会』の新リーダーだぜぃ!」


茶髪の......だ、誰......?



「デボラ・アルミルートだに。トロール科だに。一応『笑顔拡散委員会』の新リーダーだに」


ほんとに誰ぇ......????




「おまえたちーーーーーっ!! アテクシの元へ集いなさい!! 合体するわヨッ!!!!」

「「「サーイエッサー!」」」




......見た光景を、そのまま話すね? 嘘ついてないからね?



まず、まつ毛先輩が床に寝そべって。

その上に、トロールの先輩が座って。

その上に、鬼の先輩が乗って。

その背中に、ゴブリンの先輩がひっついて。


そして、一番上に、マーキュリー先輩が浮いて。



五人は『合体』して。



「「「「フォーム:ゼロ!!!!」」」」

「......」



......恐ろしいほど、何も起きていなかった。


ただただ、五人がくっついてるだけだった。



「あもっっ!? な、なんでトロールのお前がアテクシの上に乗るんですノッ!?!?」

「うえぇぇぇ!? そっちが先に床に寝転んだ癖に、だに!!」

「重いゑーーー! 苦しいゑーーー!」

「誰だぜぃ......? 俺の角を噛みやがったのはだぜぃ......!」

「僕、もう帰っていい? レベッカから離れすぎると死んじゃうんだ」



周りの生徒のほとんどが、息を止めていた。


トモル先生は、ベーコンだった。


キャベツくんは、天井に突き刺さってた。



アポネ先生は。



「......」



天使の輪っかをぶん投げた。




「「「「待っ」」」」





————結局。


『笑顔拡散委員会』に、私とキャベツくんは入れませんでしたとさ。



めでたしめでたし。





次話:キャベツくん、マジのガチで食べられる

です。グロくはありませんが、本当に食べられちゃいます

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