137話:増えていく証拠
「——ってな感じでオレらよっ、真犯人を探そうとしててなァ! オリーブはなんか知ってたりするか??」
キャベツくんは片手で後頭部を搔きながら、ニカーーって笑った。
なお、笑ってるのはキャベツくんだけで、オリーブくんは心配そうに顔をしかめてる。
私は......多分、目をまん丸にして、口をカッッッて開けちゃってる。
「......ン? オリーブはともかく、なんでガーディナーまで変な顔してんだよ?」
オリーブくんの部屋に沈黙が漂っても、キャベツくんは頭に『?』を浮かべるだけだった。
............いや。
いやいやいやいやいやいやいやいやいやっっっっっ
「あああああああああのオリーブくんちょっと待ってね一旦タンマ」
とりあえずキャベツくんの耳を掴んで、強く下に引っ張って。
一緒に無理やり後ろを向いて、私は背伸びしながら彼の耳に口を近づけて、
「ねぇ! ねぇ!! 例の事件のことオリーブくんに言ってよかったの!? 『笑顔拡散委員会』内の秘密じゃないの!?」
「エ~~~? まぁ大丈夫だろっ! オリーブはオレらの親友だし!」
「そっっっうだけどぉっ、一応レベッカ先輩に許可取るというか、せ、せめて事前に相談するとかぁ~~~っっ」
「へっはは! ガーディナーって意外とビビりだよなー」
「何をぅ!?」
わかりやすく説明、というかおさらい?しますと。
例の、ネルソービューの生徒の記憶蘇らせ事件があるでしょ?
で、この事件って一応まだ公にはなってないのね? 生徒たちの中で知ってるのはまだ、『笑顔拡散委員会』だけな......はず、なの。
それで、レベッカ先輩は、私たちに協力要請をした。教授たちは今動けない状態だから、代わりに犯人を捕まえてほしいって。事件を終わらせてほしいって。
......で。
その話を、キャベツくんはぜ~~~~んぶオリーブくんに話しちゃいまして。
今にいたります。
「でもよォ、やっぱオリーブとかにも手伝ってもらった方が良くね??」
キャベツくんはジト目になって、それこそ鳥みたいに口を尖らせる。流石フクロウだね。
「だってマーキュリー先輩は、ジャスパー先輩もデボラ先輩も味方に付けちまったんだぜ? このままだと人数不利で勝負に負けるかもしんねぇじゃねぇか!!」
「うっ......それは......そう、かも......だけど............」
「オマエだってブレイズが捕まっちまうのは嫌だろ!? ったく......ガーディナーはもっとヒトに頼ることを覚え——」
「ね、ねぇ、二人とも......『勝負』ってなんの話......?」
「「~~~~っ!?!?」」
小声で言い合いしてたつもりだったんだけど、全然聞こえてたみたい。
いつの間に私たちのすぐ背後にいたオリーブくんは、口元をへにょへにょにしちゃいながら青ざめて、インキュバスの尻尾を波のように動かして......。
「ぶ、ぶれっ、ブレイズさんが捕まっちゃうって、どういう......!?」
「おおおおおオリーブくんえっとっ、そ......そのぉ——」
「実はブレイズのやつっ、例の事件の犯人じゃねぇかって疑われててな!! オレらは違うって思うんだけど、魚野郎とかは絶対ブレイズだーーとか言いやがって、そんで色々あってオレらは2チームに分かれることになって『ブレイズが犯人派』がブレイズを捕まえるか『ブレイズは犯人じゃねぇ派』が真犯人を見つけるかで、なんつーか勝負してるっつうか早い者勝ちっつうか!!!!」
うーーーーわ全部言っちゃった!!
ま......まぁ良いけどさぁ、別に良いのかもしれないけどさぁ......オリーブくん混乱しちゃってるよ? いきなり大量に情報ぶつけられたらそりゃそうなっちゃうよ......。
「......えっ......ぅ、あ............えっと......ぶ、ブレイズさんが犯人......ぇ......??」
「まぁ要するによ!! オレとガーディナーは事件の真犯人を見つけなきゃいけねぇっつうことだ!!」
キャベツくんは叩くように強く、オリーブくんの肩に手を置く。
と思ったら、ビクッて震える彼に向かって、深く頭を下げる。お互い距離が近すぎるせいで、危うくキャベツくんのおでこがオリーブくんのおでこにぶつかりそうになってた。
「お願いだオリーブ!! お前もブレイズに濡れ衣着せられんのは嫌だろ!?」
「......」
「協力してくれ!!!! 頼むッッッッ」
オリーブくんはゆっくりと口を大きく開きながら、ぽかんとキャベツくんの頭を眺める。
動揺が全てを覆い隠しているせいで......正の感情と負の感情、どっちの方が多いのかわからない。
しばらくすると、彼は頬に汗を浮かべたまま、そ~~っと私に目を向けた。
私はまだ......本当にオリーブくんを巻き込んでいいのか、わからないけど......。
「わ............私からもお願いっ、オリーブくん! その......ちょっと手伝ってくれるだけでも嬉しい、から......!」
オリーブくんのことは信じてる。
きっと秘密は守ってくれるし......友達のためなら、いつも全力を尽くしてくれる。
......キャベツくんの言う通り、なのかもしれない。
私はもっと......友達を頼った方が良いのかも、しれない......し............。
「............」
すると、オリーブくんはタンポポのように微笑んでくれた。
タンポポの綿毛のように白く、柔らかく......純粋に。
「ぼ......ぼくで良ければ......手伝うよ......! これは、ぶ、ブレイズさんのためでもある、し、ね......!」
「うぉおおおおぉぉぉぉおおおお!!!!」
キャベツくんはその大きな翼(腕)を広げて、オリーブくんに抱きついた。
よく見ると、抱きしめられたオリーブくんの足が浮いちゃってて、ちょ、ちょっと苦しそうにしてるじゃん、もうっ、
........................でも............。
「ありがとなオリーブ~~~!! お前はホントに良い奴だなっ!!!!」
「ぅっっ、え、えへっ、く、くるしいよぉキャベツさん、」
「え!? 苦しいのか!? わりぃ!!!!」
「ふ、ふっ......大丈夫だよ」
......ちょっと............羨ましい............カモ............。
「で......でもキャベツさん。協力するって言っても、具体的にどうすれば......?」
......私もさりげなく二人に混ざろうと思ってたのに、オリーブくんはそっとキャベツくんから離れちゃった。
「ぼ、ぼく、推理力とかないし、真犯人が誰なのかさっぱり、だし......そもそも、こんな事件が起きてたなんて知らなくて............」
「安心しろっ! こんなこともあろうかと、今日はイイモン持ってきたんだぜ!」
『イイモン』......? い、良い物? え? 何それウィローさんも初耳なんだけど????
「っとぉ、確か保管ハットの中に入れ......あった!!」
キャベツくんは制服のポケットを漁ってしばらくすると、
「テンテレンテレレレ~~~! なんかすげぇカメラ~~~!」
............聞いたことあるやつと微妙に違うメロディーを口ずさみながら、キャベえもんは魔法道具っぽいトイカメラを取り出した。
見た目は結構可愛い感じで、キャベツくんが持ってるだけでちょっと面白い。
親指と人差し指の間に挟むだけで、軽々と持てるレベルの小ささで......まるで子供が遊びで使うカメラのようで......。
「え~~~何これっ、なんの道具? 初めて見たーー!」
「んだよ、ガーディナー知らねぇのかぁ? これはレベッカ パイセンが最近作った新作らしくてなァ」
「あっ............」
『新作』、ってことはガジェットか......しかも作者はレベッカ先輩......。
「なんだ~、『笑顔拡散委員会』のいたずらグッズかぁ......」
「オイッ!! なんだその『役に立たなそー』って目は!? 言っとくがこれはマジで事件解決に役立つ道具だぞ!?!?」
「ふーーん? じゃあこのカメラは何ができ——」
「ヒトの指紋をスキャンしたら、誰の指紋なのかがわかるぞ」
「えぇぇええぇええホントにすごい!?!?」
テンションが上がったのは、私だけじゃないみたいだった。
オリーブくんも瞳に小さな金平糖を宿しながら、トイカメラを興味津々に眺める。
「す、すごい、ね......! 指紋を採って、犯人が誰か調査するってやつ、でしょ......? 刑事ドラマみたい......!!」
「だろだろっ、すげぇだろーーー? お前は見る目あるなぁ、ガーディナーと違って」
ちょっと!! 私も後からちゃんと『すごい』って言ったじゃん!!!!
「ってなわけでよぉオリーブ、早速だが......」
キャベツくんは私の視線をガン無視する。
だけど、オリーブくんに向ける表情が、思ってたより真剣で......文句も言いづらくて。
「お前は最近、ベッドの下で変なジャム瓶を見つけたりしてねぇか?」
「び、瓶? それってどういう......?」
「それか......あ~~............もう単刀直入に言うわ。オリーブも最近、過去の記憶を取り戻したりはしてねぇか?」
あっ......そっか! そうだ!
真犯人は記憶を蘇らせるために、『記憶の瓶』をその生徒のベッドの下に置いてる!
相手が手袋とか着けて対策してない限り、真犯人の指紋がその瓶に残ってるはず!
......それなら、わざわざオリーブくんに協力してもらわなくても............なんて。ま、まぁ、そんな細かいこと気にしても意味ない、よね。
気にしない、気にしない......。
「......」
「オァッ、べ、別に、お前の過去のことを話したりしてほしいわけじゃねぇぞ?? ただ、もしベッドの下にジャム瓶あるんだったら......」
すると、オリーブくんは少しだけ首をかしげながら、顎に曲がった指先を当てた。
「ぼ、ぼく自身にはあんまり、心当たりはない......けど............」
......オリーブくんも、何も思い出してないんだ。
「でも、ちょ、ちょっと待ってね! 一応、ぼ、ぼくのベッドの下も探してみるけど、その前に......」
彼はゆっくりと息を吸いながら、私たち二人に背を向ける。
自分の部屋を一回見渡した後、窓側のベッド——ルームメイトのベッドの方へ、歩いた。
オリーブくんのルームメイト。
あの伝説の、百人一首でしか会話できない鳥ちゃん。
名前は確か、ビーナス......なんちゃら、だったはず。
「も、モンスーンさん......」
オリーブくんは、彼女のベッドに向かって話しかけた。
よく見ると、布団が不自然にもっこりしてて......ってことは多分その中に......、
「モンスーンさん、お、起きてる......?」
「......」
「あなたのベッドの下、勝手に見てもいい......? 探し物があるらしくて......」
「......——」
「は!? お前のルームメイトずっといたのかよ!? オレ全然気づかなかったぞ!?!?」
キャベツくんはその場で指をうにょうにょさせて、彼女に近づいていいのか駄目なのかわからないって顔をした。
......私も数秒前まで気づいてなかったなんて言えない......。
「おーーーーいっ、鳥百人一首野郎! 元気してたかーー?」
「......」
「ハッッ!......も、もしかして寝てたのか......? わりぃ、オレずっと大声出し......」
「......」
「???? あれ? まだ寝てる......??」
いくらオリーブくんやキャベツくんが話しかけても、ベッドの上の布団はもぞもぞ動くだけ。外に出てくる気も、顔を出すつもりもないみたい。
本当に寝てるだけかもしれないのに......何故か、そうは思えないのは。
私のせい?
それとも、オリーブくんの表情が曇って見えるから......?
「............最近モンスーンさん、あんまり元気ないみたいなんだ」
ゆっくりと振り返る。
雲で太陽を覆い隠すように、オリーブくんは瞼を少し閉じる。
「もしそれが、過去を思い出してるせい......なのだとしたら............」
それが......自分より先に、鳥ちゃんのベッドの下を調べたがった理由かぁ。
「............なるほどなァ」
キャベツくんは私より先に頷くと、眉を下げながら笑った。
丸い布団の塊にも優しい目を向けた後、腕のストレッチをしながら歩み出して、
「っしゃ!! んじゃ早速、ビーナスの『記憶の瓶』探すかぁ! ガーディナーのベッドの下よりは散らかってなさそうだなー」
「隙あらばウィローさんディスるのやめよ?」
「ぼ、ぼくも手伝う、よ!」
こうして。
私たち三人は、頭上から時々聞こえる掠れ声を拾いながら。
散らばる瑠璃色の羽の中を、手分けして探したの。
***
「じゃ、じゃあ......撮るぜ? 指紋採るぜ......?」
キャベツくんがカメラを構えると、私とオリーブくんは同時に唾を飲み込んだ。
......鳥ちゃんのベッドの下には、本当に『記憶の瓶』が見つかったの。
蓋は半分だけ開いた状態で、中身はまだ少しだけ残っていて......鳥ちゃんに引き寄せられるように蠢いていて。
逆に、私たちの気配には反発するようで。
「これ......撮れたの......か?? シャッター音とか鳴んないからわかんねぇんだよなァ......」
キャベツくんは顔をしかめながら、トイカメラのボタンやら後ろの画面やらを触る。その大きな手じゃ操作しづらいのかもしれない。
「......おっ! いけたっぽいぞ! う~~~んと、見つけたのはオリーブだから、オリーブの名前があるのは当たり前で......ぐ......っくっっ......クソッ............!」
相変わらず操作に苦戦してるキャベツくんに近づいて、カメラの画面を覗いてみる。
そこには、色が反転した『記憶の瓶』の写真と、白く浮かび上がってる無数の指紋と......このアルファベットは......オリーブくんの名前、だよね?
『Olive Mayberry』だけじゃなくて、オリーブくんの顔写真まで一緒に出されてる。まるでAIが分析したかのような画面。
このトイカメラ。本当に指紋スキャンできるんだ。
これを使えば、もしかしたらホントに真犯人を............!
「おっ、きたきたきたァ!! 古い指紋見るときはこれ押すのかぁ、めんどくせぇなぁ」
なんの話をしてるのかよくわかんないけど、キャベツくんはなんか喜んで。
そのまま矢印ボタンを何回か押した後、シャッターボタンをパソコンのエンターキーみたいに押して、
そしたら画面がまた読み込み中みたいになって、新しい名前と顔写真
が
現
「............? 二人とも、ど、どうしたの? 固まっちゃって......」
う......そ、
ま、って、見ないでオリーブくん、
「このカメラに何か————......!?」
「違うっっちがうよっ、何かの間違いだよこんなのっっ!!!!」
私は立ち上がって、危うくベッドの下に頭をぶつけそうになったけどそんなことそんなことそんなことそんなことっ、っ
「ブレイズくんは嘘つかない!! ブレイズくんは犯人じゃない!!!! キャベツくんも、こ、こんなのおかしいって思うよね!?」
「——————っ、」
キャベツくんはカメラを持つ手を震わせる。
画面と私を交互に、顔写真と私を交互に、『Blaze Gauntlett』と私を交互に、
「お、オレは............、............」
瞳を泳がせる。
迷子になっているようにも、私と目を合わせるのを怖がってるようにも見える。
拭えない疑いを、捨て切れないようにも。
「っ、な......なんで............」
何かの間違いだよ。
ブレイズくんの指紋が、この瓶に付いてるのも。何かの間違いだよ。
たまたま付いちゃっただけなんだよ、きっと、何か、
なに、か、
『約束します、ガーディナー』
『俺は......わざわざ苦しい思いをさせてまで、お前の記憶を蘇らせたいとは思わない』
「......ブレイズくんは............嘘、なんて......」
『寮の出入口の近くって、いつも監視カメラがあったわよね?』
『あれってもしかして......ブレイズくんがやったの~?』
「絶対誰かいるのっッ、だってブレイズくん、な、何か見たって——」
『はい。俺が破壊しました。......その方が、都合が良かったので』
「————~~~~~~~っ」
......その場に座り込んだ、そのときだった。
あのね。
私のすぐ背後に。いつの間にか、鳥ちゃんが立ってたの。
キャベツくんたちも気づいてなかったみたいで、目を見開いて。
鳥ちゃんは赤く腫れた目で、私たちを順番に——
「..................にーちん」
————ようやく彼女が発した言葉は。
百人一首でも、嗚咽でもなかった。
「............え、」
そして。
鳥ちゃんこと、ビーナスちゃんは............キャベツくんから、トイカメラを奪ったの。
理由はわからない。
もう何もわからない。
それでもビーナスちゃんは、私たちを置いて。
「......瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の」
ベッドの上に飛び乗って、また窓をその翼で割っちゃって。
「われても末に 逢はむとぞ思ふ」
トイカメラをくわえたまま、外へ飛び去って行っちゃった。
............取り......返さな、きゃ。
あのカメラ。もし。他の誰かに見られちゃったら。
ブレイズくんが犯人だって。思われて。
証拠が増えて、
このまま、
じゃ
「——————~~~~ちょ、っと待ってて二人とも! 私あれ取り戻してくる!!!!」
キャベツくんとオリーブくんが頷くのも待たずに、私はベッドをよじ登る。
飛び散ったガラスを踏まないように、開いた穴から顔を出して——
「守らなきゃ」
「取り返さなきゃ」
「私」
「が」
——————そのまま何も考えずに飛び出して、翼を広げたの。
次話:セイレーンたちのバラード
です。鶏肉とお刺身はどっちも好きです




