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三十三話:心臓が いくつあっても 足りません

「グッドネスさん!?!?」



私よりも先に、オリーブくんが反応する。

キャベツくんの手の元へ駆け寄って、私も急いで追いかけて、



「っ............!」



キャベツくんは、本当に、柵の外側にぶら下がっていた。


地に着かない足が空を切って、髪が風のせいでぐちゃぐちゃに暴れて、彼の表情はよく見えない、けど、


目を見開いてるのはわかった。



「あっ、っっぁ、ぐっどね、す、さ、ど、うしよう、どうしようどうしようっ」

「キャベツくん!!!!」



申し訳ないけど、私はオリーブくんを押しのけて、キャベツくんの腕を掴んだ。


そのまま塔の中へ引っ張り上げようとするけど、私の力じゃ全然持ち上がんなくて、うぅぅううぅぅううっ、こんなときにローリエがいたらっ



「オリーブくん!! 手伝って!!」

「ぁ、う、うん!!」



オリーブくんは私の腰に手を回して、一生懸命後ろに引っ張ってくれる。

それでもなかなか動かなかったから、柵の底を蹴りながら、もはや全体重をかけながらっ、



「キャベツくんも!! 少しは自力で上がろうとしなさいよーーー!!!!」

「............」



すると、ようやく彼の体が動いて、徐々に頭が近づいてくる。


キャベツくんの頭が柵の上を超えたとき、オリーブくんは彼の元へ駆け寄って、私が引っ張ってない方の腕を掴んだ。



「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぬぉぉおぉぉおおおぉぉぉおおおおおおお」

「~~っ!!」




二人で一斉に彼の両腕を引っ張って、すると急にひゅっと軽くなって、


キャベツくんは顔面から展望台に落っこちて、私とオリーブくんは尻もちをついた。



......きゅ、救出、成功......?




「......、......」




キャベツくんがガバッと起き上がると、おでこを押さえながら口をパクパクさせる。

瞳はひどく震えていて、顔面蒼白で......今の出来事を脳が処理しきれてない感じだった。



それは私もオリーブくんも同じで、ただお互いを見つめ合うことしかできなくて。


喉が痛くなるくらい、全員息を切らしている。


吹き荒れている風は、そんな私たちを嘲笑しているように聞こえなくもなかった。



「......っな......な......!!」



とりあえず私は沈黙をぶち破って、キャベツくんに飛びかかった。



「なにがどうしてそうなったの!?!?!?!?」



彼の両肩を強く掴んで、何度も何度も何度も揺らす。



「ねぇ!! なんで振り返ったら落ちそうになってんの!? 死ぬよ!? 落ちたら死んじゃうよ!?!?」

「っゥお、あ、っ」

「が、ガーディナーさん落ち着いて......!」



オリーブくんは私の隣に座って、そっとキャベツくんの顔を覗き込む。心配そうに眉をひそめてる。



「だ、大丈夫......? 塔に入ったときから、ちょっと様子がおかしいと思った、けど......」



あ......。

オリーブくんも、気づいてたんだ......。



「......」

「もしかして、た、体調悪い、とか......?」

「............オ、レ......」



キャベツくんは誰とも目を合わせようとしない。自分自身を抱きしめながら、ただぼ~~っと自分の膝を見下ろしてる。


指先は若干震えてて、顔色は悪いままで......怯えてるようにも見えるし、凍えてるようにも見える。


め......珍しいな。こんなに弱ってるキャベツくん、初めて見た。



「あっ、わかった~! 体調悪くてふらついちゃって、そのまま落っこちそうになっちゃったんでしょ~?」



せめて雰囲気でも明るくしようと、私はいつもの調子で彼に話しかけた。

でも、いつもほどはからかいすぎないように......。



「キャベツくんの強がり~。体調悪いときくらい言ってくれればいいのに!」

「......っ」

「ここの柵、そんなに高くないもんね......しかもキャベツくんめっちゃ背高いし......そりゃ落ちるわな......」

「オ......レ......」

「ん~?」



また言葉に詰まったのか、キャベツくんは金魚みたいに口をパクパクさせて、息すらも止めてしまう。


自分の指先の後は、オリーブくんを、そして私を見て、



「............オレ......は......——っっ」



唇が震えて、

掠れた声が漏れて、


そして——




「~~~~っっぁぁああぁぁあああぁぁぁああぁぁあああああああぁぁぁぁあああぁ」

「「!?!?!?!?!?」」



彼は大泣きした。


私とオリーブくんはびっくり仰天して、つい後ずさりそうになる。



「お、っっオレ、オレっっっ~~~死゛ぬかと思ってぇえぇぇえ゛え゛ぇぇえぇえ」



キャベツくんは溢れ出る涙を拭いもせずに、天を仰ぎながら大声で泣く。


時々声が割れたり裏返ったりして、子供みたいに泣き続けて、



「も゛う駄目だってっっ、このまま落ちて死ぬんだってっ゛っっうぅぅうううぅううぅう」



......お、お、おう......。

これは予想外......。



「きゃ......キャベツく——」

「オ゛レっ、オレなぁっ、高いとこ行っ゛たら頭わけわかんなくなるからっ、なんかわかんねぇけど、っわかんねぇよぉぉぉおお゛ぉ゛ぉぉぉおおおおおおぉおおお」

「え?」



『高いところ行ったら、頭わけわかんなくなる』......?

そ、それって......まさか......?



「れ゛もっっ、でもずっと見てたらっっ、慣れるっておもっ、思って゛、なんとかなる思ってええぇぇぇええぇぇええええぇえぇぇ」



キャベツくんはようやく腕で涙を拭ったけど、まだまだ全然溢れてくるからか、そのまま目をぎゅ~~って瞑っちゃって。



「でも全然駄目でっっ心臓終゛わってっ~~~気づいたらなんか落ちそうになって゛~~っ」

「ぐ......グッドネスさん、もしかして......」



これはオリーブくんに先に言われるやつだなって思って、私は大人しく口を閉じた。




「高いところ......怖いの......?」

「~~~~っっっ」




キャベツくんは声にならない声を上げた後、嗚咽を零して、首をぶんぶんぶんって振った。



「うるせぇぇえええぇぇぇぇぇぇえええそんなわけねぇしぃぃいいいいぃいいいいぃいいい」



つまり『YES』と。


オリーブくんも、ちゃんと『YES』として受け取ったみたい。




「ご、ごめんグッドネスさん、ぼく......『星落としの塔』に行きたいなんて言っちゃって......」

「黙れぇぇえ゛えぇぇえええお前のせいなわけねぇだろぉぉおお゛おぉおおぉぉぉおおお」

「ぁっ、ご、ごめん......?」

「クソがぁぁああ゛あぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁあ゛あ゛あ゛ぁぁぁああああ」



......。



私はキャベツくんの頬に手を伸ばす。


涙を拭ってあげたくなる。


でも私は結局、その手を彼の肩に置いた。

代わりに震えを拭い去ってあげるように、撫でる。



「もー。怖いならなんで最初っから言わないかなぁ......」

「ら゛っっって、恥ずかしいだろうがぁぁああぁぁぁあああああ」

「正直でよろしい」

「絶対馬鹿にされる゛っっってぇぇええ~~~っ」

「え~、馬鹿にしないよ! からかいはするかもだけど......」



私は彼の顔を覗き込んで、笑顔を向ける。涙のせいで見えてないかもしれないけど。



「......ごめんね、キャベツくん。気づいてあげられなくて」

「うぅぅうううっ~~~ぐぅううっぅうううぅううううえぇぇぇえええぇぇぇえええ」

「あ、あ、あの、グッドネスさん!」



オリーブくんはキャベツくんの手を包み込んで、あせあせってしながら目を細める。



「は、恥ずかしくなんかないよ! ぼくなんて、その、狭いのも暗いのも怖いし、高いのもちょっと怖い、けど......でも......」



少しの間、私とオリーブくんの目が合う。彼は私に対しても微笑んでくれた。



「ガーディナーさんたち、なら......受け入れてくれるって思ってる、から......」



あ......!!



や、やばい、喜んでる場合じゃないのに、う、に、ニヤける~~! ニヤけてしまう......!!


そっかぁ、そう思ってくれてるんだ......えへ、えへへ......。



「だ、だから、ね! グッドネスさんも、怖いものがあるんだったら、恥ずかしがらなくてもいいんだよ! む、むしろ......言ってくれたら嬉しい、なんて......」

「~~~~~うぅぅううぅううううぅうううう!!!!!!」



キャベツくんは鼻水をすすった後、オリーブくんに思いっきり抱きついた。


オリーブくんはビクゥッッッて肩を上げるけど、一切嫌そうな顔はせずに、



「ぇあ、え、え、ぐ、グッドネス、さっ」

「お前ぇぇぇえ゛えええぇぇええっっっ良いヤツだなぁぁあああぁぁあああぁぁあああ」

「え、あ............ふ、ふふっ......」



そっと目を閉じながら、優しくキャベツくんの背中を撫でた。



「も、う......大丈夫だから、ね......」

「っっっう~~~~っぁぁぁあぁぁあぁぁああぁぁぁあぁあぁぁぁぁああ」




......なんか、見てると......う、羨ましくなってきちゃったから、私は二人に手を伸ばす。


抱きしめるとまではいかないけど、そのまま二人にピトッとくっつく。

オリーブくんの優しい体温と、キャベツくんの収まっていく震えを、肌で感じる。


外は寒いはずなのに......むしろ、暑いくらい。



「よ、よしよし......ごめんグッドネスさん、ぼく、こういうの慣れてなくて、う、うまくできてるかどうか......」

「~~~っうぇぇえええぇぇぇぇえぇぇぇえええぇぇええ」

「怖かったねぇキャベツく~ん、私も撫でてしんぜよう~」

「ばかやろぉぉおおおおおぉぉぉぉおおおおおぉぉぉおおおぉぉおおお」



心臓がキュッてなる。



......ほんのちょっとだけ。


ほんのちょっとだけだよ??


ほんの、本当にほんのちょ~~っとだけ......泣きじゃくってるキャベツくんを見て......



可愛いって、思っちゃった......。




***


「ぜっっっっっっったいに誰にも言うなよ?」

「あい」

「特にローリエにはぜぇ~~~~~ったいに言うなよ!?」

「あい」

「返事は!?」

「してるじゃん」



112号室の前で、キャベツくんは何回も釘を差してきた。



「本当のガチのマジで言うなよ!? わかったか!?!?」

「あーい」

「真面目に返事してねぇだろそれ!!」

「っていうかさぁー、別に恥ずかしがることないってさっきから言ってんじゃん! 高所恐怖症って珍しくないしー」

「そっちじゃなくて!! 大泣きしたことを言ってんだよ!!!!」



キャベツくんは私のおでこを指差しながら、キッと睨みつけてくる。一瞬デコピンされるかと思ったけど違った。


ウィローさんは自室の扉に背を預けながら、べーって舌を出してやる。


しばらくしたらキャベツくんはそっぽ向いたから、つまり私が勝ったってことだね!(?)



「もうこんなやつ放って行こうぜ、メイベ......オリーブ! お前ん部屋って確か182だったよな?」

「......!!」



オリーブくんは嬉しいと恥ずかしいがごちゃ混ぜになった顔を浮かべながら、小さく頷く。



「う、うん。でも、グッドネスさんの部屋の方が近いから——」

「おいおい、そこは『キャベツ』って呼ぶ流れだろうが!!」



キャベツくんはオリーブくんと肩を組みながら、楽しげに廊下を歩いて行った。


オリーブくんは小さく私の方に手を振った後、またキャベツくんの方を見上げて、



「え、えっと、じゃあ......キャベツさん......?」

「お?? オレのこと『さん』って思ってくれてんのか??」

「う、あ......その......」

「そこは『うん』って言えよ!!」

「ごめんなさい!!」



......仲良くなってる!

えへへっ、なんか嬉しいな......。


どんどん遠ざかる二人を見届けた後、ふぅっと息をついて、カードリーダーに名札を当てる。


もうすでに部屋の鍵は開いてたのか、ガチャッて音が鳴ることも、カードリーダーが緑色に光ることもなかった。



今日も楽しかったな! キャベツくんが塔から落ちかけたときはびっくりしたけど、なんだかんだキャベツくんのこと知れたし、ちょっと......。......。


......オリーブくんとキャベツくんも、より仲良くなれたみたいだし!



唯一残念なのは、結局あの観覧車がまた見えなくなっちゃったことだなぁ......久しぶりに目撃できたっていうのに、それどころじゃなくなっちゃったし。


次見えるようになるのは、いつなのかな? また数ヶ月後?


誰かと一緒に見れる日は来るのかな?


いつか......あの観覧車の謎が、解ける日は来るのかな。



そんなことを思いながら、私は寮の部屋のドアを開ける。




「ただいm」




ルームメイトくんがぶっ倒れてた。




部屋の中で。床に突っ伏して。倒れてた。





「え?」

「......っ......っっぐ......!!」

「え?」




え?



ちょ、ちょちょちょ、ちょ~~~~と待って、え、ちょ、


一旦落ち着こう、一旦冷静になろうねウィローさん? 一旦息吸っ......っっっ



なんで!! この学校は!!!!

こんなに!! 立て続けに!! 事件が起こるんですか!?!?



「る、ルームメイトくん、え、あ、死......?」

「~~~っう......————くっ」



ルームメイトくんは床に倒れたままうずくまって、激しく息を吸ったり吐いたりしてる。意識があるのかないのかはわからない。



......なんだろう。


キャベツくんが塔の外にぶら下がってたときよりは、びっくりしてない自分が......。



「お、お~い......大丈夫~......?」

「っ......——っ......」



優しく体を揺すってみるけど、ほとんど反応がない。

口はうっすら開いたままで、汗が涙のように伝ってて。


試しに額に手を当ててみたけど......熱いわけじゃない。むしろ、冷たい......?


と、とりあえずこれっ、医務室に連れてった方がいいやつだよね?? 医務室? 代理医務室?? トモル先生にはいつもお世話になってるし、やっぱり代理の方に......でも、ルームメイトくん多分あの先生嫌いで——



『人外を前にすると......時々ああなってしまうだけですので』



............いや......人外が嫌いってだけで、あの先生が嫌いなわけでは......?

え? それじゃあどこに連れてっても同じじゃない?



「ゔ、っ......~~~~!!!!」



うわぁぁああぁぁああとにかく!! どこでもいいから早く連れていかないと!! でっ、でも一人で運べるかなっっ



「る、ルームメイトくん? 聞こえる? た、つのは無理でも、座ったり......——」



私は彼の首の後ろに腕を入れて、ゆっくり起き上がらせてあげようとする。


ルームメイトくんは唇をピクピクとさせるだけで。目は閉じたままで。



すでにズレてたメガネを外してあげようと、フレームに触れた、


その時。




ルームメイトくんの頬に、黒い穴が空いた。








次話:ルームメイトくんの正体

です、ルームメイトくんの正体がわかります

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