二十九話:似た者同士
ふわっと、甘い香りが漂う。
私とオリーブくんの間に、一輪の赤い花が咲く。
「へ?」
「っっっっっな」
全ての体温を奪われるような感覚がする。
花は光って、と思ったら、一瞬だけ視界が白黒になって、
私たちは吹き飛ばされた。
「っ......うっ.......!」
そこら中に砂埃が舞って、何も見えない。
痛......い。
うつ伏せのままでいるわけにもいかないのに、足が言うことを聞かない。
体中がヒリヒリする。膝にもおでこにも、絶対痣ができたような感覚がっ
「キャハハッ!! どぉ? ワタシの『ニトロ花』をモロに食らった感想は!」
砂埃に、うっすらと黒いシルエットが現れる。
「実はまだ、正式名称は決めてないのよね~! 『火炎花』? 『爆発花』の方がわかりやすいかしら?」
少しずつ視界が晴れて、最初に見えたのは......魔女の帽子。
ローブはビリビリに引き裂かれてて、まるで自分自身が爆発に巻き込まれたかのような恰好をしていて。
「動けないでしょう? 痛いでしょう? 苦しいでしょう!? キャッハハハハハハッ!! あんたらネルソービューの連中にはわかんないでしょうけどねぇ、地獄の業火はもっともっともっともっともーーーーっと痛いのよ!?」
やがて、ほとんどの砂埃が落ちて、彼女の姿と同時に......っ
「............が......っでぃなー、さ......ん......」
「滑稽だわ!!!! この子ったら、もうほとんど意識がないじゃない!!」
彼女はオリーブくんの背中を思いっきり蹴って、踏んで、踏んで、
踏んで、
やっ
「やめて.....!! オリーブくんから離れて、っ!!!!」
私は口に入った砂を吐いた後、肘で無理やり体を起こして、足を地面に立たせる。
そのまま、なんとか二本足で立って、彼女をキッと睨みつけた。
「アラァ~? そっちはまだ動けるのね?」
魔女はハイヒールをオリーブくんの背にグリグリするのはやめて、口元に手を添えながら高笑いする。
今まで出会ってきた『化け物』と違って、普通に喋ってるし、肌にあの黒い穴も見当たらないけど......。
「......魔女の......悪霊......っ......」
「マァッ! 『悪霊』なんて失礼ね!! ワタシはあのぶっ壊れた魂共とは違うわ!!」
悪霊は歪んだ笑みを浮かべながら、両手を天井に向ける。
すると、指先の間から赤い花が咲いて、彼女はそれを強く握りしめた。
「まぁ、ぶっ壊れたフリしてここに来たのは事実だけど? キャハハッ! 地獄の連中ったら、ちょ~~っと壊れた演技すれば、ここに送ってくださるんだもの!! ここは地獄よりもずっと住み心地が良いわ!!」
「はっ......はは......」
笑ってる膝を誤魔化すために、私は口角を上げる。
「なに言ってんのか......わっかんないなぁ......!」
「そうでしょうね!! ネルソービューの連中って、どいつもこいつも無知だもの!!」
私は悪霊を警戒したまま、オリーブくんの方を横目で見た。
彼は焦点の合ってない目を私に向けて、口を動かしてて......声は聞こえないけど......。
『に』『げ』『て』。
......そんな......オリーブくん置いて逃げれるわけないじゃん。
「良いわねぇ、良いわねぇ良いわねぇ良いわねぇ良いわねぇ良いわネェ!!!! ワタシ、あんたみたいなヒーロー気取りをぶっ壊すの、だ~~~い好き!!」
「っ......悪趣味だぁ......」
これ......戦わなきゃいけないやつだよね?
オリーブくん助けないとだし。
何もしないわけにはいかないし。
どう見ても勝てそうな相手じゃないけど。
でも。
「ふっ......ふっふっふ......貴様はウィローさんを怒らせた!」
私はできるだけかっこよくナイフを取り出す。
ほんとはクルクル~ってしてみたりしたかったんだけど、落とす気しかしないからやめた。
大丈夫。
私だって、少しは強くなってるはず。
「キャハハハハハッ!! どうするのォ? そのナイフでワタシを刺すの!? 刺せるもんなら刺してみなさいよ!!!!」
ナイフに映る自分は、ひどい顔だけど。全然強そうじゃないけど。
なんとかなるって、思うしかない。
思うしか......!!
「食らえっ!!!! シャイニング・ナイフ・スロウ!!!!」
訳して、ナイフ投げーーーっ!!!!
「......」
「......」
「......」
......結果は、ご覧の通り。
ナイフは地面に直撃して、そのまま悪霊の足元まで滑って行った。
「............あんた本気?」
「ち、違う!! 今から本気出すの!!!!」
まだ終わりじゃない!! 速攻ナイフなくしたけど終わりじゃない!!!!
私は保管ハットの中を漁って、魔導書と杖を取り出した。
ページを開いて、今の状況に使えそうな呪文を探す。
『常用魔法』と『守護魔法』の成績は悪くないんだから!!
「え~~っと、え~~~~~~っとまずは、えっと......『翼を授けよう』!!」
変な呪文にしちゃったことを後悔してる場合じゃない!
私は杖を魔女に向ける。
すると、悪霊の体が少し光って、よ、よしっ、捕まえ——
「おっっっっっも......!!!!」
な、なにこれ?? 全然持ち上がらないんですけど?? 持ち上がってないのになんか、やばい筋トレしてるみたいな疲労感が襲ってくるんですけど??
ローリエはこれでキャベツくんのこと持ち上げてたはずなのに......!!
「あんた!!!! レディーに『重い』って失礼すぎない!?」
「あっ......悪霊さんでも気にするんだ......」
「気にするに決まってるでしょ!?!?」
なんか、うまくいかなさすぎて、悪霊がツッコミ役になっちゃってるよぉ......!!
「ま、待って! 次はうまくいく! 絶対うまくいくから!!」
私はパラパラ魔導書のページをめくる。
もうこうなったら、片っ端から魔法を試していくことにした。
「『アップルビーーーーーームッッッ』!!」
「つめたっ!? なにこれ!?」
「どこからもなくりんごジュースを出す魔法だよ」
「どこで使うのよ!?」
「『Come forward』......言えた! 発音練習してよかったーーっ!!」
「......なにも起きないけど?」
「私にはお姉さんを引き寄せる魔力はないようだ......」
「ほんとになんなのあんた??」
「『トリック・オア・トリート!!』」
「ハロウィンはもうとっくに過ぎ——は!? なにこれ!?」
「手の小指がきのこになるよ」
「ハロウィン要素どこ!? そしてキモいんだけど!!」
「『バーーーリア』!! どう!? これはうまくいったでしょ!!」
「触れたら崩れたわよ?」
「なお、耐久性は保証しません」
「紙装甲どころか飴細工じゃない」
......と、そんなこんなで、失敗を連続してしまったせいか。
「あんた......ふざけてるの......?」
悪霊さんが、激おこぷんぷん丸になってしまった。
「ちっ、ちち違うんです!! 至って真面目なんです!! 本気でやってるんです私は!!」
「ワタシのこと舐めてるわよね......?」
「違う!!!! ほんとに!! すみませんでしたーーーっ!!!!」
「はぁ......もういいわ! 飽きちゃった!」
悪霊はため息をついた後、指パッチンをした。
ハッと息を飲むと、そこら中に花が咲いていて、
足元にも、
空中にも、
壁にも
天井にも、
無数の赤が揺れて、
燃えるように光って、
あっ
こ、これ
やばいんじゃ
「さようなら」
全方向に花が咲いてたおかげか、今回は吹き飛ばされることはなかった。
「っ——......——、——ぁ゛」
魔導書と杖と一緒に、膝から崩れ落ちる。
制服も肌も煤だらけ。
目に砂埃と火花が入って痛い。
痛い。
痛い、
痛い
「キャハハハハッ! もう立てないんじゃない~~??」
っ痛い痛い痛い、痛い痛い痛い痛い痛い
けど、
痛いけど熱いけど苦しいけどっ
「——~~っ、は......!」
だい、じょう、ぶ
だいじょうぶ
だいじょうぶ、
じゃないと
だって、
オリーブくんのこと、助けないといけないから
私は
大丈夫
「あ、っは......あはははっ......」
立てないほどじゃない......!!
「はーーーーっはっはっは!!」
私は笑った。
ほら、ピンチに陥った悪者とかって、こうして笑ったりするでしょ?
私は悪者じゃない、はず、だけど。
た、たなきゃ。
立たなきゃ。
立って、立って私、は、
私は、
「はぁーーっ、はぁーーーっ、は、はっ」
悪霊を指差した。
「私はねぇ!! ほとんどの属性に耐性持ってるんだよーーっだ!! 炎効きませーん!! 物理か毒しか効きませーーん!!」
「ふ~~ん? じゃあ物理と毒には弱いんだぁ~~?」
「あっ」
ま、まぁ、まぁまぁまぁ、この悪霊の攻撃って爆発する花がメインみたいだし??
物理と毒に弱いって知られたところで——
「ご親切に教えてくれてありがとねぇ~~??」
瞬きすると、悪霊は私の目の前にいた。
すると、すぐに視界がガクッてなって、息ができなくなる。
「————っが」
一回だけじゃ足りなかったのか、何回もお腹を膝蹴りしてくる。
何回も、何回も、何回も、
何回も何回も何回も何回も何回も
「~~——っぅ、あ゛~~~ゲホッ」
やっと終わったと思ったら、頭を鷲掴みされて、
「ワタシねぇ、しぶとい子は好きよ~~? 壊し甲斐があるから!!」
「げほっっっ、~~——~っ、!?」
あ、は
あははっ
ケチャップ吐いちゃったぁ、
なんて、
なんて、ね、
は、は......
「まぁ、あんたはしぶといフリしてるだけみたいだけどね」
「——~~っぅ、わ、わたし、は」
「いい加減、現実見れば? あんたはこれからぐちゃぐちゃに壊されるの。死ぬよりもずっとず~~っと痛い目に遭うの」
足が浮く。
バタバタしても、届かない。蹴れない。
頭に爪を立てられて、髪を引っ張られて、
い、たい、いたい、いたいっいたいいたいいたいいたいいたいいたいいたい
「ほんとは怖いんでしょ? 逃げたいんでしょ? 泣きたいんでしょ? キャハハッ! 変なの~!! もう楽になっちゃえばいいのに!! 壊れちゃえばいいのに!!」
魔女の目が真っ黒になる。
あ。
......穴。
肌に、穴が......。
そっか。やっぱり、悪霊、で
「ネルソービューの連中って、嘘つきばっかり。偽善者ばっかり。だから嫌いなの。人間を人外にするなんてどうかしてるわ」
「......っ......!! は、なし......」
「キャハハハッ!! あら~~?? 元気なくなってきたじゃない!!」
ナイフ
は、どっか行って、
杖、魔導書、
全部落ちて、
オリーブくん、は、
もう気を失っちゃってるみたいで、
「さてさて、どうしてくれようかしら~~?? 毒魔法は普通すぎるし、腕を引きちぎる気分でもないし......そうだわ! せっかくなら、あんたが『耐性ある』らしい『爆発花』で遊んであげようじゃない!!」
魔女の悪霊は、目の前まで顔を近づけてきた。
冷たい息が降りかかってくる。
「あんたの口の中に、この『ニトロ花』を入れてあげる。胃の中で爆破させてあげる」
彼女の目が、少しずつ、溶けた。
「吐き出そうとしても無駄よ。ちゃんと飲み込むまで殴るから」
「......ぁ......」
だ
誰 か
駄目、だめだ、助け求めてばっかりじゃっ
今まで助けてもらってばっかりで、
ルームメイトくんに、みんなにっ、オリーブくんに、
そうだ、オリーブくん、
助けなきゃ、
なんとか
私がなんとか、しなきゃ、
『絶対ここから出ようね』って。
『ここから出してあげる』って。
言っちゃったんだから。
「はい、あ~~ん!!」
考えろっ
魔法は杖がなくても使えるって先生言ってたもん、
魔導書なくても、呪文さえ思い出せれば、
何か、
魔法、
なんでもいいから何か、
「口開けなきゃ、まずはお腹に一発ね?」
花。『爆発花』。
..................そうだ。花。
花に関する魔法なら一個知ってる。
どうなるかわかんないけど、
うまくいくかわかんないけど、
なんとか、
「~~~っ!!!!」
なんとか、なれ。
「『咲き誇れ』ーーーーっ!!!!!!」
私はまるで、命がかかっているかのように叫んだ。
実際、命かかってたし。
そしたら、辺り一面が青緑に光って。
「——っ!?!?」
魔法を使った張本人の私も、一瞬何が起こったのかわからなかった。
私はただ......悪霊が手に持ってる『爆発花』を、枯らせたかっただけで。
だから、『植物の成長を早める魔法』を唱えたの。
でも、それとは別の何かが起こったことは確か。
だって私、気づいたら地面に座り込んでて。
いつの間にか解放されてて。
目の前には、大きな木......
のようなものが、咲いていた。
いくつもの太いツルが絡まり合って、木の幹のようなものを作り出している。
赤い花が無数に咲いていて、まるで葉っぱのように揺れている。
若干光を帯びていて、オーロラのように輝いてて......それに......。
あれだ。
クリスマスツリーに、ちょっと似てる......。
「っ、え......あ......え......?? わ、私、すごっ......」
えっと?? 多分、多分だけど......あれだよね。
私の魔法で、『爆発花』が急成長したんだよね。
で、めちゃくちゃデカくなって、何故か一つになって、それで......。
「ちょっと!!!! どういうこと!?!? どうなってるのよ!?」
......ツルの中に、奇跡的に悪霊さんが閉じ込められたと。
中からドンドンって音が聞こえてくるけど、ツルが壊れる気配は一切ない。
「出しなさい!! 人間ごときが小癪な真似を!!!!」
「......はぇ......」
え??
な......なんか......勝った......?
か、勝った。
勝った! やったー! うわーーっ!(??)
ほら!! やっぱなんとかなるじゃん! なんとかなったじゃん!!
やっぱ私天才だわーーっ! ピンチをチャンスに変えちゃったわーーっ!!
そっか、そういえば私草属性だったもんね、だからこんなに成長させられたのかな? それとも、元々この花がそういう特性?だった的な?
何はともあれ!! まさかの大逆転勝利!!
私は痛いところを刺激しないように立ち上がって、目の前のツルをつんつんってしてみた。
わぁ......こりゃ丈夫だ。
「あれ~? あれあれ~~? 魔女さ~~ん?? 出てこれなくなっちゃいましたねぇ~?」
というわけで、私は速攻悪霊を煽った。
意外とメスガキのポテンシャルがあるかもしれない。
「そんなにそこから出たいならぁ、花を『起爆』したらどうです~? そんなことしたら、悪霊さんもろとも全部拭き飛んじゃいそうだけど~!」
「あぁぁあぁぁぁぁああ!!!! 出せ!!!! 出せっ!!!!!! ネルソービューの連中ごときがっっっあぁぁあぁ゛ぁぁあああぁ゛ぁぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 」
「ひぇっっ」
ぶ、ブチギレじゃん。ブチギレパワーでそこから出てこられでもしたら、今度こそおしまいだから、煽るのはこの辺にしておこう......。
私は『爆発花』の大樹から離れて、オリーブくんの方へ足を動かす。
魔女さんが出てきちゃう前に、ここから逃げなくちゃ。
オリーブくん、気を失っちゃってるけど......確か最近、回復魔法覚えたもん。
大きい怪我は治せないけど、
それで少 し で も 元 気 に
あ
れ
「————ぅ」
ぐにゃ ぐ
にゃ
し てる
い たい
あれ おか し い
な
たお れて る ばあい じゃ
な い
の に な
「はっ、はぁ......っ......は......ぁ.......」
あ は
は
さ すが に げんか い
だった
の か な
い たい な
つかれ た なぁ
「............おりーぶ......く......」
てを のばす
しろく なっていく
あ だめ だ
もう いしき
が
わたし
ちゃんと
やれた か
な......?
次話:私たちの性
です。記憶を失っていたとしても、何かを心に抱えているものです




