136話:故意
あらすじ。
現在進行形で濡れ衣着せられちゃってるブレイズくんを守るために、例の記憶蘇らせ事件の真犯人を捕まえようと意気込んだ............その次の日。
「~~~~~~~!?!?!?」
ウィローさんはウサギさんになっていました。
......あのね。ウサギって、あのウサギだよ。動物のウサギ。
リアル兔だよ。携帯の画面に映る反射にはね、純度百パーのウサギさんがいたの。
いつものハート型アホ毛を失った代わりに、ウサ耳がぴょこぴょこ動いてて。
手が短すぎて、毛の中に埋もれちゃってて。
一応、ウィローさん要素はまだあってね。毛が水色で、目がチェリー色になってて。
か......可愛いんだけど、可愛いんだけどもっっっ、
「~~!? ~~~っ! ~~~~????」
ウサギの鳴き声なんて生まれて初めて聞いたよね。
結構甲高い音出せるんだね。へ~~! 知らなかった~~~!
「......???? ~~~~~?......~~」
日本語の代わりに出てくるのは、『ヒ゜ィーヒ゜ィー』か『ぶーぶー』の二択だった。
つまり言葉は話せないと。
元に戻る方法もわからないと。
「~~~————————。」
今ね、『終わったーーーー』って言ったんだけど。わかった?
......いやね。なんとなく想像はつくよ? どうせ『笑顔拡散委員会』の誰かのせいなんだろうなって。なんかのガジェットのせいなんだろうなって。
部員だからって、いたずらされないとは限らないからさ。ウィローさんも散々(主にキャベツくんに)いたずらしてきたからさ。何も言えないんだけどさ。
ウサギの鳴き声をあげたところで、そもそも部屋にブレイズくんいないし。
とりあえず寮から出ようと思って。
私は何回も跳ねては転倒を繰り返しながら、ようやく自室の扉を開けて、
「(もーーー! なんで自分の部屋から出るのにこんなに苦労しなきゃいけないの!?)」
ここからはウィローさんの心の内を、ウサギ語翻訳機を使ってお送りいたします。
「(こんなことしてる場合じゃないのに!! 早く真犯人見つけに行かなきゃいけないのにいいぃいいいい!! うわ~~~~~~~~~~~ん!!)」
幸い、ウサギの足はすっごく早くて、いつもより猛スピードで廊下を駆け抜けられて——
「(——————ミギャッ!?)」
「? なんかぶつかって......?」
思いっきりぶつかっちゃったのに、相手はビクともしてなくて。ウィローさんはそのままひっくり返っちゃって、虫みたいに手足をバタバタさせちゃって、
「は?? ウサギ? なんでこんなところにウサギ????」
へそ天になった私を覗き込んでくる、
ローリエ、は......もはやラスボスの風貌なのでした。
「(ひ......ひぇ......っ......)」
で、デカい......人間さんデカいぃ......! 人間じゃなくて正確には魔女だけど......!!
巨人さんに見下ろされてる気分......、なのは当たり前として。
普段はちっちゃいヤンキーのローリエが、今は大きいヤンキーのローリエになっちゃってる。
足を開きながらその場に座って、私をまじまじと見つめてきてさ。
眼光がすごいっ、のは......勝手にそういうフィルターが掛かっちゃってるだけ......? これが狩られる側の視点......??
「......ふーん。あんた全然逃げへんなぁ。もしかして、誰かに飼われとるんか......?」
ローリエは栗みたいな口をしながら、興味深そうに首をかしげてくる。
触ろうとはしてこないのは、私を怖がらせないようにしてるのか......ただ単にさわりたくないだけなのか。
「(ろ、ローリエ! 私だよ!! ウィローさんだよっ!!)」
「それか、あんたも使い魔科の生徒か? 『使い魔の姿』に変身しとるんか?......いやでも、もしそうやとしたら普通に日本語喋ってくるはずやし......」
「(気づいて!! 助けてぇ~~~~!!)」
頑張ってウサギ語で訴えてみるけど、一ミリも通じてない気しかしない。
だって、さっきから『ふーん......かわええやん』みたいな目で見てくるんだもん! こっちはSOS出してるっていうのにっ!
「(魔法かなんかで直して! せめて医務室か代理医務室に連れてって!! ローリエぇ~~~~、一生のお願いだからぁ~~~~)」
「......」
「この前ローリエに『アフロにする魔法』誤爆しちゃったの謝るからぁ~~~~!!!!」
「............」
すると。
ローリエは星型ピアスと、後ろのポニーテールをちょっとだけサッッてやったあと、制服のポケットから杖を取り出した。
そのまま膝を地面について、私に杖の先を向けて、
「(え......? ま、まさか......!!)」
私を魔法で元に戻し——————!
「ウサギの丸焼きって、旨いんかなぁ......?」
焼ッッッッッッッ
「(ぎゃーーーーーーー!?!?!? 焼かれるーーーーーーー!! 食われるぅ~〜~~~~~~~~!!!!)」
「あっちょ、冗談やのに——」
「(ウサギの丸焼き~~パセリを添えて~~にされちゃうーーーー!!!!)」
というわけで。
『丸焼き』とかボソッと呟いてるローリエが怖すぎたので、ウィローさんは急いで退避したのでした。
***
「(......はぁ......ハァッ............!)」
あれから、勢いで寮を飛び出したウィローさんだったのですが。
「(が......外敵が......多すぎるッ......! 世界って............こんなっ......危険なの......!?)」
草むらに出たら、その辺にいたヘビに食べられそうになるわ、生徒にはペットにされそうになるわ、使い魔科の蜂さんに追いかけられるわ、穴に落ちそうになるわで......。
本校舎に着く頃にはもう死んじゃうって思って、結局学生寮に戻ってきちゃったもん。
よ、弱い......ウィローさんは弱い......!!
「(世界中のウサギさんって、どうやって外で生き延びてるの......? 可愛いだけじゃなくてサバイバル能力もあるとか最強じゃん、ウサギこそ人外のトップに君臨するべきじゃんっ)」
私は体をプルプルさせながら、ウサギ流のため息をついた。
そのまま寮のエントランスロビーを歩くと、床が爪でカチカチ鳴って......。
「(もう......部屋で大人しくしてよう......)」
「(こういうのって、どうせ時間経過で治るし......ごめんねキャベツくん、今日は一人で真犯人を探しておくれ............)」
無意識に垂れちゃったウサ耳を引きずりながら、私は部屋が並ぶ廊下へ——
「あら~~~? みてみて~、こんなところにウサギさんがいるよ~」
持ち、
上げ............られた。
柔らかい声が聞こえたときにはもう遅くて、直前まで全然気配感じなくて。
気づけば私は両腕に抱かれて、目線も上がっちゃってさ、
「可愛いね~。使い魔科の子~? それとも本物のウサギさんかしら~?」
な......なでなで......されちゃ......っ............。
「わたくしもね~、使い魔科なのよ~? 変身したら魔女の帽子になるの~」
「(み、ミルルンっ、私......!)」
「ねーねー見てブレイズくん、この子すっごく人懐っこいわ~~」
ミルルンは私を赤ちゃんみたいに抱えたまま、体を横に向けた。
ブレイズくんもいたなんて知らなくて、私は多分ウサギ流のアホ面をしちゃってたと思う。
なお、当のブレイズくんは、頬をほころばせるどころか一ミリも表情筋を動かさない。
「......変わった見た目のウサギですね」
「ね~。水色のウサギさんなんて、初めて見たわ~」
「......」
「ブレイズくんも撫でてみる?」
「撫でません」
少しだけ目に力を入れながら、彼はそっと顔を逸らす。メガネを外して、涼しい顔でレンズの汚れを吹き始める。
ブレイズくんが断ることはわかってたのか、ミルルンは何も気にしてない様子で私を撫で続けた。
二人とも、一体いつからエントランスロビーにいたんだろ......? 私が最初に寮を出たときにはいなかったよね?
そもそも......なんでこんなところに——
「水色の毛並みに、赤色の目......この子、なんだかウィローちゃんに似てない~?」
「(!! そう! そうだよミルルンっ、ウィローさんはここに————)」
「そんなこと言わないでくださいよ。調理しづらくなるじゃないですか」
調理!?!?!?
ぶぶぶぶブレイズくんもっ、ウサギを食料として見てる派なの!? 怖いよぉやだよぉっ、ウサギさんは愛でるだけにしようよぉっっ
「え~~、食べちゃうのは可哀想だよ~。ブレイズくんはウサギが嫌いなの~?」
「特に好きでも嫌いでも」
「こんなに可愛いのに~」
少なくともミルルンが味方でいてくれてるおかげで、ウィローさんは『ウサギのもつ鍋~~パセリを添えて~~』にされることはなかったのでした。
二人が話してる隙に、腕の中から抜け出そうとしてみるけど......ち、力つよっ、え、これ私が弱いだけ? それともミルルンが爆マッスル......??
......でも............。
「んふふ~。みてみて~、この子撫でられると嬉しそうにするわ~」
「......」
「ブレイズくんも撫でてあげよっか~?」
「ですから俺は撫でないと言——......? 俺が撫でられる側なのですか?」
えへ、えへっ、えへへへへ~~~~、
ま、別にこのままでいっかぁ~~~! なでなで気持ちぃし~~~! 抱っこされるのも多分すごい久しぶりだし~~~、えへへへへぇ~~~~
「ね~ブレイズくん、学生寮ってペットは禁止だったかしら~?」
「ビューリューが反対すると思いますが」
「大丈夫よ~。ローリエちゃんには内緒にして、ブレイズくんと一緒に育てるの~」
「勝手に俺を巻き込まないでください......」
————って!! よくない!! やっぱり良くない!!!!
早く真犯人見つけてブレイズくん守らなきゃいけないのにっっ、や、やっぱり私——
「ウサギさんって、にんじんが好きなのよね~? これあげるわ~。はい、あ~~ん」
「何故にんじんを常備しているのですか?」
「(いや私はそんなに野菜好きじゃ——って、あれ!? このにんじんっ、シュークリームみたいな味する!! おいしーーーー!!)」
わーーい! ウサギ最高ーーーー!
このままミルルンの飼いウサギになっちゃおっかな~~~~~~
「......随分人馴れしているウサギですね」
「んふふ~。嫉妬しちゃった?」
「してません」
「ブレイズくんにもあげる~。にんじんさんだよ〜~、はいあ~~~ん」
ミルルンはまたポケットから新品のにんじんを出したけど、ブレイズくんはツーンとしながら向こうを向く。
だけど、ミルルンとも私とも目を合わせずに、そっとにんじんを奪い取って......あ......一応食べるんだ......。
「生のにんじんは不味いですね」
まずいんだ......。
「............」
すると、ミルルンは急に私に『たかいたかい』をして、何故かブレイズくんに近づける。
と思ったら、ゆっくりと遠ざけて、顎を私の頭に当てる。
ここからミルルンの表情は見えなかったけど......彼女を見たブレイズくんは少なくとも、眉から力を抜いていた。
「ブレイズくんは、ウサギって可愛いって思う~?」
「?......まぁ......『愛玩動物』と言われる理由は理解できますが」
普通に可愛いって言えやい。
「んふふっ、......そう。それなら~~......」
後ろから彼女の唇が、私の耳に当たってくる。
だけど多分、キスをしたつもりはなくて。ノートの端で口元を隠そうとする、みたいな。
私の頭を使って、顔を隠そうとする......みたいな......——
「......それなら......わたくしと、このウサギさん......どっちの方が可愛いと思う~......?」
そう、小さく呟いたミルルンの声は、いつも以上に甘かった。
溶けるどころか、今にも蒸発してしまいそうなわたあめ。
辺りの温度が急に上がった気がして、なんか私までムズ痒くなっちゃって、
か、
......かわいぃ~~............。
「ふふっ、んふふふっ、なんてね~~、えへっ......言ってみただけ~~」
ミルルンは一回転して、そのせいでちょっと(私が)目回っちゃって。
それこそウサギの妖精さんみたいに、彼女は足をパタパタさせて、珍しく恥ずかしがっちゃってるみたいで、
「びっくりした~? びっくりしたでしょ~? ね~ね~、ブレイズく」
「お前とそのウサギ、どちらの方が可愛いか......でしたよね?」
珍しく。
ブレイズくんは頬を赤らめることもなく、真剣な表情で顎に手を当てて。
ゆっくりと目を伏せて——
「真面目に答えるのでしたら............ミルフォイルの方が、可愛らしいと思います」
「. . . . . . . . . . . . . . . . . .」
深呼吸と同じくらいの速度で、ミルルンは息を吸い込む。
私を持ち上げる指先をピクッと動かして、下を向いて、
また視界が揺れる。
ミルルンはブレイズくんに背を向けた。
再び私を両腕に抱える。クリーム色の長髪が、私のウサ耳に落ちてくる。
さっきよりも力が入ってないみたいだったから、私は落ちないように気をつけながら、体の向きを変えた。
ミルルンの顔を。見上げてみた。
「. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .」
体に伝わってくる振動は、やっぱり気のせいじゃなかったみたい。
襟から覗く肌から、耳の先まで、開花するように赤が広がっていて。
ほんの少しだけ開いた唇から、時々音のない息が出ていて。
エメラルドが縮んで、白目部分が広がってるのを見るのは......初めて、かもしれない。
ミルルンが真っ赤になってるのも、そのせいで笑えなくなってるのも。
花冠がズレて、今にも落ちてしまいそうなのも............。
「......あの」
彼女の背後から、ブレイズくんの声がする。
肩と首の隙間から、ひょこっと顔が現れるの。
「何か言ってください」
そんな彼の頬は、やっと赤みを帯びていて。
だけど............その瞳は、今のミルルンと違って柔らかい。
炎に籠った銃弾が、散って花火になったみたい。
「..................日頃の仕返しです」
——————あ。
..........................................こい。
「......ミルフォイル」
「. . . . . .」
「そろそろ」
「. . .」
「何か......」
「. . .」
「........................」
もう結婚してるじゃん。
これはもう結婚してるじゃん。結婚じゃん。
え? あ?? え???? 二人って? こんな? こんなに??
ミルルンの一方的なやつじゃなくて......あ~~なるほどね、結婚か。
えっと。
その。
ウィローさん......ここにいていいやつ..................?
完全に邪魔じゃない? 野次馬ならぬ野次ウサギじゃない??
......なんも関係ないのに顔あっついよぉ............!
「ん、ふ、ふふ、ふっ、ふ......ふふふふふふふっっ」
ミルルンは顔の熱を拭えないまま、へにゃっと笑った。
やっとブレイズくんの方に体を向けて、アセアセって笑う。笑うしかなくなっちゃってる。
「んぇ、へ、ね~ね~、あのね~~、ウサギさんってね~~、外遊びが好きだと思うの~~」
「......急になんです?」
「外に行きましょう~~、そうしましょう~~~、んふふっ、ふふふふ~~」
「........................わかりました」
ブレイズくんは他にも色々言いたいことがあるみたいだったけど、珍しく飲み込んだ。
我慢した、というよりは......実は自分もこの空気に耐えられなかっただけなのかもしれない。
ミルルンは口を『v』字型にしながら、ブレイズくんをふらっと横切る。
ウサギの私を胸に押し付けて、鼓動をフワフワでなだめようとしてるみたいで、もちろん私にできることなんてなくて。
ブレイズくんはそんな彼女の後ろを歩いて、一緒に寮の出入口まで向かって、
自分の足元を見て。
「............、」
上がりそうになる口角を、必死に噛み殺してるみたいだった。
「............あら?」
寮の外に出る直前、ミルルンは立ち止まる。
まるで宇宙を見上げるみたいに、息を止めて。
私をぬいぐるみのように抱きしめた。
「ねぇ、ブレイズくん。寮の出入口の近くって、いつも監視カメラがあったわよね?」
「......」
ブレイズくんが、笑顔を殺すことに成功したのは————その瞬間だった。
監視......カメラ?
そうだ。今まであんまり気にしたことなかったけど、寮の至る所にあるよね。
「............それがどうかいたしましたか?」
「あれを見て、ブレイズくん」
彼女が指差す方向を、私も見てみるの。
そこには確かに監視カメラがあって、
でも、
......壊れてる。
ドーム型の黒が割れて、穴だらけになっちゃってて。
時々、バチバチと火花のような電気を散らして。
まるで。
まるで。
まる、で......——————っ
「銃で壊されたような跡があるわ」
「あれってもしかして......ブレイズくんがやったの~?」
ブレイズくんは辺りを見渡した。
周りには誰もいない。普段はロビーの受付にいる、寮の管理係さんもいない。
私のこともきっと、ただのウサギだと思ってる。
......ねぇ。
違うよ。ミルルン。
『この騒動の犯人は、俺たちの目が届かぬ内に部屋に侵入し......蓋が半分開いた状態の「記憶の瓶」を、ベッドの下に放置したのです』
『犯人は同じ手口を使って、ネルソービューの生徒たちの記憶を、徐々に取り戻しているのです』
........................確かに、真犯人は、監視カメラを壊したのかもしれないけど。
それはブレイズくんじゃない。
ブレイズくんじゃない、他の誰かが————————!
「はい。俺が破壊しました。......その方が、都合が良かったので」
「......」
「......」
「......」
ブレイズくんは口を閉じる。
ミルルンも......それ以上は何も聞かなかった。
ただ彼女は、ほんの少しだけ悲しそうに......寂しそうに、微笑んで。
「..................やっぱりそうよね~」
受け止めるだけだった。
次話:増えていく証拠
です。探偵ごっこは続きます




