144話:※これは恋バナです
「わたくしね~。小さい頃、お母さんに右腕を食べられちゃったんだけど~......」
「「「............」」」
ミルルンを除く我々三人は、口を開けたまま絶句する派と、口を閉じたまま絶句する派に分かれていた。
私は前者だった。
「......あら~? みんなどうしたの~? ぽか~んってしちゃって~」
え......っと。
あの。
聞き間違い......じゃないよね......????
「み、ミルルン? も......もう一回! さっきのもう一回だけ言ってくれる?」
「? わたくしね~、小さい頃お母さんに右腕を食べられちゃったんだけど~」
「もう一回!」
「小さい頃、お母さんに右腕を食べられちゃってね~」
「もういっちょ!!」
「昔、お母さんに右腕を——」
「ええいっ、復唱すなっ!! ウィローも何ふざけとんねん!?」
ローリエに頬ぺちって叩かれちゃった。ふざけてるつもりはなかったのに......。
「............なぁミルフォイル? これって恋バナで合ってる??」
「合ってるわよ~?」
「せっかくのお泊まり会やし、凄惨な過去を暴露したろ~......とか、そんなんじゃなく??」
「違うよ~。わたくし、そんな悲しい話をするつもりはないわ~」
「『母親に腕食べられちゃったの~』で始まる物語やのに????」
とりあえず体を起こそうと思ったのか、ローリエは布団をバッッて脱ぎ捨てて、枕に肘をつきながらミルルンを眺める。
私も彼女の真似をしながら、光源代わりに使ってる(他人の)『記憶の瓶』を前の方に移動させた。
ほら、瓶の中にいる宇宙ジャムさんも引いてるよ!......多分。なんかうにょうにょしてるし。
「そ......それにしても、ミルルンも過去思い出してたんだね! 知らなかった......」
「なんかもう驚けへんわあーし、右腕食われた話に全部持っていかれてもうた」
「ガールズトーク?って、武勇伝を語る場だったのか......だぜぃ」
一角先輩は目をぐるぐるさせながら、近くにあった(ヒトの)『記憶の瓶』をぎゅーーって抱きしめた。
だ、大丈夫かな先輩? もうすでにトラウマになっちゃってない......?
「あのねあのねっ、それでね~。右腕を食べられちゃった後ね~~」
「いや普通に話続けるんかい」
「ろ、ローリエ、もうツッコむのやめよ? いちいちツッコんでたら話進まないよぉ......」
と、いうわけで......。
事件の真犯人さんが来るのを待つ間......『生憶の蔵』にて我々四人は、それぞれ敷いた布団に包まり。
正式に恋バナ(????)を開催したのでした!
「......あ、そうだわ! この話を続ける前に、まずお母さんの話をしないと~」
ミルルンは造花のように笑いながら、枕の上に両腕を畳む。
造花と言っても、偽物っぽいわけじゃなくて......ただ、どんなときでも続く美しさが、彼女の笑顔にそっくりな気がしたの。
「血の繋がった両親とは、幼い頃にお別れして......そんなわたくしを引き取ってくれたのが、お母さん。優しいけど素直じゃなくて、適当だけど愛情深くて~」
......せめて相槌するべきなのか、みんなみたいに静かに聞いてるべきなのかわからなくて。
「あのね~......わたくしは人間だったけど、お母さんは人外だった。『グール』と呼ばれる生き物でね、迫害とかされてしまっていたみたいでね~」
「————!」
グール。
最強最悪の人外と言われてしまっていて、基本誰にでも変身できて、
ジャックポットさんと......オートミールがそれ、で......——
「グール? なんかどっかで聞いたことあるような............ネルソービューにもいるのか? だぜぃ?」
「っ」
..................だめだ。
これ以上思い出したら、ゾディさんのこと以外考えられなくなっちゃう。、
「とにかくね、お母さんは珍しい生き物だったの~。それでね~。その生き物は、人間を食べないと生きていけないのよ~」
「は!?!? せ、せやからあんたっ、」
「とはいっても、わたくしのことは何年も食べなかったわ~。大切に育ててくれて、お腹が空いても沢山我慢してくれて~......。............」
グールが嫌われてる理由の一つが、それ......だったよね。
人間も人間で嫌われてるけど......流石に人間を食べる生き物は、人外からしても『気持ち悪い』って、......ゾディさんが............。
「でもね。わたくしたちはスラムっていう場所に暮らしてて、とても貧乏だったの~。お家のテントもすぐに崩れちゃうし、食べ物もほとんどなくて~」
「それで、ある日......お母さんは、空腹でおかしくなっちゃったのよ」
ミルルンは静かに息をついて、やっと眉をひそめる。
『やっと』っていうのは変、かな。それだとまるで、私が望んでたみたい、で、
ミルルンには、ずっと笑っててほしいはずで......。
「お母さんは泣きながら、わたくしの右腕を食べちゃったわ。それで、そのまま我慢できずにもう片方も食べようとしてきて......」
苦笑い、する。
苦笑いですら、珍しい。
「流石のわたくしも、もう駄目だ~~ってなったそのとき............幼馴染が来てくれたの。同じスラムに暮らしてた、大切な幼馴染」
「彼はわたくしを助けてくれて......そのままわたくしの、まだ無事だった方の手を引いて......」
彼女は自分の左手をそっと撫でた。
右手で、撫でた。
............生前の姿と、ネルソービューの生徒としての姿が違うのは......これが理由だったりするのかな。
ネルソービューは............魂が生前負った傷も、治してくれるんだ。
全部、なかったことにしてくれるんだ。
「......幼馴染の彼は、わたくしと一緒に逃げてくれた」
「あの子がいなければ、わたくしはきっと駄目になっていたわ」
「あのときの彼は、まるでヒーローみたいだった............」
すると、ミルルンはまた微笑んだ。
枕の上に顎をうずめて、『宇宙ジャム』の光を目に映して。
まるで、恋バナでもしているかのように——
「思い返せば、彼がわたくしの初恋だったな~って思って~~。どう~? わたくしの幼馴染、素敵な人でしょう~?」
「あ!!!! そ、そうだったっ、これ恋バナなんだった!!」
「もう忘れとるやつおるやん......」
幼馴染との恋、かぁ............グールの話で持っていかれそうになっちゃったけど、やっぱり良いよねぇ。幼馴染って。私も、恋ではないけど幼馴染がいたし......。
確かブレイズくんにもいたよね? 名前は確か......え~~~っと......ひまりさん!!
『昔......こうして、よく俺の手を握っていてくれた人物がいるんです』
『大切で、自慢の幼馴染です』
............ブレイズくんも......昔は、ひまりさんのことが好きだったりしたのかな......?
その。恋愛的に。
「くぅ~~~~っ! 良い話だぜぃ!! おまえの幼馴染かっけぇぜぃ!!」
一角先輩は、瞼を親指でサッと拭う。本気で泣いてるのか、泣いてる感出してるだけなのかわからない。
「我もおまえの幼馴染みたいに強くなりてぇぜぃ!!.....まぁ我、槍すらもまともに持てないから多分無理だけど、だぜぃ」
「あら~? 槍ならわたくし教えられるわよ~?」
「ホントか!? 弟子にしてほしいぜぃ!!」
「いや~~~......。にしても、てっきりミルフォイルはブレイズの話するやろなぁ思っとったから、色々意外やったな~......」
ローリエは片方の手で頬杖をつきながら、もう片方の手でミルルンをバシバシ叩いた。
最初は眉間にしわを寄せてた彼女だけど、今はちゃんと楽しそう。
「今の話、ブレイズが聞いたら嫉妬してもうんとちゃう?? 自分が初恋じゃないって知ったら、あいつ結構拗ねそうやで~~?」
「ん~、そうねぇ~......。............」
ミルルンは布団の上にうつ伏せになったまま、軽く足をバタバタさせる。
緩んでいるであろう口元を、両腕の中に隠して。ぼんやりとした瞳で、霧のような光を放つ瓶を眺める。
勝手にライト代わりに使ってるやつも、近くの棚に敷き詰められた『記憶の瓶』も......今はもう、そんなに私たちを邪見にしてるようには見えない。
蛍みたいにボワッと光ったり、ほんの少し揺らいだり......。
「......ミルルン? もしかして眠い?」
「ん~ん? ただ、ちょっと考え事をしていただけ~」
一瞬、強がってるのかな?って思ったけど......見た感じ、嘘はついてないみたい。
......すぐ近くに、星空色のジャム入り瓶があるからかな。
暗闇で色を失った瞳に、青い炎のようなものが、薄っすらと灯っているようにも見える。
きっと......ブレイズくんのこと、考えてるんだろうな。ミルルン。
............。
「そういうウィローこそ眠くないんかーー? もうお子様は寝る時間やでーーー?」
「なっっっ!? だ、大丈夫だもん!! どっちかっていうとお子様はローリエじゃ——」
「な ん て ?」
「いえなんでも............」
布団の中に隠れても、ローリエの目がキランッッッて光ったところが目に焼き付いて離れなくて、ひ、ひえぇええぇぇえ怖いっ、こわいよぉおおぉおおおっっっ
「ったく......。......それで? 次は誰がおもろい恋バナ聞かせてくれるん??」
......あれ? ローリエの声、一瞬で機嫌良くなっちゃった。ウィローさん助かったかも。
でも、もしここでウィローさんが枕から顔出しちゃったら、『じゃあ次はウィローの番なっ、オラ最近あったこと全部吐き出せやゴラ』とか多分言われちゃって......せっかくお風呂入ったのに、また汗だくになっちゃうだろうし——
「なんか進展がありそうなんは、やっぱウィローやけど......」
「ひぃいいぃいいぃいい!? やめて!! ヤダ!! 公開処刑ヤダーーーーッ!!!!」
「あ~~............やっぱあんたはええわ。あんたとキャベツの話、密度濃すぎて聞いたら眠れんくなるやろうから......」
「!?!? た、助かったけどっ、それで回避するのもなんか恥ずかしいんだけど!?」
ウィローさんはキュウリにびっくりした猫みたいに飛び上がっちゃって、布団から顔を出す。
でもローリエは反応するどころか、こっちを見てすらもいなくて。
ニヤニヤしながら、次のターゲットを視線でロックオンして——
「ライケル~~? あんたはなんかあらへんの~?」
「えぇぇええぇぇ我!?!? だぜぃ!?」
一角先輩は、おでこの角ごと顔を枕にうずめようとする。
でもローリエは『逃がさんよ』とでも言わんばかりに前のめりになって、手を一角先輩の布団の上についちゃって、
「あんた一応先輩やろ? 四年生やろ? あーしらより経験豊富やったりするんと違う??」
「い、いやいやぁ......そういうローリエこそ、す、好きなタイプとか——」
「話逸らすな!! その反応、ライケルにもおるんやろっ! 好きなヒト!!」
うん、いるよ。一角先輩の目の前にいる女の子なんだけどね。
「誰!? 誰なん!? あんたと同じ学年の子か!?」
違うよ。一個下の、三年生の子だよ。
いま一角先輩の前で、目キラキラさせてる子なんだけどね。
「どういう感じの子~~~? 何科の子? やっぱかわええの??」
今まさに両手で頬杖つきながら、口を『v』の形にしてる子だよ。珍しく髪を下ろしててね、肩にそっと降りかかっててね。
魔女科でね。可愛くてね。
「もし教えてくれたら、あーしがあんたをその子とくっつけてやらんこともないけど~~?」
YOUだよ。
「ん~~? どうしたライケル、照れたんか~~? ええやん別に、言うたって減るもんじゃないし」
いやだからYOUだってば!! おまえですおまえーーーーっ!!!!
ローリエっていう名前の!! 女の子!!!!
「......ふーん? だんまりかぁ、なるほどなぁ......?」
こんなに何もわかってないのにわかってる感出てる『なるほどなぁ』、生まれて初めて聞いたよ......。
「ええか? 男っつうのはなぁ、もっと堂々としとる方がモテるんやで?」
「......ぜ......だぜぃ......っ............」
や、やばい、このままほっとくと一角先輩が茹でダコになっちゃうっっっ!!
私が......助けてあげた方がいい......?
「別にどうしても言いたくないんやったらええよーー? 別にええよ?? もしそうなったら、あーしは陰ながら応援するしかなくなるけどーーー?」
「ろっっ、ローリエ、も、もうその辺にしてあげ......」
「でもライケル、もう今年でネルソービュー卒業するんやろ? 卒業する前に告りたいんやったら、ウジウジしとる場合じゃ——」
「だぜぃいいぃいいいいぃいぃいいぃいいいいぃい!!!!!!」
一角先輩は急に飛び起きると、自ら雨を浴びるヒトみたいに天を仰いで、両腕を広げながら叫び出す。
薄ら闇でもわかるくらい顔が茹で上がっちゃってて、角も瞳も赤く発火しそうで......。
「ら、ライケル? 急にどうし——」
「わわわわわ我が好きなのは、む、紫のポニーテールでいつも堂々としてて口が悪くてでも優しくてすぐ拳が出てLIFEでいつも謎のスタンプ送ってくるヤツだぜぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」
い、言ったーーーーーーーっ!?!?!?
「......」
「......」
「......」
「......」
「............」
ローリエは目をパチパチさせた後、カクンと首を横に傾けた。
「なにそれ、二次元の話? そんな子現実におるわけないやろ」
こうして、私と一角先輩は同時にズッコケて、死んだ虫みたいになっちゃいましたとさ。
めでたし、めでたし......。
「え、なに? なんなんあんたら......?」
「嘘でしょ......? ローリエ、もしかしてキャベツくん以上に鈍い......??」
「は!?!? そんなわけないし!! あーしがキャベツより下なわけ——」
「ねーねーみんな、見て見てぇ~~~~」
なお、ミルルンはミルルンで、なんか『宇宙ジャム』で遊んでるみたいでした。
「さっきまで、瓶の中に入ってる記憶って~......わたくしたちがガラスに触れると、逃げようとしてきたわよね~~? まるで、わたくしたちを怖がってるみたいに~」
「ミルフォイル?? 今ちょ~~~っとその話どうでもええねん、こっちはとんでもない屈辱を受けたとこで——」
「でも見て。今はもう、わたくしたちに反応すらしないわ~」
ミルルンは口を『お』の形にしながら、瓶のガラスに指を当ててみせる。
すると、確かに中の液体は無反応だった。
いくら瓶に指をつつ~~ってさせても。彼女が両手で包み込んでも、荒波すら立てない。
......無反応、で......。
............あ......えっと......あ......え............??
た、確かに、おかしい。確かに不思議。すごい不思議!
だってさっきまで、めちゃくちゃ私たちに反応してたもん! 私たちが瓶に触れようとするだけで、中の液体暴れまくってたもん!
なのに、今はすっかり静かになっちゃって............。
..................。
「ほ、ほんとだーー! なんでだろー......?」
「わからないわ~。不思議だね~~」
「ええか!?!? あーしは全てにおいてキャベツより上やねん!! 絶対!!!!」
「哀れなキャベツだぜぃ......」
あの、ね。
確かに不思議、だったんだけど、ね。
このときはあんまり、色々考えられる頭じゃなかった、というか......ローリエ鈍すぎ案件に気を取られちゃってたというか。
だから......私、このことすぐに忘れちゃったの。特に深く考えずに、本当に『瓶の液体動かなくなったねー。不思議だねー』で終わっちゃったの。
ほら。だって。
世の中に散らばってる、全ての伏線を拾おうとしたら......頭がパンクしちゃうから。
「はぁ~~っあ! やってられるかっ! ってかあーしら、なんで倉庫の中でこんな元気に恋バナしてるん??」
ローリエは後頭部で頭を組みながら、そのまま倒れるように布団に寝そべる。
「本来、あーしらがここに来た目的ってなんやったっけ......?」
「も~~、ローリエおばあちゃんったら! ウィローさんが教えてあげよっかーー?」
「さっきは子供扱いしてきたくせに、次はババア扱いかいな」
「えへ、へっ......ウィローさんはお調子者なのです~~」
つい、本能でローリエに身を寄せそうになる。
でもローリエは触られるの嫌だから、ね。我慢しないと、で。
私も枕に後頭部を休めて、布団を顎のところまで持ってくる。
すると、ミルルンも一角先輩も寝転び出して......これはあれかな。もう寝る感じかな。
「......ふぁ......ねぇねっ、ローリエ~? もし真犯人さんが侵入してきたら教えてね~」
「いやなんであーしが......」
「だってローリエが一番起きてそうなんだも~~~ん。ミルルンも一角先輩も寝ちゃったっぽいし......」
「は? いやいや、ついさっきまで二人と喋っとったやん! んな一瞬で寝るわけ——」
「んぅ......」「すぅー、すぅー、だぜぃ......」
「..................嘘やろ????」
やばい。私も寝そう......っ......、
わかってる。わかってるもん。『生憶の蔵』に来た目的もちゃんと覚えてるし、もっと緊張感持たないとダメだって。
でも......みんなのせいだもん。元はといえば、ミルルンが恋バナとか始めるからだもん。
最初は結構シリアスっぽい話だったのに、どんどんみんなふざけていくし。なんだかんだ、戦犯ローリエじゃない?? こんなフワッとした雰囲気になっちゃったの、ほぼローリエのせいじゃない????
「......ぅ......ろ、ローリエ~......? もしオッドアイのヒトが来たら、絶対に教えてね~......」
「え~~~? 暗いからわかる自信ないねんけど......」
「...、............、............」
瞼が重くなっていく。何故か鼻の奥がツンとする。
意外と意識は保ててるはず、なのに。思ったように唇が動かない。
私は......私たちは今夜、あのオッドアイのヒトと戦わなきゃいけないかもしれない。
今度こそ、真犯人を捕まえられるかもしれない。
もう。ブレイズくんは疑われずに済むんだ。
もう......ブレイズくんを疑わなくていいんだ......。
「ふっ.....おやすみ、ウィロー」
「......ぉ............りぇ............」
『オヤスミ。————僕の姫様』
*
*
*
嘘
次話:結局、
です。犯人がわかります
ハロウィンおめでとうございます




