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六十話:見てはいけないものを見てしまった......

「テメェら!! 『笑顔拡散委員会』に興味はねぇか!?」



キャベツくんはお箸をぎゅって握りながら、大勢の前で熱弁してる偉い人みたいな(つら)をした。

ここでサラダ食べてたら、もっとおもしろかったのに(?)



「え、笑顔拡散......? き、聞いたことはある、けど......えっと......」



オリーブくんはフォークを豚肉の上に置きながら、小さく首をかしげる。



「確か、『いたずらサークル』とも呼ばれてるって......」


「んふふ~、あれよね~? マーケットで面白いもの売ってる子たちのことよね~?」



ミルルンは両手で頬杖をついて、クッキーを口にくわえたまま会話に入ってきた。

すごいなぁミルルン、あの状態で普通に喋れるなんて......私なら絶対むぐむぐむぐってなっちゃってるもん。



「入れ替わりの機械とか~、性転換させるやつとか~。全部面白かったよね~」

「だろ!? だからよっ、お前らオレと一緒に入会しねぇか?? 一人で入んのもつまんねぇからよォ!」



『笑顔拡散委員会』ねぇ......キャベツくんなら絶対いつか言い出すだろうなって思ってたよ。二年生になる前から気になるって言ってたし。

むしろ、今になるまで言い出してこなかったのがびっくりなくらい。


ほ......ほら、ウィローさんは優等生だから? 全然気になってないし?? ちょっと入ってみたいとか思ってないし?? いたずらしてみたいなんて思ってない、し......ないしぃ......。



「......相変わらずあんたはすぐあーしらを巻き込もうとするよな」



すると、さっきまで静かだったローリエは、ジュースの中の氷を見つめながら口を開く。

コップのフチに触れて。なぞって。中の氷をそっと揺らして。



「あーしはパス。いたずらなんて興味ないし」

「おっ、なんだぁ~~?? チビロリお前、もしかして怖いのかぁ~~??」

「そーやね。怒られるのは嫌やもん」

「へ???? あ、ゑ、......お、おう............お前、変なもんでも食ったのか......?」

「......」



煽りが全く効いてないローリエを見て、キャベツくんは彼女の顔の前で手を振ったり色々するけど、ローリエはぷいっとそっぽを向くだけだった。


......ローリエ......。



やっぱり......前のことがあってから、あんまり元気ないよね......。

............。



「ん~~。ローリエちゃんが入らないなら、わたくしもやめとこっかな~」



ミルルンはローリエに抱きついて、案の定殴られてた。

叩かれた場所を手でさするミルルンは、いつもよりも柔めに微笑んでるような......?



「それに~、わたくし、いたずらとかあんまりわからないもの~」

「おっっお前っ......今まで散々色んなやつらに抱きつくなりキスするなりしてきた癖に、よくそんなこと......」

「ん~~? あれはいたずらじゃないよ~?」

「......そっか......」


「あ、あの......キャベツさん......ぼくも、その......」



みんなの会話を聞いてたオリーブくんも、申し訳なさそうに手を上げて......



「い、いたずらとか、ちょ、ちょっと怖い、かな......。その......委員会?って、怖い人たちも多そうだし......な、馴染める気が......」

「なんだよ~~!! どいつもこいつもノリわりぃな!!」



というわけで、私は口に含んでた焼きそばパンを飲み込んだ後、キャベツくんの方をチラチラ見ながら髪をバサッとさせた。髪っていっても、バサッてできたのは触覚ヘアだけだけど。


なのに、キャベツくんは顔をしかめるだけだった。



「?? 何やってんだオメー?」

「なっっっ、何って......ここは『ガーディナーは一緒に入ってくれるよな??』って圧かけてくる流れじゃないの?? 『オメーだけが頼りだ』って!」

「へははははっ!」



!?!? なぜ笑う!?



「だって、お前はわざわざ勧誘しなくてもどうせ入んだろ!」

「なーーーっ!?!? あのねぇ、ウィローさんは優等生キャラで——」

「もういいよそのボケは」

「ボケじゃねーーーよ!!!!」

「もういいっつってんだろ! どうせ興味あんだろ?? いたずらしてぇんだろ??」



キャベツくんは『ッヘン......』って感じの効果音が流れてそうなニマ顔をしながら(?)、肘で私をつんつんしてくる。クソッッ、こやつの隣に座るんじゃなかった......!!



「う、ぅぅぅうううっ......私は......私は優等生だモン......いたずらなんてしないモン......っ」

「認めろよ~~~~! てかこの前興味あるっつってなかったか?」

「言ってないモン」

「おいおい、アホ毛が躍ってやがるぜ~?」

「それを言うなら『目が躍ってる』じゃ——」



......あ。ほんとだ。アホ毛が躍ってる。

うにょうにょうにょ~~って、頭の上で踊ってる。


一応両手で押さえたら、ぺしょってなって止まってくれた。



「ぅ......こ、これは......その......」

「お前ってほんとわかりやすいよな! びっくりしたらピンッてなるだろ? 楽しかったらそのハート型が跳ねるだろ?? で、照れたらへにょ~~って——」

「嘘!?!? そんなに動いてんの!?!?」

「お前のアホ毛、神経通ってんじゃね??」



キャベツくんは笑いながら、さりげなく私のパンプキンパイを奪——



『二年生から他の子と————いいえ。他の「学科」の子とご飯を分け合いっこしてしまえば、アレルギー反応を起こす。つまり、「反発」するの』




「~~~~~っっだぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁああめっっっっっ!!!!!!」



間一髪で、パンプキンパイを奪い返せた。


っっぶ......ぶねっ......ぶねぇぇぇええ............!!



「なんだよっ、ケチなやつめ! 一口くらい良いじゃねぇか!」



キャベツくんは箸と箸を鳴らしながら、不満そうに口を尖らせる。ったく、こっちは命(?)を救ってやったってのに......。



「だ......ダメッ!! これ私のだもん!! 私のパンプキンパイだもん!!」

「っんだよ、いつもなら一口くらいはくれてたじゃねぇか!」

「そ、......それは......その............」



う......ど、どうしよう、正直に言うべき? でもトモル先生にあんまり言いふらさないでくれって言われたし......

嫌な気分にさせちゃうかも、だし......。



『ネルソービューの食堂は、その生徒の「学科」によって......その子のご飯に盛る「薬」を、変えているのよね?』

『わたくしたちが、二年生から「人外」の姿に変わるのは......あなたたちが盛る『薬』のおかげだったのね~』



『だって、君......全部知ったところで、なんにもできねぇだろ?』




——っっっ



「あ、あはっ、あ~~~~~え~~~~~~っとぉ、その、あれだよあれ、ど、毒! このパンプキンパイには毒が入ってるの!!」

「は?? それだとお前も食えねぇじゃん!」

「あ、ぅえっと、わ、私には効かないの! 私以外のみんなにとっては毒なの!!」

「いや意味わかんねぇよ!! てかオメェ、むしろ毒属性に弱いんじゃなかったか......?」



まままままぁ、嘘はついてないし?? 私以外が食べたら『アレルギー反応』起こしちゃうから......。


ろ、ローリエとミルルンも見てないでフォローしてよぉ......!



「はぁ~~~~......ったく、しゃあねぇなぁ......ガーディナーがそこまでパンプキンパイ好きだとは思わなかったぜ......」



キャベツくんはクソデカため息をつきながら、わざとらしく首を横に振る。

そして、テーブルの下から自分の分のパンプキンパイを取り出......し............



「お前もパンプキンパイ頼んどったんかーーーーーーいっ!!!!」

「わかってねぇなぁガーディナー、人からもらうからうめぇんだろうがこういうのは!」

「わ、......わかるけどぉ............」



ふぅ......危機一髪......。

とりあえず、キャベツくんがダイナミック腹壊しする未来は避けられた......多分......。

............。



「と・に・か・く! ガーディナー、後で『笑顔拡散委員会』ンとこに集合な!!」

「いつ? どこで? 5W1H??」

「知らねぇ!!」

「Huh????」

「1Hの『H』はそれじゃなくて『How』だぞ?」




......。



......私............。


さっき......なんで......。




『だって、君......全部知ったところで、なんにもできねぇだろ?』



......なんで、死神さんのこと、思い出しちゃったんだろ......?




***


『笑顔拡散委員会』の部室という名の実験所という名の講義室という名の溜まり場に、やってきたわけですが。


入口の扉をキャベツくんが開けて、一番最初に見たのは......。



「え」

「え」

「〈あ〉」




キスでした。



レベッカ先輩と、二つの魚の尻尾を持つ生徒が。ちゅーしてました。





キャベツくんは、すぐに扉を閉めました。




「「......」」



私とキャベツくんは、そのまま顔を合わせる。

ただただ目を丸くして。



「......幻......覚?」

「かもな......」

「だよね......」

「............一応もう一回開けるか? 扉......」

「うん......」



キャベツくんは扉を開けた。


二人はまだキスしてた。


キャベツくんは扉を閉めた。



「「............」」


「〈ちょ、ちょっと待って閉めないで二人とも?? た、たすけ......っっ〉」



中からレベッカ先輩のテレパシーが聞こえてきたけど、私たちはしばらくの間部屋の外でじっとした。

......何故か......キャベツくんと、顔を合わせづらくなっちゃった。



「〈マーキュリー!!!! いい加減に離れて!!!! 客人!! 客人来たから!!〉」



マーキュリー......? レベッカ先輩の唇を奪ってた子のことだよね?


人魚......いや、セイレーン科の生徒かな? 尻尾が二つだったし。

あんまりまじまじとは見つめられなかったけど......彼、なんか浮いてなかった......?



「〈......ふ、二人とも~? もう入っていいよ~?〉」

「「......」」



結局、私とキャベツくんは一言も喋らずに、三度目の正直を迎えたのでした。



辺りを見渡しながら中に入ると、何度もよくわからない部品を踏みそうになる。ローファー履いてるとはいえ、踏んだらレ〇並に痛いんだろうなぁ......。


黒板には、見るだけで頭が痛くなってくる数式がぎっしり詰まっていて。

床には不思議な機械だけじゃなくて、お菓子の空箱とかも散乱してて......とにかく、ウィローさんの机の上よりも散らかってる。


ってことは......やっぱり、ウィローさんは優等生!?

違いますね。はい。



「〈お、オホン......ようこそ! 『笑顔拡散委員会』へ! キャベツくんたちなら来てくれると思ってたよ!〉」



レベッカ先輩は、まるで何事もなかったかのように笑みを浮かべた。

両手を合わせて、スペード型の尻尾を振って、何度も瞬きをして......。



「〈キャベツくんと、君は確か......ウィロー・ガーディナーちゃん、だよね? 君もボクたちの仲間になりたいの?〉」

「ウィローさんは何も見ておりません!!!!!!」

「〈あははっ、キャベツくんに似て面白い子だね! あはっ! は......〉」



先輩はローブの袖を強く掴みながら、私たちに背を向ける。

悪魔の翼を、器用に上げ下げしたり、丸めたり。


黄色の泡々ヘアーも、心なしか沸騰しちゃってるように見える。

な......なんか意外だな。レベッカ先輩も恥ずかしくなったりするんだ......。



「〈えっとぉ......ごめんね、見苦しいとこ見せちゃって! 「笑顔拡散委員会」のリーダーとして謝罪——〉」


「レベッカはもうリーダーじゃない。僕が新しいリーダー」



例の彼はレベッカ先輩の隣にヌッ......と現れると、真顔のまま胸に手を当てた。


宙に浮くディスクの上に座って、二つの尻尾をまるで足のように閉じて、



「マーキュリー・ルース。セイレーン科。『笑顔拡散委員会』へようこ——」

「〈マーキュリー?? あんなことしておいてマトモなフリしないでくれ——〉」

「リーダーとして歓迎す——」

「〈オホンッッ!! ごめんね、うちの後輩が——〉」

「お前たちが来ること、わかってた。セイレーンは耳が良いから——」

「〈まっ、マーキュリーまさか、わ、わざと——〉」



......そんな感じで、二人は永遠にお互いを遮り続けていた。



マーキュリー先輩......赤色のネクタイってことは、三年生だよね?

真っ白でシュッとした髪に、真っ白な瞳......キラキラ輝く蒼の鱗......神秘的でクールな印象だけど、中身は............うん。


それに、先輩が乗ってるディスクみたいなの......浮くだけじゃなくて、好きに動かすこともできるみたい!

あれかな、やっぱり魚の尻尾だと歩けないから、ああいうのが必要になるのかな??



「レベッカはもっとかっこいいイメージだった? 残念。ただの雑魚だよ」

「〈マーキュリー? そろそろ黙らないと沈黙の魔法かけるよ?〉」

「世界一可愛い僕の——」



とうとう声を奪われちゃったマーキュリー先輩は、しばらく喉をさすった後、尻尾のヒレを虫のように動かす。


そして、自分が座ってるディスクを軽く叩くと......あっ。部屋の隅の方に行っちゃった。

あの浮いてるディスク、乗るの楽しそうだなぁ......私もあれで遊んでみたい......。



「〈......オホンッ......邪魔者がいなくなったところで、改めて——〉」


「アテクシは絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対認めねぇデスワーーーーーーッ!!!!!!」




安心してください。私もキャベツくんも、ちゃんと置いて行かれてます。




「アテクシは!! こんな生ぬるいやつらをメンバーとして受け入れるだなんテッッ!! 到底できませんデシテヨ!?!?!?」



彼女はどこからもなく現れたと思ったら、いきなりレベッカ先輩の両肩を掴んで、ブンブンブンブン振った。



赤色のネクタイ。金色の縦ロール。

白い翼......でも、天使にしては羽が小さいような、ふわふわしてるよう......な?


そ、それに、ものすごくすごいまつ毛......。一本一本がカラスのくちばしよりも長くない??



「我々!!!! 『笑顔拡散委員会』というのは!!!! もっと情熱的で!!!!!! いつでもどこでも命をかけるような!!!! そんな集まりデシテヨ!?!?」

「〈初耳なんだけど......?〉」



まだ名前わかんないから、まつ毛先輩って呼んじゃお。


まつ毛先輩は、しばらくレベッカ先輩を頬をペチペチしたりデコピンしたりした後、

急に私たちの方に視線を向けた。


ギンッて赤目を光らせて、急にゼロ距離まで近づいてきてっ



「「ひィェっっっ」」



私とキャベツくんは仲良く後ずさる。

長い間声を出す機会がなかったせいか、仲良く声まで裏返しちゃって。



「あなたたち!!!!!! 『笑顔拡散委員会』に入るには、とある試験に合格してもらわなければなりませんノッッッ!!!!!!」

「〈そんなものな——〉」

「お黙りなさいっ、元リーダー!!!!」



すると、まつ毛先輩はどこからもなく、や、矢??を取り出して......。


は......ハート型の、ルビーのような矢の先。

白い鳩のような矢羽。



「よく聞きなさい、生ぬるルーキー共!!!! 『笑顔拡散委員会』にどうしても入りたいというのならっっっ!!!!!!」



あ......そっか。

まつ毛先輩は......——




「このキューピッドの矢で、己の価値を証明してみなさいデスワーーーーッ!!!!!!」




「「......へ??」」




絶対なんか誤解してるってわかってたのに。


カッと熱くなる頬を、どうしても、止められなかった。










次話:セイレーンとキューピッドとゴブリンと鬼とトロールが合体したら、どうなると思いますか?

です。

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