四十三話:知りたくなかったな
『奴隷三号も一緒なんだね~。ネルソービューの生徒ってほとんどそうだもん。全員馬鹿で、無知で......こんな簡単なことに、四年経っても気づいてないやつだっている』
『考えたことなかった? 記憶を失くす前の自分は、ババアだったかもしれないって。赤ちゃんだったかもしれないって』
『今ここにいる自分とは、見た目も性格も、名前すらも違ったかもしれないって』
『何も覚えてねぇくせに......なんで今の自分が、ネルソービューに来る前の自分と同じだって、言い切れるの?』
......あれから、テオくんとは一度も会えてない。
食堂にも全然いないし、他のクラスにもいないし......
『自然浴』の授業でなら絶対会えるはず!って思ったのにいないし。
後からキャベツくんに聞いたんだけど、テオくんってほぼ全部の授業をサボってるんだって。だから『自然浴』にも絶対来ないぞ、って。
なんかね、もうムカついてきた。
なんなの!? 急にうちの部屋に不法侵入してきたと思ったらよくわかんないこと聞いてきて、立ち入り禁止の森にも無理やり連れていかれてっっなんかヒナタくんとも再会するし!!
それでっっ、意味深なこと言うだけ言っといて、結局なんの説明もなしにフェードアウトしやがって!!!!
あーーーーーー!! もーーーーーー!!!! ムカつくーーーーーーーーー!!!!
と、いうわけで。
私はキャベツくんの部屋——および、テオくんの部屋の前で、待ち伏せすることにしました。
仁王立ちでね、もうテオくんが現れるまでぜぇ~~~っっったいここから動かないっていう鋼の精神(?)で!!
時々廊下を通る生徒に変な目で見られたりしたけどききききき気にしてないもん!! 気にしないもん!! ぜっっっっっったい動かねぇかんなっ!!!!
もうね、聞きたいことぜ~~~んぶ聞かせてもらうから!!
『テオくんは何者なの』とか『ヒナタくんとどういう関係なの』とか『ブレイズくんと同じ幽霊だったりするの』とか『この前言ってたことってどういう意味』とか『一体ネルソービューの何を知ってるの』とか!! もう情報搾取しまくってやるから!!!!
もう疲れたの!! 意味深なこと言われるだけ言われて、逃げられるのは!! 伏線置くだけ置いて回収せずにどっか行かれるのは!!
いや、まぁ、回収されてきた伏線もあったけどさぁ......。
ブレイズくんが実は幽霊だったっていう伏線とか......未だなんであの観覧車——に付いてる砂時計——を狙ってんのかはわかんないけど......『ポ』なんちゃら——あ、『ポエナ』!がなんなのかもわかんないけど......。
あ~~そうだ、あとミルルンの件もあるんだった......。
あの幻想世界に閉じ込められたとき、なんでミルルンは、ブレイズくんが知ってる曲を吹いたのか、とか......なんでブレイズくんは泣きそうな顔してたのか、とか......。
他にも......他にも絶対色々あるんだよなぁ......もう忘れちゃったけど............。
「~~~~っ......はぁぁああぁぁぁあ............」
私はテオくん(とキャベツくん)の部屋の扉にそっともたれかかりながら、その場に座り込んだ。
自分のため息が、心なしか元気がないように聞こえる。ため息ってそういうもんなのかもしれないけど......。
「っ......たくよぉ、キャベツのヤロォ......あんだけ私のルームメイトがやばいやばい言ってたくせに、貴様のルームメイトもやべぇじゃんかぁ............」
扉を指でつんつんする。手のひらを添える。
なんだか冷たくて気持ちよさそうだったから、私は扉に耳と頬を当てた。氷と違って、痛くない冷たさ。知恵熱にちょうどいい、かも......。
......何かが籠ってるような音がする。ホラ貝を耳に当てたときと似たような音。
水のような、風のような......多分正体は暖房とかなんだろうけど、ちょっとだけ......落ち着く......。
それに、なんか......その音だけじゃなくて......。
「——っぱ——つ————かぁ? ——とも量——? ————っかんねぇぇえ!」
......ん??
「何が正解——だよ!? 女子って——ればよろこ——んだ!?」
「きゃ、——さ——あ——もの——、——んで——こんで——思——、よ......?」
な、なんか.....話し声も聞こえる、ような......!?
そっか!! もうテオくん部屋の中にいる可能性もあるのか!!
「うぅ——ぅぅう——! でもあい——く言いそうじゃ——って——っこう——せぇぞ!?」
私はドアにさらに耳を押し当てて、中から聞こえる声の、か、解像度......? 音質? 聞こえやすさ......?を上げようとした。
片方がキャベツくんなのはわかる。もう一人は......。
「——ふふ、素直に——れないだけだと——うよ? 特にキャ————では」
......テオくんでは、なさそう......??
あ!! そうだ!!!! こういうときに使える、『常用魔法』の授業で習った便利な魔法があるんだった!!!!
私は制服から杖を取り出して、魔導書は......多分呪文覚えてるだろうからいらない、かな。
杖の先を耳に向けて......小さめの声で、
「『地獄耳』~~~ッ!」
って唱えると、杖を向けた方の耳が1.5倍の大きさになってちょっとキモいけど——
「うぉぉおおおぉぉぉおおお!! 真面目に行くかふざけるべきかわからぁぁぁああん!!」
「ふ、ふふっ......どっちもキャベツさんらしいって思ってくれると思う、けどな......」
よしっ、聞こえる!! めちゃくちゃ聞こえる!! 魔法成功だぜぃ!!
この声はキャベツくんと、やっぱり......。
「だから......キャベツさんが良いと思う方を選んだらいいと、思うよ......」
「うぐゥッッッ......し、信じるぞ? オリーブの言うこと信じるからな?? もしうまくいかなかったら責任取れよ!?」
「うぇっ、あ、あ、う......や、やっぱり、ぼくはあんまり参考にしない方が......」
「逃げるな卑怯者ォ!!!!」
「ごめんなさい!!」
ほら、やっぱりオリーブくんだ!
なんだぁ~~? イチャイチャしてんのかぁ~~? 最近二人本当に仲良いよねぇ! やっぱ男の子同士だと仲良くしやすいとかあるのかな......?
なんか楽しそうなのはわかるけど、一体なんの話をして......う~~ん、盗み聞き用の魔法だけじゃなくて、扉の向こうを覗ける魔法とかもあればいいのになぁ。ネットで調べたらワンチャン出てきたりしないかな?
「クッ......にしても、菓子買いすぎたかもなぁ......マーケットで片っ端から良さげなもん買ってみたは良いものの、流石にこれ全部あげりゃあ引かれるだろうし......」
「バターフィールドさんとか、ビューリューさんにもいくつかあげればいいんじゃないかな? ぼくは二人にもお返しであげるつもりだよ」
「チッ、仕方ねぇなぁ......チビロリにもくれてやるか......」
私は聞こえてくる言葉を繋ぎ合わせたり、ガッチャンコしたりして、見えない二人の今の姿を思い浮かべようとする。
『真面目』......『ふざける』......『菓子』......『あげる』......『お返し』......。
......えっっっっっとぉ~......今は三月、で......
ま、まさか............っ
「ガーディナーのやつ、ぜっっってぇ『三倍返し』ってやつやんねぇと文句言うだろうからなぁ......多ければ多い方が良い気もすんだけど......」
うわーーーーっ!! うわぁぁぁああぁぁぁあああぁぁぁ!!!!
やっぱりもしかしなくともホワイトデーの話だこれぇぇえええぇぇえええ!!!!!!
しかも私の話だぁぁぁあああぁぁあぁあぁぁぁああぁぁああーーーーーーっ!!!!!!!!
「ガーディナーさん、キャベツさんに何渡してくれたんだったっけ?」
「ティラミス! わざわざ作ってくれたんだぜ!! あいつ料理下手なくせに!!」
あ待ってあっっあっっっ記憶がっっっバレンタインの記憶がっっっっっ
まままままま待ってこれ私聞いてていいやつ?? まずくない?? あれ?? 今更?? ちょっとやばいかもあれ待ってやばい私どっか行った方がいいんじゃ
「あいつん部屋の冷蔵庫にもなぁっ、えぐい数の失敗作あってな!! 後からチビロリに聞いたんだけどな、あいつ何回も何回も作り直してたらしくてなっ」
ローリエさん????????????????
なんでバラすの?? なんでバラすの?? なんでバラすの?? なんでバラすの!?
「マジでうまかったんだぜ!! 食いすぎてその日の夜ちょっと吐きそうなったけど——あ、これガーディナーにはぜってぇ言うなよ?? 絶対いじってきやがるからあいつ!! てかオレちゃんと耐えたし!!!!」
思わず声を出しそうになったから、私は口を押さえながら後ずさって、ドアの向かいの壁に背中をぶつけ、て、っ
これ以上聞きたくない、のに、『地獄耳』魔法のせいでドアから離れても聞こえてきて、
「ふふっ......キャベツさん、よっぽど嬉しかったんだね」
「んぇぇええあっ、お、お?? お??......ま、まぁ............そりゃ..................」
『あ!!!! あんま......き......緊張すんな!!!! オレは!!!! よォ......』
『............お前からなら......なんでも嬉しいから......よォ........................』
......魔法のせい、かな。魔法のせい、だよ、ね。
誰の心音......なん、だろう。
私のかな。うるさい、なぁ............。
両耳を塞ぐ。でも結局全部聞こえるし、耳の熱が嫌になったから、すぐ離す。
自分の指先までが、火傷した?ってくらい、赤い。
聞いてちゃ駄目。
聞いてちゃ駄目......なのに............。
「..................キャベツくんのばか......」
「そ、そんな感じでよ、あいつすげぇ真面目な感じで渡してきたから......やっぱオレも真面目ルートで行くべきなのか......??」
......よかった。私の声は聞こえてないみたい。
な、なに当たり前のことで安心してるんだろ......私......。
「で、でもよォ、真面目すぎんのもなんかむず痒いってか......普通に恥ずいし......でもふざけすぎんのもなんか!! あれじゃねぇか!!!! だーーーーっ!!!! こんなんじゃ一生決まんねぇぞォ!!!!」
「......ちなみにキャベツさんは、もし真面目に行くとしたら......何を渡そうと思ってるの?」
「へ???? こ、この菓子の山の中のどれか......?」
「............」
「そうだよ!! つまりなんも決まってねぇんだよ!!!!!!」
大きい音がする。台パンでもしたのかな、キャベツくん。それか床バン(?)?
「わぁってるよ!!!! ホワイトデーまでもう日少ねぇって!!!! そろそろ決めねぇとまずいって!!!!」
「で、でもキャベツさんこの前話した時、いくつか候補あるって言ってなかったっけ......?」
「?? そうだっけか??」
「うん。マドレーヌにするか、キャラメルにするか迷ってる、って......」
マドレーヌか、キャラメル......その二つって、なんか隠れた意味とかあったっけ? 前調べたはずなのに忘れちゃったな......。
い、今調べる? でももし......う......うぅぅう......。
......やめとこ......無知は最大の防御なり......。
「あ~~~~~......んなことも言ってたような......??」
「な、なんで忘れてるの......?」
「うるせぇ!! くそぉぉぉぉおお............助けてくれよオリーブ~~~............」
......私はなんとなく、その場で体育座りをした。
廊下には、外から入ってきちゃったであろう枯れ葉がたくさん落ちてる。今までは一度も気にしたことなかったのに、なんとなく私はそれを拾って、眺めて......。
ちょっと握るだけで、すぐ崩れちゃう。
「そういやオリーブも、ガーディナーにお返しすんだよな? 何渡すんだ??」
「あぇ、っと......ぼくは、い、一応......金平糖をあげようかな、って......」
「金平糖!?」
金平糖!?
ホワイトデーに金平糖!? わ、私に?? オリーブくんが!?!?
え~~~、可愛い~~~! さっすがオリーブくん、センスあるぅ~~~!
「ほーーん、金平糖......金平糖かぁ......ふ~~~ん? おまえ~~~。オマエ~~~~!」
ん? キャベツくんがニヤニヤしてるときの声してる......?
「お前もしかしてそれ、本命かぁ~~~~?? 金平糖って特別な意味あったよなぁ~~? なァ~~~~????」
おいコラーーーーーッ!!!! オリーブくんをからかうなーーーーーっ!!!!
まったく、ほんと油断も隙もデリカシーもねぇ男だなぁ、キャベツくんっていうのは......そんなんだからいっつもローリエに
「う、ん............うん............本命のつもり、だよ............」
「「——へ?」」
「ぼく......好き、なんだ。ガーディナーさんのこと......」
私とキャベツくんの声が重なったことに、オリーブくんは当然気づいてなくて。
「れ、恋愛対象として......見ちゃって、る............」
オリーブくんの声がどんどん小さくなっちゃって、下を向いているのがわかって、
彼の真っ赤に染まった顔が、安易に想像できちゃって。
「......」
「......」
「......」
「......」
キャベツくんとオリーブくんの間でも、沈黙が生まれていた。
......。
......。
......。
......。
う、そ......でしょ?
嘘、だよね? 嘘でしょ? え、......え?
オリーブくんが、私のこと......好き?
恋愛対象として、私......を......?
だ、だって、な、なん、で、
なんで私のことなんか、っ
「うぉぉおおおぉおおおマジかよ!?!? マジで!?!? マジでそうだとは思わなかった!!!!」
「えぇ!? ぼ、ぼくてっきりバレちゃったと思ったからっっ」
「え、あ......わりぃ、なんか......カミングアウトさせちまって............」
「う、うぅ............」
オリーブくんが、私のことを恋愛対象として好き。
オリーブくんが、私のことを恋愛対象として好き。
オリーブくんが、私のことを恋愛対象として好き。
オリーブくんが、私のことを恋愛対象として好き。
そ、んなっ、え、え、じゃ、じゃあ、
『ぼ、ぼぼ、ぼくに、く、くれ、る、の? が、ガーディナーさんが? ぼ、ぼくに......?』
わ......私がクッキーあげたとき、あんなに動揺してたの、って......。
『う、嬉しく......て......あ、ありが............とう............』
————~~~~っ
「いつから好きになったんだ?? お前とガーディナーが会ったのって、確かお前とオレが会うずっと前だったんだよな?」
「う......ん............え、へへ............」
「やっぱ『地獄ダンジョン』でお前を助けたときか??」
「......あ......えっと......そのときに、もっと好きになったのは間違いないんだけど......」
た、助けたとき? 『地獄ダンジョン』で助けたとき......?
『ぼく、ほんとは......っ......ガーディナーさんと、一緒にご飯、食べたいんだ......』
『ガーディナーさん、いつも、こ、んなぼくを誘って、くれ、てっ......嬉しくて......』
も、『もっと』? 『もっと』好きになった??
『ガーディナー、さん......!』
『ぼく......ガーディナーさんの、そういうところ——』
「そ、の......恥ずかしいん、だけど......ぼく......多分......」
『そ、そういえば......ぼく、まだあなたに名前言ってなかった、よね? ガーディナーさんは言ってくれたのに......』
『ぼくは「オリーブ・メイベリー」だよ。す、好きなように呼んでくれて大丈夫......』
ど、どうしよう、こ、こんな話聞いてちゃ最低だ、
は、離れな、きゃ、離れて聞かなかったことにしなきゃっ
だ、って
だって——
「ガーディナーさんに、ひ、一目惚れ......しちゃ、って............」
......わ......た、し............。
どう、しよう......。
オリーブくんはずっと、ずっと出会ったときから私のことが好き、で、
私、は......私は......?
私はどうなの......?
オリーブくんは優しいよ。優しくて、良い子で、可愛くて......。
この『好き』は、オリーブくんの気持ちに応えてあげられるほどの『好き』、なの......?
キャベツくんに対して感じる、の、とは違うの?
そもそも私はキャベツくんのこと『好き』なの?
聞いちゃったんだ、
聞いちゃったんだ、
聞いちゃった以上、
私、
は
「そっか!! オレ、オリーブのこと応援してるぜ!!!!」
....................................
おう............えん。
そっか
キャベツくんは
私とオリーブくんを
応援、してくれるんだ。
「............応援............するん、だぁ............」
......結局。
その日も、テオくんには会えなかった。
次話:私は太陽
です、太陽光は時に残酷です




