五十七話:笑えないのは私だけ、じゃなかった
「ネルソービューの生徒ってね、全員死んでるんだよ~~?? 知ってたぁ~~??」
マイクが、テオくんの一音一音を拾う。
オーディトリアム中に響き渡る。
その後続くのは、静寂。
ここにいた生徒たちも、まだ残ってた教授たちも——全員が、唖然としていた。
......い......いっ......言いやがった。
こんなにたくさん生徒がいる中で。教授たちの目の前で。
消されるかもしれないのに。
ネルソービューが生徒から隠してる秘密を、あんな、
悪魔みたいな笑顔で——
「はぁ???? テオのやつ、また適当なこと言いやがって......」
一番最初に沈黙を破ったのは、キャベツくんだった。
周りが静かすぎたせいで、全員の視線が彼に向く。
キャベツくんはちょっと目を見開いて、気まずそうにキョロキョロして、
「っっとォ......わ、わりぃなお前ら! オレのルームメイトよぉ、しょっっっちゅう適当なこと言いやがるんだ!」
彼は頭の後ろを掻きながら、ヘラヘラ笑う。
そして、あんまり似合わない保護者面。
「テオーーーーーーッ! お前そろそろそっから降りねぇと、また生徒指導室に三時間閉じ込められることになっぞーーーーーーッ!!!!」
すると、テオくんは両腰に手を当てながら、思いっきり舌を出した。
ステージから降りようとする気はないみたい。
「だいじょうぶだもん!! テオ、トモルおじさんの部屋の鍵、簡単に開けれるもん!!」
トモル......『おじさん』!?
「大丈夫じゃねぇ!!!! オレも連帯責任で叱られることあんだぞ!?!?」
「それは勝手に奴隷一号が森に入ってきたときの話でしょ!?」
「てっっっめぇ、人が心配して探してやったってのにっっっ」
「たのんでないもんばーーかばーーかばーーーーーか」
......まるで氷が溶けるように、周りの空気が柔らかくなっていく。
「なんやねんもうっ、驚かせよって!!......まぁ確かに、普通に考えて、あーしらが死んでるわけないけど......」
「んふふ~。キャベツくん、ルームメイトさんと仲良しさんなのね~」
「......」
ほとんどの生徒は、安心してたり。笑ってたり。
「..................」
やっぱり。誰も信じないんだ。
当たり前だよね。死んでるなんて、信じたくないもんね。
私だって、最初は信じなかったもん。信じたくなかったもん。
毎日息を吸ってて、お腹も空いて、みんなと楽しく過ごしてる自分が......ほんとはずっと前から死んでる、なんて。信じられるわけなかったもん。
......~~~~~っっ、よかったぁ......!!
テオくんが言いやがったときはどうしようかと思ったけどっ、大パニック起こっちゃうんじゃないかとか思ったけど、全然そんなことなかったぁ......セ~~~~~~ッフ......。
誰にも......私みたいな思い、してほしくないもんね。
悩んでほしくないもん。
だから............——
「アハハッ!!......そんなに信じられねぇんだったらぁ、近くの『大天使科』か『大悪魔科』の生徒に聞いてみればーー??」
......へ?
「聞いてみろよ。教えてくれるかもしんないよ?」
テオくんは含み笑いをしながら、ゆっくりと肩をすくめる。
まだ生えてない天使の翼を上げるように。
いや......下ろすように。
「だって......」
そして、舌なめずりをして、
「『推奨学科リスト』に『大天使科』か『大悪魔科』が載るのって、自分が死んでることに気づいたやつだけだもん!」
みんなの視線が、私に集まった。
四人にしか見られてないはずなのに、まるでオーディトリアム全体に目が生えたような。
『嘘だろ?』って顔をしてたり、目を見開いてたり、笑顔を溶かしちゃってたり、
とにかく、否定を待っているような目。
白。黒。青。赤。緑。ピンク。紫。白。水色。茶色。
もし誰かと目を合わせてしまえば、誰がキャベツくんで誰がローリエで誰がミルルンで誰かブレイズくんなのか、わからなくなってしまいそうな、そんな、っ
「わ、っ......わたし......」
言ったら......どうなっちゃうの?
私が言えば、みんな信じちゃうの?
だめ......だよ、みんなにあんな思いさせられないよ、
早く否定してあげなきゃっ、だってみんなそれを求めてるんだからっ
早く言わなきゃ怪しまれる、のに、っっ
「ぇ......っと......っ」
なんでこんなにっっ、喉が詰まって————
「〈は~~~~~いっ! ドッキリ大成功~~~~~~!!!!〉」
フッと、ステージのライトが全部消えた。
また点いたかと思えば、ステージに新しい誰かが現れてて、
テオくん......の......。
「ンーーーーッ!! んむーーーーーーっ!!!!」
テオくんの体を、腕と翼で拘束していた。
彼女はテオくんから手を離さずに、私たちに向けてお辞儀をする。
禍々しいのに、どこか秩序も感じる、黒い翼。
泡みたいにもこもこした、薄いレモン色の髪。
光をたくさん反射させる、炭のような瞳。
「〈えっへへっ、今年も大成功~~~!!!! やっぱ学年の始まりは、ドッキリでなくっちゃね~~!〉」
そして、何より......口を一切動かさない喋り方。
「〈こんにちはぁ~、あるいは久しぶり! 元「笑顔拡散委員会」のリーダー、レベッカ・ブラックウェルだよ!〉」
レベッカ先輩。キャベツくんのガイドさん。
あの人——じゃなくて悪魔だけど——制服じゃなくて、
紋章付きのローブ着てるって、ことは、
「〈晴れて卒業して、『魔法道具工学・基礎』の教授になったわけだけど......童心ってそう簡単になくならないもんだね!〉」
オーディトリアム中が、どっと沸いた。
怒りだったり笑いだったり呆れだったり、とにかく......また、温かい雰囲気。
「〈というわけで! 『笑顔拡散委員会』は、随時メンバー募集中でーーっす! テオくんも新入りの一人なんだよねっ! ねっ、テオくん?〉」
「んむむむーーーーーーっ!!!!」
拍手が巻き起こったり、戦争が起こりそうになってたり。
未だに青ざめてるのは、たった数名になっていた。
私は......その数名の、一人になっちゃってた。
「......、............」
近くにいた大天使科の子たちと、大悪魔科の子たちの顔をチラッと見てみる。
みんな......私と同じような顔をしてるか、ただ静かに俯いてるかのどっちかだった。
......ドッキリなんかじゃない。
レベッカ先輩は隠蔽しただけ。悪魔だから。ネルソービューの新しい教授だから。
でも......なんで?
『「推奨学科リスト」に「大天使科」か「大悪魔科」が載るのって、自分が死んでることに気づいたやつだけだもん!』
もし、テオくんの言ってたことが本当なら......
私以外にも、この真実を知ってる子が、結構いるってことで。
確かに珍しいけど、数で言うと少ないわけじゃなくて、
ネルソービューは、もう私たちが死んでるってこと......あんまり隠そうとしてないんじゃ......?
***
二年生になると、クラスが見事にぜ~~~んぶ変わったせいで、迷子&遅刻祭りでした。
まぁ、道わかってたとしても、遅刻常習犯なのはそうなんすけどね。
『光魔法①』は普通だったよ。
大天使科の必須科目だから、天使の子多いかな~って思ってたんだけど、そんなことはなくて。魔法使い科も半獣人科もドラゴン科もいて。
でもでも、光魔法ってかっこいいだろうからさ、これから学んでくの楽しみ!
『空気魔法①』も普通だったよ。
大天使科の生徒はね、光魔法以外にもう一つ、属性魔法のクラス取んなきゃいけなくてさぁ。
草魔法でもよかったんだけど、なんとなく空気魔法にしたよ! そっちの方がなんか面白そうだから!
それで......『魔法道具・応用』なんだけど......。
「あ、が......ガーディナーさん......!」
オリーブくんは私の姿を見るなり、ぱぁっと顔を輝かせてくれた。
そして、私のために取ってくれた席を両手で差す。
「え、へへ......えへへ......やっぱり、ガーディナーさんと同じクラス、嬉しい......な」
「うん!! 一個でも一緒で嬉しいよ!」
鉛筆を前のクラスで忘れて来たことを思い出して焦る、二分前。
「そういえばオリーブくん、お腹の調子はもう平気?」
「え......? あ......うん、平気だよ。ありがとう......」
「ほんとに?? も、もし私がこの前あげたポテチのせいだったらどうしようってっっしょ、賞味期限切れてたことに後から気づいてっっっ」
「ふふっ......大丈夫、だよ。美味しかったよ......」
オリーブくんの笑顔に安心してると、講堂の入口でもう一人見覚えのある姿が見える。
流石に大声で呼ぶのはあれだから、私は席についたまま大きく手を振った。
「......」
ブレイズくんは気づくと、一応小さく手を上げ返してくれたけど......うん。私たちの隣に座る気はないみたい。
あれかな。ツンデレしちゃってるか、未だにブレイズくんが怖いオリーブくんに配慮してるのか、ツンツンデレしちゃってるのかのどれかかな。
寮に戻ったら、『なんで隣に座ってくれなかったの!?』ってメンヘラムーブかましちゃおっかなぁ。ウザ絡みしちゃおっかなぁ、ブレイズくん怒るかなぁ......?
そんなことよりめっちゃお腹空いてるんですけど。
昼ご飯さっき食べましたよね?? プリンアラモードと卵サンド食べましたよね??
こういうときのために持ってきたお菓子を漁りながら、私は再びオリーブくんの方を向いた。
「オリーブくんが入ってる学科も、『魔法道具・応用』が必須なの?」
「あ、ぅ......ううん。ただ、ガーディナーさんがこのクラス取るって聞いたから......」
「え!? そうだったの!?」
「ほ、ほら、僕たちって最低8科目は取らなきゃいけないでしょ? それでその、必須のやつだけじゃ一個足りなかった、か......ら......」
あ......オリーブくん、また真っ赤になっちゃった......。
うぅぅ......オリーブくんの赤面って、油断してると伝染りそうになるんだよなぁ......あまりにも真っ赤っ赤なものだから......。
............。
「お、オリーブくん、ビーフジャーキーいる?」
「ビーフ......?」
「牛肉のお菓子だよ! 結構美味しいし、腹持ちもよくてね、」
「それ、お菓子なの......?」
「ウィローさんはお菓子と言い張——っあ待って!?!? やばい!!!! 鉛筆前の授業のとこに置いてきちゃった!!!!!!!!」
「あ、じゃ、じゃあ鉛筆貸してあげ——」
「はぁ~~~~いっ、皆さん席に着くでござるーーーーー!」
小人(ノーム?)の先生は教壇の上によじ登って、ミニサイズの三角巾を正しながら、私たちの注目を集める。
こうして、誰も先生の口調にツッコむことはないまま、『魔法道具・応用』の授業が始まったのでした。
ウィローさんは速攻寝てしまいました。
いやあのねっ、ちょっと待って聞いて? 言い訳聞いて?? あのね??
まずさ、一日に三つも授業あるってだけで疲れるし、しかも月曜日だからさ。ウィローさんは疲労困憊してたわけよ。
あと、去年取ってた基礎の方の『魔法道具』でそのぉ、結構退屈してたからさ......『応用』になっても、あんまり変わらんかもなぁって......思っ......。
はいそうです!! ウィローさんが悪いです!!!!
だから、先生に魔法道具を投げつけられて起こされても、仕方なかったと思います!!!!
「い゛っっっっっ~~~~~~!!!!!!!!!!」
特に夢も見ずに爆睡しちゃってたから、急に暗闇から引っ張り出されたような気分で。
とにかくめっっっっちゃ痛くてさぁ、おでこを押さえるべきなのか、口を押さえるべきなのかわかんなくて、
「いでででで痛い痛い痛い痛いいぃぃぃぃいい~~~~なにごとっっっっ」
「オホンッッッ! では、気を取り直して......全員、コントローラーは持ったでござるか?」
何が起きてるのかわからなくて痛くて何が起きてるのかわからなかったから、私は投げつけられた魔法道具をぼんやりと見つめる。
......こ......コントローラーだ。真っ黒の。
十字キーみたいなのと、スティックが二つあって......謎の絵文字が描かれたボタンも四つあって......。なるほどねぇ、こりゃ投げつけられたら痛いわな。
犬の頭みたいな形......って言えばいいのかな? ほら、あの、コントローラーだよ。コントローラーの形。犬っぽくない? 違うかな?? でもやっぱ犬と言われれば犬じゃ——
「が、ガーディナーさん、おはよう......。大丈夫......?」
オリーブくんは私に耳打ちした後、心配そうに首をかしげる。
彼の手にも————よく見たら、クラスの子たち全員が、この謎コントローラーを手に持っていた。
「う、うん、平気......」多分痣になっちゃうだろうけど......。
「えっと、い、今は何がどうなってるの? 何しなきゃいけないの私たち??」
「あ、それなら、先生が今から——」
「では汝ら、まずは左スティックを押し込むでござる!」
先生は魔法で自分のコントローラーを浮かせると、針サイズの杖で左スティックを差す。
すると、講堂中で小さな『カチッ』がいっぱい鳴り響いて、機械仕掛けの蝉時雨みたいな感じになる。
えっと、とにかく左スティックを押し込めばいいんだよね?
......あ、意外と簡単にできた。
「次は、十字キーを上左下右上左下右ってやるでござる! そのあとは、十字キーのできるだけ真ん中を押して、そのあとは」
ちょいちょいちょいちょい待て待て待てぃ!! 早いって!!!! 覚えらんな——
あ。先生、黒板に手順書いてくれてる。助かったぁ~~......。
えっと、上、左、下、右......つまりあれか、東西南北を二回やればいいのね(?)
そのあとは、十字キーの真ん中......ま、真ん中? どこ????
......あの~~......私たちは一体、何をやらされてるんでしょうかぁ......?
そもそも、このコントローラーは一体......??
「あのっが、ガーディナーさん、えっと、」
丁度オリーブくんに質問しようと思ったそのとき、彼は私の制服の袖を掴んでくる。
彼は不安そうに目を泳がせながら、コントローラーを見せてきて、
「ひ、左スティックって、ど、どうやって押し込む......の......??」
「あぁ、それね......なるべくスティックを動かさないようにしながら、上からポチッと——」
「そして、右スティックを二周させて、最後に黄色のボタンを押せでござる!」
私たちのことを待つ気はないのか、先生はどんどん次の手順に行っちゃう。
黒板に全部書いてくれてるだけマシだけど......も~~ちょっとくらい待ってくれてもいいのにねぇ! 居眠りも許してくれないし!!(当たり前だよウィローさん)
とりあえず私は、左スティックを押し込もうと苦闘してるオリーブくんを見守りながら、右スティックを二回ぐるってする。
えっと......時計回り? 反時計回り? どっち?? 先生何も言ってなかったし、どっちでもいいのかな。
最後に、黄色のボタン——可愛いニコちゃんマークが描かれてるボタンを押す。
そして、何も起こらなかった。
......ほんとになにぃ????????????
周りを見てみると、みんな私と同じくらい困惑してるっぽかった。
後ろの方に座ってるブレイズくんですら、顔をしかめながら......あっ、コラ!! コントローラーで机を叩くんじゃありませんっ!
「みんな終わったでござるか? 終わったでござるよね??」
先生がそう言うと、まだ終わってなかったオリーブくんは口をつぐんで、コントローラーをテーブルの下に隠しちゃった。
耳を赤くして、唇を震わせて......。
私は『気にしないで』って言う代わりに、彼の背中をポンポンってした。
「ふむふむ......今年も何も起こらなかったでござるか。結構結構!」
先生は満足げに頷く。
そして、流石に『説明しろ』圧を感じたのか、苦笑いを浮かべる。
もし、ちょっとでも近視か遠視だったら、彼の表情はまったく見えなかったんだろうな。
「このコントローラーは、通称『感情コントローラー』。名前の通り、自他の感情を操ることができるでござる!」
......先生??????
真顔で言うことじゃないよそれ?? 先生????
初日からなんつぅトンデモ道具紹介してるんですか??????
「しかし! これを扱える者は極めて稀でござる! 毎年この授業の始めに、こうしてコントローラーを使える者を探してみるのだが......」
先生は魔法で浮かせた『感情コントローラー』を、小さい指先でつんつんってした。
「最後にこれを使える者が現れたのは......そうだな......100年ほど前だったでござるな! 実は我もまったく使えん!」
ひゃっっ......く、かぁ......なんだろ......あんまり驚いてない自分が怖い......。
つまり......あれか。感情コントローラーは、本当に選ばれし者しか使えないって感じなのか!
もし誰でも使えちゃったら、世界が大変なことになっちゃいそうだもんね......。自他の感情を操るて......。
......試しに、こっそりニコちゃんボタンを連打してみた。
怒ってる顔のボタンとかも、泣いてる顔のボタンとかも勝手に押してみた。
もちろん、何も起こらなかった。
もう一回、ニコちゃんマークのボタンを押したけど......
はい、駄目ですね! 無理! ウィローさんは選ばれし者ではありません!!
大天使科だからとか、死んでることに気づいてるとか、そういうのは関係ないっぽいね......。
「今年も誰も現れなかったのは、良いことでござるよ? 感情コントローラーを使える生徒は、色々とめんどくさいことになるからな......下手したら処b......退学になるでござる!」
今『処分』って言いかけてなかった!? 先生!?!?!?
あっっっっっっぶなっ、もし使えてたら処分?? 退学??
使えなくて本当によかった......。
「いやぁ、今年も平和みたいでよかったでござる!......というわけで、『感情コントローラー』の紹介は終了だ!」
先生は教壇の上に腰かけながら、魔法で黒板消しを拾った。
「次に紹介するのは——」
「アァァァア゛ァァアアアァァアァァァアァ゛ァ゛ァァアアァァァァァァアァァアァアァァァアァァアァアアァァァァァアァァァァァァァアアァァアアァァァァアァアァアァァァァァァアアァァ゛ァアァァァ゛ァァ゛ァ」
次話:いやぁ~! 今日も平和だなぁ~!
です。大嘘つきです




