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二十六話:ごめんなさい、まだお預けです、許して

「ミルルン!! 今日こそルームメイトくんの名前を教えてもらうぜぃっっ!!!!」



私は毎回主人公に返り討ちにされるキャラっぽい台詞(?)を言い放ちながら、ミルルンとローリエの部屋の扉をかっこよく開けようとした。多分かっこよくはなかった。



唯一、彼の名前を知ってるミルルンに聞いてみたら『ないしょ~』って言われちゃってから、まぁまぁ時が経ってしまい。


結局、今もルームメイトくんは『ルームメイトくん』のままで更新されなくて。



だから、今回こそ絶対に教えてもらおうと、とある策を練ってミルルンたちの部屋に転がり込んだわけですが......。



「いい? オクタゴンはあなたたちに『好きな人外に成れる』って言ってたみたいだけど、それは全くの嘘よ? 選べる人外の学科って、個人によって限られるもの」

「あんたスルースキルえぐいなぁ......今のウィロー無視して話続けられるなんて......」



見知らぬ誰かは窓側のベッド——ミルルンのベッドだね——の上で足を組んで、床に立つミルルンとローリエを見下ろしていた。


黄緑色のネクタイを付けてるから、四年生。

体はローリエと同じく小さめだけど、なんか、ローリエの五倍くらいは偉そうな雰囲気。

薄い灰色の目は、スポットライトが当てられた砂糖みたいに輝いている。


そして、何より......



「はぁ? なんであんな礼儀知らずにわざわざ反応を示さなきゃいけないの?」



か......髪の毛がヘビだぁ......。


これってあれだよね? なんて言うんだっけ、あの、相手を石化できるっていう......。



「えと......メドゥーサ科の方......?」

「違うわ。『メドゥーサ』は種族名じゃなくて個人の名前。一人のゴルゴンのな・ま・え。まったく、これだから一年生は......」



頭から生えてるヘビたちが、彼女と一緒に私を冷たく睨んでくる。背中がぞわってしたから、つい私はミルルンの後ろに隠れた。


ミルルンはそんな私を見て、微笑ましそうに目を細める。さっすがミルルン、盾にされても仏様の心をお持ちで......。



「ウィローちゃん、紹介するわね~。この子はわたくしのガイドよ~」

「ガイド......!」



まぁ、相手が四年生の時点で、多分そうだろうなとは思ってた。

やっぱりガイドって、定期的に自分の部屋に来てくれるものなんだな。


私のガイドは............初めて会った日以来、全然来てないなぁ......。

ルームメイトくんにブチギレられて、トラウマになっちゃったんだろうなぁ......可哀想なベアくん......。


でも確か、四年生が一年生のガイドやってる理由って、新入生なんちゃらっていうクラス受けなきゃいけないからだよね? ベアくん、私に会わずにちゃんと単位取れるのかな......??



「ついでにあーしも色々話聞かせてもらっとってん! こいつめちゃくちゃ偉そうやけど、物知りではあるからなぁ」



そんなこと言ったらこの人ブチギレるんじゃ!?って思ったけど、彼女はちょっと不満そうな顔を浮かべてるだけだった。



「自分より格下の存在に高圧的な態度をとって、何が悪いの?」

「んふふ~。こうは言ってるけどね、この子とても優しいのよ~」

「『優しい』? ふーん......人間様は、変わった感性をお持ちなのね」

「あんたも三年前までは人間やったやろがい」



メドゥーサのガイドさんは、軽く鼻を鳴らした後、白いフリルと黒いリボンでできたヘッドドレスを付け直す。頭のヘビが動き回るから、よくズレちゃうのかな?


あ、待って、メドゥーサじゃないんだった......メドゥーサじゃなくてなんだっけ......。



「そこの礼儀知らずのお嬢さん? 今日は機嫌が良いから教えてあげる」



れ、『礼儀知らずのお嬢さん』ってもしかして、わ・た・し?



「私はシェリー・ホワイトベリー。偉大なるゴルゴン科の生徒よ。まぁ、あなたは何も知らないでしょうから、仕方なく説明してあげるけど......まず、私は一年の時から——」

「あ~~~~その話はええから、さっきの話の続きしてくれる? 選べる人外の学科は、個人によって限られるってやつ」

「ふんっ......この部屋には下衆(げす)しかいないのね」



シェリー先輩はローリエに邪魔されて、さらに不機嫌になっちゃった。

だけど、暴れるヘビたちを鎮めて、なんだかんだ口を開いてくれる。



「さっきも言った通り、オクタゴンがあなたたちに教えたことは嘘。ネルソービューの生徒は必ずしも、好きな人外になれるとは限らないのよ」



なんかすごく大事な話っぽいから、私はミルルンの横に立って、シェリー先輩の方をちゃんと見上げた。


あっ......ちょっと機嫌良さそうな顔してる......。



「一年生の最後あたりに、あなたたちにはそれぞれ『推奨学科リスト』が届くの。二年生になる前に、あなたたちはその中からなりたい人外の学科を選ばなくてはならないわ」

「つまり、その中に載ってない学科は選べないってこと~?」

「あら? あなたにしては理解が早いじゃない」



シェリー先輩は悪役っぽく笑いながら、足を組み直した。でも、実際はミルルンのこと褒めてるだけなんだよなぁ......もしかして、この人もツンデレの民?



「なんやねん! オクタゴンのやつ『なんにでも成れますよ』感出しとったくせに、こんなん詐欺やないかい!!」


ローリエ、私も同感です。というわけで、私も便乗したいと思います。


「詐欺だーーーっ! 詐欺詐欺ーーーーっ!」

「私に言われてもどうにもできないわよ。学校側が勝手に決めたルールだもの」

「「それはそう!!」」



正論を前に、私とローリエはハモるしかなかったのでした。



「『推奨学科リスト』に載る学科?人外?種族名?って~、何を基準に決められるの~?」

「ミルフォイルにしては良い質問じゃない。そうね......」


......あれ? シェリー先輩、さっきも同じようなこと言ってなかった?


「あなたの属性とか、弱点とかももちろん加味されるけど......一番影響があるのは、あなたたちの成績ね。成績が良ければ良いほど、当然選べる学科の幅も広がるわ」



うっ......あっ......ちょっと不安......!!


オリエンテーションは大丈夫で、魔法系もまぁ大丈夫だと、信じたい、けど......音楽がちょっと微妙で......ポーション学は大惨事で......。


今後に影響するんだったら、せめて宿題は全部出すようにしよっかな......べ、別に、今までサボりまくってたとかじゃないからね!? ちゃんとやる気出た課題は出してるからね!? やる気出た課題は!!



「ミルフォイルの成績は申し分なくて......主な属性は確か、水と愛だから......人魚科や妖精科は確実に載るでしょうね。あなたはとても器用だから、エルフ科も選択肢に出されるんじゃないかしら?」

「えへへ~、褒めてもらえて嬉しいわ~。やっぱり優しいのね~」

「相変わらずお口が上手いこと。そんな陳腐な言葉で私の機嫌を取れると思わないで」



シェリー先輩は、頭のヘビたちと一緒にそっぽを向く。

そして、私たちから目を逸らしたまま、魔法で......お菓子を、召喚して......。



「そういえば、ちょうどいらないと思っていたお菓子があるの。こんな安物のクッキー、口にすると考えるだけで虫酸が走るから、ミルフォイルにあげるわ」

「やった~。ありがと~」

「一人で食べるなり、お友達に分け与えるなり、好きにしなさい。私の贈り物が、そこのおチビさん二人の手に渡るのは不本意だけどね」

「「......」」



私とローリエは、思わず顔を見合わせた。ローリエはジト目のまま、小さく首を横に振る。


あ。またシェリー先輩がムッとして......。



「何よ? 気に食わないことがあるなら面と向かって言いなさい。それとも、そんな勇気すらないというの?」

「扱いの差が露骨すぎんねん、贔屓や贔屓」

「ミルルンのこと大好きなんですね~」



こう言えば照れてくれるかなって思ったけど、シェリー先輩は両腕を組みながら、軽蔑の視線を向けてくるだけだった。

彼女の仮面は、思ってたよりも剥がれにくいみたい。



「はぁ......人間様って、本当に愚かなのね」

「だからあんたも三年前までは——」

「私は優しいから、一つ忠告しといてあげるわ。学科は慎重に選びなさい。一度決めたら一生変えられないだけじゃなくて、今後のあなたたちの評判や扱いにも関わってくるのだから」

「あ~! 先輩、話逸らした~!」


「一年生のあなたたちは、まだわかっていないかもしれないけど......ネルソービュー学園は、種族間の差別に溢れた箱庭よ。」



先輩は顎に手を当てながら、小さくため息をつく。

頭のヘビさんたちも、心なしか呆れているように見えた。



「『ゴブリン科』や『トロール科』の生徒は、軽蔑の対象になりやすいし......入るのが難しいと言われてる『大悪魔科』とかの生徒は、嫉妬されてめんどくさいことになったり......まぁ、気にしすぎても自分に毒なだけだけどね」



そ、そうなの......? 上級生になると、色々ドロドロしたのに巻き込まれちゃうってこと? ひぇ......。



「要するに、私みたいにあえて悪名高い『ゴルゴン科』に入る必要はないってこと。避けられても気にしないのなら、好きにすれば?」

「え? ゴルゴンってそんなに悪く言われてるの?」



私はつい、何も考えずに聞いてしまう。聞いちゃいけないことだったらどうしようって後悔したけど、隣にいたミルルンも同じく首をかしげてて、



「どうして悪名高いの~? シェリーちゃん、こんなに優しいのに~」

「主にゴルゴンの能力のせいよ。どうやら、目を合わせるだけで石にされるって思い込んでいる輩が多いみたい」



彼女は鼻で笑いながら、そっと肩をすくめた。ヘビさんたちも同じような表情を浮かべてる。


もうシェリー先輩とは何度も目を合わせてるけど、自分の体が固まる気配はない。確かに最初はちょっと怖かったけど、今はもうツンデレの先輩っていう印象しか......。



「あとは、『ゴルゴン科の生徒は性格が悪い』とか、『プライドが高い』とか、そういう噂も流れてるらしいわ。私は気にもしてないけど」

「あっはは! あんたに関しては噂通りかもしれんな!」


ローリエさん??


「ふんっ、勝手に言ってなさい。私は好きでゴルゴンになる選択をしたんだから」



あ、でもシェリー先輩、ちょっと嬉しそう......。あれかな?『変わってるね』って言われたらちょっと嬉しくなる心理と一緒かな?



「噂や偏見に囚われる必要はない。でも、差別は確かに存在する。だから、学科を選ぶときは、せいぜい自分自身とよく話し合ってから決めることね」

「悪者みたいに言うとるけど、普通にええこと言っとるな......」

「んふふ~。シェリーちゃん、厨二病みたいで可愛いわ~」

「は? この私に人間様の病名を付けないでくれる?」

「それはアウトなんや」



自分が将来選べる学科は、成績によって決まる......そして、評判が悪い学科(種族?)も存在する......。


私は......やっぱり、どうしても、評判が悪い種族にはなりたくないって思っちゃうな......。それこそが偏見なのかな? こういう風に考えちゃだめなのかな?? でも......


ま、まぁ、そういうのは『推奨学科リスト』が届いてから考えるのでいっか! まだまだ先の話だろうし——



「あぁ、でも......言い忘れてたわ。一つだけ、絶対に選ばない方がいい学科があるの」



シェリー先輩は、頭のヘビたちのうちの一匹を、そっと指先で撫でる。そのヘビさんは嬉しそうに舌を出して、他のヘビさんたちはすごく羨ましそうにその子を見て......。



「この種族は、人外の中で最も軽視されていると言っても過言ではないわ。生徒たちだけじゃなく、ネルソービューの運営側からも冷遇されているもの。その扱いが正当だと言うつもりはないけれど、少なくとも彼らが差別されているのは事実よ」

「あら~。そんな可哀想な種族がいるの?」

「そうよ。ミルフォイルは何も知らずに選びかねないから、一応忠告しといてあげる」



先輩は他のヘビたちも平等に撫でた後、足を組むのをやめて、膝の上にそっと両手を置く。

興奮したヘビたちが、ヘッドドレスをかじり始めても、彼女は止めようとしなかった。



「それしか選択肢がない限り......絶対に、サキュバス科には入らないで」




***


シェリー先輩に言われたことは、一旦脳から拭った後、私は『戦闘技術』の授業に向かった。


最近ね、やっとゴム製の武器を卒業して、本物を持てるようになったんだよね! 本物の方が光を反射させたりしてね、かっこよくてね、持つだけで強くなったような気がするの!


まぁ、だからといってウィローさんのナイフ裁きが雑魚いのは変わらないんですけどね。



「喜べお前たち!! 今日は特別な日だ!!!! いつもの基礎訓練とは訳が違うぞ!!」



半人半蟻の先生の大きい声にも慣れてきた。慣れたのは私だけじゃないのか、先生の声にびっくりする生徒も減ってる気がする。


オリーブくんは、毎回ビクッてしちゃってるけど......。



「一年生も残り半分ということで、お前たちには早速、新たな試みをしてもらう!!!!」



ミルルンの姿が見当たらないから、辺りを見渡してみると......あ、いたいた。やっぱりルームメイトくんにちょっかいかけてるなぁ~。


ルームメイトくんはなるべく無視しようとしてるみたいだけど、それでも話しかけ続けるのがミルルン。結局痺れを切らしたのか、何回か返答はしてるっぽかった。


なに話してるんだろ。ここからじゃ聞こえない......。



「お前たちには今から、地獄へ落ちてもらうぞ!!」



なんだかんだ、ルームメイトくんにはしつこく接した方がいいのかな? それともあれはミルルンだから許され——




————え????




今、なんか、すごい爆弾発言聞こえませんでした??



「ガハハハハハッ!! 『地獄』、は少し語弊があるかもしれないが、まぁ似たようなものだろう!!」



授業は半分しか聞いてなかったけど、『地獄』なんてワードが耳に入ったら二度見せざるを得なかった。


地獄に?? 『似たようなもの』?? へ?? え????



周りを見てみると、みんな私と同じくらい混乱してるっぽい。隣に立つオリーブくんはすっかり怯えちゃってるみたいで、弓矢を抱きしめながらプルプル震えちゃってる。


ま、またこの先生はいきなりやばいことさせようとするーーーっ!!



「さぁ、ついてこい!!!! これより、『地獄ダンジョン』の攻略を開始するッッ!!」



うわーーーっ!! 名前からしてめちゃくちゃやばそうで——



————って......『ダンジョン』? 『地獄ダンジョン』......?



ネルソービュー内にそんなものが??って思う自分と、もう一人、理由が思い出せない胸騒ぎを感じる自分がいる。




ダンジョン......ダンジョンって、確か、


どこかで聞いたこと————








次話:しぬかも

です、『地獄ダンジョン』で迷子になっちゃいます

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