五十四話:人(外)生は続いていく
あらすじ!
私たちネルソービューの生徒は、全員すでに死んでました!
ネルソービューは人間を人外に変える学校ってだけじゃなくて、正確には人間を人外へ転生させる、いわゆる人間用の『天国』でした! 人間の魂を人外の魂に変える学校でした!
びっくり!!
それで、転生(卒業?)したらここでの思い出も忘れちゃうんじゃないかとか、みんなのこと忘れちゃうんじゃないかとか、色々考えて悲しくなっちゃったんだけど......あれだね。完全に杞憂だったね。
とにかく!
私たちはこれからも、ネルソービューでハッピー学校生活を送れるとのことで!
ウィローさんは無事調子を取り戻し!!
気づけば春、終わってました。
六月になっちゃいました。
『推奨学科リスト』が届く日になってました。
......え? やばくない?
『推奨学科リスト』って、あれだよ? この中からなりたい人外を選ぶっていうあれだよ?
二年生からこの学科に入ります、この人外になります、って。決めるやつだよ?
いや、まぁ、正確には、ほんとに決めなきゃいけないのは『推奨学科リスト』が届いた一ヶ月後なんだけど......。今日はただ、自分が選べる学科がなんなのか知れるってだけで......
いやそれでもやばいわ!!!!
届いちゃうんだよ!? ついにわかっちゃうんだよ!? 自分がどの人外になれるのか!!
一通のメールでわかっちゃうんだよ!?!?!? 今日の夕方にわかっちゃうんだよ!? 天気は曇天だよ!?!?!?(??)
「ぬぁぁぁああぁぁぁぁぁあぁあぁぁああ緊張するぅぅぅううぅぅぅぅうううぅぅうううぅ」
「急に一人で騒がないでください。心臓に悪いです」
頭を抱えながら発狂してたら、ブレイズくんの抑制の無い声が聞こえてくる。
だから私は、勉強机で頬杖をついたまま、彼の方を振り返った。
まぁ、結局首が痛くなっちゃって、頬杖は即やめたんだけど。
「だって!!!! 緊張しない!? もういつアレが来てもおかしくないんだよ!?」
「そうですね」
「『そうですね』て!!!! ブレイズくんは緊張してないの??」
彼は椅子の上であぐらをかきながら、自分のメガネをさわる。結構足癖悪いんだよねぇ、ブレイズくんって。
私も人のこと言えないけど。by椅子の上で体育座りしてた者。
「緊張、ですか? しませんよ。特になりたい人外もありませんし」
「な、ないの?」
私もまだ、なりたい人外がはっきり決まってるわけじゃないけど......。
「せめてさ、〇〇にだけはなりたくないとか、空を飛べるやつがいいとか、そういうのは?」
「ありません。強いて言うなら、なるべく人間の形は保っておきたいですね」
「......あ............」
そっか。ブレイズくんはそもそも、ほんとは、人外になりたくないんだっけ。
それどころか、人外が大大大大大嫌いで。
時々、見るだけで拒否反応を起こしちゃうくらい嫌いで。
それ、なのに......。
「......」
ブレイズくんは珍しく私の考えてることがわかっちゃったのか、そのままサッと目を逸らす。
唇を少しだけ開ける。でも、酸素がそこを通っているのかはわからない。
遠くからじゃ。わからない。
『目的のためなら、俺はどんな手でも使うだけだ』
『そのためなら......裏切り者にでも、なんにでも、なってやる......』
......私は空気を変えようと、椅子の上で正座しながら、両手をグッてさせた。
「で、でもさ! ミルルンのガイドさんから聞いたんだけど、サキュバス科は選ばない方がいいらしいよ!」
「......サキュバス......」
「あ、男の子版は『インキュバス』って言うんだっけ? 確か、サキュバス・インキュバス科を選んじゃいけない理由は......」
理由......は......。
あれ? なんでだったっけ......??
サキュバスってあれだよね? 人の夢の中に入って、夢を食べちゃうんだっけ?
いや違うな、それ獏だな。
う~~~ん......サキュバスの別名が『夢魔』だったことだけは覚えてるんだけど......。
「と、とにかく! 『推奨学科リスト』にそれしか載ってない限り、避けた方が良いって先輩が言ってた!」
「............わかりました。肝に命じておきます」
ブレイズくんが頷いてくれて安心したのか、私は無意識に息をついちゃう。
そろそろ足が痺れてきたから、正座を崩して、えっと......今は午後六時過ぎ、かぁ。
肩を回しながら、なんとなく隣にある棚を見上げる。
ほとんど空なキャラメルの箱。
そして、『眠りココア』の粉が入った箱と、コップと、『ゆめもりくん』......
......あれ? 『ゆめもりくん』が紫色に光ってるってことは......
あ!!!! 点けっぱなしじゃん!!!! 朝電源切るの忘れてたぁ!!!!
まぁ、点けっぱなしでも、充電が早く減っちゃうこと以外特に問題はないはずだけどね。てかそろそろ充電しないとな......。
「ガーディナー」
大人しく充電ケーブルを使うか、魔法で充電しようとしてみるか迷ってると、もう聞き慣れた足音がする。
また振り返ると案の定、ブレイズくんは椅子から立ち上がってて、
銃に新しく弾を詰め込んでて......。
「俺は今から出かけます。おそらく明日の朝まで帰ってこないでしょう」
「!?!?!? え!?!? 今ぁ!?!?!?!?」
「? なにかおかしいですか?」
横転どころかでんぐり返りしそうになったけど、椅子から落ちたら痛いから、私は普通に背もたれの方へ横転した(?)
「も、もうすぐ『推奨学科リスト』が届くんだよ?? それまで一緒に寮で待たない??」
「何故です?」
「ほら、その......二人の方が心強いというか............」
「たかがメール一通に、そこまで身構えることないでしょう」
「そっっっそう言われたらそうかもしれないけど......!!」
こ、こやつ......ほんとに興味ないんだなぁ......ほんとにどの人外でもいいんだなぁ......。
それか、あれかな。外せない用事でもあるのかな。
死神さんに色々命令されてるのは知ってるけど......具体的に何をしてるのかは、まだわかんないままなんだよね......。
いつかは教えてくれるような気もするし、別に聞かなくてもいっか。今更感もあるし。
「うぅ、しくしくしく......そうやってブレイズくんは私を置いて行くんだぁ......私を一人ぼっちにするんだぁ~......」
「......そんなにここにいてほしいのですか?」
「え? あ、ご、ごめん、今のはボケただけで、無理にここにいろとは......」
すると、ブレイズくんの眉が、微妙に逆八の字になる。
彼は銃をしまいながら背を向けると、そのまま部屋の外へ一直線に進んで、
何も言わずに扉を開けて、何も言わずに閉めちゃった。
「あ、え、ば、ばいば......い......?」
い、行っちゃった......。
おかしいなぁ、最近はちゃんとお別れしてくれるな~~って思ってたのに......機嫌悪かったのかな......??
死神さんに会わなきゃいけなかったりするのかな。ブレイズくん、あの死神さんのことめちゃ嫌いっぽいしなぁ。
とりまウィローさん、寮に一人なう。
静寂なう。孤独なう。
エアコンがいつもよりうるさく感じる。窓をつつく小雨よりも目立つ音。
何故か冷たく感じる、25.5度。
もう六月だし、最近パジャマを衣替えしたんだけど......半袖短パンはまだちょっと早かったかもしれない。
あ、は~~い! 午後六時になっても未だにパジャマな者がここにいま~~す! だって今日は授業休みなんだも~~ん!!
「......ふぃ............」
ど~~しよっかなぁ~~? ミルルンとローリエの部屋行っちゃおっかなぁ~~??
どうせなら、誰かとギャーギャー騒ぎながら待ちたいよね。リストを見せ合いっことかしたいよね。
でも、この時間なら二人とも晩ご飯食べてる可能性あるな......二人いっつも晩ご飯早いからなぁ......。
私は昼間におやつ食べ過ぎるせいでさ、夜八時くらいになんないとお腹空かないんだよね。
ならどうしよ? 他の誰か......。
......でも——
「——————っひ!?!?」
つ、通知!? 通知鳴った!? 来た!? 来ちゃった!? ついに来た!?!?!?
ままままままままま待ってまだ心の準備が
えええやばいえやばい携帯開けるの怖いんだけどえこれ開けていいの、え、えいいの?? いいの????
ど、どうしようサキュバス科しか載ってないとかだったらそれだったら詰みかもっっっわ、私、ポーション学以外はまぁまぁ成績、普通、なはず、だから......学科が一個しか載ってないということはないと思われ......思............
「......」
こ......これで、決まるんだ。
いや、決まりはしないけど......この中からしか選べないから......。
携帯を開いた先に......私の運命が......。
よ、よし。
深呼吸。腹式呼吸!
携帯開くよ?? 通知見るよ?? 行くよ????
ほんとに行っちゃうよ?? ほんとのほんとに、ほんと、に、
っ
「てやーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
大声を出したわりには、画面を優しくタップすることしかできなかった。
恐る恐る、通知を見る、と——
〈よっ、ガーディナー! お前いま暇か~?〉
「キャベツくんかーーーーーーーーーーい!!!!!!!!!!」
つい携帯をぶん投げちゃったよね。
で、その後急いで拾いにいって、ヒビ入ってないか確認したよね。
ヒビは入ってなかったよ。もしこれで壊れてたら、キャベツくんに弁償させてやろうと思ってたから、ちょっとだけ残念。
私は部屋の床に座り込んだまま、トーク画面を開く。両手の親指を高速に動かして、八つ当たりするように返信を打って、
〈うぉぉおおぉおおおぉおおおい〉
〈紛らわしい!〉
〈リスト来たのかと思ったじゃん〉
既読つくの早......。
〈よし、暇そうだな〉
『よし』じゃねぇよ!!!! 謝らんかい!!!!!!
まっっっったくあの野菜野郎は——
〈今から通話しねぇ?〉
「っっっっっっへ」
想像以上に心臓がギュってなっちゃったから、私はつい手で口を押さえる。
つ、つつ、通話? 通話?? 私と? め、珍しい......。
〈べつにいいけど〉
〈なんで?〉
......やっぱりすぐ既読つく......。
〈なんとなくだよ〉
〈一人でリスト待ってんのもつまんねぇからさ〉
あ......私と似たようなこと............。
「......、............」
『推奨学科リスト』の通知じゃなかったって、わかったはず、なのに......勝手に肩が上がる。体が勝手に深呼吸しようとする。
なんでまだ、緊張してるんだろ......? 通話とか、あんまりしてこなかった、から......?
〈ふーん〉
〈仕方なねぇ 許してやる〉
あ待って誤字った最悪!!!! 絶対いじられる!!!!!!
えっとLIFEってメッセージ修正する機能なかったっけ?? イミスタとネルコードはあるんだけど、LIFEは確か——
「————————ぉわっっ!?」
かかかかか、か、かかってきたかかってきたよっ、え、っと、えっと出ないと、出るボタンはあれだよね緑だよね緑で合ってるよね緑の方を
落ち着け。
ウィローさん。落ち着こう。
息、吸って......吐いて............。
床に落ちてる髪の毛でも見て落ち着こう。ほら、綺麗な水漏れの跡だよ(?)
「........................」
私は......応答ボタンを、押した。
そのまま、そっと画面を耳に当てる。
別に、スピーカーオンにするのでもよかったんだけど......なんとなく......。
「も、もしもし~? もし......もしょ......?」
「おっ、ガーディナー! 『仕方なねぇ』」
ほらーーーーーーっ!! やっぱさっきの誤字いじってきたーーーーーーっ!!!!
「うるせぇうるせぇうるせぇっ!! 最初の一言それ!? 切るよ!?」
「へははっ、んな怒んなって! いま何してたんだ?」
「......えっと......床に携帯投げつけてた......」
「何してんだオマエ?」
「誰のせいだと思っとんじゃい!!」
「は??」
キャベツくんだ。キャベツくんの声。
スピーカー越し特有のブツブツ音が混ざって、なんか......新鮮、というか。
耳元でキャベツくんの声なんて聞いたら、鼓膜破れる可能性高いのに......携帯って不思議。
「ガーディナーって相変わらず奇行が多いよなァ」
「キャベツくんにだけは言われたくありまっせ~~~~ん!」
「いやいや、オレは意外と常識人だぜ?」
「いやいやいや、私の方が意外と」
「いやオレが」
「いや私が」
「オレが」
「わたっっへへ、」
笑うつもりなかったのに笑っちゃって、片手で顔を覆う。
クソッ......不覚......!!
「おいおい、ふざけてる途中に笑うのが一番つまんねぇんだぜ?」
「う、うるさいうるさーーーーい!! 仕方ないじゃん、笑っちゃったんだから!!」
「仕方なねぇ」
「もうええわ!!!!」
「へははははっ!!」
キャベツくんの爆弾みたいな笑い声が、すぐ耳元で聞こえる。
カメラはオンになってないのに、安易に顔が浮かび上がる。
ベッドの上とかでくつろいでるのかな。それとも部屋にはいないのかな。
パジャマかな。それとも流石に私服に着替えてるかな。
それか、間違えて制服に着替えちゃったりしてるのかな。前そういうときあったよね。
キャベツくんも、一人で暇だな~ってなって......それで、私に......。
......。
「きゃ......べつくん?」
「? なんだ?」
「......」
『なんで私を選んだの?』
『なんでオリーブくんとかローリエとかじゃなくて、私なの?』
『なんで私と通話したいって思ったの?』
「え、っとぉ......と、時の流れって早いねぇ~~......!」
......聞けるわけないじゃん。
た、多分、あれだよ。もうすでにローリエたちには聞いたんだよ。
それで、多分みんな用事があって......私だけが暇そうだったから、で......。
「わ、私さ、ほんと、ちょっと前にネルソービューで目覚めたような感覚でさぁ、あれからえっと、いち、に......九ヶ月くらい経ってるのやばくない?? もうすぐ一年じゃん!」
ていうか、私いつまで床に座ってるんだろ......?
せめて立とうかな、床に座ってたら足に変な跡ついちゃうかもだし、
「マジそれな!? ついこないだまでクリスマスだったのによォ!!」
「あっはは、キャベツくんおじいちゃんみたーーーい」
「ア???? 急に裏切んのやめろお前っっっ」
「キャベツおじいちゃーーん、お年玉ちょうだーーーい?」
「オレ所持金10ペタルだぜ今」
「やばっ」
私はキャベツくんに床に座ってたってバレないように、一応ゆっくりと立ち上がる。
ベッドに移動しようと思ったけど、携帯持ったまま登るの大変だし、結局勉強机の方へ——
「いやぁ、にしても感慨深いぜ~! 一年生ももう終わっちまうのかぁ~」
「ほんとにおじいちゃんみたいなこと言ってんじゃん」
「リストが届きゃさぁ、もう実質二年生になったようなもんじゃね? もう今日で一年生終わりってことじゃね?」
「それはよくわかんないけど——」
「だからよ......今、こうしてお前と話せてよかったって、......思ってるんだぜ?」
足がピタッと動かなくなった。
口が大きく開いたのに、しばらくなんの音も出せなかった。
呼吸の仕方を忘れる。
呼吸すらも、恥ずかしい。
熱い。
ち......違う。違うよ。キャベツくんのことだし、どうせ、なんか、その......違う意味、だよ。
私が勝手になんか、変に解釈しちゃってるだけ、だよ。
ね?
「ど、っ......どうしたの急に? らしくないじゃ~ん......」
「う、うるせぇな! オレだってたまにはこういうこと言いたくなんだよ!」
咳払いが聞こえる。
唇が開く音。開いて、閉じて、開いて......パッパッパッて、水の音、みたい。
そして......し......深呼吸......?
「だ、だってよ......だって......お前は............」
肌が......バチバチ、する。
静電気みたいなのに、痛くない。
でも静電気より熱くて、小さくて、ひ、広くて?
や、やばいなんか、
変に手汗、
かいて————っ
「お前は......オレにとって、特別......だからよ......」
次話:太陽のブレスレット
です。残念ながら束縛にもなってしまいます。




