三十二話:『星落としの塔』で落とすのは、星だけにしてください
クリスマスも正月も冬休みも終わった私たちは、何をしているかというと......。
「ねーねー、もう諦めようよー。絶対開かないってばー」
「いや!! 次は!! 次はぜっっっっってぇ開く気がするんだよ!!」
キャベツくんは頬の汗を拭った後、扉に向かって杖を向けた。
私は聞こえるようにため息をついた後、外壁にもたれかかる。
そのまま、キャベツくんがずっと片手に持ってる魔導書をぼんやりと見つめた。表紙がところどころ破れてる。
「よし......よし!!」
キャベツくんは深く息を吸う。
そして、大きく口を開きながら杖を振って、
「『ネルソービュー警察隊だ!! 開けろ!!!!』」
......解錠呪文を唱えた。
「......」
「......」
で、案の定扉は開かなかった。
「クソーーーーーーッ!!!!!!」
キャベツくんは膝から崩れ落ちると、そのまま地面に手を突いて、わかりやすくうなだれる。漫画とかでよく見る、うねうね線のがっかりエフェクトが見える見える......。
「なんで開かねぇんだよ!?!? ちゃんと呪文唱えてるだろうが!!!! 集中してるだろうがぁぁぁあああ!!!!」
「魔力が足りないんじゃないすかー?」
「マジレスやめろ!!!!」
私はガックリしてるキャベツくんの背中を叩きながら、改めて目の前に立つ建物を見た。
灰色のレンガが積み重なってできていて、それ以外特に目立った特徴はない。
あとはあれかな、扉が鉄でできてて、キャベツくんの魔力じゃ鍵が開かないことくらいかな。
「ここってさぁ、ただの倉庫でしょ? わざわざ頑張って鍵開けてまで侵入する場所じゃなくない?」
「いやいやいや、わかってねぇなぁガーディナー!!」
キャベツくんは勢いよく立ち上がると、ドヤ顔を浮かべながら首を振る。また表情コロコロ変えちゃってよぉ......。
「普通の学校の倉庫ならまだしも、ネルソービュー学園のだぜ?? しかもわざわざ鍵掛けてるんだぜ?? 絶対すげぇお宝が隠されてるに違いねぇって!!」
数十分前の私なら、『確かに!!』って言ってたんだろうけど......。
「でもでもキャベツ先生、もうずっと倉庫のドア開けようとしてますけど、まったく進展ありませんよね?」
「うっっっ」
「もうウィローさん飽きちゃったんですけど? 違うとこ探検したいんですけど??」
「ま、まぁまぁ落ち着けって!」
キャベツくんは草むらに落ちた杖と魔導書を拾って、ま、まさかっ、
「次こそは開けてやるからよ!!」
「二分前も同じこと言ってた!!!!」
「言ってねぇ」
「言ってた」
「言ってねぇ」
「言ってたってば」
「言ってねぇ」
「言っ——」
「が、ガーディナーさんに、グッドネスさん......?」
私たちは一旦IQ3の喧嘩をやめて、馴染み深い声の方を向く。
目が合うと、彼は両手を背中に隠しながら、私たちに向かって微笑んでくれた。
優しいオレンジ色の瞳。あせあせとした雰囲気。
「や、やっぱり......! えへへ、こ、こんにちは......!」
「メイベリー!?!? なんでお前がここに!?!?」
オリーブくんはキャベツくんのデカ声にちょっとビクッてした後、私の方に一歩、一歩と近づいてくる。そのまますぐ隣に立ってくれる。
『私の方がキャベツくんより懐かれてるぜ』アピールをするために、私は彼に向かってドヤ顔をした。『??』って顔が返ってきた。
「え、っと......ぼく、この時間は授業ないから......」
彼は少しだけ頬を赤らめながら、視線を落とす。私たちが一瞬視線で会話してたことには気づいてないみたい。
「お散歩、してて......そしたら二人を見かけて......」
「マジかよ!! オレらと一緒じゃん!」
あ!! 早速ツッコミポイント発見!!
「はいはーい、キャベツせんせぇ~? 授業がないから散歩してるのと、授業サボって散歩してるのを一緒にするのは失礼だと思いますけど~?」
「黙れ共犯者!! 細けぇことはいいんだよ!!」
「えっ、ふ、二人とも、授業サボっちゃってるの......?」
「「あ」」
ま、まずい! オリーブくんは授業サボらない系男子だった!! そりゃ顔しかめるわな!!
「え~~~~~っと、これには深い事情が......」
「ふ、深い事情? 大丈夫......?」
「「......」」
私とキャベツくんは顔を見合わせる。
その後、二人で同時に両手を合わせて、オリーブくんの前でめちゃくちゃ頭を下げた。
「っっえ、な——」
「お願いですオリーブ様我々がおサボりになられていることは誰にも言わないでください特にローリエには言わないでください」
「次のマーケットでなんか奢ってやるからよ!!!! この通り!!!!」
「わわっ、わ......。......ふふっ......!」
顔を上げてみると、彼は目を細めて、両手を組みながら笑っていた。
「うん、わかった......内緒にする、ね」
「うぉぉぉおおぉぉおおお!! 神様仏様オリーブ様ぁ!!!!」
「やっぱチビロリと違って話のわかるやつだなお前!!」
キャベツくんがオリーブくんの背中を叩き始めたから、私は彼の肩をぽんぽんってする。
最初は動揺してたけど、やがてオリーブくんは照れ照れってしながら微笑んでくれる。
するとそこで、ウィローさんの脳内豆電球が点いたのです!
「そうだ!! ねぇオリーブくん、行ってみたいところとかある? せっかくなら三人一緒に冒険しようよ!」
「え!? い、いいの......? ぼくも一緒で......」
「ほーーん?? ガーディナーにしては良いアイディアじゃねぇか!!」
よっしゃーーーー!! ついでにキャベツくんに倉庫を諦めさせる作戦、大成功!!
いやぁ、自分の天才さにはつくづく震わされるっ......!
「......ぼ、ぼくが行きたい場所、か......え、っと......その......」
「オ? その顔、なんかある顔だなァ?? 言っちゃえよ!!」
キャベツくんは勝手にオリーブくんと肩を組んで、ニヤニヤしながら彼を揺さぶる。
彼が目を逸らしても、無理やり目を合わせようとする。
「えぁ、え、そ、の」
「ほれほれ、メイベリ〜?? 自分に正直になっていいんだぜ~~?」
「う、うぅ......」
傍から見ると、完全にウザ絡みしてくるタイプの陽キャだけど......キャベツくんのこういうところ、嫌いじゃないんだよね。
「じゃ、じゃあ、えっと......もし二人が良ければ......」
オリーブくんは唇をもにょもにょさせながら、倉庫とは反対方向を指差した。
その先には......塔? あの校舎の近くにある塔を指差してるのかな?
「ほ、『星落としの塔』......行ってみたいな......授業で使われてないときは誰でも入っていいって聞いた、けど、ずっと一人で行くのは怖くて......」
「いいじゃん!! 何気に私もキャベツくんも行ったこと——」
————あれ?
「グッドネスさんは、だ、大丈夫、かな?」
「......」
「? グッドネスさん......?」
「......へ? あ、お、おう!! もちろんだぜ!!」
キャベツくんは首がもげるんじゃないかってくらい何回も頷いて、片方の腕を空に向かって突き上げた。
「よっしゃ!! んじゃ早速、その塔とやらに向かうか!!」
「ぇ、ぁっ、お、おー......!」
オリーブくんは照れながら、キャベツくんの真似をする。
キャベツくんも、満足げに笑って......。
......う~ん......
気のせい、かなぁ......?
***
そびえ立つ塔は、なんというか......すごかった!
筒にされた板チョコが、雲の先まで伸びてる感じ。
帽子型の屋根のてっぺんを見上げようとすると、首が痛くなるくらい高い。
「わ、わぁ......近くで見ると、すごい、ね......」
オリーブくんは目をパチパチさせながら、『星落としの塔』の外壁をそっと撫でる。そのまま顔を上げて、多分てっぺんを見ようとして......。
「て、天気が悪くなってきたから、ちょっと不気味、だね......?」
「あ~......確かに言われてみれば、ホラー映画に出てきそうかも?」
雲が濃くなってきてるせいで、周りにコウモリが飛んでてもおかしくないような雰囲気になってる。
っていうか、もし夜なら絶対飛んでた。この学校、吸血鬼科の生徒が多いし。
な、なんか急に寒くなってきた......太陽が隠れちゃったから? いま普通に真冬だもんなぁ。
「とりあえず、中に入ってみよ! なんか面白いものあるかな~?」
「う、うん......何かの授業中じゃなければいいんだけど......」
塔の中は温かいかもしれないって思って、私はドアの取っ手を引っ張った。
すると、倉庫の扉と違ってすんなり開いて、頬に温かい風が当たってくる。
ついでに中を覗いてみると......。
「え、すごい! オシャレ~!!」
ドアの先に続くのは、少しだけ急な螺旋階段。
両側の壁のあいだは、ちょうど手すりと手すりの間くらいしかなくて、天井も近いからちょっと窮屈だけど......。
一言で言うと、タロットカードの中に迷い込んだみたい。
壁の下半分は青色で、上半分は白色で、螺旋階段に沿って波のように塗られてる。
青の中には、バツ印の黒い星がたくさん描かれてて......白の中には、金色の星がたくさん輝いていて......時々ダイヤ型の星もあるし、よく見る五芒星もある。
そりゃ『星落としの塔』っていうくらいだもんね! 誰が壁を塗ったのか知らないけど、良いセンス~! 五つ星付けちゃう! 星だけに(?)
「うっ......狭い......」
オリーブくんは背後から私の両肩にしがみついてくる。
彼は、私の左肩からそっと顔を覗かせて、上目づかいでこっちを......
「ご、ごめん......狭いの、ちょっと怖いから......しばらくこのままでも、いい......?」
「あ......うん! もちろん!」
私は自然と出てきた笑顔を深めて、彼の手に手を重ねた。
えへへ......やっぱり、頼られるのは嬉しいなぁ。
滑って転んだりしたら大惨事だから、そっと一段目に足を置いて、そのままもう一段、そしてもう一段。
オリーブくんもおそるおそる足を動かして、私のすぐ後ろで登って、
......?
「キャベツく~ん? 来ないの?」
扉の外に突っ立ったまま、ずっと塔を見上げてたキャベツくんは、体をビクッとさせながら前を向く。
「っあ、わ、わりぃ!! 今行く!!」
キャベツくんは私たちの方に駆け寄って、後ろの扉を閉じた後、階段の一段目をめちゃくちゃ強く踏みしめた。
「マジでぼ~~っとしてたわ......オレ疲れてんのかな......?」
「大丈夫~? あ、もしかして冬眠?」
「んなわけあるか!!」
「キャベツってどの季節が旬なんだっけー?」
「誰が野菜だ!!!!」
ツッコミのキレには問題なし、と......。ほんとにぼーっとしてただけなのかな?
聞いても答えてくれなさそうな気がしたから、私はとりあえず再び階段を登り始めた。
三つのバラバラの足音が、よく響く。不気味と言えば不気味だけど......なんだか、ちょっとだけ落ち着くような気もする。
一人じゃないって、思わせてくれる。
「そういえばよぉ、ここってなんの授業する場所なんだ?」
さっきまで静かだった分を取り返すように、キャベツくんはオリーブくんに話しかけた。
「『星落としの塔』っつうくらいだから、星落とす授業とか?」
キャベツくーん。そのボケ面白くないよー。
「うるせぇ!!!!」
あ、あれ? 口に出ちゃってた? わぁっ、うっかりうっかり~!
「えっ、と......確か、『占星術』とか、羽で飛ぶ練習をするときに使うって聞いたよ?」
「せんせいじゅつ~~?? そんな科目があんのか????」
「う、うん。星座を使って、未来を予知する方法を習うんだって。あくまで占いだから、百発百中じゃないみたい、だけど......」
占いかぁ! 占いは嫌いじゃないよ? 時々図書館にある占いの本をミルルンが持ってきたりしてね、みんなでやるんだけど......当たってるかどうかはともかく、みんなの反応が面白いんだよね!
「それにしても、オリーブくん詳しいね! せんせーじゅつ?に興味あるの?」
「えと、そうじゃなくて......ぼくのガイドさんが、色々教えてくれたから......」
「......なるほどね......」
後ろの二人に見えないように苦笑いしてたのに、キャベツくんは私の腕をつんつんってして、
「ずっと気になってたんだけどよぉ、お前ガイドと不仲なのか?」
「あっっっ、あ~~......えっと......」
......まぁ、隠す必要はない、よね......。
「実は私のガイド、色々あってルームメイトくんにトラウマ植えつけられちゃってさぁ......それ以降会えてないんだよね......」
「うわっっっ、お前のルームメイトまじでやべーやつじゃん!!」
「う、う~ん......優しいところもあるんだけど————?」
キャベツくんの方振り返って気づいたけど......キャベツくん、めちゃくちゃ手すりの持ち方が独特。片側の手すりを両手で掴んで、まるで綱引きでもしてるみたい。階段の登り方も不自然だし......。
「キャベツく——」
「そういやさ、この前ガーディナーが『ポーション学』でさ!!」
いじってやろうと思ったのに、気づけば別の話題になっちゃってて、いじるタイミングを失っちゃって。
私は壁の天の川を指でなぞりながら、会話を弾ませながら、そのまま階段を登り続けた。
『ポーション学』での私のやらかしエピソードを晒されたから、仕返しにキャベツくんが『常用魔法』でお寿司になっちゃった話をして。オリーブくんはどっちの話にも笑ってくれて。
他にも、自分の属性の話とか。初めて知ったんだけど、キャベツくんも私と一緒で、物理属性に弱いんだって。
オリーブくんは毒属性持ちなんだけど、弱点にも毒属性が入ってるらしい。自分の属性に耐性がないのは珍しいみたい。
なんだかんだ、友達と話すのは......楽しくて。
気が付けば、あっという間に頂上にたどり着いちゃった。
目の前が明るくなったと思ったら、冷たい風が髪を揺らして、首をくすぐってくる。
頬が少しだけ湿るような感覚がする。呑んだ息は、雨の味がした。
「おぉーー!!」
「わっ......!」
天気が悪いせいで、ちょっと見えづらいけど......。
「す、すごいね......頂上って、展望台になってたんだ......!」
「えっと、あそこが寮で、あそこは湖! あそこは『妖精の花園』! あそこはさっきまでいた倉庫だし......すごい! 全部見渡せるじゃん!!」
私は柵から身を乗り出しすぎないようにしながら、ネルソービューの各スポットを指差していく。すると、オリーブくんは私の背中から離れて、柵の上にそっと両手を置いた。
「ちょ、ちょっと怖い、けど......良い景色だね......」
「うん!! なんで私、もっと早くここに来なかったんだろ??」
森の方を見ていると、霧の先に光が見えたような気がして、私は目を凝らす。
赤、オレンジ、黄色、緑、水色、青色、紫色......
もしかして虹かな?って思ったけど、違うみたい。
光の真ん中には、ゆっくりと回ってる、砂時計。
それを囲うのは、カラフルなカプセルたち。
じっと見れば見るほど霧は晴れて、それは塔よりもデカくて——
観覧車やないかい。
........................え?
観覧車やないかい。
観覧車。学校が始まって、最初の一週間のあの日以来、現れることのなかった観覧車。
見えたり見えなくなったりするっていう、あの観覧車。
四年生が卒業するときに乗れるらしい、観覧車。
幽霊さんたちが壊そうとしてるらしい、観覧車に付いた砂時計。
未だ謎の多すぎる、観覧車。
観覧車、が。あの観覧車がここに来て、やっと。
やっとっっっ
「出————」
私はキャベツくんの方を振り返る。
今度こそ彼にも見えるかもしれないって。
あの幽霊の男の子と話した彼となら、この気持ちを共有できるかもしれないって。
『あれだよ! あの砂時計が、幽霊くんが壊すって言ってたやつだよ!』って。言いたくて。
でも。
キャベツくんの姿は、見当たらなかった。
「......え?」
そんなわけない。だってキャベツくん、さっきまで私たちのすぐ後ろにいたもん。
私は登ってきた階段の方を覗く。誰もいない。
展望台をくるっと見渡してみる。いない。
————いや。やっぱりいた。
いたっていうか、ちゃんと見えるのは彼の手だけ。
片方の手が、柵を強く掴んでる。
その指先は、ひどく、震えていて。
彼の体が、柵の外側に、
塔から落ちそうに——————
次話:心臓が いくつあっても 足りません
です、川柳です。落ちるだけではございません




