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十六話:私を殴るハンマーは、何属性なのでしょう(?)

最初の一週間を終えた後は、比較的平和な日々が続いた。


平和っていうのは、あれだよ? 悪霊に襲われたりすることもなくて、友達またはルームメイトに意味深なことを言われたりすることもなくて、ついうっかり爆発を引き起こしちゃったりすることもなかったって意味の、平和ね。



......ごめん、嘘ついた。爆発はさせたわ。しかも何回も。



ポーション学のクラスでさぁ、ちゃんとレシピ通り作ってるのに、毎回爆発するか色が変わるか凍るかしちゃうんだけどなんで!? 


材料だって正しいの使ってるのに! キャベツくんと違って『試しにこれ入れたらどうなるんだろ~?』ってやってないのに! 十回くらいしかやってないのに!!



あの......確かに、失敗した理由が明確すぎるときもあるよ? でも本気でやっても毎回ダークマターみたいなのができちゃって......ローリエには『ほんとになんでそうなるん?』って聞かれるけど普通にこっちが聞きたいよ。



まぁ、ポーション学の話は置いといて......魔法系は結構順調なんだよね!


『常用魔法①』では最近、近くの軽い物を一瞬だけ浮かせる魔法を習ったよ。本来のラテン語バージョンの呪文は......なんだっけ......忘れちゃったけどとにかく、私の魔導書には『翼を授けよう』って書いておいた。クラスのみんなの前でそれ唱えるの思ってたよりも恥ずかしくて、絶賛後悔中。どうしよう、今のうちに変えておいた方がいいかな......?


『守護魔法①』では、......目の前にうっす~~いバリアを張れる魔法を覚えたんだけど、魔導書になんて書いたかもう忘れちゃった。


ていうかさ!! ていうかさ聞いて!?!? 本来のラテン語の呪文は覚えなくていいとか言いながらさっ、『小テストに出したりするかもぉ~』とか先生言ってたんだけどキレていいかな!? キレていいよね!? 終わった終わった終わった終わり



他のクラスはまぁ、普通かなー。

『オリエンテーション』では氷を口説く......ことはもうなく、学園内の施設とか色々紹介してもらってる。『魔法道具・基礎』では改めて『ゆめもりくん』の大切さを教わった。


『芸術創作・基礎』では観覧車の絵を描こうとしてレモンの絵になったり......『総合音楽・基礎』でも『戦闘技術・基礎①』でも酸欠になりかけたり......『自然浴』はまぁ、うん。



とりあえず、ネルソービュー学園での生活にはだいぶ慣れてきたって言ってもいいと思う! 



在りし日の吸血鬼の......オクタゴ、だっけ?が言ってた、『一年生の間はここの学校生活に慣れることに専念してください』ってやつは達成できた。多分。


まだ、人外に『成る』?っていうのはよくわかんないし、全然実感湧かないけど......ここの生活は結構楽しい。友達もできたし、面白いことがたくさん起こるし、魔法の使い方も戦い方も学べるし!



ただ......ここで過ごせば過ごすほど、謎も多くなっていく。


結局私を襲った悪霊さんはなんだったのか。見えるときと見えないときがあるクソデカ観覧車はなんなのか。私たち生徒はなんで全員記憶を失ってるのか、どこまで忘れちゃってるのか、少しは何かが残ってたりするのか、とか......考えだしたらキリがないよ......。



あとは、ルームメイトくんのこと全般。あいつはやべー。もう全てが謎。全てが怪しい。



名乗った記憶はないのに、何故か私の名前知ってるし。

悪霊のこと聞いてきたと思えば、『あの悪霊のことは忘れろ』って圧かけてくるし。もうなんか、思い返せば全部意味深に思えてくる!


でも......悪い人ではなさそう、なんだよね......。



『無理してルームメイトと仲良くする必要ないんちゃう?』

『あんたにはあーしらがおるんやから、これ以上友達作らんでもいいでしょ』


......ローリエには、そう言われちゃって。



『ウィローくん。君にお願いがあるんだ』

『どうか僕の代わりに、あの子のことを気にかけてあげてくれないかな?』


生徒指導の先生には、そうお願いされて。



二つの意見に無事挟まれて、私はどうしたら、って——




「————はひっ!?!?」

「......」




ルームメイトくんのことを考えてたら、ちょうどルームメイトくんが部屋に帰ってきた。

未だに名前がわからない彼は、だいぶ疲れているみたいで、中に入るなりため息をつく。シアン色のネクタイを少し緩めて、メガネを直して、額を拭って......あっ、


......また......ちょっとだけだけど、怪我してる......。



「......」

「......っ......ね、ねぇ!」

「......」



ルームメイトくんは何も言わずに、ただ私に視線を向けてくる。

うわっ、心底興味なさそう......!!



「え、えっとぉ、その......お......おかえり、なさい......??」



『なんで頬に引っ搔き傷があるの?』とは、聞けなかった。



「......」



もちろんルームメイトくんは応えてくれるはずもなく、そのまま私に背中を向け、あっ



「ちょ、ちょっと! 疲れてたんじゃないの? 少しは休んでけば......?」

「......」



ルームメイトくんは一瞬だけ振り返る。だけど、結局部屋の扉を開けて、また廊下へ出て行ってしまった。さっき帰ってきたばっかりなのに。



「あ————......はぁ~......」



ルームメイトくんとは、ずっとこんな感じ。私もどうしたらいいのかわからないまま、ずっと中途半端な感じで接しちゃってて。


彼との関係には、一切進展がないまま......そこそこと感じられるほどの月日が流れてしまっていた。




***


「あーーーっ! このシチュー、キノコ入ってんじゃん最悪!!」



そういうわけだから、私はスプーンできのこを掬って、一つ一つキャベツくんのお皿に置いていった。



「おい! 勝手に嫌いなもん押し付けんなよっ!!」

「いーじゃん別に~、キノコとピザって合うでしょ? 多分」

「あらウィローちゃん、キノコだめなの~? ならわたくしが食べてあげるわ~」



ミルルンは私のシチューの中にスプーンを入れて、キノコをパクパク食べてくれた。頬にちょっとシチューついちゃってるけど、指摘した方がいいのかな?



「んふふ~、わたくしキノコ大好きなの~。ウィローちゃんはなんで嫌いなの~?」

「え? だってまず見た目が全然美味しそうじゃないし、ぐにょぐにょしてるし、変な味するし......そもそもキノコって菌なんだよ!? 菌食べるっておかしくない!?」

「え~。美味しいのに~」



すると、話を聞いてたキャベツくんがニヤニヤし始めて、

な、なんかすごい嫌な予感するんだけど......。



「ほう......? じゃあガーディナー、オレのオリーブ食ってくれよ~。キノコ食ってやる代わりにさ~」



キャベツくんは自分のピザからわざわざ黒いオリーブを剥がして、勝手に私のシチューの中にぼとぼと入れっっっ



「か、勝手に入れるなーーーー!! 私もオリーブ嫌いなんですけど!?」

「へははっ、やっぱり! オリーブはちゃんと植物なんだから食えよなー」

「『やっぱり』ってきさまぁ——っちょ、追加すな!! やめて! それ以上入れたらキャベツくんのピザ食べちゃうから!」



なんか......知り合いに『オリーブくん』がいるせいで、オリーブが嫌いって言うのにちょっと罪悪感が......。ここにオリーブくんがいなくてよかったかもなぁ~......。



「わたくし、オリーブも好きよ~。ねぇキャベツくん、わたくしが食べてあげよっか~?」

「いやいいよ、オレは別にオリーブ嫌いなわけじゃ......」



嫌いじゃないのに私によこしてきたの!? 私が嫌いそうだからって!? 性格わっる!!



「あ、じゃあパプリカ食ってくれよ! 食えないわけじゃねぇんだけど、あんま好きじゃねぇんだよなー」

「パプリカはわたくしも嫌いだわ~」

「そ、そっか......じゃあいいや。おいガーディナー」

「ブチギレるよ?」



そんな騒がしい私たちの様子を、両腕を組みながらずっと見てるのが一人。



「......あんたら......」



ローリエのお皿はもうとっくに空っぽ。私たちを眺めてると喉が乾くのか、結構頻繁に水を飲んで、氷を頬張りながら私たちにジト目を向け続けてくる。


キャベツくんは彼女の視線に気が付くと、すぐに1.1倍くらいの鋭さの目を返した。



「あ?? 言いたいことあんなら言えよ」

「別にぃ~? なんでもありませんけどぉ~?」



ローリエは肩をすくめた後、両手を上げながら首を横に振る。星型のピアスと紫のポニーテールが、いつも以上に揺れていた。



「こっちはもうツッコまへんって決めてるんで~。もう知らんし~。責任取りたないし~」



......あれだなぁ......多分、あの例の掟のこと言ってるんだろうなぁ......。

忘れたわけじゃないんだけど、ほら......ね?



「チビロリは真面目すぎんだよ! あんな掟、絶対誰も従ってねぇって!」



キャベツくんに同意するのはちょっとムカつくけど、これに関しては同意です。


だって、もう私たち何回も食堂でご飯交換してきたけどさ、アレルギー反応とか一回も起きてないもん! 絶対あの掟必要ないって!



「ま、真面目ってわけちゃうけど......」


ローリエは珍しく目を泳がせると、口に残ってた氷をバリバリって噛み砕く。


「ほら、あんたら覚えとらんの? オクタゴンのやつこの掟言うとき、何回も何回も『絶対に』って言うとったやん?」



え? そうなの?



「『絶対に、ぜっっったいに、ぜーーーったいに食堂の料理は分け合いっこしないでくだサーイ』って......あんだけ言われたら普通従わないとってならん?? 破るの怖くないの......?」



私とキャベツくんは目を合わせた。


そうです。我々二人、訳あってそのオクタゴンの掟説明会(?)に参加してないんです。掟は生活指導の先生に代わりに教えてもらったんです。



「ま......まぁ! 大丈夫だろ! オレら今んとこなんともねぇし!」

「そ、そうだよ! 多分大丈夫だよ!


私もそう言うけど、キャベツくんを裏切る準備はいつでもできてます。



「あーしももう止めんけどさぁ......ミルフォイル!! あんた自分は関係ないみたいな顔してるけど、あんたにも言うとるんやからな!?」

「え~? そうなの~?」

「ウィローのキノコ食うとったんはどこのどいつや!?」

「んふっ......んふふ~」

「なにわろとんねん!?」



ローリエは噴火しそうな怒りとか呆れをぐぐぐって堪えた後、ため息を誤魔化すように深呼吸をする。


そして、口を逆V字にして、私たちを順番に睨みつけながら両腰に手を当てた。



「ほんまになんかあっても知らんからな? バチクソ怒られても知らんからな?? あーしはいっっっっさい責任取らんからな!?」

「「「はーい」」」



第三者から見たら、シュールな絵面なんだろうなぁ。四人の中で最年少っぽい女の子に注意されてる、中~高校生っぽい三人......。




「そういえば~、話が変わるんだけど~」


ミルルンは両手を重ね合わせながら、エメラルドカラーの瞳をキラキラと輝かせた。

『話が変わる』って言うときは大体180度くらいは変わるから、ほんとにさっきと関係ない話なんだろうな。



「ウィローちゃんとキャベツくんは、何属性だったの~?」

「「『何属性』??」」



?? きゅ、急に知らんワードが耳に入って来たんだけど......。



「その反応......あんたらまだ調べてもらってないの?」



私とキャベツくんはまたお互い顔を見合わせる。自分と同じくらい混乱してる人がいると安心するなぁ。



「調べてもらうも何も......ねぇ?」

「そもそも『属性』ってなんだよ??」



そしたら、今度はローリエとミルルンが顔を見合わせた。

先に視線を外した彼女は、ちょっとだけニヤニヤしながら主にキャベツくんの方を見る。



「へ~? 知らんねんや? へー!」

「あ? マウント取ってんのか?? オレより身長クソ低いからってやけになんなよ」



あ......背負い投げ......。



「んふふ~、『属性』って言うのはね~、『水属性』とか『雷属性』とか、そういうやつのことだよ~」



ミルルンは地面でボカスカやってる二人をスルーしながら、私に向けて説明してくれる。



「一年生はみんなどこかで呼び出されて、何属性なのかを調べてもらうのよ~。わたくしもローリエちゃんも最近呼ばれてね~」

「な、なるほど?」



あれかな? 『水属性』なら、水魔法が得意、みたいな? そういうのもあるんだ!


私はなんだろうなぁ......やっぱり光属性? みんなを照らしちゃう存在的な?? キュートな癒し主人公的な??


冗談はさておき......なんか、想像つくようでつかないな......。



「ウィローちゃんもそろそろ呼ばれるんじゃないかしら~? 噂によると、魔力の強い順番で呼ばれてるらしいし~」




***


ミルルンにそう言われた次の日に、呼ばれました。


知らない宛先からメールが来たと思ったら、『属性測定のお知らせ』って書いてあったから、100%これだなぁって。



メールによると、どうやらその測定は校舎内じゃなくて、寮の中で行われるみたい。


だから行ったことのない三階まで上がって、そこに住んでる先輩と廊下ですれ違って......なんか、来ちゃいけないところに来てるような気がして、すっごい悪いことしてる気分だった。



「えっと、382、382号室......」



メールに書いてあった番号の部屋には無事にたどり着けたけど、本当に入っていいのかわからなくて、しばらくの間挙動不審になっちゃった。


結局、私はおそるおそる扉をノックしてみる。



「ご、ごめんくださーい......属性測定?に来ましたぁ~......」


「............」



へ......返事がない......。何故......??



試しにドアノブをひねってみると、どうやら鍵はかかってなかったみたいで、すんなり扉が開いてしまう。


部屋の中を覗き込みながら扉を開けて、私はそっと足を踏み入れて——




「属性測定で来た子ー? どうぞ入ってー」

「あ、はい! しつれーします!」




気だるげな声が聞こえてきたから、私はドアを開けるスピードを早めて、そのまま部屋の中に入った。



『属性測定』をする場所だっていうから、寮内とはいえ特別な部屋か何かなのかなって思ってたけど......普通に学生寮の部屋だ。中にいるのは一人だけみたいだけど、ベッドも机も二つあるし、部屋のレイアウトも私の部屋とほぼ一緒。


私の......私とルームメイトくんの部屋と違うのは、ポスターとかシールが壁にたくさん貼ってあるのと、棚に大量のま、枕?が置いてあるのと......とにかく、すごい色々飾り付けされてある。フリルとリボンがたくさんあって、心なしか甘い匂いもして......可愛い部屋だなぁ!



信じられないくらい散らかってるけど。



あ、歩きづれぇ......! 本とかメイクグッズとか色々床に落ちてる......何も踏まないようにしないと......。



「ようこそー。ごめん、正直に言うと忘れてたわー。属性測定ねぇ、ちょっと待って......」



机に座ってた先輩はゆっくりと立ち上がると、タンスの引き出しを開けて、何かを探し始めた。邪魔な物をどんどん床に放り投げて......部屋が散らかってる理由はあれかぁ。


属性測定って、てっきり先生とかにやってもらうものだって思ってたけど............ここの生徒がやってくれるんだ。だから寮の部屋に呼び出されたんだな。


先輩の背中からは悪魔の翼が生えていて、頭からも角が生えてて......あ、尖ったしっぽまである。悪魔なのかな? でもそれにしては羽も角も小さめ?というか......。



「よしあった、えっと......」



彼女は引き出しの中から水晶玉を取り出すと、それを抱えたままこっちへ近づいて、



「はい、これ持って」

「えっ」



急に水晶玉を渡された。


彼女はそのままタンスの方へ戻って、別の物を探し始める。私はどうしたらいいのかわからず、ただ水晶玉を抱えたままその場で立ち尽くした。



え、えっと、待ってればいいの? ここに立ってればいいの? 

椅子とかない感じなんだ、なるほどね......確かに椅子置くスペースなさそうだし......。


水晶玉は薄い桃色で、中にはラメのようなものが煌めきながら動いてる。外側も光沢を帯びていて、私の姿も薄く映っていて......きっと、丁寧に磨かれてるんだなってわかる。


占いに使う水晶って感じに見えるけど......これでどうやって私の属性がわかるんだろ。やっぱり魔法?



「よーーーしあった、これさえあれば測定できるわー」




先輩が目当ての物を見つけられたっぽかったから、私は顔を上げ——



——————え?




「え、え? え??」





ちょっと待って?



な、なんで先輩......あんなデカいハンマー持って......??









次話:なんかごめんね、ルームメイトくん

です、いつも誰かが可哀想な目に遭っている作品です

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