↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/135

127話:ホリデーダンスパーティーで、私たちは釣りをする

ステージに上がったヒトたちは、繊細なバイオリンの音に合わせて、花と翼のように舞っていた。


映画とかでよく見る『社交ダンス』ってやつ。クリスマスカラーの金平糖に飾り付けられた空気の中、幸せそうに踊るヒトたちは......まるで、季節外れの織姫と彦星みたい。



そんな優雅な時間が流れる中、私とキャベツくんはというと............。




「うっっっっまぁ~~~~!?!? ねぇキャベツくんこれめっっちゃ美味しいっ、食べてみてよほらっ」

「こっちのティラミスもめちゃくちゃうめぇぜ!!」



......ビュッフェコーナーにあるスイーツを全制覇してました。



「私普段マカロンとかあんまり食べないんだけどさっ、これならパクパク食べれるよ~~! 何味なのかな? いちご? ラズベリー??」

「ここにあるスイーツ、全部クッソ高ぇやつなんだろうな......どうりでパーティーのチケットも1万ペタルするわけだぜ......」

「!? 1万もするの!?!? れ、レベッカ先輩、そんな高いものを私たちに譲って......」



気づけばさ、ムードってなんだっけ??って感じになっちゃって。

高貴な空気にあてられることもなく、子供みたいに......いつも通り、はしゃいじゃってさ。


だ、だって、ダンスパーティーと言われましても、踊りとか全然わかんないし......。



「スイーツも良いけどよォ、どうせなら飯も置いてくれてたらよかったのになー!」

「あわかるぅっ、私今めっちゃお寿司食べたい!」

「牛丼食いてェ~~」

「鉄火巻き~~」

「魚介とんこつラーメン~~~」

「サーモンいくら丼~~~~~~」




私たちはちょっとだけ『しょも...』って顔をしながら、それぞれフルーツタルトとシュークリームを頬張った。

っっっあ、これもめっちゃうまい!!



「そういや、寿司の話で思い出したけどよォ......」



キャベツくんは親指に付いたクリームを舐めた後、体育館の隅の方を指差した。

そこにもたくさん生徒が集まってて、時々ドッと笑い声が聞こえて......よかった! 私たちと同じタイプのヒトたちもいるみたい!



「あそこのクソ混んでるフォトブースの横によぉ、屋台みたいなのも並んでるだろ?」

「んー! ほんほはぁ」

「その屋台の一つにな、マジモンの釣りできるとこあるらしいぞ! 行ってみようぜっ!」

「ふぇ!? うそれしょ!? ここしつにゃいらよ!?」



フルーツタルト口に含みまくりバージョンの『嘘でしょ!? ここ室内だよ!?』がキャベツくんに伝わったのかどうかわかんないけど、とにかく彼は、


私の、手首......を掴んで、ビュッフェコーナーから無理やり私を引き剥がした。




フォトブースの人混みを抜けると、ふわっと水の匂いが漂う。


他にも、ポップコーンが弾けたり、射的の景品が落ちる音が響いたり。

ステージの方からかすかに聞こえる弦楽器と、可愛いおもちゃの音色が手を取り合ってる。



さっきまで色に統一感のあった会場に、鮮やかな七色を足してるの。


なんか、ここだけ世界観が違うというか......急に民衆向けになったというか......。




「っとぉ、釣りできる店はもっと奥にあんのか......?」

「あははっ、なんかここだけお祭りみたいだね! 一応屋台の雰囲気はおしゃれというか、木箱っぽい感じだけど......」

「お前みたいなガキでも、パーティーを楽しめるようにっつう運営の気遣いかもなっ!」

「なるほど......っっって!! キャベツくんだってこっち側の民じゃんっ、さりげなく自分を棚に上げるなぁっ!!」

「へははっ」



スーツを身にまとったところで、所詮キャベツくんはキャベツくんなんだな~。


会場に入りたての頃は、緊張であんまり目合わせられなかったけど......ちょっとずつ慣れてきたかも。多分。



「おっ! ほら、あそこだぜ! あんま混んでねぇじゃんかラッキーーー!」



キャベツくんは私から手を離して、るんるんで向こうまで走って行っちゃった。一瞬競争が始まったと勘違いしちゃって、私もついドレス姿で全力疾走しちゃう。



「ちょちょちょいちょいっ、ウィローさんを置いて行くとは良い度胸——」

「よっ、店員のおっちゃん! 釣りさせろ!」




と、いうわけで。

キャベツくんは店員さんに300ペタル払って、釣り竿を一本もらって。


私たちは、『ホリデー』要素も『ダンス』要素も、『パーティー』要素すらもない釣りを始めたのでした。




「ほら、ガーディナー先やっていいぜ! お手並み拝見っつうやつだ!」

「え、いいの? ふっふふん......ウィローさんの釣りスキル見えちゃうぜぇ~~?」

「ほぉ~? もしかして経験者か?」

「経験者から『経験』を引き算したヒトだよ」

「ただの初心者じゃねぇか」




用意された池はもちろん人工——というか、多分魔法。


パッと見ただの映像なんだけど、本物のウキを投げ入れてみるとね、ほんとにちゃんと浮かぶの! しかも水滴まで飛んでくるの!



この紫ラメ入りスライムみたいな水を覗き込んでみても、魚の影すら見えない。一応水面がピチャピチャなったりはしてるんだけど......。



「ふむ......これがネルソービュー流の金魚すくいだったりするのかな?」

「なんでオレらホリデーパーティーで釣りしてるんだ??」

「急に我に返るのやめて? 元はと言えばキャベツくんが——」




すると、水面のウキが揺れるだけじゃなくて、林檎20個分くらいの重みが腕にのしかかってくる。


こんなに早く掛かるとは思ってなくて、危うく池に落っこちそうになっちゃって。



「あもっっっっ!? ぐ、ぎぎ、ぐぎぎぎっぎぎぎぎぎうぐぐぐぐぐっぐぐ」

「おいおい嘘だろ、掛かったのか!?」



手の力だけじゃ無理そうだったから、私は翼を羽ばたいて、こう、助けになってるのか全然わかんないけどっ、


サンダルを床に叩きつけて、社交パーティーでしちゃいけない表情をして、カチューシャがズレちゃうのは嫌だからなるべく頭は振らないように、




「ぐぉおおぉおおぉおおぉおぉおぉおぉおぉぉぉぉおおおおお!!!!」




踏ん張って踏ん張ってとにかく踏ん張って、



やっと釣り上げたのは——————





「............無(む)————————。」

「あ~、途中で逃げられたんじゃね? 惜しかったなァ」

「くそおぉおおぉぉぉおお!! もう一回じゃーーーーーっ!!!!」

「オイッ、次はオレの番だぞ!!」





三回連続『無(む)』を釣り上げた後、私は泣きながらキャベツくんに釣り竿を渡した。


キャベツくんは自信満々な様子でウキを投げたけど、その表情は時が経つにつれ曇っていった。




「な......なんでだっ......なんでガーディナーんときはあんなにすぐ掛かってたのに、オレんときはビクともしねぇんだ......??」

「私は選ばれし者だからね~~!」

「ケッ、結局なんも釣れてなかったくせによく言うぜ!」

「あ・え・て!! あえて釣らなかったの! ウィローさんは動物愛護主義だから!!」

「そ、う......かよ............」




......あれ? ツッコまれなかった。なんか顔も逸らされた......? なんで??


とりあえず私は、キャベツくんの(鳥の足になってる方の)右足を踏まないようにしながら近づいて、彼と一緒に動かないウキを眺める。



だけど結局飽きちゃって、ふと、背後を見た。




パーティーの会場......体育館は本校舎の一部だけど、本校舎の他の場所とは雰囲気が違う。

レトロな感じではあるんだけど、ゴシック感はあんまりないというか......


下界の学校の体育館っぽい、っていうか......。

......まぁ私、生前は学校行ってなかったから、実物は見たことないんだけど......。



と、とにかく、そんな感じの体育館に、凝った飾り付けが沢山ついてる感じ。



緑のリボンとか、赤色の造花とか、白い光を放つミラーボールとか。


ステージだけじゃなくて、屋台もクリスマス仕様になってるし、フォトブースも——




「..................あれ......?」



目を、凝らしてみる。

......やっぱり見間違いじゃない。


フォトブースの、カメラの前に立ってる二人。



クリーム色の髪に、薔薇のような赤のドレス。普段も身に付けてる白百合の花冠(はなかんむり)。


頬を赤らめながら微笑む彼女の横に立つのは、どこか窮屈そうに顔を歪めてる......




「——————! ブレイズくんとミルルンじゃん!! やっぱり二人も来てたんだ!!」




ミルルンは瞳に火の粉を散らせながら、おもちゃのサングラスをブレイズくんに掛けようとしてる。


ブレイズくんは首を振って、軽くミルルンの頬を押し返したりして。

それでも、瞳は宝石のようだった。青く揺らぐ一枚の花びらを、風と一緒に閉じ込めたみたいな。



金色と白の風船に囲まれて、おもちゃみたいなクリスマスツリーの横に立って。

シャッターが切れる時間になると、二人は同時にカメラを向いて。




「......ふへ............」




手を振ってみる。だけど目は合わない。......気づいてないのかな。


私は、二人が撮った写真を手にフォトブースから離れるのを待って、



息を深く吸って、





「お~~~い!! ブレ————————っ」




名前を呼ぶ、その前に。




釣り竿が池に落っこちる音がした。


淡いミントの匂いがして、口を押さえられて、




後ろから、強く。

強く、熱く、抱き寄せられて。


振り返ることすらも許されなかった。それでも、痛くはなかったの。




....................................何かを期待していた静寂が止んで、環境音が戻ってくる。

ステージから響くピアノの音色と、恋人たちが弾けるように囁く声。



結局、ブレイズくんとミルルンは私たちに気づかずに、遠くへ行ってしまった。






「............」


「............」







二人の姿が見えなくなると、キャベツくんは私の唇から手を離す。

でも体は離さない。背後から抱き寄せたまま動かない。私も、動けない。


ネクタイにもボタンにもブレザーにも誤魔化せなかった、彼の鼓動が。

私の背中を軽く、重く叩くの。




「....................キャベ」

「だ、だってよっ」




キャベツくんの顔は見えなかった。いくら顔を上げようとしても、無理やり首を横に向けようとしても、動かないの。


それくらい、彼の翼は、私をしっかり包み込んでいた。





「べつに......いいんだけど、よ、」


「もし二人と合流したら、」


「その」




......キャベツくんは私の肩の上に、そっと顎を乗せる。


震えてるのが彼なのか、自分なのかすらわからなくて、

さっき食べたフルーツタルトが乾いて、酸味だけが舌を刺して、




「お、オレらが、ふ、二人だけの時間が減る」


「つーか」


「あいつら邪魔すんのもわりぃし」


「てき、な」


「............」





熱い。

呼吸が荒くなる。苦しいわけじゃない、けど。



この場を漂う、痺れるような生ぬるさが。

とろけるような甘味が、急に牙をむいたの。




......私は。



「. . . . . . ご. .....ごめん... . ..」



謝罪以外の言葉が出てこなくて。すぐに唇が閉じちゃって。

きっと今は何を言っても、窒息してしまうから。




そっと翼を下げて。

目を閉じて。



キャベツくんの腕に、ただ......手を重ねた。







***


「ふぃぃいぃいい疲れたぁっ、あの釣りのやつ詐欺じゃん!! 詐欺詐欺!!」



ステージからも屋台からも離れた場所に設置された、背もたれのないソファーみたいなのに座りながら、私は足で空気を蹴った。


ここはヒトが少ないからか、他と比べてちょっと涼しい。休憩所みたいな感じなのかな?



「結局私もキャベツくんもな~~んも釣れなかったし! あの池さっ、ほんとは魚なんて一匹もいなかったんじゃないの!?」

「でもオレらの隣にいたゴリマッチョ野郎は、イカとか人魚とかバンバン釣ってたぜ?」

「不公平だーーーーーーっ!! 結局世の中は筋肉なんだっ、マッチョじゃない私は人権ないんだーー」

「へっはははっ、キレすぎだろ!」



キャベツくんは両手を叩きながら笑うと、私のすぐ隣にドサッと座った。

私と違って彼の足は、ソファーに座ってても床に届くらしい。もしハイヒールで身長盛ってきてたら、私も届いたのかなー。でもハイヒール歩きにくすぎるんだよなぁ~......。



「オレはケッコー楽しかったぜ? 300ペタルにしちゃあ安いくらいにはなっ!」

「そーなの? あ、あのキャベツくんが珍しく大人だと......!?」

「おいおい、オレはいつだって大人だぜ??」

「よく言うよ、さっきから頬にずっとチョコ付けてるくせに」

「!? マジ!?」

「はい嘘ーーーっ! この前に仕返しですっ、恨むなら過去の自分を恨んでくださーーーい」

「過去っていつの話だよ......」



なんとなく、自分のピアスの中に指を入れて、クルクルする。

ついつい背伸びして買っちゃった、いつもと違うO字型ピアス。カチューシャと同じ、淡い白が溶け込んだ金色。


ローズピンク、っていう名前の色のドレスと、多分合ってる......はず。多分。



キャベツくん......可愛い、って。思ってくれてるかな。




「ね......ねーねー! そういえば、プニ先輩の方もうまくいってるのかな? エルフ科の子を誘うって言ってたけど......」

「あぁ、デボラ先輩のことか? ま~......なんだかんだうまくいってるだろ! 探せばどっかにいるんじゃね?」

「そう、だね......探せば............」

「............」




休憩所には、あんまりヒトはいない。

いるとしても、その......い......イチャイチャしてるヒトたちが多い、というか。



ステージから聞こえてくる音楽は、いつの間にかジャズに変わっていて。

遠いからか、薄っすらとしかここの空気に触れてこない。香水みたいに、ふわっと雰囲気に彩りを足すだけ。


背もたれのないソファーの横にある、ガラスのテーブルを飾るのは......真っ白な薔薇。

造花には見えない。でも、触ってみないとわからない。




「......っ......キャベツくん!!」

「、? ど、うした?」



ガチガチになってるのはお互い様。


だから。


私は背筋を伸ばしながら、彼に手のひらを向けた。

柔らかいハイタッチを待つように。




「て......手を重ねたまえ......」

「お、おう......?」

「ほら、か......乾杯の代わりみたいな? いま私たち飲み物持ってないし!! 祝杯を上げようよっ、く、クリスマス、だし、」

「んじゃオレ、ジュースでも取ってく——」

「ええいっ、いいから手を重ねんかい!! わかってるくせにっっ」

「へはっ、バレたか......」



軽く吹き出すように笑う彼を見て、胃に溜まったクリームが全部炭酸になる。


それでも私は手を下ろさずに、頑張って目で圧をかけた。



..................手が重なる。

私の指先が、キャベツくんの指の関節に来る。


そろそろハイタッチが終わる頃合いになっても、私たちは手を離さない。

さりげなく、キャベツくんの閉じた指の隙間に、指先を当ててみる。彼はほんの少しだけ指を曲げる。



チキンレースに負けたのは、私の方だった。


仕方ないから、指の隙間をこじ開けてやるの。指を糸みたいに通して、絡めてみて。






「......オマエの手、冷てぇな」

「キャベツくんのがあったかすぎるだけ」

「緊張してんのか?」



......恋人じゃないときの、恋人繋ぎは......なんて呼べばいいんだろ。



「..................キャベツくんだって震えてる」

「それは言わねぇ約束だろ」

「へっひひ」




変な笑い方をしちゃった私は、誤魔化すように手をぎゅ~~~~ってする。


繋いだまま、そっと手を下ろすの。上げたままだと疲れちゃうから。ね。





「......ねー」




腰を近づける。多分、もうほとんど当たってる。




「ねーねー」





キャベツくんの肩は、もたれかかるのに丁度良い位置にある。

髪。ちょっと乱れちゃうかもだけど。ピアスが絡まっちゃうかもだけど。



ま。いっか。







「................................................すき」






呟いてみた。


聞こえてたかどうか確認する前に、静寂が流れ終わるのを待ってみる。

体感は、そう......柵を超える羊20匹分くらい。



そしたら、キャベツくんが私の指を撫でだした。

流石に......表情を見る勇気は出なかった。





「............急だな」

「そう?」

「今の......こ......告白ってことでいいのか?」

「そーかもしれないしー......ただの独り言かもしれないねー......」

「困る~~~~~~~~~~~」

「えっへへ............返事はどっちでもいいよ。してもいいし。しなくてもいーよ」




自己防衛なのか、強がりなのか。どっちなのか自分でもわかんない。


返事を聞きたい気持ちも、聞くのが怖い気持ちもあって。




「んじゃ............オレも......言うわ。ずっと言いたかったこと」





キャベツくんの声が小さくなった。


ちゃんと聞こえるように、私は耳を近づける。

......なんて。身を寄せるための、ただの口実でしかないのかな。




「オレは、な............ガーディナー..................その............」




早くも、繋いだ手が汗ばんできた。

原因に心当たりがありすぎて、もはやどれなのかわかんなくて、




彼の唇が、私の耳元に触れそうで——








「——————オレ......ずっと............後悔、してるんだよ」










次話:応援

です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。