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四十話:ふざけないでクレッシェンド

私とキャベツくんは、オリーブくんに向かって土下座した。



「ほんと......ほんとごめんねっ......オリーブくんが大変な目に遭ってる中、私たち......」

「うぅぅうううぅううっっ......ごめんなオリーブぅぅうううう......!!!!」


「う、ううん、大丈夫! 気、にしないで! で、でも、そ、の......えっと......」



オリーブくんは両手で辛うじて顔をガードしながら、シュークリームモンスターの舌を避けようと体をのけぞらせた。



「そ、それ、は、ぼぼ、ぼくを助けてもらってからにし、てくれない、か、かなぁ......!?」



私たちの代わりに応えるように、シュークリームモンスターは楽しそうな鳴き声をあげながら、オリーブくんのほっぺたをペロペロした。


見た目は似ても似つかないけど......鳴き声も行動も、完全に大型犬のそれなんだよなぁ......。



「ぅあっ、う、うぅぅうう......く、くすぐったいよぉ......っ......」

「ま、待ってろオリーブ!! 今オレが助けてやるからなっっっ!!!!」



キャベツくんは双剣を強く握りしめながら、シュークリームモンスターに向かって突進する。

そして、モンスターの太い足に斬りかかろうとして、


案の定、後ろに弾かれちゃってた。



「チキショーーーーッッ!!!! なんでだよ!? なんで鉄がシュークリームに負けるんだよ!?!?」

「キャベツくん、そのくだりさっきもやってなかった?」

「うるせぇ!!!! オレ魔法で戦うの苦手なんだよッッッ」



彼は剣の先をガンガンって床にぶつけながら、私を睨みつけてくる。剣壊れちゃっても知らないよ~?



「ごちゃごちゃ言ってねぇでテメェもオリーブ助けようとしろよ!!!!」

「ごめんあの、私武器持ってきてないんすよ」

「は!?!?」

「と、言うわけで——」



私は後ろを振り返って、ブレイズくんに満面の笑みを向けた。

そして、シュークリームモンスターを指差した。



「ゆけっっ、ブレイズくん!! 一千万ボルトよっっ!!」

「......???? 俺がどうにかしろ、ということですか?」



ブレイズくんは私の台詞を理解してくれなかったけど、一応意味は理解してくれたみたい。


彼は若干首を捻りながら、モンスターに向かって歩き出す。


手斧じゃどうにもならないって判断したのか、ポケットの中から銃を取り出して、片手でサッと構えて、



......?

小さく何かを呟きながら、発砲した。


弾は速すぎて見えなかったけど、シュークリームモンスターが悲鳴をあげながら舌を引っ込めたから......多分、舌を撃ったんだろうな。



「ぅ、わっ」



急に手を離されたオリーブくんは、そのまま地面に尻もちをついた。


おそらくベタベタになった顔を制服の袖で拭いて、よろめきながら立ち上がって、私たちの方まで走ってくる。


そのまま私に......しがみついてくるかと、思いきや。



「あわっ、わ、ぁああっ、キャベツさっっ、ぼ、く、た、食べられるか、も、って、っっ」



な......なぬ!? キャベツくんの方に行っただと!?



「お~~~~ヨシヨシ、怖かったなぁ~~、もう大丈夫だからな~~~?」

「う、うぅぅううっ、う......ご、めん............ぼくがすぐ捕まっちゃったせいで......」



キャベツくんニッと笑いながら、オリーブくんの背中をバシバシ叩く。でも、オリーブくんの表情を見るに、痛くはないみたい。


むしろ、安心してるような......!


お、オリーブくんが、私以外にもあんなに懐いて......!! うぅうぅううっ、お母さん嬉しいよぉ......っ......。

嬉しいけど......なんていうか、ちょっと......



「へへーーん!! ほら見ろよガーディナー、お前からオリーブ奪ってやったぜ!!」

「なぬぅ!?!?」


やっぱり結構ムカつく!!!!


「オレとオリーブはズッ友だもんな~~~? お前もガーディナーよりオレの方が好きだもんな~~~??」

「えっ、えっ、あ、えっっっ」

「そんなことないもん!! まだ私の方が懐かれてるもん!! ねっ、オリーブくん!?」

「え、えぁっっぼ、ぼぼぼぼく、は、そ、の——」


「これで満足ですか?」



ブレイズくんは鋭めの声で私たちを遮った後、首を横に傾けた。

銃口を下に向けて、私だけを目で捉える。


少し強めの風が吹いて、黒髪を、シャツの襟を揺らす。


ちょうど彼に影が落ちて、瞳の中の炎が一層光って見えた。



『これで満足ですか』......??

あ、そっか、私がオリーブくんを助けてってお願いしたんだった......。



「うん、99点だよ!」

「......残りの1点はどこへ?」

「だってさっきのブレイズくん、一千万ボルトというよりは電——」




ブレイズくんにだけじゃなくて、私たち全員に影が落ちた。



いつの間にか、ブレイズくんのすぐ後ろに、シュークリームモンスターが立っていて。



頭部のクリームがぐつぐつと泡立っていて、丸い手から茶色い爪が生えてきて。


宝石の月が背後で輝いているからか、全てが逆光で。



さっきまでの可愛らしい雰囲気が削がれて。




シュークリームモンスターは、腕を、振り上げ——





「ブレ」

「——~~~~あぶねぇっ!!!!!!」




キャベツくんは、肩でブレイズくんを突き飛ばした。




二人はそのまま地面に倒れ込むけど、



モンスターの爪が迫って、



キャベツくんの——

















背中を引き裂く寸前のところで、止まった。



「......?」



目をぎゅっと閉じていたキャベツくんは、おそるおそる顔を上げる。


シュークリームモンスターは手を震わせながら、後ずさる。


カスタードがどこか青ざめて見えて、バンズの形が少しずつ崩れていって——




「ふ~~~ん? あんた、頭はシュークリームと同じくらい柔いんやなぁ?」




よく知る姿が、モンスターの頭の上に立っていた。


大鎌の刃——ではなくて、持ち手の部分を頭に突き刺してる。

片方の腰に手を当てて、まるで月に旗を立てた人みたいになりながら、薄っすらと笑みを浮かべて、



「......あんたに友達は傷つけさせへんよ」



すると、シュークリームモンスターの体が、一気に透明に染まった。


水のゼリーみたいになったと思ったら、ありとあらゆる光を反射させながら、破裂する。


弾け飛んだ水は虹を作って、砂糖のようにキラキラ輝く。



ローリエが新しくできた水溜まりに着地すると共に、数秒間雨が降り出した。

辺りに土は見当たらないのに、よく知る雨の匂いが立ち込める。


水滴がローリエの髪を伝う。カスタードまみれの大鎌を洗う。


影色が晴れて、優しい色が戻ってくる。


夢と現実の違いがわからなくなるくらい、世界一綺麗な天気雨。



......か......かっこいい。

かっこいい、すごくかっこいいんだけど、超超超超かっこいいがすぎるんだけど、



ローリエ......鎌の使い方、間違ってない......??




「ええか?? あんたら、落ち着いてよく聞けよ??」




ローリエは地面に寝そべってるキャベツくんとブレイズくんを一旦無視しながら、私たちの方に駆け寄ってきた。


ポニーテールをブルブルってして、まるで子犬のように雨露(あまつゆ)を飛ばして、



私たちに喋る隙も、ローリエの登場にびっくりする暇も与えずに、


人差し指をビシッと立てて、




「この状況な、全部、ぜぇ~~~んぶ、ミルフォイルのせいやねん!!」




***


ローリエの話によると......



バレンタインの夜、部屋でぼーっとしてたら、突然ミルルンが『見て見て~』ってしてきたんだって。


何かと思えば、ミルルンはガラスで出来た綺麗なフルートを手に持っていて。


『この前、やっとマーケットで買えたのよ~。ずっと欲しかったの~』って、ミルルンは嬉しそうに言ってきたらしい。



しばらくフルートを見せつけた後、彼女は楽器を口に近づけて、



『楽器魔法もね、ちょっとだけできるようになったのよ~。見ててね~』


って言ってきたから、ローリエはなんか嫌な予感がしながらも、大人しく聞くことにしたんだって。



そしたら、ミルルンが一音奏でた次の瞬間、部屋中が薄ピンクの霧に覆われて。


気づいたら、この幻想世界の中に迷い込んじゃってたらしい。




「......」

「......」

「......えっと......楽器魔法って確か、幻覚を見せる魔法だったよな......?」



ローリエの話(愚痴)が終わった後、一番最初に口を開いたのはキャベツくんだった。



「つ、つまり、バターフィールドが黒幕で......オレらが今いるこの世界も、全部......」



キャベツくんはパステルブルーの空を、ダイヤモンドの月を、雲の島を、甘そうな花を、桜を、水溜まりを、海藻を、


そして、最後にローリエを指差した。



「全部バターフィールドが魔法で作った幻覚ってことか!?!?!?」

「何気にあーしを指差すなっっ!! あーしは本物じゃい!!!!」

「うぉぉおおおぉぉぉおおお!! すげぇぇぇぇえええぇぇええ!!!!」



彼は双剣を上に掲げながら、子供みたいにはしゃいだ。

ホントは私も『すごぉおぉぉおおおい!!』って言いたかったんだけど、ローリエにキャベツくんと同類にされるのはなんか嫌だったから、黙っておいた。



「なんだよこれ!? 幻覚とは思えねぇくらいリアルだぞ!?!? 花もさわれるし、匂いもするしよォ、これってなんか知らねぇけどすげぇ魔力いるんじゃね????」



......私も全く同じこと思ってた......。



「バターフィールド普通にすげぇじゃん!! 天才かあいつ!?」



わかるぅ......!!



「感心しとる場合かっっ!! 今はまだあーしらしか閉じ込められてないみたいやからええけど、もしこのままほっといたら——」




すると、またあのフルートの音が鳴り響いた。



ローリエの声をかき消してしまうほど、濃厚で甘い音色。

さっき聞いたときよりも、ずっとずっと近くに感じる。



そ......っか。


この世界に足を踏み入れたときから、どこか懐かしい気配がしたのは......。



「あぁ~~~~~も~~~~~~ミルフォイルのやつっっっ、なんでまだフルート吹き続けとんねん!? 大変なことになってるって気づいとらんのかあいつ!?」



ローリエは片手で頭を抱えながらのけぞった後、そのままガクッと肩を落とした。

大鎌を地面に立てて、体重を預けて......一瞬折れたりしないか心配になったけど、ローリエの体重なら大丈夫だろうな......。



「ほんま......ミルフォイルのせいなんか、あの楽器がおかしいんか知らんけど——」


「あ、あ、あの......ビューリューさん......」



オリーブくんは若干私の後ろに隠れながら、す~~~っと右手を上げる。



「こ、この世界から出るには......その......つ、まり......」



またフルートの音が大きくなったから、オリーブくんは口をつぐんだ。


しばらく経って静かになると、彼は一旦深呼吸をして、



「ば、バターフィールドさんを......止めないといけないって、こと......?」

「......多分そういうことやろなぁ......」



また、フルートの主張が一瞬だけ激しくなる。まるでローリエの代わりに頷いてるみたい。


なお、ローリエの怒りもクレッシェンドしちゃったみたいだった。



「だぁーーーっっっるっっさいなぁ!! もうあかんもう我慢の限界や、最初は『ええ曲~』とか思っとったけどもう無理!!!!」



そして、怒りがフォルテッシモのまま、ローリエは大鎌をクルクル振り回して、




「ついてこいあんたら!!!! あいつ黙らせに行くぞ!!!!」



そう叫んだ後、一足先に音の方へ駆け出した。


ちなみに『クレッシェンド』も『フォルテッシモ』も、総合音楽で習ったんだよね!

なんか音がデカいって意味らしいよ。それしか覚えてない。



「おい!!!! チビロリのくせにオレに命令すんじゃねぇ!!!!」

「あ、あっ、きゃ、キャベツさん、ビューリューさ、あっ、ま、待って......!!」



キャベツくんもオリーブくんも、次々とローリエの後を追っていくから、私もついて行こうと足を一歩踏み出した。



だけど、もう一歩踏み出す前に、私は一度振り返る。


私の後ろには、ローリエが来てから一言も喋ってない者が、一人。



「......」



彼はただ、シュークリームモンスターが遺した水溜まりをぼーっと眺めていた。


少しだけ目を細めて、口を開いて......息を深く吸って、吐いて。



風が運んできたフルートの音に反応するように、彼はそっと顔を上げる。


頬にくっついてきた桜の花びらを指ですくって、優しく吹き飛ばして、



フルートの音がまた遠くなったその時、ブレイズくんはやっと私の視線に気が付いた。



「......てっきり、もうビューリューを追いかけに行ったものだと思っていました」



あ......ちゃんと話は聞いてたんだ......。



「いや、追いかけようと思ったんだけどさぁ、なんかブレイズくんが考え事してるみたいだったから......」

「......そうですか」

「............ブレイズくんはこないの?」

「行きますよ。......はい。行きます。......」



彼は脳から何かを振るい落とすように、ゆっくりと頷く。


そして、片手に斧、もう片方に銃を持ったまま、私の横を通り過ぎた。



「......行きましょうか」

「あ、......う、うん......」



私は彼の右隣まで小走りして、視線を落とす。


ローファーを濡らす水溜まりは、ハート型の花びらをいくつも運んでいた。




***


「あんさぁ、オレさっきお前のこと助けてやったんだからよ、もうちょっと愛想よくしてくれてもよくね??」

「......」

「いや実際に助けたのはあーしやけどな。キャベツはただこいつを意味もなく床ドンしとっただけやん」

「......」



ギャーギャー騒いでるキャベツくんとローリエに挟まれて、ブレイズくんはめちゃくちゃ帰りたそうな顔をしながら歩いていた。



「おい!! 無視してんじゃねぇよ銃サイコ野郎!! 聞こえてんだろアァン!?!?」

「......」

「あーしも今回はあんたのことこき使ったるからな?? 鬼振り回したる!!!!」

「......」



ブレイズくんは何回も私に『助けてください』って目で訴えてきたけど、私は口笛を吹きながら前を歩き続けた。



「が、ガーディナーさん......? さっきから『ぴゅ~ぴゅ~』って言ってるけど、ど、どうした、の......?」


......オリーブくんにツッコまれたからやめた。




ふざけてるようにしか見えないかもしれないけど、一応私たちは順調に(?)フルートの音に近づけていて。


心なしか、ダイヤモンドの月の姿も近づいていて。

晴れているのに、水の匂いが強くなって。



もうそろそろミルルンの姿が見えるんじゃないかな?って思った、そのと  





       き










                                         。
















          。          。          。


。            。            。。      。。




。。   。      。       。   。          。     。




。      。       。   。    。   。   。    。   。


  。        。     。   。         。   。    。


。。。  。  。   。。  。  。    。   。    。 。  。  。

次話:両手

です。。。

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