十四話:vs ルームメイトくん
前回のあらすじ!
ルームメイトくんに『嘘をつけなくなる薬』を飲ませようとしたら、色々あって私自身が飲むことになって、ぶっ倒れました! そのせいで『自然浴』の授業に行けませんでした!
そして、『戦闘技術・基礎①』の授業でルームメイトくんと戦うことになりました!
......の、前に......こうなった経緯なんだけど......。
まず『戦闘技術・基礎①』は野外授業だから、校庭に行くでしょ? 校庭にはもうすでにたくさんの生徒が集まってて、先生ももういて、
それで、一番最初に私に話しかけてきたのはミルルンだったの。
「ウィローちゃ~ん! 『自然浴』のときいなかったから心配したのよ~?」
ミルルンは私を見るなり抱きついてきて、私の頬に頬をすりすりしてきた。外の空気でちょっと冷たくなってたけど、それでもミルルンは温かかった。
そ、それで、さりげなく頬をちゅーされて......流石に心臓がギュンッてなったけど、もうすでに口にされたことあるしなって思ったら、案外すぐに平常心になれた。ほら、頬はまだセーフだろうし......ね?
「朝はどうしていなかったの~? もしかしてサボっちゃったの~?」
「う、ううん、えっとぉ......色々あって......」
流石に自分の作ったポーション飲んで自滅したことを言うのは恥ずかしかったから、適当に濁した。
なのに、何故かミルルンはニコニコしだして、私の頭を撫で......ば、バレてないよね? バレるわけないよね?? ミルルンは私のポーション学のクラスにいないし......。
ミルルンと話してると、『戦闘技術・基礎①』の先生は笛......ホイッスル?を鳴らして、一瞬で私たちの注目を集めた。
「よく来たなっ、お前たち!!!! 初めての『戦闘技術』の授業へようこそ!!!! 歓迎するぞ!!!!」
先生は半獣人......ではなく、人間と蟻さんのハーフだから、半虫人って言うらしい。
顔も手足も人間のものなんだけど、頭から触覚が生えてたり、蟻のおしりっぽいのがあったりもして......なんていうか、すごく強そう。手足がムキムキだからなのかもしれないけど。
「『戦闘技術』とは主に、魔法を使わずとも戦える力を身に着けるためのクラスだ! というわけで、早速お前たちには武器を選んでもらう!!」
半虫人の先生は、わかりやすく熱血系って感じ。常に凛々しい表情だし、声も大きいし、授業のテンポもとにかく早い。
「この段ボールに入っている武器は全てゴムでできている! 怪我をされては困るからな! 本物を使えるようになるのは来月になってからだ!!」
あと、先生は魔法を使うのはあんまり好きじゃないのか、武器が大量に入った段ボールを——しかも十個くらい——素手で運んできてた。今までの先生はみんな魔法使ってたのに......。
「さあ、選べ!! 自分に合いそうな武器を慎重に選ぶんだぞ!!」
すると、周りのクラスメイトたちは一斉に武器の入った段ボールの方まで走って行って、出遅れた私とミルルンも急いでみんなの後を追った。
とはいえ、段ボールの数が多いおかげで、そんなに混雑はしなかった。
戦闘ってさ、なんかファンタジーっぽくない? 異世界っぽくない?? だからすっごいテンション上がったよ! 魔法を使うのもかっこいいけど、剣とか持って戦うのもすごいかっこいいもん!
段ボールの中に入ってる武器はゴムでできてるとはいえ、結構本格的な感じだった。
あのね......とにかく重いの。試しに両手斧とか握ってみたけど、まず全然持ち上がらないし、これ持って戦える気がしない。剣も重い! 盾も重い! 槍も鎌もハンマーも全部重い!! ほんとにこれゴムでできてるの!? 私が非力すぎるだけ!?
唯一『重っっ』ってならずに持てたのは、弓矢とナイフだけ。弓矢は使うのが難しそうだし、でもナイフはちょっとつまんないような......いや、一周回ってかっこいいかも? アサシンっぽくてかっこいいかも?? 全然ありかも!
とか、一人で盛り上がってたら......
「ぁ......あの......ガーディナーさん......だよ、ね......?」
段ボールの向こう側から聞き覚えのある声に話しかけられて、私は迷わず顔を上げた。
頬と鼻先に広がるそばかす。犬の耳のように跳ねてる髪の毛。優しいオレンジ色の瞳。
男の子はあせあせとしながら、眉をひそめながら笑って、
「こ、こんにち......は......」
「あーーーーっ! 君は!! 同じクラスだったんだ!」
『芸術創作・基礎』のクラスで顔面に赤色の絵の具をぶっかけてきた子。
あと、ミルルンに口説かれたショックで倒れちゃった子でもある。
「こ......この前はありが、とう......あなたがぼくを医務室......あ、代理医務室に連れて行ってくれたん、でしょ?」
「え、あ、あぁ! 当たり前のことしただけだから気にしないで!」
彼と会うのは、代理医務室に連れて行ったとき以来だった。あのときは彼を保健室に送って、そのまま帰っちゃったから......。やっぱり目が覚めるまで待ってあげるべきだったのかな?
でも天使の先生が『あとは僕に任せて』って言ってきたから、私、そのまま、
「そ、そういえば......ぼく、まだあなたに名前言ってなかった、よね? ガーディナーさんは言ってくれたのに......」
彼は胸のネクタイに手を当てながら、ほんのりと笑みを浮かべた。
眉をひそめずに笑ってる姿はなんというか、新鮮というか......儚いようにすら見えた。こ、こんなこと思うの変かな?
「ぼくは『オリーブ・メイベリー』だよ。す、好きなように呼んでくれて大丈夫......」
「オリーブ......オリーブくん、かぁ......」
キャベツくんの次はオリーブくんねぇ......ネルソービュー学園の生徒たちって、植物が由来の名前の子が多い気がするんだけど、気のせい? 身内だけ??
「こ、こ......これからよろしくね、ガーディナーさん。ぼ、ぼく、色々迷惑かけちゃうかもだけど——」
「ウィローちゃ~ん。見て見て~、わたくし槍にしたの~。ウィローちゃんは何にしたの?」
「っっっっっ」
ミルルンの声が聞こえた瞬間、オリーブくんは速攻私の後ろに隠れてきた。
肩を掴む手がちょっとだけ震えてて、怯えながらも頬を少しだけ赤くしちゃってて......そりゃあ、あんなことされたらそんな反応になっちゃうよね......。
「ぁ、ぇ、あ、あ、っ......そ、の......」
「あら~? この間の可愛い子だわ~」
ミルルンは左手に槍を持ったまま、じりじりと私の後ろに隠れてるオリーブくんに近づこうとした。
面白がってたのかもしれないし、純粋にオリーブくんと仲良くなりたいだけだったのかもしれないけど、私は一応彼女とオリーブくんの距離を空けて......
「み、ミルルン......その辺で勘弁してあげ——」
はい! ここで皆さんお待ちかね、ルームメイトくんの登場です!!
もうね、びっくりだったよ。そもそも同じクラスだって気づいてなかったし。
なんかさ、気づいたら私の隣に立ってんの。挨拶すらもせずにさ、当たり前のように私の隣にいて、ただ私を見下ろしてきてて......全然気配もしなかったし......。
そもそも、気づけたのはミルルンのおかげだった。ミルルンの目線がオリーブくんと違う方を向いたから、なんだろって思って私も見たら、
「~~いぃぃいいいいぎいぃぃいいいいい!??!!??!!??!」
「......」
私は咄嗟にミルルンの後ろに隠れて、彼女の肩から覗くようにルームメイトくんを見上げた。
その場に取り残されちゃったオリーブくんも慌てて私の後ろまで走ってきて、なんか、謎の電車ごっこ(?)が始まっちゃったよ。
先頭はミルルンで、その後ろに私で、その後ろにオリーブくんで......。
ルームメイトくんは特にツッコむことも、いつもの冷たい目を向けてくることもなかった。
ミルルンとオリーブくんの方なんて見もせずに、そのまま一歩前へ踏み出してきて、
私に向かって、
「......目が覚めたのですね」
「えぁ、え、え!? ア、うううううん、う、うん??」
「もう万全なのですか」
「た、体調のこと? う、う......う......??????」
話しかけられるだけでも予想外だったのに、まさか体調のこと聞かれるなんて思ってもなくて、ついつい宇宙に放り出されたみたいな顔しちゃった。
「......」
そんな私に痺れを切らしたのかもしれない。それか、もう大丈夫そうだって判断しただけなのかもしれない。
ルームメイトくんは私たちに背を向けて、片手に持った斧を少しも揺らさずに、そのまま歩き去ってしまった。
静寂が訪れると、ミルルンとオリーブくんは二人同時に私の方を見てきた。オリーブくんはだいぶ青ざめてたけど、ミルルンはただただ興味津々な笑顔を浮かべてて。
「ねぇねぇウィローちゃんっ、なに今の~? 今のなに~? なんだったの~?」
「さ、さぁ......私もわかんない......」
「ウィローちゃんの知り合い~? 大人っぽいね~」
「知り合い、っていうか、私のルームメイトっていうか......」
「あら~! 噂の~」
すると、私の肩を掴んでたオリーブくんの手がぴくっと動いた。振り返ってみると、彼は反射的に俯いて、そのまま上目遣いで目を合わせてきた。
「が、ガーディナーさんのルームメイトさん、こ、怖い......人......?」
「う......う~ん......」......否定できない......。
「それに、た、体調悪かった、の......? 『もう万全なのですか』って......」
「あっっっそれはっっ、た、大したことじゃ——」
「イケメンさ~ん。待って~」
ミルルンがミルルンしようとしてるっぽい声が聞こえたから、ウィローさんは急いでミルルンの腕を掴んで、
「スト~~ップ!! ストップミルルン!! ステイ!! お手!! 伏せ!!!!」
幸い、ルームメイトくんはミルルンが駆け寄ろうとしてたことに一切気づいてないみたいで。
ミルルンは首をかしげながら振り返って、彼女にしては早いスピードで瞬きを繰り返して、私の肩にそっと手を置いてきた。今思えば、『お手』をしてくれてたのかもしれない。
「ミルルンやめた方がいい絶対やめた方がいいあの人だけはやめといた方がいい」
「あら~、どうして?」
「あの人絶対冗談通じないしっっっ、へ、下手したら......」
『殺されるかも』って言おうとした。だけどちょっと喉が絞まって、胸の内も冷えたから、私はそのまま大人しく口を閉じて......
だってルームメイトくん、ちょっとだけかもだけど......本当にほんのちょっとだけかもしれないけどっ、私のこと心配してくれてたっていうか、気にかけてくれてたっぽかったから。
体調は大丈夫なのか聞いてくれたし。そもそも代理医務室まで運んでくれたのも彼だし。
何考えてるのかわかんないけど、圧すごいけど、もしかしたら......本当は、優しいところもあるのかもって、
「......ウィローちゃん?」
「あっっっっなんでもない!! え、っと......」
反射的にそう言っちゃって、そのくせ私はルームメイトくんから目が離せなくなっちゃって。
『ウィローくん。君にお願いがあるんだ』
「...う......、」
ルームメイトくんは手斧を握りしめたまま、ただ森がある方向の空を眺めてて。相変わらず読めない表情で、そのメガネに、その瞳に何が映ってるのか、わからなくて......。
『どうか僕の代わりに、あの子のことを気にかけてあげてくれないかな?』
生徒指導の先生の声が、顔が、
お願い、が——————
「~~っ、め、メガネくん!!!!!!」
もうね、めちゃくちゃだよウィローさん。
ミルルンのこと置いてってさ、急にルームメイトくんの方まで走っていくとか。しかも心の中でしか呼んでこなかったあだ名でルームメイトくんのこと呼んじゃうとか。
ルームメイトくんのこと考えないようにしたり、やっぱり気になるってすぐ前言撤回したり。
避けたり、追いかけたり。急に逃げたり、向き合おうとしたり。
「め、メガネくんあのっ、あのねっ」
「......今度はなんの用です?」
先生に頼まれたから、ってことにすれば。
全部が『先生のためだから』ってことにしちゃえば、楽なのかな。
なんて......私らしくないのかなぁ。
「わ、わ、私!! 君にありがとうって——」
で。
こういうまさかのタイミングで、先生のホイッスルが鳴り響いちゃうのがウィローさんなんですよね(?)。
「よぉ~~~~~っしっ、お前ら全員武器は選んだか!? これよりクラス トーナメント戦を行う!!!!」
「えっ」
半虫人の先生は保管ハットから監視台を取り出して、自分のすぐ横に置いた。
「まずはお前らの実力を測らせてもらう!!」
「えっ」
実力も何も、まだ一度も戦ったことないんですけど??
って顔を先生に向けたのに、先生は全然気づいてくれなかった。
「トーナメント戦がどういうものかは理解しているな? 一対一で戦い、最後まで勝ち抜けたやつが勝利だ!! もちろん全員強制参加だからな!!!!」
「えっ」
「最初の対戦相手は、今お前の一番近くにいるやつだ!!!! さぁっっ、さっさと位置につけ!!!!」
「「え」」
『今お前の一番近くにいるやつ』。誰からどう見ても、ルームメイトくんだった。
と、いうわけで......。
「お前たち!! 全員戦闘態勢に入ったか!!」
......今にいたる、と。
「先に攻撃を食らうか、武器を落とした方が負けだ!! ズルはするんじゃないぞ!! 俺はいつでも見てるからな!!」
私から少し距離が空いたところに立っているルームメイトくんは、手斧を構えもせずにただ真っ直ぐ私を見つめてくる。
足元の芝生が風に揺れて、木の葉も吹いてきて、
「これより!!!! 第一回、クラス トーナメント戦を行う!!!!」
私はゴムでできたナイフの先端をルームメイトくんに向けた。
だ、だって一応戦闘態勢とっとかないと怒られそうなんだもんっ、
「あ、あ、あ、あのぉ、お、お手柔らかにぃ......っ」
「......」
やだーーーーっ!! やだやだやだ無理無理無理無理戦いたくない!! 戦闘技術のクラスって初日から戦闘する感じなの!? しかもよりによってルームメイトくんが相手とかっっっ
戦闘経験とかないから!! ナイフの使い方とかわかんないから!!!! やだよもうルームメイトくん絶対強いじゃんなんか強そうじゃんあの余裕そうな顔絶対経験者じゃん!! 助けてーーーーっ! 助けてママーーーーっ! 助けてローリエ~~~~!!
「では、第一ラウンド......始め!!!!!!」
心の中で駄々をこねまくっても、勝負は容赦なく始まる。すると早速ルームメイトくんは距離を詰めてきて、あっ、もう走馬灯見えそう、あ、あ————
——————いや。一旦冷静になろうよウィローさん。
私って記憶喪失じゃん? 私っていうか、ここにいるみんなそうでしょ? 実は記憶を失う前の私たちって、みんな戦闘経験あったんじゃない? だから先生、初日からこんなトーナメント戦とかやらせてきてるんじゃない?
つまり......記憶を失う前の私、実はめちゃくちゃ強かったのでは? 記憶がないだけで、体が覚えてたりするんじゃない?
だから、こう、勢いに任せてナイフを振れば勝てるんじゃ——?
「っってやーーーーーーーーーっ!!」
私はナイフを振り回しながら、ルームメイトくんに向かって突撃した。
「み゛っっ」
そして、校庭の芝生か何かに足をつまずいて転んだ。
「......」
「......」
「......」
「......」
おそるおそる顔を上げてみると、ルームメイトくんは私の頭の前でしゃがんで、私を見下ろしていて。
「......」
「いてっ」
『マジかよこいつ』みたいな顔をしながら、ゴム製の斧で軽く私のおでこを叩いた。
私は大人しく敗者が集まる場所まで歩いた。
「うわ~~ん! うわ~~~~ん!! うわ~~~~~~~~~ん!!」
その場で体育座りをして、腕の中に顔をうずめる。
なんとなくこうなるだろうなって思ってたけど! わかってたけど!! 見事なフラグ回収すぎるよ!!
せめてもうちょっとかっこいいやられ方したかったな~~~? 転ぶって何? え? あまりにも情けなさすぎない??
「だ、大丈夫だよガーディナーさん、ぼくも第一ラウンドから負けたから......!」
オリーブくんは隣に座って、優しく私の背中を撫でてくれる。
そんな彼の足元には、弓矢が置いてあって......彼を負かせたのは誰だったんだろ? 弓矢で対抗するには難しい相手だったんだろうな......そもそも弓矢自体使うの難しいし。
第一ラウンドが終わった時点で敗者になっちゃって、『これからしばらく暇だろうな~』って思ってたんだけど、案外そんなことはなかった。
というか......しょんぼりしてたら、いつの間にかもう次が決勝って感じになってて。他のラウンド全然見てなかったけど、一瞬で終わる勝負が多かったんだろうな......私みたいに......。
流石に決勝くらいは見ようと思って、私はずっと慰めてくれてたオリーブくんに「ありがとう」って言った後、前を向いた。
すると、すぐに斧を持ったルームメイトくんが目に入って......決勝まで行ったんだってびっくりしてる自分と、そこまでびっくりしてない自分が両方いて、多分すごいよくわかんない顔してたと思う。
そっか。やっぱりルームメイトくん、鬼つえーんだ。私に勝てるわけなかったんだ。なんかむしろ安心したわ。
でもさぁ、なんかずるくない?? 記憶を失ってるのは同じなはずなのに、なんでこんなに戦闘能力に差があるの?? やっぱり記憶失う前のステータスが残ってる? 記憶失う前の私も雑魚だったんだなぁ......悲しい現実だぁ......。
......並外れた戦闘能力......ルームメイトくんに怪しいポイントが増えちゃったかも......。
と、とにかく! これは相手も可哀想だな~。
決勝とはいえ、多分ルームメイトくんほど強くはな——
「ミルルン!?!?!?!?!?!?」
思わずその場でひっくり返る衝動は抑えられたけど、代わりに遠くにいる二人にも聞こえてそうな声を出してしまった。
「はっはっは!! あっという間に決勝戦だな!!!!」
先生にも絶対私の声聞こえてただろうけど、彼は普通に無視して、
「今年は戦闘初心者が多いみたいだな!! だが、決勝まで生き残ったお前たちには期待しているぞ!!!!」
ルームメイトくんは先生の方を見向きもしない。ミルルンはニコニコしながら口を動かしてたけど、ここからじゃなんて言ってるのかわからなかった。
み、みみみみ、ミルルン!?!? そんなに強かったの!? 経験者だったの!? え!? え——
「では、決勝戦~~~っ、始め!!!!」
次話:ミルルンの様子がおかしい(いつもより)
です、様子がおかしいです




