五十二話:世界中のアンジェリーナさん、ごめんなさい
「ねぇキレていい?? キレていい?? いいよね????」
私はキャベツくんの首をキュッッッてやる......妄想をしながら、台パンした。
「ネルソービュー全体が震撼するレベルのやばい話って言ったよね?? ちゃんと聞いとけっていうから何かと思えばよりによってっ、よりによってっっっ」
「いやいやいや一大事だろ!! オレのち〇こがなくなったんだぞ!? ち〇こだぞ!?」
「連呼すな!! わかっちょるわい!!!!」
とりあえず、私は春雨サラダに入ってたキノコをこやつに投げつけてやった。
「ぶっっっ!?」
「ふん!! 代わりにそのキノコでも付けとけボケェ」
「いくらなんでも小さすぎんだろ!!」
「あんさぁ、あーしは一体どっからツッコめばええの?」
ローリエはスン......ってした顔をしたまま、会話に入ってくる。
テーブルで頬杖をついて、込み上げてくる呆れをプリンと一緒に飲み込んで。
「ウィローもちょっと落ち着け。キャベツがふざけとんのはいつものことやん、いちいちツッコんどったらす~~~ぐ体力なくなるで?」
「うっ......で、でも......でもぉ......!!」
わかってるよ!! キャベツくんが馬鹿だってことくらい!!
でも!! でもさぁ!!!! 今ウィローさんはちょっとセンシティブ?なの!!
このタイミングで『とんでもねぇことに気づいちまった』とか言われたら、どうしてもアレの話かもって思っちゃうの!!!!
......なんて、言えないし......。
「はぁぁあぁあぁぁぁあ~~~~......脱力の第二形態ぃ............」
私は両手で顔を覆いながら、再び椅子にストンって座る。
そのままテーブルに肘をついて、クソデカドデカダイナミックため息をついて......。
うぅぅうぅう......くそっ......くそぉぉぉおおっ............!
安心してる自分がいるのが悔しすぎる......!!
そうだよね、キャベツくんはいつも通りだよね、いつも通りでいてくれるよね、何も知らないままだよね、こんちくしょーめがっっ
「んふふ~、それでそれで~~?」
「おいこらミルフォイルっっ食いつくなって」
「今、キャベツくんのあそこはどんな感じになっちゃってるの~?」
ミルルンは子供みたいに目を輝かせながら、キャベツくんに顔を近づける。
相変わらず、辺りにお花とキラキラのエフェクト(幻覚)を漂わせてるけど......。
「どんな感じって言われても......ねぇんだって。ち〇こが」
「見せて見せて~」
「うわぁぁあぁぁあぁぁぁあぁぁセクハラだぁぁああぁぁぁああぁああ」
キャベツくんは席から立って、ローリエの後ろに隠れる。
ミルルンは口を小さい三角形にしながら、両手をゾンビみたいな感じにして、二人にじりじりと近づく。
ローリエは、そんな二人を順番に腹パンした。
「くっっっっっそなんでオレまでっ、オレに味方はいねぇのか!?!?」
「んふ~、五分前に殴られたときより痛いわ~~」
キャベツくんとミルルンは全く正反対の反応をする。
どっちがメソメソしててどっちがニコニコしてるのかは、まぁ、言わずもがな。
すると、キャベツくんはお腹を抱えたままこっちに来て、
次は私を巻き込む番!?って身構えたけど、私じゃありませんでした。
オリーブくんでした。
「オリーブ!!!! お前はオレの味方だよな!?」
「っっっへっっえっっえぇぇえっ!?」
完全に自分は安全圏にいると思い込んでたっぽいオリーブくんは、吹き出しそうになったスープを一気に飲み込んだ後、瞳孔を縮める。
スープが気管に入っちゃったのか、唇をぷるぷる震わせて。
「オレのち〇こ探すの手伝ってくれるよな!? ち〇こ救出してくれるよな!?!?」
「うぇっ、あ、え、え、っと、っ......けほんっ......」
彼は咳とも咳払いともつかない音を漏らすと、眉をひそめながら視線を落として、
「あ、の......その......ち......って言うのやめない......? もうちょっと......その......」
「へははっ、お前ってほんと純粋なやつだな! んじゃ......そうだな......」
キャベツくん、真剣な顔で考え込んでるけど......多分いま、世界で一番脳を無駄遣いしてるんだろうなぁ......。
「......よし! じゃあ今度からは『アンジェリーナ』って言うわ!」
「今すぐ世界中のアンジェリーナに謝れ!!!!」
「いや、やっぱ『ローリエ』にしとくかァ?」
......オリーブくんは二人の殴り合いを見つめながら、『これってぼくのせい......?』って顔をしてた。大丈夫だよオリーブくん、オリーブくんのせいじゃないよ。
ここは私が自慢のデカボイスで仲裁してやりますか~っと意気込みながら、特に意味もなく肩を回してると、
「それじゃあ、みんなでアンジェリーナちゃんを探しにいきましょ~」
ミルルンに先を越されちゃった。
しかもなんか、勝手にみんなで探すことにされちゃった。
「ほんとか!? 手伝ってくれんのか!? 信じてたぜバターフィールド!!」
「もぉぉおおおぉおおぉぉぉおおおやめてよミルフォイル!! 勝手に話進めんといて!!」
「お前やっぱ良い奴だなぁ!!!!」
「最悪!! 最っっっ低!!!!!!」
「んふふふ~~。だって、面白そうだもの~~」
相変わらず、各々自由に発言してるって感じで。
比較的うるさい食堂の中でも、みんなの声ははっきり聞こえて。
「ええやん別にち〇こなくても、死にはせんねんから!」
「ち〇こじゃなくて『アンジェリーナ』って言え!! あと全然良くねぇよ!!」
「さっきウィローが投げてたキノコを代わりにすればええやん、どうせそんな大きさ変わらんやろ」
「流石に暴言すぎるだろそれは!!」
「わ、わっ......ほ......ほんとに探すの? 今から......?」
「なんだか、お宝探しの気分だわ~」
「ちゃうわボケ」
「へははっ、確かにな!」
「同意すな!」
「で、でも、ど、どうやって、あ、アンジェリーナ......さん?を探せば......?」
「あとあと~、キャベツくんのアンジェリーナちゃんはそんなに小さくないよ~?」
「「なんで知ってん【だ】【ねん】!?!?」」
もし目を閉じてたとしても、誰がいつ喋ってるのかすぐわかるんだろうな。
声も発言も、みんなそれぞれ個性的だもん。
生きてるって、感じだもん。
いつも通りわちゃわちゃしてる。いつも通り楽しそう。
そんなみんなが。
少しだけ。
ほんのちょっとだけ、遠く、感じるのは。
完全に。私のせいなんだろうな......。
「......あははっ、しっかたないなぁ~! このウィローさんも、手伝ってしんぜよう~!」
と、いうわけで!
こうして、前代未聞の大冒険(?)が、幕を開けたのでした!
***
「実はよォ、もう見当付いてるんだよな。オレのち......アンジェリーナを奪った犯人!」
アンジェリーナ捜索隊(ミルルンが名付けた)のリーダーを名乗るキャベツくんは、片方の人差し指を立てながら、ドヤ顔を浮かべる。
なお、それに『すご~い!』って顔をしてるのはミルルンだけだった。
ふっ。ここは情けで反応してやるか。ウィローさんやっさスィ~~~!
「ふふん、当てちゃおっか? 『笑顔捜索委員会』でしょ!」
「だと思うだろ?? それがなァ、ちげぇんだよなァ~~~~!」
「え!?!? ちがうの!?!?」
キャベツくんは舌を時計みたいに鳴らしながら、人差し指をリズミカルに振る。
ったく、腹立つ顔しよって......次食堂でご飯食べる時、キャベツくんが好きじゃないパプリカぜぇ~~んぶ押し付けてやるから!
「ズバリ!! 犯人はこの中にいるッッ!!!!」
「あんたそれ言いたかっただけやろ」
「やーーーーい詐欺師! 迷探偵!!」
「なんで誰も騙されねぇんだよ!?」
すると、一番後ろを歩いてたミルルンが、スキップしながら私たちの前に出て、
「んふふ~。実は、わたくしが犯人でした~」
「「「「!?!?!?」」」」
「? わたくしなら騙されるのね~」
ローリエは思いっきりミルルンの足を蹴った。
私たち、廊下を歩いてる生徒たちにめちゃくちゃ注目されてるけど......気にしてるのはオリーブくんだけっぽい。
なんだろ。私も普段なら気にしてたかもだけど......みんなといるとあれだね、無敵だね。
「いらんねんこの時間!!!! ただでさえ無駄な時間を長続きさせんなっっ」
「んへへ~、ローリエちゃん、足小さくて可愛いね~」
「おらっっっ!! とっととキャベツのち〇こ探すぞ!!」
「アンジェリーナな」
「っっっけほ、ケホッ......」
......ん? オリーブくん、また咳しちゃってる?
「オリーブくん大丈夫? まだ喉にスープ残っちゃってる?」
「!?!? っう、あ、が、ががーでぃなさ、っ」
オリーブくんは何故か顔を真っ赤にしちゃって、私から3メートルくらい離れちゃって、
口を両手で覆いながら、首をコクコクコクって......??
「だ、だいじょ......うぶ......だいじょうぶ......」
「......?? そ、そう......?」
「よォ~~~しテメェら、よく聞け!! 犯人がこの中にいるってのは嘘だが、見当が付いてるってのはマジだ!!」
キャベツくんがまた怪しいことを言い出したから、とりあえず私はオリーブくんから顔をそらす。
そしたらすぐにキャベツくんと目が合って、彼はニッて笑って......わ、私に笑いかけてきたわけじゃないよね? ただ調子に乗ったこと言おうとしてるだけ、だよね......?
「それでなそれでなっ、そいつがまさかの人物なんだぜ!!」
「はよ言えや」
「ったく、気の短けぇやつだな......やっぱチビだからか?」
「は・よ・言・え・や!!」
キャベツくんは流石に今日はもう殴られたくないのか、ローリエから全力で後ずさって、そのまま急いで咳払いをして、
「オホンッ、ず、ズバリだな、犯人は——」
「邪魔です。どいてください」
ブレイズくんの突然の登場に、私たちはそれこそ十人十色の反応をした。
「っっっひぃっっっっっ」
オリーブ・怖がっちゃってる・メイベリー。
「あっ、ブレイズくん~。あのねあのね~、わたくしたちアンジェリーナ捜索隊よ~」
ミルルン・平常運転・バターフィールド。
「あんっっっったっっ、いっっっつも急に出てくんのやめて!? 心臓に悪いから!!!!」
ローリエ・ブチギレ・ビューリュー。
「出たーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」
ウィロー・びっくり・ガーディナー......。
「どわぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁああ急に背後に現れんなぁぁあぁぁぁぁぁあああぁぁ」
キャベツ・言うほど十人十色じゃなかったかもしれない・グッドネス。
そして!
「......?? 何をそんなに騒いでいるのですか?」
ブレイズ・何もわかってない・ガントレット。
六人合わせて!! ハニードラゴンなんかすごいンジャー!!!!
......ナニコレ?
脳内でヒーローアニメ始めるところだったじゃん、危ねぇ危ねぇ......。
「アッッアッッッテメェは!!!! テメェがテメェだ!!!!!!」
「は?」
「お前ら!!!!!! こいつだ!! こいつだよ!!!!」
キャベツくんはブレイズくんの腕を掴んで、無理やり自分たちの方に引っ張る。
ブレイズくんがすごく嫌そうな顔をしても、彼は手を離さずに、
「こいつがアンジェリーナを奪った真犯人だッッッ!!!!!!」
......一番面白いのがさ。
キャベツくんがそう言い放ったとき、誰も『そんなわけないだろ』って言わなかったことだよね。
絶対やらなさそうだけど、やらないとも断言できないから、私たちはただ静か~~に顔を見合わせることしかできなくて。
なお、ブレイズくん本人は......
「......アンジェリーナ......?」
「とぼけんじゃねぇ!! オレのち〇こ返せよ!!!!」
「は......?」
瞳の中の炎が、それはもう満月のように丸くなっていた。
「............何がどうしてそうなったのですか」
「だから!! お前なんだろ!!!! オレのアンジェリーナを奪いやがったのは!!!!」
ブレイズくんの反応はどう見てもシロなのに、キャベツくんは諦めずに彼を詰め続ける。
まるでアンジェリーナを自分の彼女みたいな言い方してるせいで、傍から見れば修羅場みたいな感じになっちゃってるのかもしれない。
ちなみに、アンジェリーナは五文字以上の名前だけど、あまりにもみんなが連呼するものだから覚えちゃったよ。奇跡だね(?)
「返せっ......返せよっっっ!! アンジェリーナがいねぇとオレっっ駄目なんだよ!!」
キャベツくんはブレイズくんの胸ぐらを掴んで......
......。
「アンジェリーナがいねぇと生きていけねぇ!!!!!!」
「......??????」
あ、あの......キャベツくん? もはやわざとやってるよね?
わざとドラマ感出してるよね?
「頼むっっっ!! オレのアンジェリーナを返してくれ、返せっ、お願いだっっ、なんでも、なんでもするからっっ!!!!」
は、迫真の演技だし......や、やばいこれ笑っていいの? この空気笑っていいの?? ブレイズくんに殺されない??
「もういいだろ!? もう十分だろ!? アンジェリーナを許してやってくれよ!!!!」
「......」
「アンジェリーナが何をしたってんだよ!?」
「......」
なんかどんどんストーリー変わってない?
「オレのち〇こ返せよぉぉおおおおぉぉぉおぉぉぉおおぉぉぉおおっ!!!!!!」
「っっっふ、ふふっ」
私じゃない。笑ったの私じゃない。だって私ギリ耐えたもん。
すぐ隣から小さく聞こえたから、ミルルンかな~って思って見てみた、ら、
え、あっ
「......っ......~~~っふ、っっっ......」
......オリーブくんが下ネタでツボっちゃってる......。
「............っっふ、ひ............」
口を両手で押さえて、耳を真っ赤に染めて......うん。気づかないフリしといてあげよう。
「......」
なお、ブレイズくんは顔が『無』になっちゃってた。
心からの軽蔑の視線をキャベツくんに向けてる。
炎の目が消えてるとこ見るの、初めてかもしれない。
「......」
「うぅぅぅううぅぅっ......オレのアンジェリーナァァァァアァア......」
「......」
「なんか言えよ!!!!」
ブレイズくんは表情を変えずに、私たちの方を見てきた。
まだなんか言ってるキャベツくんをガン無視して、私から順番にみんなを見ていって、
「なァ、そろそろマジでち〇こ返してくんね?? ないと結構困——」
最終的にブレイズくんは、キャベツくんのズボンを掴みました。
「「「「え」」」」
そして——————————
いやいやいやいやなんでなんでなんでなんでいやいやいやいやいやいやいやいや
「うわーーーーーっ!!!! ぎゃーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
見てない見てない見てない見てない見てない私は見てない何も見てない見えてない
乙女ですから!! ちゃんと!! 両目を!! 手で覆ってます!! 偉い!!
な、なんで?? なんで? 何??
「......ほら、やはり......」
ブレイズくんがなんか言ってるけどそれどころじゃないよぉっっ
てかなんでみんな無反応なの!? 無言でガン見してるじゃん何!? ローリエにミルルンにオリーブくんまで!!
わ、私がおかしいの?
アンジェリーナ無いからセーフってこと!? いやでもやっぱ——
「イチモツがなくなったというのは、嘘だったのですね」
......え??
***
「キャベツくんはさ。結局何がしたかったんだと思う?」
その日の夜。
私はベッドの上でキャラメルを頬張りながら、向かい側にいるブレイズくんに話しかけた。
「突然さ、アンジェリーナが奪われた~とか嘘ついてさ」
「......イチモツの件のことですか?」
「うん。で、結局ブレイズくんに、ほんとは無くなってすらなかったってバラされてさ」
「............」
「ローリエのジャーマンスープレックス、久しぶりに見たなぁ......」
天井見ながら食べてると喉に詰まらせそうになるから、私は体を窓際の方に向ける。
なんとなく、膝を曲げる。こうしてると落ち着くんだよねー。
「それにしても、ブレイズくんよくわかったよねぇ! キャベツくんが嘘ついてるって!」
「......」
「なんでわかったの? やっぱり冤罪かけられたから??」
「......」
ほんと、なんだったんだろあの時間。あんなに虚無になるネタばらしされたのは初めてだよ。
でも......なんだかんだ、楽しかった、なぁ......。
大声では言えないけど。
キャベツくん調子乗っちゃいそうだから。またよくわからんおふざけに巻き込まれる可能性大になっちゃうから。
みんなと過ごす1秒1秒が、一粒のキャラメルみたいに濃くて、でも優しくて、安心して、
噛み締めてると......溶けて、消えてしまいそう。
......。
「ブレイズくんはすごいねぇ。私全然気づかなかったもん」
「......」
「まぁ、別に気づかなくてもよかったのかもしれないけど......」
「............」
「......」
最近、ベッドにちょっと寝転ぶだけで眠くなる。あんま寝れてないからかな。
っていっても、一応毎日6時間は寝れてるんだけどね。
だからまぁ、全然平気なはずで。
不思議なのがさぁ......これで『よし! 寝よう!』ってなって、眠りココア飲んで、ゆめもりくん付けてさ、寝ようとするでしょ?
そしたらさ、寝れないの。どゆこと??
「......最近は、夜もそんなに寒くなくなってきたね。流石にもう春だもんね」
「......」
「時の流れは早いなぁ。こんな感じで、あっという間に時間が過ぎちゃって、気づけば卒業とかになってるんだろうなぁ......」
そうなれば......。
......だから、今を楽しまなきゃ、で......。
............。
う......でも、今夜こそは寝れるんじゃない? だって瞼どんどん開けづらくなっていくし、なんか勝手に視界ぼやけるし......。
今日は......夢、見ずに済むかな。
「......ふぁ......~~~っ......ブレイズくん、私今日も早く寝——」
「ガーディナー。実は俺......キャベツ・グッドネスに、頼まれたのです」
次話:Memories of Nelsohveau
です。「人外さえいなければ!」をもし英語で書いていれば、これがタイトルになっていたかもしれません




