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二十四話:キューピッドの呪い

「み、見てローリエ! あそこのケンタウロスさん、10個くらいでお手玉やってるよ!」

「......ん......」

「えっと......ローリエ!! 上着買いたいって言ってたよね? あそこに洋服屋さんあるけど行ってみる?」

「別にええかな......」

「そ、......そっか......」



ローリエは自分の腕をぎゅっと握りながら、私の隣を歩き続ける。

ずっと俯いてて、肩も少し下がってて......心なしか、歩幅もいつもより小さい気がする。



「ねぇ、ローリエ?」

「......なに......?」



やっぱり......クレープ屋のことがあってから、ずっと元気ないなぁ......。私はもう全然気にしてないのに。


突き飛ばされたことよりも、ローリエが落ち込んじゃってることの方がよっぽど......

って、言ったほうがいいのかな。言ったら逆に、気を使わせてるって思わせちゃうかな。



「ろ、ローリエ! お腹空いてない!?」

「......空いてない」

「ですよねぇ......さっきクレープ食べたばっかりだもんねぇ......」

「......」



つい、彼女に手を伸ばしたくなる。肩を撫でてあげたくなる。だけど、さわられるのは絶対嫌だよね。ローリエ。



『——~~~っさわらないで!!!!』



......あんなに動揺してるローリエ、初めて見たな。

あの怖がり方は、間違いなく恐怖症レベルだった。なに恐怖症って言うんだろ? さわられるの恐怖症? 人肌恐怖症? わかんないけど......。


トラウマとかが原因で、人に触れられるのが怖くなっちゃうときがあるって、どこかで聞いたことがある。


でも私たちって、全員記憶失ってるはずだよね? 記憶は失ってても、トラウマとか恐怖症は残ってるってこと?



『ご、めん、ほんまごめんっ、急で、急だったからびっくり、して、あーし、つい、』

『ご......めん、な......さい......』



......。

私にも......何かあったり、するのかな......?


い、いやいやいや! 今はそんなこと考えてる場合じゃない!! とりあえず今は、ローリエを元気づけることだけ考えないと!!


マーケットのお店で気を紛らわせるのが駄目なら、えっと、え~~っと、



「と、というわけで! 今から一発ギャグやります!!」

「......急に何......?」

「モノマネします!!!!」


やっぱり、一番簡単そうなのは......。


「えと......んふふ~。わたくしよ~」

「......ミルフォイルか」

「ローリエちゃ~ん、可愛いわね~。ちゅっちゅしてもいい~?」

「意外と似とるな......」

「やった! あっっっ、やばい自我が......オホン!」



ミルルンの次に簡単そうなのは、やっぱりあの子だけど......ローリエ、あの子のこと知らないかもなぁ......。



「わ......ぼ、ぼく......オリーブ、だよ......」

「......誰?」


あぁあああ!! やっぱり知らないっぽい!! ま、まぁいいや、とりあえず続行!!


「ぼ、ぼ、ぼく、人見知りだから......えっと......いじわるしないで......」

「......あんたの友達? 今度紹介してよ」

「任せて!! アッッッまた自我がっっっ」



お? お?? ローリエ、今ちょっとだけ笑ったんじゃない? 笑ったよね?? なんかよくわかんないけどうまくいってるかもしれない!!



「次は、某キャベツくんだけど......難しそうだな~......」

「アホっぽい感じでやればいけるやろ」

「なるほど? それじゃあ......」



私はまた小さく咳払いをした後、脳内にキャベツくんを召喚する。その姿も声も台詞も、案外簡単に浮かび上がってくるんだけど......実際に演じるってなると......。


......。

......。



「お、おいら、キャベツだどん!」

「誰??」



本気でやるのはなんか腹立つし、完全におふざけルートでいくことにした。



「うぅ......『1+1』がわからんのぅ......」

「あーしのアドバイス真に受けすぎやない?」

「ぐへへへへ......しゃーーっはっはーー! 授業サボってやるゼェェエエ!!」

「情緒不安定?」


あ! 笑った!! 今絶対笑った!!


「へははっ! 今度こそ『体が透明になる薬』を完成させてやるんだズンドコドコ」

「最後以外はちょっと似てたなぁ」

「ギィィァァァアアアアア!? 爆発キェェェェエエエエエ」

「ふっ......」

「ガンガラガッシャーーーン!! グルグルグルグル~~~! 驚けぇ!! オレは今世紀最大の馬鹿だぜぃ!!」


「なにやってんだテメー?」



うわぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁあああ!?!?!?!?


ご、ごごごっっ


「ご本人様の登場だぁぁあああああ!?!?!?」

「ほんとに何やってんだお前......??」



キャベツくんは首をひねりながら、私にガチ困惑の顔を向けてきた。片手にポップコーンを抱えていて、頭に派手なサングラスみたいなのを掛けてる。


そんな彼の後ろには......



「あら~。ローリエちゃん、ウィローちゃん、やっと会えたね~」

「ミルフォイルまで! あんたら今までどこ行ってたん!?」



ミルルンも同じサングラス掛けてるし、味だけ違うポップコーンも持ってる。

キャベツくんとミルルンも、もしかして......。



「気づいたらお前らいなくなっててよぉ、探すのめんどくさかったから、バターフィールドと一緒に回ってたんだよ!」


キャベツくんは大きい手のひらでポップコーンを掬って、全部口の中に入れた。あっ、一個地面に落ちちゃってる。


「ろぅせおまえらもおまえらでたのしんれらんだろ?」

「んふふ~。そしたら、道端で大きい声を出してるのが聞こえて、二人を見つけられたの~」

「へぇ~! 誰のことだろ~?」

「あんた以外おらんやろ」



てっきりキャベツくんがツッコんでくるかと思ってたけど、私の背中を引っ叩いてきたのはローリエだった。目には呆れが滲んでるけど、ちょっとだけ微笑んでるようにも見える。


そういえば......ローリエってさわられるのは嫌だけど、自分から殴ったり叩いたりするのは平気なんだな。

そうだよね。今まで散々プロレス技使ってきたもんね。



「ねぇねぇ~、あのねあのね~、さっきキャベツくんと一緒にミュージカルを見たんだけどね、とってもすごかったの~」



ミルルンは私たちの方にずいって近づいて、体を左右に揺らす。至近距離で見て思ったけど、花かんむりと赤いフチのサングラスって、斬新なファッションだな......。でも似合ってる。


話を聞いてたキャベツくんは、ミルルンのすぐ隣......から一歩下がった位置に立って、彼女と同じように笑顔をキラキラさせてくる。



「そうなんだよ! マジですごかったんだぜ!! 急に津波が観客席に押し寄せてきたりな、羽生えてない主人公が箒も使わずにビュンビュン飛んだりしてなっ」


どんなミュージカル......??


「わたくしはね~、楽器魔法が一番すごいと思ったわ~。観客席にいたはずなのに、気づいたら神秘的な森の中にいたの~」

「あぁ~! あれもすごかったよな!! あれって結局どうやってたんだ? 音楽で幻覚見せてたってことなのか?」



ミルルンとキャベツくんはお互い顔を合わせると、キャッキャッしながらミュージカルの感想を熱く語り始める。

二人とも目を宝石みたいにキラキラさせて、マーケットの雰囲気に負けないくらい楽しそうに笑い合って......。



「気づけば、わたくしの隣に鹿さんがいてびっくりしちゃったわ~。さわれなかったのが残念だったけど~」

「そこもすごかったけどよぉ、クライマックスのシーンで辺り一面真っ暗になったときもやばくなかったか!? あんときオレ鳥肌ぶわぁーーーって!」

「音楽も綺麗だったわね~。あのガラスでできたフルート、いつか吹いてみたいわぁ~」

「曲も劇の内容も全部、あの劇団のやつらが作ったんだよな? ほんとすげぇよな!!」



......。


なんか、二人とも......前より仲良くなってる......?


前よりも距離が近いし、心の壁とか警戒がなくなってる感じがするし......お互い、純粋な笑顔を浮かべてる。声が弾んでる。


思えば、二人だけが一緒ってことも少なかったもんね。ミュージカルをきっかけに、さらに仲良くなれたんだ! えへへっ、なんか嬉しいな!


嬉しい......



「わたくし、楽器魔法やってみたくなっちゃったわ~。楽しそうだもの~」

「あっ、そうだ!! 確か次の『守護魔法』って実技練習だったよな? そんとき二人でやってみようぜ!」

「んふ~、いいわね~。でもわたくしたち、楽器持ってないわよ~?」

「んなもん、『総合音楽』の講義室からパクればいいだろ!」



......


......


......??



あ、あれ? あれ......? なんだろう、嬉しいはずなのに、なんか、



え? この感情って、よくある嫉妬ってやつだよね......? 


二人が仲良くしてたら嫉妬しちゃうの私? なんで? 最低じゃない?? 二人が仲良しなのは良いことじゃんっ


独占欲的な? 私にそんなものあるの?? っていうか、そもそもどっちに嫉妬して......——



「いてっ」



軽く足を蹴られたから、何事かと思って後ろを振り返る。

ローリエ以外に犯人はいないだろうから、ローリエなのはわかってたけど......。



「ろ、ローリエ?」

「......ふ~ん......」

「ろ、ローリエさん......??」

「ふ~~~~ん?」



顎にピースサインを当てながら、彼女はニマ~~~っと笑いかけてくる。頬がちょっと赤く染まって、シアン色の瞳が炭酸みたいにシュワシュワ光って、



「あんたそういう?? そういうこと?? へぇ? ほーん?? ほぉ~~~ん??」

「な、ななっ、なに!? なにゆえ!? それなんの笑顔!?!?」

「お~~い! キャベツ~~~!」



彼女は私の背中をバシバシ叩きながら、キャベツくんにそのニマニマ顔を向けた。



「あーしらもなぁ、仲良くクレープ食べたんよ! どうや? 羨ましいか??」

「クレープだと!? お、オレらだってポップコーン食ったし! てか今も食ってるし!!」

「あーしは『チョコバナナクレープ』で、ウィローは『いちご大福クレープ』や! あーんもしたんやで? 仲良しやろ~?」

「なっ......なんで急に仲良しアピールしてんだお前......?」

「チッ、このノンデリ鈍感男が」

「急に暴言!?!?」



な、なんかよくわかんないけど......本当にわかんないけど......。


ローリエ、めちゃくちゃ元気になったみたいでよかった、の......かな......?




「なぁウィロー!」



ローリエは紫のポニーテールをサッとかき上げた後、顎を上げながらフッと笑った。またイケメンの笑み浮かべてるけど......



「あーしにぜ~~~んぶ任せとけ!」

「だから何を!?」




***


あれから、数日後。

マーケット二日目も三日目も思う存分楽しんで、現実が戻ってきて......。



「うぅ......まさか、総合音楽で抜き打ちテストあるなんて......」



もはや公開処刑だったフルートの実技テスト、のことは一旦忘れようとしながら、私は寮の部屋の鍵を開けた。名札カードをピッてするだけで開くのって、やっぱり便利だよね。



「たっだいまぁ! あ~~~疲れ————ぴっっっ!?!?!?」



ベッドに直行しようとしたら、ルームメイトくんの姿が目に入って、思わず悲鳴を上げる。

彼は自分の机に座ってて、え、あ、あっ、


うわっっ! うわぁ~~!! どうせ誰もいないって思って油断してたぁ~~!! 思いっきり独り言零しまくってたぁ~~!!


部屋にいるときも、基本ずっと一人で喋ってるから......つい癖で......私......うぅぅううっ、また恥かいたしっっ、何回恥をかけばいいんですかウィローさんは!?



「おぁっっ、お、おかえ、り、あ......ただいま......??」

「......」

「め、珍しいね、この時間に帰ってきてるなんて......」

「......」



無視してくるのは、いつものこととして......。


ルームメイトくんは机に突っ伏したまま、ピクリとも動かない。メガネが肘に横に置いてある。テールコートが椅子にかけてある。よく見ると、肩が少しだけ上下していて......。




「......」




もしかして......寝てる......?



両手をビシッと上げて、つま先歩きになって、私はおそるおそ~る彼の背中に近づく。腕の中に顔を埋めてるから、目が閉じてるのかは確認できないけど......こんだけ近づいても反応がないってことは、やっぱ寝てる、よね?


せ、セーーーッフ!! 独り言聞かれてなかったってことじゃん!! あぶなっ! アンラッキーだったけどラッキーだ(?)!



「......」



耳をすましてみるけど、寝息が聞こえてきたりはしない。もし肩が動いてなかったら、死んでるんじゃないかって勘違いしてたかも。


こんなに近くでルームメイトくん見るの、久しぶりかもな。

後ろで短い束になってる髪も、こうしてまじまじと見つめてみると、真っ黒ではないのがわかる。若干青みがかってるというか、寒色の黒というか。


普段は冷たくて鋭い雰囲気だけど......流石に、寝てる間は和らいでる気がする。


そっか。ルームメイトくんも寝たりするんだ。いや、まぁ、当たり前なんだけどさ。



「ほ......ほんとに珍しいな......」

「......」



よっぽど疲れてたのかな? 怪我......は、新しいのはないっぽいけど......隠れてるだけかもしれないし......。


あ、あとさっ、なんでベッドで寝ないの??


すぐ隣にあるよね? なんなら真隣ですよね?? 確かに登るのはちょっと大変だけど、言うて3秒くらいで登れるはずで......。


登る体力すらも残ってなかったってこと? 途中で力尽きちゃったの......?



「......」



布団......、せめて布団とかかけてあげた方がいいかな? 机で寝てたら風邪引いちゃうもん、ただでさえ最近夕方から冷え込むのに。


でも勝手にかけたら、起きたときに怒られる......? 

あ、そうだ! 知らんぷりしよ! 私がかけたんじゃなくて、勝手に布団がルームメイトくんの上に落ちたんですよって!


とりあえず布団、えっとルームメイトくんのベッドから拝借して、いい、よね? 流石にベッドの布団はデカすぎる? ブランケットとかの方がいい? なら私の——


——って、ワタワタしながら部屋を見渡してる、その時だった。




「ウィローーーーー!! 邪魔するで~~~~?」




可愛らしくもハキハキとした声が外から聞こえたと思ったら、容赦なくノック音が響き渡る。



「うわーーーーっ!?!? び、びびびびっっっ」



私はいつもの如く、オーバーなリアクションをしてしまいまして。



「んふふ~、ウィローちゃ~~ん。ローリエちゃんと遊びに来たよ~」



その後は、ミルルンの甘い声が聞こえてきて。



まぁ。そんなこんなで。


ルームメイトくんが目覚める条件が、あまりにも揃ってしまいまして。




「——っ......、......?」



彼はビクッと体を震わせて、額を片手で押さえながら、無事机から起き上がりました。



「な......にごとで......」

「ああぁあああぁぁああルームメイトくんごめん!! 寝てて良——」

「おいウィロー!! おるのはわかってるんやぞ? 居留守決めこむつもりか?」

「あのねウィローちゃん、さっきキャベツくんがね~、面白いことになってたの~」



ノックの音が続く中、ルームメイトくんは座ったまま体をこっちに向けて、まだ若干焦点が合ってない目で私を見てくる。明らかに不機嫌だぁ......。


ど、どどど、どうしよう!? 今まで二人が遊びに来ることは何回もあったけどっ、ルームメイトくんがいるのは初めてで、

る、ルームメイトくん多分嫌だよね? 今日は無理って言ったほうがいいよね?? で、でも、ううぅぅうぅぅううどうしたら——



「早く扉を開けて差し上げては?」

「!? え!? いいの!?!?」

「......」



ルームメイトくんは軽く息をつきながら、片手で目をこす——



「あ!! 読めたでウィロー? 今日ルームメイトおんねんやろ! よーーっし下がってミルフォイル、あーしドアぶっ壊したるわ」



なんで!?!?!?!?!?!?!?


ルームメイトくんがいるのがバレるのまではわかるけど!! なんでドア破壊するの!?!?



「んふふ~、よろしく~」



よろしくしないでミルルーーーーン!!!!




「ま、待ってローリエっっっ今開け——」








次話:それは呪いか、祝福か

です、ミルルンの心が少しわかります

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