四十五話:4
「あら。ようやくお目覚めになられましたのね」
あらすじ!
激辛キャラメルをキャベツくんと一緒に食べて、代理医務室送りかと思いきや、なんか起きたら全然知らない場所にいました!
しかもなんか、全然知らない人もいます! 人っていうか人外だけど!
「......?......??」
「まだ少し混乱状態にあるようですわね」
彼女は私が寝てるベッドの端に座って、じーーーっと顔を覗き込んでくる。真っ黒で、一切光を寄せ付けない瞳。
そのまま彼女は、そっと私のおでこに手をかざして......目を半分閉じて......。
「喉の炎症や精神的苦痛はすでに取り除いたつもりでしたが......まだ何か目立った症状がございますか?」
「う、い、いえ......そのぉ......」
すると、彼女はそっと立ち上がって、天使の羽を軽く揺らした。
前髪が風に揺れて、隠していた右目が少しだけちらつく。
天使......だけど、今まで見てきた天使さんとは違うって一目でわかる。
まず、翼が灰色。ピョンッて跳ねちゃってる羽が一本もなくて、逆に不自然。丁寧に手入れされてる証拠なんだろうけど......。
そして何より、頭上にふわ~~って浮かんでる、真っ黒な天使の輪っか!
今まで見てきた天使さんって、みんな天使の輪がなかったからさ、ずっとなんでだろ~って思ってたんだけど......この灰色の天使さんにはあるみたい。
でもなんか......天使っていうより、堕天使って感じだな......。
「......あ、あのぉ......どちら様でしょうか......??」
失礼かもって思ったけど、やっぱり聞くしかなかった。
もし制服着てたら生徒だってわかるし、もし紋章付きのローブかベストを着てたら教授だってわかるんだけど......どっちでもないもん。
白衣だもん。
病院長とかが着てそうな、ゴリッゴリのドクターコート着てるもん。
「私ですか?......申し遅れましたわ。」
彼女は上品にお辞儀した後、銀色の髪をかき上げ......るような仕草をしたけど、普通にツインお団子ヘアだから、指先が空気をスカってするだけだった。
普段は髪、下ろしてるのかな.......?
「私はアポネ・ネルソービューと申します。ネルソービュー学園の医務室で働かせていただいておりますの」
「医務室!? えっ、じゃあここ医務室!? 代理じゃない方の医務室!?!?」
私は改めて、ちゃんと辺りを見渡した。
全体的に明るくて、寒色のライトが部屋の『白』を目立たせている。雪のような棚とは対照的に、カラフルなポーションや薬草がほんの少しだけ部屋を華やかに......してる、のかな??
私が座ってるベッドも、横に並んでるベッドも全部、簡単に持ち運びできそうな感じで......『代理医務室』とはだいぶ雰囲気が違う。
怪我とかしたら大体『代理医務室』に送られるし、基本的にトモル先生にお世話になってきたから、代理じゃない方の『医務室』って実は存在しないんじゃないかとまで思い始めてた矢先に——
————あれ?
え? あれ? ちょっと待って??
こ、ここがあの伝説の『医務室』だってことに気を取られて、さらっと流しちゃったけど、
「せ、先生の名前、アポネ・『ネルソービュー』って......!?」
「はい。おそらく、『ウィロー・ガーディナー』さんの思っている通りでしょう」
先生は無表情のまま頷くと、ドクターコートから覗くネクタイに手を当てて、また小さくお辞儀をした。
「改めまして、私はアポネ・ネルソービュー。ネルソービュー家の長女として、ここの学園長も務めさせていただいておりますわ」
「校長先生!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
私は思わずその場で『ぎょえぇぇえええぇぇええーーーーっ!!!!』ってした。
横転しすぎて、危うくでんぐり返しするところだった(?)。
「なっ、ななななななっっなんで校長先生が医務室にっっっ」
「医務室で働かせていただいておりますゆえですわ」
「???? で、でも先生は校長で......??」
「校長でもあり、医務室の担当医もやらせていただいております」
「!?!?!? 過労死しないそれ!?」
あっ......!!
ま、まさか、そもそもこの学校に『代理』医務室っていうのがあるのも、
トモル先生の方が圧倒的に遭遇率(?)が高かったのも!!!!
「い............今まで医務室の先生がとんでもないサボり魔なんじゃないかとか思っててごめんなさい......」
「そのように思っておりましたの?」
「校長の仕事が忙しかったからなんだね......すみません............」
「......代理医務室の存在理由は、それだけに留まりませんけどね」
アポネ先生——いや、ネルソービュー先生......?は、灰色の翼と共に瞼を閉じた。
少しの間黙り込んだ後、そっと目を開けて、顎に手を当てながら私を見てくる。
ネルソービュー学園の校長ってもっとこわ~~いイメージというか、生徒たちは一生会うことがないような遠い存在だと、勝手に思ってたんだけど......。
いや、怖くないわけじゃないよ? 威厳増し増しだよ?? 灰色の翼の天使とか初めて見たし、真っ黒な天使の輪とか目とか不気味なところも多い、けど、
良い意味でも悪い意味でも、校長っぽくないっていうか。
なんだろう......うまく説明できない......。
「そういえば、感情豊かなあなたを見て思い出しましたわ。あなたの意識を奪ったキャラメルを作った張本人は——」
「あーーーーーーっ!!!! キャベツくん!!!!」
そうだそうだった忘れてた!! キャベツくんも一緒にあのキャラメル食べて——
——でも、医務室にはいなさそう......?
「えっ、もしかしてキャベツくん大丈夫だったの?? 気絶したの私だけ?? なにそれすっごいムカつくんだけど」
「いいえ。彼ならここにいらっしゃいますわ」
アポネ先生は真顔でそう言いながら、白衣のポケットの中に(?)手を入れて、長くて細い杖を取り出した(??)。
そして、杖を自分の手のひらに向けて、......
り......リアルキャベツを召喚、して......。
「『キャベツ・グッドネス』さんは、『ガーディナー』さんと一緒に医務室に運ばれてきたのですが」
アポネ先生は真顔のまま、リアルキャベツを両腕で抱えた。
「せ、先生? ツッコミ待ちですか??」
「治療を施したところ、彼はあなたより先に目を覚ましました」
「せんせぇ?? 真顔で話続けないで??」
「しかし、彼は私の顔を見るなり、すぐに逃げ出そうとしました」
「ツッコんでいいの?? 笑っていいの????」
「話を聞いていると、『ガーディナー』さんと『グッドネス』さんが倒れた原因は、『グッドネス』さんにあることが発覚いたしましたわ」
「アポネせんせぇ~~~~??」
「ですので、私は『グッドネス』さんの動きを封じるために、彼を一時的に野菜の姿に変えさせていただきましたの」
「......あぇ?」
先生はリアルキャベツをそこら辺に投げた。
すると、ポンッと音が鳴ったと思ったら、リアルキャベツが着地するはずだったその場に——
「うわぁぁあああああぁぁぁぁあぁぁああ戻ったぁぁああぁぁあぁぁあああ自由だぁぁああああぁぁぁああああぁぁぁぁああああああああああああ」
両膝をつきながら天を仰いでるキャベツくん(人間の姿)がいた。
彼は叫び終わるとすぐに立ち上がって、ガン開きの目を私に向けて、
「逃げるぞガーディナーー!!!! 早く!!!!!!!」
私が大爆笑する隙も与えずに、手首をガシッと掴んできた。
「???? なんで??」
「説明は後だ!!!! いいからさっさとここから逃げ——」
それは、一瞬の出来事でした。
キャベツくんの方に何か飛んできたと思ったら、彼の体が何かに縛り付けられたかのようにギュッッてなって、浮く。
彼がいくら悲鳴をあげながら手足をバタバタさせても、自由を手にする時はむしろ遠ざかってるみたいだった。
キャベツくんを縛り上げた『何か』が飛んできた方を見てみると、そこには予想通りアポネ先生がいて、
彼女は冷たい目を見開きながら、広げた右手をキャベツくんの方に向けている。
「『キャベツ・グッドネス』。無駄な抵抗はおやめくださいまし」
「うわぁぁぁあぁぁああ嫌だぁぁああぁぁぁあ!!!! またベコベコにされるぅぅううぅ」
キャベツくんの腰回りをよく見てみると、真っ黒な輪っかがギュッて食い込んでるみたいで。
だから、試しに先生の頭の上を見ると......あ、やっぱり無い......。
え......?? 天使の輪っかって、生徒を拘束するのに使うやつだったの......????
「相変わらずあなたは入学当初から、問題行動が目立っておりますわね。やはり『レベッカ・ブラックウェル』の影響ですの?」
「れ、レベッカ先輩は関係ねぇっっっいややっぱりある!!!!」
二人の会話を聞いてると、なんとなく、二人は結構前から顔見知りだったんだなっていうのがわかる。『入学当初から問題行動が目立ってる』、ねぇ......。
体育館ステージ爆破は仕方ないとして......確かにキャベツくん、定期的に授業サボったり、なんか変なもの持ってきたり、ふざけたりして......
......。
あ、あれ? それウィローさんもそうじゃない?? あれ??
ま、まぁまぁ、今回の激辛キャラメル事件はキャベツくんのせいみたいなとこあるし?? ウィローさんノリノリで食べちゃったけどまぁどっちかっていうとキャベツくんが悪いし??
「やーーい! やーーーーい!! キャベツくんピンチでやんのーーー! ざまぁ~~!」
「ほんとうにぶち転がして雪だるまにして火山に放り込んでやるぞテメェ!?!?」
「おーっ! キャベツくんにしては語彙力高——」
「問題行動が目立っているのは、『キャベツ』さんだけではございませんわ」
......ん~~~~~????
「ん? ん~~?? せんせぇ?? え?? な、なんで私の方を見て......??」
「授業の無断欠席、遅刻、課題の提出率の低下......加えて、立ち入り禁止の森の中にも二度入ったそうですね?」
「なななななななんで知ってっっっ」
クソッッキャベツくんのヤロォ、『ざまぁーーーーwww』みたいな顔しやがってぇ......!!
「ほ、ほほほほらキャベツくんだって何回も森入ってるし!!!!」
「おいコラてめ何チクってんだこの」
「そしてお二人は、掟違反にも関わらず、定期的に食堂で互いに料理を分け合ってもいるそうですわね?」
「「あ」」
うわぁ懐かしいーーーーー!! そういえばあったねぇそんな掟!
食堂で頼んだ料理は、他の生徒に分けちゃいけないってやつ!!
昔はそれを破るたびに、ローリエに注意されて......途中から諦められて......。
「そっっその掟に関しては別にいいだろうが! だってマジで意味わかんねぇしその掟!! 今んとこ食べあいっこしてもなんも起こってねぇし!!」
「そ、そーだそーだ!」
仕方ないから、私はキャベツくんの味方をした。
だけどアポネ先生の目は冷たいままで、うっ......今、ちょ、ちょっとだけ悪寒が......。
「......」
彼女はずっとキャベツくんの方に向けていた右手を下ろす。
すると、キャベツくんの体が床に容赦なく落っこちて、
「ぐぇっっっっ」
天使の輪が先生の手の中に戻る。
アポネ先生は輪っかを頭の上にかざして、そっと手を離す。
すると、まるで虫ピンで固定されたかのように、天使の輪は宙を浮いた。
「......『ウィロー』さんも『キャベツ』さんも、もうすぐ二年生になる自覚が足りないと思われますわ」
「「え???? 【私】【オレ】たちもうすぐ二年生なの??」」
「えぇ。今学年も残り三ヶ月弱でしてよ」
先生はまた髪をかき上げる仕草をしたけど、相変わらずツインお団子ヘアの下をスカッてするだけだった。
それでも先生は、一切恥ずかしそうにしていなかった。
「もうすでにお二人のガイドからそれぞれ説明されていると思いますが、二年生になる前に、あなた方はどの人外を目指すのかを決めなければなりません。そして、選択できる人外の『学科』も、あなた方それぞれの成績に影響されます」
あ......あのですから、私のガイドさん、ブレイズくんのせいで消息不明なんだってぇ......。
でも確か、ミルルンのガイドさん......シェリー先輩が色々教えてくれて......。
『一年生の最後あたりに、あなたたちにはそれぞれ「推奨学科リスト」が届くの。二年生になる前に、あなたたちはその中からなりたい人外の学科を選ばなくてはならないわ』
『あなたの属性とか、弱点とかももちろん加味されるけど......一番影響があるのは、あなたたちの成績ね。成績が良ければ良いほど、当然選べる学科の幅も広がるわ』
『それしか選択肢がない限り......絶対に、サキュバス科には入らないで』
......そっか......もうすぐなんだ。
もうすぐ一年生が終わっちゃうんだ。
あ、あれ? 一年生は六月に終わるって最初からわかってたのに、なんか、あと三ヶ月って言われると急に怖くなってきたんだけど......。
「希望している人外が『推奨学科リスト』に載ってほしいのであれば、問題行動は慎んでくださいまし。今後のあなた方の未来がかかっているのですから」
「「......」」
私とキャベツくんは顔を見合わせる。
彼も珍しく静かになっちゃってて、どこか不安そうな顔してて......もしかして、私もおんなじような顔しちゃってたりするのかな......?
わ、私、そもそも何になりたいかすらも決めてないし......。
成績はそのぉ、全体的に良いとは言えない、し......微妙だし......『ポーション学』とか常に激ヤバだし......。
う、うぅぅぅううっ、急に将来への漠然とした不安がっっっ
でも、で、も......そろそろほんとに直面し始めるべき、だよね......考えておくべきだよね......?
だって......私たちネルソービューの生徒は、人外に『成る』ためにここにいるわけだし......。
学科は慎重に選べって、言われたし......。
ネルソービューで過ごす四年間の中で、間違いなく一番大切な選択で————
『ネルソービューの、くさった——ひみつ、ぜぇ~~~~~~んぶ。』
『しりたいよね? おねえちゃんはまだにんげんだから、おしえてあげる。』
『そし——て。』
『いっしょに。』
「——っ、......!」
「? ガーディナー?」
だ、......だめ。だめ、だよ、今それ思い出しちゃ。
それ思い出しちゃったら、全部わけわかんなくなっちゃうじゃん。
一旦無視しないと。考えないようにしないと。
常に暴走寸前の幽霊が言ってることなんて、絶対に本当は限らない、し、
テオくん、だって——
「あなたたちは、選ばれし人間です。人外に成る権利を与えられた、特別な人間です」
アポネ先生は、大きな翼を広げた。
寒色の光を浴びて、少しだけ白飛びした灰色の翼からは、羽は一本も抜け落ちない。
風で再び前髪が上がって、隠れていた右目がちらっと見えて......。
ずっと黒色だと思っていたけど、違った。
深い紫色だった。
「賢い選択をしてくださいまし。今後、あなた方が幸せになれるかどうかもかかっているのですから」
黒ずんだ天使の輪が、周囲を闇で照らす。
「どうか......取り返しのつかない間違いだけは、犯さないように」
ほんの一瞬だけ、薬のような匂いがする。
薬のような、毒入りチェリーのような......。
もし薔薇の棘にも匂いがあるとすれば、こういう匂いがするのかもしれないなって。
ふと、そんな不思議なことを考えてしまった。
「私、アポネ・ネルソービューは......すべての生徒たちの幸せを、願っておりますの」
......幸せ......か。
『許さナイ!! 人外を!!!! 絶対に!!!!!!!!』
『じんがいに——なっちゃった————ょ』
『ネルソービューの連中って、嘘つきばっかり。偽善者ばっかり。だから嫌いなの。人間を人外にするなんてどうかしてるわ』
『人外め!!!!!! 人外さえいなければっっっ俺、はっっ俺は!!!!!!』
......私たちの、幸せ......。
『じんがいを、みなごろしにしようね!』
「————おい、ガーディナー。やっぱお前......」
次話:3
です、何かのカウントダウンが始まりました




