↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
145/151

145話:結局、

「————————!?」



銃声で飛び起きる。


夢を見てたわけじゃないのに、何がなんだかわからなくて、


暗くて、


寒気が、熱気が、




「っっっアンタら、今すぐ起きて!! 多分真犯人とやらが来たで!!!!」




ローリエは誰よりも先に立ち上がって、すでに杖を握りしめてて、

パジャマ姿で、髪も下ろしてて、



そう、だ。



そうだ......私たち......『生憶(せいおく)の蔵(くら)』に来てたんだ。


『記憶の瓶』が保管された倉庫に、寝泊まりしてて。



ネルソービューの生徒たちの記憶を蘇らせてる、真犯人と会うために。




「......んぅ~......? あら~? 真犯人さん、もう来ちゃったの~?」

「な、なんだぜぃなんだぜぃなんだぜぃっ!? ほんとに来ちまったのかだぜぃ!?」



ミルルンは両目をこすりながら起き上がって、一角先輩は布団が角に引っかかっちゃってるみたいで、



「~~~~~~~っ!?!?」

「あぁぁああぁクソッ!! 暗いし音響くしで、どっから撃たれとるんかわからんっ!!」




銃は嫌い。


だって。簡単に命を奪えちゃうんだもん。



ゾディさんが。



オートミールを抱きしめたまま、動かなくなった姿が。



こびりついて。離れなく——





「——————ッッッグ」



一角先輩はうずくまる。


片方の腕を押さえながら、赤いはずの目を見開く。



灯りが薄すぎるせいか。


袖に広がっていく染みが、濃い灰色にしか見えなかった。




..................え?




「ライケル!!!! 大丈夫やっ、あーしがいま治したるからっ」



ローリエは一角先輩の前にしゃがみ込んで、杖を黄緑に光らせて、


え、



う、......撃たれ......たの?


先輩死んじゃ



違う


ううん大丈夫違う違うよ



だって先輩はもう死んでる


私たちはもう死んでる



二度死ぬなんてありえない

ネルソービューがなんとかしてくれる



大丈夫


だいじょうぶ



おちつい  て





「~~~っは、ぁ、~~っ————っ」




誰も。ゾディさんみたいになったりしない。


いなくならせたり、しない。



私が許さないよ。


私が守るよ。




「~~——......——............——」




口を両手で押さえたまま......両目をぎゅ~~って瞑ったまま、立ち上がる。


だいじょうぶ。



あのときみたいに、息ができないわけじゃない。




「ウィロー!? 危ないから伏せ————ふぁっ!?」




熱気がブワッと広がる。


それなのに、導火線に火が付いたときみたいに、脳が冷たくなる。



刺すような鳥肌が立つと同時に、青が辺りを囲った。



瓶に入った記憶のように、霧のように輝く火の粉。


チョコレート色の棚に、炎が燃え移ることはない。

それでも確かに、逃げ道を塞いでくる。



あのときと同じ。辺り一面を覆う、青黒い炎の花。


あのときと同じ。


あのときと同じ。



あのときと......同じ............?





「お、っ......オッドアイのヒト!!!! そこにいるんでしょ!? 生徒たちの記憶を盗みに来たんでしょ!?!?」




喉が焼けるように熱いのは、きっと、見えない灰が入ってきているせい。


......だよね?


あ......れ。




「私っ、今日は前みたいにやられないから!! ミルルンもローリエもいるしっ、みんな強いしっっ」

「ウィローってば!! お願いやからもう下がって——」

「それに私も、今回は、お、奥の手用意してるから!! 私だって、何も考えずに君に会いに来たわけじゃないんだからね!?」




この前と同じ。

な、はず......なのに。


なんだろう。



炎が、この前よりも......弱々しく見える。


青よりも、黒が強いような気がする。



熱いよ? 冷たいよ?



それなのに。



同時に、懐かしいような。


馴染み深いような気がして。



それが。



どうしようもなく、怖くて。。、





「わ......私はもう......あのときみたいに、何もできないわけじゃないんだからね......?」


「ちょっとは強く、なったんだから......っ......もう......人間じゃないんだから......」




ぐちゃぐちゃ考えてる場合じゃない。



また炎魔法が飛んでくるかも。


ううん。銃、だっけ? あれ   ?



もう最初から奥の手使っちゃおう、必殺技使っちゃおうっ、



みんなを守るためには————っっ





「もう私は、ただの『なのか』じゃなくて......『ウィロー・ガーディナー』なんだから!!」






「....................................ガーディナー?」




............その声に。


パジャマのポケットまで伸びた手を、止めさせられる。



その声に。


よく知る声に。



足音に。



青黒い炎に。



止まる銃声に。




その目、に。






「......何故......お前たちが、ここにいらっしゃるのです?」





嘘。




嘘。嘘、だよ。嘘。



嘘。




嘘 嘘、嘘嘘嘘嘘、




  嘘   嘘   嘘 嘘嘘   嘘   嘘


嘘  嘘 嘘  嘘     嘘 嘘   嘘


    嘘


嘘          嘘    嘘  嘘    嘘


       嘘


  嘘   嘘  嘘    嘘       嘘          嘘





「どうして......ミルフォイルまで......?」

「だって。ウィローちゃんが言ったんだもの」




ミルルン



ねぇ



ミルルンは最初から全部


知って、




「ウィローちゃんが、この事件の真犯人さんに会いたいって言うから......」

「............」

「ごめんなさい。でもやっぱり、わたくしは............」



ミルルンは前に出て、


全てを知ったような、受け入れるような微笑みで、



でも。きっと。そう見える、だけで......




「ブレイズくん。こんなことはもうやめましょう? あなたの切望の先に、幸せはないわ」

「......」



ブレイズくんは目を伏せるだけ。

今にも、暗い炎に溶け込んでしまいそう。


本当に。



本当に、ブレイズ......くん、で




「あなたと約束したこと、覚えてる? わたくしが、あなたを必ず幸せにするって」

「......約束............」

「あなたを愛す、って」

「. . .」

「だから、わたくし——」




炎が止む。


記憶の灯りすら、彼には届かない。



ただ。彼が、私たちに背を向けたことしか、わからない。




......ねぇ、



嘘、だよ、嘘だよね、


私、まだ、


だって、





「これ以上、お前たちに危害を加えたくはありません」



小さな青い炎が、一角先輩を捉える。

ローリエの回復魔法のおかげで、少しずつ落ち着いてて、でもまだ息は浅くて、




「今日は......帰らせていただきます」


「記憶はまた、後ほど回収しに来ますので」




ブレイズくんが遠ざかる。


ううん。最初から遠かった。

でももう、届かないところまで行ってしまいそうで、




ブレイズくんは、ブレイズくんはブレイズくんがブレイズくんがブレイズくんが


真犯人がっっ、




「~~~~っっ待って!! ブレイズくん!!!!」




私はローリエを置いて、


ミルルンを置いて、一角先輩を置いて、



走って、



ねぇ、



結局。





みんな......嘘つき、だったの............?









***



追いかけた。


追いかけて、追いかけて追いかけて追いかけて、息が切れても地面を蹴って、翼も一緒に動かして。



ようやく追いつけたのか、ブレイズくんがわざと捕まってくれただけなのかわからないけど、




私はブレイズくんに飛びかかって。


そのまま、草むらに押し倒しちゃって。



月光も、星々も。彼に降りかかる影すらも。


今は......全部、消えてほしい。





「........................どういう......こと」

「......」

「結局......ブレイズくんが......犯人、だったの?」

「......」

「最初から。最後まで」

「......」




自分の髪が風に揺れるせいで、彼の顔がよく見えない。

いつも付けてるO字型のピアスですら、今日は私の邪魔をする。


くすぐったくて。痒くて。


痒い。痒い、痒い痒い痒い痒い、




「ほんとに......全部......ブレイズくんのせいだったの?」


「結局、ブレイズくんなの?」


「キャベツくんたちが......合ってたの......?」




わかってる。


今まで拾ってきた伏線を、全部無視してきたのは私だって。



私はずっと、認めたくなかっただけなんだ、って。



......でも。


でもさぁ。





「私......言ったよね? ブレイズくんが犯人なら、それでも良いって。犯人なら教えてほしいって。正直に言ってほしい、って............」

「. . 、」

「でもブレイズくん、自分じゃないって言うから......だから私、君を信じて............」




ずっと。ずっと信じてたんだよ?


ブレイズくんを庇おうと、今まで頑張ってきたんだよ?



ブレイズくんにとって良くない証拠が見つかったら、隠そうとして。


逆に、別のヒトが犯人だっていう根拠が見つかったら、それに必死に縋って。



ずっと。ずっと、何日も何ヶ月も、毎秒毎秒、




「ねぇ............結局......全部無駄だったの......?」



ブレイズくんは今まで、何考えて私と話してたの?

苦しかったの? 本当は後ろめたかったの? それとも、何も感じてなかったの?


ミルルンはいつから知ってたの? どうして今になって、ブレイズくんが犯人だって教えてくれたの? 他には何を隠してるの?


結局、あのオッドアイのヒトはなんだったの? なんで私とキャベツくんを襲ったの? なんでブレイズくんと同じ青い炎を使えるの? 事件と関係ないの?




「ブレイズくん。あの約束はなんだったの?」


「『わざわざ苦しい思いをさせてまで、お前の記憶を蘇らせたいとは思わない』って。あれは結局嘘だったの?」


「ブレイズくんは嘘つかないんじゃなかったの?」


「私の記憶を取り戻したのは自分じゃないって言ってたよね、言ってくれたよね、」


「真犯人をこの目で見たみたいな口ぶりだったしさぁ、まるで他に犯人がいるかのような」


「あれも結局嘘だったの?」


「もうわからないよぉ」


「ねぇ、私がしてきたことはなんだったの、」


「なんか言ってよ」


「ブレイズくん、」


「ねぇってば!!!!」




なんで誰も、何も教えてくれないの!?


いっつもいっつも私だけっ、私にだけ何も言わないでっっ、



ママとパパがどこにいるのかも、あんなちゃんがどうなっちゃったのかもっ、


なんでアマンダおばあちゃんは倒れてたのかも、

なんでユウトは私を殺したのかもっ、



なんでいっつも、私ばっかり——————っ






「ガーディナー」




ブレイズくんは。



......私が。押し倒しちゃってる、ブレイズくんは。

横を向いて。青ざめていて。息が浅くなっていて。


唇を、ほんの少しだけ震わせた。


瞳の炎が消えかかって、闇に飲まれそうな目。





「......ガーディナー......少し......怖い、です」

「——————え、」

「す、みません......俺に......こんなことを言う資格は............」

「こ......怖いって、何が? 犯人だってバレちゃうのが怖かった、とか——」


「怒らせてしまいました......よね」




ブレイズくんは私から目を逸らしたまま、ゆっくりと息を吸った。


未だ銃を持つ指先は、小刻みに震えていた。




「お前に恨まれる、のは......仕方がないと思って............」


「............っっ、」


「......なぜ俺は......被害者ぶっているのでしょうね............?」




ブレイズくんは、弱々しく口角を上げながら。


両腕で、そっと自分の目元を覆った。




「............そう、か............俺は............」


「ずっと......お前とミルフォイルの優しさに......甘えていたんだな............」





——————え。


あ。



『怖い』、って。


私のことか。



私が怖がらせちゃったんだ。




「............」


「............」


「............」



「....................................」




起き上がる。

降りる。ずっと、ブレイズくんの上に乗っちゃってたから。重い、だろうから。


寝そべったままのブレイズくんの隣で、正座する。




「......ご......めん」




わがまま、だな。

自己中だなぁ、私。



一度は、何も知りたくないとか......知らないままでいたいとか、願ったくせに。



結局、全部知りたくなっちゃって。

勝手に怒っちゃって。


怖がらせて。



傷つけて。





「わ、たし......っ......、ぶれいず、くんの......こと——」

「ガーディナー。お前は本当に、純粋なのですね」




手が、伸びてくる。


いつの間にか彼は起き上がっていて、私の前であぐらをかいて、



傷つけたのは私の方なのに。


彼の指先が近づいてくると、結局私はビクッてなっちゃう。




だけど、毛先に触れられたとき......頬に手を添えられたとき。


特にびっくりはしなくて。



やっぱりブレイズくんは、私に酷いことなんてしないよね......なんて。



なんで、




「俺はですね、ガーディナー。お前が思うより、ずっとずっと冷酷なのです」




なんで。笑うの。


なんで笑うのっ、

作り笑顔下手なくせに、歪んでるくせにっっ、




「ポエナの裁判官たちを肯定するつもりはありませんが......俺が地獄に落とされたのは、それなりに理由があるのです」


「俺は、本来ネルソービューに......天国に、いてはいけない存在」




やめて、よ、


そんな悲しそうに笑うんだったら、最初から笑わないでよ......!!!!




「目的を達成するためならば、手段を選ばない悪霊」


「幸せになる資格のない、人でなし——」


「————人外。なのです」




炎がまた、少しだけ大きくなる。

彼の瞳の黒色を、誤魔化すように。塗りつぶすように。




「......ガーディナー。俺を信用しないでください」




薄い灰色の肌を——死神の肌を、ブレイズくんはただ見つめた。


人間と、ほぼ変わらないはずの肌を............睨みつけた。





「俺を......許さないでください」









***


......あれから。ブレイズくんに避けられるとか、そういうことはなかった。


学生寮に戻って、顔を合わせると......いつも通り、小さく頷いてくれたり。



「おかえりなさい。『魂導実習』はいかがでした?」

「............つまんなかった」

「そうですか」




普通に、話しかけてくれたりして。




「そういえば、『裁判倫理学』の宿題は終わらせましたか?」

「......ブレイズくんは?」

「始めていません」

「私もー。............」





記憶がどうこう、とか。事件がどうこうとか、そういう話は一切なくて。


いつも通り。

何事もなかったかのように、日常が続いていく。



きっと私は、それを望んでいて。

ブレイズくんは、気づいてくれて。




「ちょうど今から、食堂に寄るつもりだったのですが......良ければ、ご一緒にどうですか?」

「............」


......でも............。



「、い......いーかな。あんまりお腹空いてないし、今帰ってきたばっかだし......」

「わかりました」



むしろ、私の方から避けてる感じになっちゃってても......今までみたいに拗ねたりせずに、ただ受け流してくるの。


私が目を逸らしちゃっても、ブレイズくんは何も言わない。

机から動こうとしなくても、無理やり引っ張ろうとしてきたりしない。




「それでは、いってきます」

「............うん」




扉を閉める音も、優しかった。




「~~、うぅううぅう~~~............」



私は机に突っ伏して、プリントを枕代わりにしちゃって。





..................『裁判倫理学』の宿題。


ちゃんと、問題を読んですらないのに。



つい無意識に、『公平じゃない』に丸を付けちゃったの。





......ブレイズくんが真犯人だってわかったところで、時間が止まるわけじゃなかった。



多分、何日も......少なくとも、一ヶ月くらいは過ぎちゃったかもしれない。



ブレイズくんは毎晩帰ってきて、毎日私と過ごしてくれて。




最近みんな飽きてきたのと......被害が減ってきた、からなのかな。


事件の話......だんだん、しなくなってきたんだよね。

『笑顔拡散委員会』も、ミルルンたちも。



最初はあんなに犯人を許さないって言ってたマーキュリー先輩も......まつ毛先輩が戻ってきてくれてからは、だいぶ落ち着いたみたいで。


鳥ちゃんも——......マーキュリー先輩の妹ちゃんも、ここ最近ずっとご機嫌みたいで。オリーブくんによると、なんだけど。




ネルソービュー側も、全然動かないし。

教授たちも、レベッカ先輩も何も言ってこないし。




なんか。拍子抜けっていうか。

なにそれ、って感じ......というか。


割り切れてないのは、いつだって私だけでさ。



どうしたらいいのかわからないまま、いつの間にか......三年生も、終わりそうで。





やっと......少しずつ、安心し始めてた頃だったの。


このまま、事件はなあなあになるかもしれないって。




誰が真犯人だとか、捕まえなくちゃとか、過去がどうとか......もう嫌なこと、考えないで過ごしてもいいのかもしれないって、ようやく思えるようになってきた、



その時。






ブレイズくんは、寮に帰ってこなくなった。





「............な......んで............」





それどころか。



ネルソービュー中を探しても、見つからなくなっちゃった。








次話:落ちた太陽

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。