五十一話:次回こそはちゃんとギャグだから
『オリエンテーション』の授業中、私は植木をミルルンと見間違えた。
「あれ?? ミルルン、今日は大人しいね。つんつんしてもキッスしてこないなんて」
「ウィローちゃ~ん。わたくしはこっちよ~~」
「アッッッエッッッ嘘ッッッ」
白い花が咲いてる植木だったから、紛らわしかった。
いやいやいや紛らわしくねぇんですよ。植木と人を間違えるってヤバいんですよ。
もう、なんか......他の授業でもずっとそんな感じでさ。
『魔法道具・基礎』でも、私は課題のプリントを提出したつもりが、夜寝れなさ過ぎて大量量産した落書きシリーズの一枚を提出しちゃってたみたいで。
「......これは............りんごの木ですか?」
「............観覧車です......」
先生を混乱させちゃって。あんなに目をまん丸にしちゃって......先生、普段はあんまり感情を表に出さないタイプなのに......。
『常用魔法①』の実技テスト中も大惨事でさぁ、まず杖持ってたつもりがなんかフォーク持ってるじゃん?
それで、ちゃんと杖に持ち替えてさ、今度こそ......!って意気込んだら、魔法で引き寄せた野球ボールが顔面ヒットするし。
「ぐへぁっっっっ」
「「え????」」
おかげで鼻血ダラッダラで、迷惑も心配もかけちゃって。
血は......やっぱり、出るんだよね......。
「ウィローあんた、勢い余りすぎやろ!! これティッシュっ、ほら鼻かんでっ」
「だーーーーっはっはっはっっっへはっっっんヒーーーーーーーーッ」
......キャベツくんは笑ってくれたけど。
『芸術創作・基礎』ではなんと、間違えてボンドを飲んじゃいました!
良い子のみんなはぜっっったいに真似しないでね。死ぬ可能性あるから。
......。
「うぇっっっっまっっずっっっっっうっぇえぇぇえぇえ」
「ガーディナーさん!? な、なんでっっっだ、だだっ、大丈夫......!?」
「あら~? このボンドって飲めるの~? 確かにミルクみたいな色だわ~」
で、真似しようとしたミルルンを、オリーブくんと私で全力で止めたよね。
『守護魔法①』は......まだマシだったかな。
先生に叱られてたブレイズくんにちょっかいかけようとしたら、盛大に転んじゃっただけで。
痛みと恥でしばらくの間立てなかったけどね。
幸い授業が終わった後だったから、ほとんどのクラスメイトには見られてない......と、思い、たい......。
「......お前は何がしたいんですか?」
「............さぁ......? 答えはCMの後で~......なんつって...........」
「立ってください。絆創膏を差し上げましょう」
「アリガト......」
『総合音楽・基礎』では、フルートを剣みたいに構えながらぼーっとしてたせいで、キャベツくんに写真撮られちゃったし。
携帯奪おうとしても、圧倒的身長差のせいでいくらピョンピョン跳ねても届かんし。
「消せぃ!!!! プライバシーの侵害!! 著作権!!!!」
「へははっ、やーーーーーだねっ!! 見ろよこのアホ面、待ち受けにしてやろっかなァ」
「汝は我を怒らせたーーーーーーーーっ!!」
で、引き寄せ魔法で無理やり携帯奪おうとしたら、顔面ヒット_2.0.exeだったよね。
『ポーション学①』では、ポーション作ってたら釜もろとも爆破しちゃってさ。
「おんぎゃーーーーーーーーーっ!!!!!!!」
「あれはいつも通りやな」
「いつも通りだな」
......これはいつも通りだったらしいです。
『自然浴』では、もうさ、ほんとにさ、脳がバグっちゃってさ。
無意識にO字型のピアスを両耳から外しててさ、なんか、ローリエに渡そうとしたの。
「? なに? なんでピアス外したん?」
「......?」
「??」
「????」
「??????」
もうほんとにわかんないっ、なんで!? 怖い!!
で、『戦闘技術・基礎①』では、訓練でオリーブくんにすら一本取られる始末。
あっ、あのね、オリーブくんがめちゃくちゃ弱いって言いたいわけじゃなくて、その......
オリーブくんは優しすぎるの。
「がっ、ガーディナーさんだいじょ、ご、ごめんなさっ、っっ」
だから、訓練用の矢が私のこめかみをかすって、びっくりした私がナイフを落としちゃっただけで、オリーブくんは半泣きになっちゃっててさ。
どこも怪我してないのにだよ? しかも訓練用の矢ってあれだよ、当たってたとしても痛くないやつだよ? トイレ掃除に使う吸盤みたいなやつだよ??
なのにオリーブくん、その後ずっとしょんぼりしちゃってて......私が訓練中にぼーっとしてたばっかりに......。
と、とにかく。今週の授業は散々だったの。しかも十人十色の『散々』だったの(?)。
だから、ようやく金曜日の最後の授業が終わって、寮に戻った途端、
「っっっっはぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁ~~~~~つかれたぁぁああぁぁぁあぁぁああ」
私は速攻机に突っ伏した。
もはや、ベッドによじ登る気力すら起こらなかった。
体が、机に糸で縛り付けられたような感覚がして、余計顔を上げられなくなる。
頭痛の位置が、重力に従って降りていくような。
「んぁ~~~~ぁぁぁあああぁ......ァ~............」
体は寒いのに、頭は熱い。でも多分、風邪を引いたわけじゃない。
そもそも風邪って引けるの? こんな体で......
『ネルソービューの生徒の大半は、自分がすでに死んでいることに気づいておりません』
「......」
もはや、走馬灯のように流れる声。
今まで何度も繰り返したせいで、ブレイズくんの声の抑揚も、瞳の炎の揺れ具合も、簡単に再生できちゃう。
ブレイズくんにとっては、ただの日常会話の一部でしかなかった、あの発言。
あの瞬間、針に引かれた毛糸みたいに、全部が繋がってしまった。
いくら解こうとしても、無理で。
きっとただの悪い夢だって思いたくて、でも違って、
私は。死んだ幽霊。
生前のことを覚えてない、何も残ってない魂。
『ネルソービューはいわゆる「天国」! あでも、人間限定のね!』
『生前良いことをした「選ばれし人間」は、来世に人外に成る権利が与えられるのだーー! わーーーっはっはっはーーーー!!』
......まずい。
まただ。また考えちゃってる。また思い出しちゃってる。
こういうときは寝ないと。でもどうせ寝れないんだろうな。
眠りココアも効かないし。ゆめもりくんは、私を悪夢からは守ってくれないし。
『こう......四年かけて、人間の魂を、人外の魂へ変化させるんだよ! うん!』
......何も......知らない方が、幸せだったのかな。
『ポエナっていうのはね、いわゆる「地獄」のことだよ! 生前悪いことをしちゃった魂は、人間であろうが人外であろうが、み~~~んなポエナに堕ちるのさ~~!』
自分は生きてるって。みんなも生きてるって、思い込み続けてる方が。何も苦しくなかったのかな。
わかんない。もう......真実を知らない自分を、思い出せなくなっちゃった。
想像、できなくなっちゃった............。
『そ・し・て! この僕ちん、ゾディアック・グラノーラはなんとぉ~~??』
『ネルソービューに、人間の悪霊を放っていた張本人でぇ~~~っす!!』
私に色々教えてくれた死神さんですら、ネルソービューのすべてを知ってるわけじゃない。
ここにはきっと、まだまだ秘密が残ってる。
それに......あのときゾディさんは、全部教えてくれたように見せかけて......
思い返せば思い返すほど、実はそんなことなかったって。気づいちゃう。
気づきたくないのに。もう何もわかりたくないのに。
『ブレイズをネルソービューに潜入させたのも僕ちんでぇ~~っす!! 悪霊に転生観覧車の砂時計をぶっ壊せって命令してるのも僕ちんでぇ~~す! ブレイズに悪霊が暴走しすぎないように見張っとけって言ってるのも僕ちんでぇ~~~~っす!!!!』
『ブレイズをここに送る代わりに、僕ちんの計画に協力させてまぁ~~~っすン!』
「......!」
スマホの通知が鳴る。
私は顔の向きだけを変えて、机に体重を預けたまま、なんとか片手で携帯を開いた。
......メール。
大したメールじゃない。
毎週金曜日に来る、ネルソービュー学園のニュースみたいなのをまとめたやつ。
『地獄ダンジョン探検隊』が、最近132階に到達したよ~、とか。
今週のマーケットは、春テーマの食べ物をたくさん売るよ~とか。
あの日から、ずっと時が止まってるような感覚だけど......全然、そんなことないんだなって。
「............」
春テーマの食べ物、かぁ。
桜餅とか、八つ橋とか。ちらし寿司とかあるんだ。全部美味しそうだなぁ。
みんなと食べたいなぁ。
ミルルン、甘い物大好きだもんね。私も好きだもん。
ローリエは多分、『喉詰まらせなや』ってずっと言ってるんだろうな。
キャベツくんはひたすらちらし寿司食べてそう。
それで、オリーブくんはお餅をちまちま食べてそう。
ブレイズくんにも買って帰ったら、喜ぶかな。食べてくれるかな。
.......でも......私たちは............——
「あ、ははっ、あははははっ、らしくない、なぁっ」
もうあれから一週間だよ? いい加減立ち直らないと。
た、確かにほんとは死んでたって知るのはショックだったけど、そんな、一生笑えなくなるほどじゃないでしょ?
そんな。みんなと一緒にいられなくなるわけじゃないんだから。
これからも一緒、で、それ......で......っ
笑わなきゃ。笑ってなきゃ。
心配かけちゃだめだもん。
うざがられたくないもん。
それに、ごちゃごちゃ考えた、って、
『どうせお前はな~~~~んも言えないしどうにもできない、ただの部外者なんだから』
「っっっっう、く」
そうだよ。
ゾディさんの言う通りだよ。
誰にも言っちゃ駄目だもん。こんな思いさせたくないもん。
ブレイズくんにもいなくなってほしくないもん。
こんなこと......誰にも、相談......しちゃ............
「っ~~、~~~......ぅ............」
ブレイズくん。ここにいなくてよかったなぁ。
「......っ............っ............、......」
一応、手のひらを見てみる。
穴......空いてない。
大丈夫。大丈夫だよ。
泣いてないよ。
***
「オレさぁ......とんでもねぇことに気づいちまったんだよ............」
キャベツくんはわざわざシチューを前へ押しのけた後、テーブルの上で両手を組む。
まだキャベツくんは何も言ってないのに、ローリエはもうすでに呆れ顔だし、オリーブくんまで苦笑いしてる。ミルルンは......ミルルンしてる。
そんな中、キャベツくんは気にせず目をキリッとさせた。
「ほんとの、ほんとのマジのマジな一大事だぜこれは......」
「どうせしょーーーーーーーーもないことやろ」
「いやマジで今回はやべぇんだって。三度目の正直って言うだろ??」
「三度目どころちゃうねんこのくだり」
私だけ無反応なのもあれだから、とりあえず春雨サラダに入ってたきのこを、キャベツくんのシチューの中に入れておいた。
なお、キャベツくんは全く気づいてないみたいだった。
へへっ。ミッションコンプリートだぜ~~。
「マジのガチでやべーーーから。笑えねぇから」
「せやねーーーー。やばいねーーーーー」
「オリーブ、お前はオレのこと信じてくれるよな?」
「えっえっえぁっえ」
オリーブくんは、右手に付けたブレスレットを指先でいじりながら、キャベツくんから目を逸らす。
最近、緊張するとブレスレットをさわるのが癖になってるよね。オリーブくん。
私は......今日は、ブレスレット付けてくるの忘れちゃったな......。
「ぅ、あ......え、っと............。......や、やばいって、その、ど、どれくらい大変、なの......?」
「そりゃあもう、ネルソービュー全体が震撼するレベルだぜ」
「そ、そんなに......?」
「おう。お前ら、よ~~く聞いとけよ? 周りに聞かれりゃまずいから、小声で言うぜ?」
......え?
『ネルソービュー全体が震撼するレベル』? 『周りに聞かれりゃまずい』?
い......いやいや。いやいやいや。さすがに......さすがに、ね......?
で、でも、キャベツくんはあのテオくんとルームメイトなわけ、だし、
いや......でも............
「ガーディナー、聞いてるか? お前もちゃんと聞いとけよ?」
「えっっあっっっ」
あんまり減らないサラダから顔を上げると、すぐに目が合った。
どの角度から見ても輝いてる、けど......やっぱり、真っ直ぐ見てるときが一番眩しい。
海を漂うことを夢見てる、真珠みたい。
白だけど、絶対に白だけじゃない。
色を数えようとするだけで、心臓が、ギュって、して......っ......
違う......よね? 違うよね? キャベツくんは知らないよね?
でも、声がいつもより、なんか、低くて、
目つきも、なんか......。
、............もし、あのことを知ってるん、だったら
あのことをみんなに言おうとしてるんだったら、
私は止めるべき? それとも、ただ見てるべき?
「......きゃ......キャベツ、く——」
「オホンッッ! よし、言うぞ......言うぞ? いいな? 言うからな??」
「はよせい」
「今朝、起きたらよォ......」
もし、ほんとに知ってるんだったら、
キャベツくん、なら、
私の......気持ち......っわか、って————
「っっっや......やめ——」
「————オレのち〇こが......なくなっちまってたんだ............っっっ」
次話:世界中のアンジェリーナさん、ごめんなさい
です!! 本当に!! ごめんなさい!!!!




