三十一話:性の六時間
「〈みなさ~~ん! ボクだよ! 今、全校生徒の脳内に直接語りかけてま~す!〉」
「え????」
ベッドの上で宿題をしようとしてた私は、寮の中をキョロキョロしてみるけど、もちろん誰もいない。
「〈12月24日、現在時刻午後9時~!! メリークリスマス!! もしくはハッピーホリデー!!!!〉」
耳元で大声で叫ばれてるような感覚なのに、不思議と耳は痛くない。脳内で声がこだまして、脳の一部になろうとしてるみたいな......とにかく、テレパシー特有の響きを声から感じる。
それに、この声......どこかで聞いたことあるような......?
「〈ボクはかの有名な『笑顔拡散委員会』のリーダー、レベッカ・ブラックウェル! 大悪魔科の四年生! ボクのことは知ってるって子も多いんじゃないかな?〉」
「あ!! レベッカ先輩じゃん!!!!」
出たーーーっ!! 『笑顔拡散委員会』!! 体育館のステージ爆破した罪を、私とキャベツくんになすりつけようとしてきた人(外)たち!!
初めてマーケットで会ったときも、テレパシーで話しかけてきたけど......遠距離でもできちゃうんだ......しかも全校生徒に......。
「〈本日は! ボクたち『笑顔拡散委員会』を代表して、みんなにクリスマスプレゼントをあげたいと思って! とっておきのガジェットを作ったんだ~!〉」
絶対やばいことしやがるなこやつ。
だって『笑顔拡散委員会』って、通称『いたずらサークル』って言われてるんだよ? いたずらで事件を引き起こして、『みんなを笑顔にする』とか言ってるサイコパス集団だもん!
だ、大丈夫かな?? この部屋急に爆発したりしないかな??
......でも......何が起こるのかちょっと楽しみ......。
「〈少しの間、体に違和感を覚えるかもしれないけど、我慢してね~〉」
「体に違和感??」
つまり......爆発!?!?!?
私は万が一部屋が爆発するときに備えて、布団を体に巻き付ける。
ついでに、一切手をつけてない『総合音楽』のプリントは............むしろ燃えたらラッキーだから、机に置いとこ! へ音記号嫌い......覚えたくない......。
「〈それじゃあ早速! みんなに『性の六時間』をプレゼントするよ~!!〉」
「ゑ????」
危うく、布団芋虫状態のままベッドから転げ落ちるところだった。
ちょっと待って?? 爆発じゃないの??
『性の六時間』プレゼントするってどゆこと??
「〈それじゃあ早速! さーん! にー!! い~~っち!〉」
ま、待って待って待って待ってまだ心の準備が——
「〈発射ーーーっ!!〉」
......とりあえず、爆発ではなかった。
『発射』って言ってたけど、天井から謎のスプレー?が出てきたりすることもなかった。
で、でも、なんか......なんか......!!
「っう......!?」
腰に蜘蛛が伝ってるみたいな、
体の外側が沸騰してるみたいなっ
なんか、
なんか、
なんかっ
っく
「ふ、ふっ、ふふっ、ふふふっふへ、ぇ、えぇぇえぇぇ!?!?」
くすぐったい!!!!
「あはっっ、なっにこれ、っっふっ、な、ななななにが起こっ~~~~」
布団の中で暴れ回る。
そのせいで、私はベッドの上で魚みたいに跳ねてる変な人になっちゃった。
「ハーーーーッ! やだーーーーっ!! 許してーーーーっ!! もう許し——」
ぼやけていく視界の中、ウィローさんはあることに気づいて、一瞬だけ真顔になる。
くすぐったい、だけじゃない『違和感』。
その正体にたどり着く前に、くすぐり地獄は急に終わった。
「〈はい! それじゃあみんな~、『性の六時間』を楽しんでね~!〉」
レベッカ先輩の楽しそうなアナウンスが鳴り響いた後、マイクがブチっと切れるような音が聞こえる。
それ以降、彼女のテレパシーの声が聞こえてくることはなかった。
「......はぁ......はぁ~~っ......死ぬかと思っ——......????」
ほら!! やっぱりなんかおかしい!!!!
私はそっと起き上がって、布団を脱ぐ。喉に手を当てて、息を吸い込んで、
声、を——
「あ......あ~......あ!?!?」
なんか知らない人の声になってるーーーっ!?
なに!? 男の人の声!? 誰!? 誰!?!? 何この正統派イケメンの声は!?
しかも、
なんか、それだけじゃなくて、
髪短くなってるし、
手がゴツゴツしてるし、
心なしか体がデカくなってる気がするし、
パジャマが勝手に制服になってるし、しかもこれって——
————ウィローさんに電流走る。
「......ま......まさか......っ」
私は急いでベッドから降りて、クローゼットの扉を開けた。
等身大の鏡に映るのは——......まぁ、ここまで来ると、ですよね~~って感じだった。
ハート型のアホ毛が、ひし形になってる。
髪は全体的に短くなってて、触覚ヘアはもはやなくなってるというか、一部分だけ長いっていうのがなくなってる。
よく見るショートヘアだ。顔立ちがちょっと幼いからか、中性的に見えなくも、ない。
薄い水色の髪はさらに薄くなって、銀髪に近づいてる。
目はほとんど変わらず......でも眉毛はちょっとだけ濃くなってる。
ヘアバンドもO字型ピアスもなくなってる。その代わり、左手の中指に黒の指輪が付いてる。
前髪も上げられてない。
着せられた制服は、普段キャベツくんたちが着てるやつと同じ。
背もいつもより高い。
......うん。もう確定だね。
ウィローさん、男性になっちゃったみたい。
「~~~~っ」
いや、待て。まだ叫ぶのは早い。叫ぶのは......アレを確認してからだ。
「......」
......
............
..................
「ぎゃぁぁああぁぁああぁぁああああぁぁぁあーーーーーっ!!!!!!!!」
***
と、いうわけで。
いつもの四人が、私の部屋に集まってきました。
「......で?」
ローリエくんは両腕を組みながら、主にキャベツちゃんの方を見る。
彼女......彼?の髪型は、えっと......センター分けだけど、真ん中で分かれてないときってなんて言うんだっけ? 七三分け?六四分け?っていう感じの名前だった気が......。
とにかく、凛々しい表情がよく似合う髪型をしてる。
髪色も、風船ガムみたいに明るい紫だったのが、葡萄と同じくらい暗くなってる。
星のチェーンピアスも、チェーンの無いただの小さい星になってて、耳たぶをさりげなく飾り付けていた。
体は幼いままだからか、声も結構高め。
「あーしら、みんな性転換したみたいやけど......これって戻る方法あるん?」
「なんでオレに聞くんだよ??」
「だって『笑顔拡散委員会』のリーダーって、キャベツの知り合いやろ? もうすでにクリスマスに何企んでるか教えてくれとったんやろ?」
「そうだけどよォ......あいつなんか言ってたっけなぁ......??」
キャベツくん......ちゃん?は顎に手を当てながら、わかりやすく「う~ん」って唸りだす。
キャベツくんちゃん(?)はね......性別が変わったのは見てすぐわかるけど、普段から劇的に変わった感じはしない。
髪はそのまま長くなったって感じ。セミロングが意外と似合ってる。
本来はロリータ制服だったはずなのに、それは嫌だったのか、普通に私服を着てる。
黒のパーカーとジーンズ。普段の自分が着てるサイズのやつだからか、結構ダボダボ。
顔もまぁ整ってて、ちょっと目つきが悪い美女って感じで......って、これだと普段のキャベツくんがイケメンって言ってるみたいで、なんか......
......。
「キャベツくんはあれだね、あんま変わってなくてつまんないね」
「なんでオレ急に文句言われなきゃいけねぇの??」
なんかムカつく......。
「どうせならアレがメロンサイズとかだったら面白かったのに。何がとは言わないけど......」
「それはオレもそう思う」
「うわ!! うわーーっ!! ここに最低がいます!!!!」
「なんでだよ!?!?」
「あ、あ、あの......えっと......」
オリーブくんちゃん(?)はおそるおそる手を上げながら、私たちの会話に入ってくる。ごめんねオリーブくんちゃん、こんな終わりの会話しちゃってて。気まずいよね。
オリーブちゃんの柔らかそうな髪は、腰のところまで伸びてる。
三日月型のアホ毛も、両端にある耳のような外ハネも健在。
顔は完全に可愛い系に全振りしてて、恥ずかしがり屋の女の子って感じがして......ふ、普通に可愛い。女子よりも女子女子してるかもしれない。ロリータ制服も超似合ってる。
声も、小さいからかもしれないけど、すごくほにゃ......ってしてて可愛い。
そして......大きい。
キャベツくんの分も吸い取っちゃったんじゃないかってくらい大きい(?)。
......何がとは言わないけど。
「せ......ぃ......の六時間っていうくらいだし、六時間経てば元に戻るんじゃないかな......?」
「あら~、残念だわ~。もうちょっと長い間このままでもいいのに~」
ミルルンは、言わずもがなイケメンである。そりゃ元があんな美女ならね......。
普段は綺麗なストレートヘアだけど、性転換した彼女——いや彼は、少しだけくせっ毛になってる。
それで......語彙力を失うくらいね、顔面がもうね、すごいの。いつもなら花のオーラが見えるんだけど、今のミルルンからはキラキラオーラが見える。
花かんむりを被ってる、儚い王子様って感じ。
「わたくしは、もっと性転換したみんなを堪能したいよ~」
「六時間も十分長いやろ......」
「アァッ!! 思い出した!! 確かレベッカ パイセン、時間経過以外にも元に戻る方法があるっつってたわ!!」
キャベツくんは両手を叩いた後、私たちに向かってドヤ顔を浮かべる。
だけど、その笑顔はすぐに苦笑いに変わって......え、何? 一体何を思い出したの??
「あ~~~、でも......多分、六時間経つの待った方がいいぞ......?」
「んなこと言われたら気になるやん」
「右に同じく!」
「わたくしも~」
我々女性軍に——男性軍??に一斉に囲まれたキャベツくんは、指先で頬を掻きながらそっぽを向く。
「い、いやいや......絶対聞いたら後悔するぜ?」
「ええやん別に聞くくらい、聞いたらそれせなあかんってわけちゃうし」
「そーだそーだ!」
「え~~? ん~~~ぁ~~~~~~」
彼は途中で『もう知らねー!』ってなったのか、肩をすくめながら口を開いた。
「先輩によると、『「性の六時間」の本来の意味のことをすればいい』って......」
本来の......意......。
「「おぅ......」」
「だぁぁぁああぁぁぁあもうっ、だから言いたくなかっ——」
「あら~。んふふ~、なら簡単ね~」
「「「え」」」
一人だけ気まずそうにしてなかったミルルンは、恐ろしいことを言いながら微笑みを深める。
ローリエはもうすでに拳を構えていて、
オリーブくんはめちゃくちゃ後ずさって、
キャベツくんは天井を見上げて、
ミルルンのターゲットに選ばれたのは——
「要するに~、たくさんチューすればいいのよね~?」
————私でした。
もちろん後ずさったけど、あっという間に背中がタンスにくっついて、
気づけば壁ドンされてて、
目の前に宝石みたいな瞳があって、ミントみたいな香りがして、
「どわぁぁああぁぁぁああなんで私!? なんで私!?!?」
「だってわたくしたち、そういう仲でしょ~?」
「ちげぇわーーーーい!!!!」
ミルルンはフッと笑みを浮かべながら、指先で顎をくいってしてくる。イケメンじゃなかったら絶対許されないやつだぁ......。
「なななななななっ、なんでローリエじゃないの!?」
「ローリエとはまだチューできてないもの~」
「してないの!?!?」
いや何に驚いてるの私......?
「ローリエーーーーッ!! 見てないで助けてーーーーッ!!!!」
普段ならローリエが拳でなんとかしてくれるのに、彼女は腕を組みながらまじまじと見つめてくる。頬が若干赤くなってて、少しだけ目を見開いて......。
「なんか新鮮な光景やなぁ......男同士ってだけでこうも違うのか......」
「感心してないで助けてよ!!」
「なんつうか、結構絵になるやん......?」
「BLに目覚めるのは自由だけど助けてぇーーーーっ!!!!」
え?
あれ?
こ、これ......誰も助けてくれないやつ? ほんとにチューしちゃうやつ?
ミルルンとの二回目のキッス発生しちゃう......??
「ほら、ウィローちゃん。お目々閉じてね」
「ぇ、あぇ、あ、っえ」
や、ばい
どんどん、近づい、て
「力抜いて」
「~~~~~っう」
駄目なやつだ。
あらがえ、な
い
もう
目を閉じる、しか————
「だめぇぇぇええぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇええええーーーーー!!!!」
甲高い声が響いたと思ったら、誰かが私とミルルンの間に猛ダッシュで入ってくる。
彼または彼女は息を切らしながら、両手を私とミルルンの方に突き出して、
「はーーーっ......はーーーーーっ......あっっっ、あぁ、ぼ、ぼ、く」
オリーブちゃんは両頬を覆いながら後ずさる。
私たちを何度も交互に見てた目が、やがて渦を巻き始める。
「ぼぼぼぼ、く、ぼく、はっ」
「オリーブちゃん!! 助けてくれたんだね!!」
「えっっっぁ、あ......!!」
オリーブちゃんは何故か耳まで赤くなっちゃって、よろける。浅い息を吐き続ける。
アホ毛がへにゃって下がっちゃって、肩がプルプル震え始めて、ん、ん......??
「ぼ、ぼ、く、は、ぼくっ、ガーディナーさん、が、キ、ぅ、あっっの」
「う、うん......? 助けてくれたんだよね?」
「ちっっ......あ......~~~~~~っっ」
オリーブちゃんは両手で顔を覆いながら、そのままへたり込んじゃった。
そしたら、オリーブくんは男の子に戻った。
......うん。二度見したでしょ?
マジでね、戻ったの。なんか。
白い煙がポンって出てきたと思ったら、一瞬で普段の姿に戻ったの。
オリーブちゃんがオリーブくんに戻ったの。
「「「「「??????」」」」」
オリーブくん本人もびっくりしすぎて、さっきまでの照れが全部吹っ飛んだみたいだった。
私は一旦目をこする。そしたら、みんなも真似してくる。
オリーブくんは、男の子のままだった。
残りの私たちは、性別が反転したままだった。
すると、ローリエはオリーブくんの前にしゃがんで、好奇の視線を向けて......。
「オリーブ、あんた......」
ローリエはオリーブくんの耳元で何かを囁く。
「!?!?!?」
そのせいで、オリーブくんは爆発するように真っ赤になっちゃった。
え、なに? ローリエ何言ったの?? え? え????
「あっ、わかったわ~! 心拍数の上昇と、顔の火照りだよ~」
それを見てたミルルンは、元気よく両手を合わせながら分析しだす。
「オリーブくんがたくさん照れちゃったから、『笑顔拡散委員会』のガジェットが反応して、性転換が解除されたのよ~」
「いやガバ判定すぎるやろ」
「ローリエちゃん、早速試してみy——」
「寄るなぁぁぁぁぁああぁぁああ!!!!!!」
ローリエは思いっきり膝を上げて、ミルルンの——
......ミルルンの............蹴............。
「~~~~っ」
流石のミルルンも、悶絶しちゃってた。
「あ......ご、ごめんミルフォイル、あーしつい——」
そして、ローリエは女の子に戻った。
「は? は? は? は? なんで? は? どゆこと? は?」
ローリエが混乱してる間、ミルルンはそのまま床に倒れ込んで、チーンって......
あ待って違う違う違うわざとじゃない待って違う違うんですほんとに違——
「激しい運動......」
キャベツくんは頭の後ろに手を当てながら、ぼそっと呟く。
一瞬で意味を理解してしまった私とローリエは、スン......って顔になった。
キャベツくんもスン......ってなった。
「......」
「......」
「......」
私は真顔のままキャベツくんの方へ歩いて、彼の——彼女の——肩に手を置いた。
「......キャベツくん。一緒にブリッジでもして、さっさと元に戻ろっか」
「おう」
というわけで、私とキャベツくんはその場でブリッジした。
思ってた以上にきつくて、呻き声をあげそうになった
その、
瞬間、
部屋の扉が開いた。
「......」
視界が逆さまになってるから、若干見えづらいけど......ルームメイトくんなのはわかる。
または、ルームメイトちゃん。
一つにまとめられてるけど、外ハネが目立つおかげでボリューミーに見える。まるで真っ黒な天使の翼みたい。
いつどこで着替えたのかわからないけど......ロリータ制服ではなくて、シャツとネクタイとズボンだけを身にまとっている。
瞳の中は、変わらず静かに燃えている。
基本的に無口で無表情な、ダウナーお姉さんって感じ。
「............」
ルームメイトくんは、まずは真っ赤になりながら座り込んでるオリーブくんを見る。
その後は、床でチーンってなってるミルルン。
その後は、ブリッジしてる私とキャベツくん。
そして、最後に、ローリエ。
「......ビューリュー。これは一体なんですか?」
「地獄......」
「帰らせていただきます」
次話:『星落としの塔』で落とすのは、星だけにしてください
です、高いところでは気をつけましょう




