124話:ムリムリムリムリ!!!!
風が頬を撫でる。一定の間隔で、翼が空を弾いてる。
私はゆっくりと、目を開けた。
足がブラブラと揺れていて、気をつけないとローファーが落ちてしまいそうで、
何十メートルも下には、トランポリンが大きな花のように咲いてる。
......浮いてる。
私。空。飛んでる。
「~~~~~~うぉぉおおぉおおおぉぉぉぉおおぉおお!?!?」
と、宙でガッツポーズした衝撃でバランスを崩して、私は頭から落っこちていったのでした。
「ぎゃーーーーーーっ!!!!」
トランポリンに着地した後、私は秒で『星落としの塔』の登って、頂上にいるキャベツくんとオリーブくんの元まで勢いよく走る。
着いた頃には圧倒的酸素不足でふらっふらだったけど、私はそのまま二人の前でぴょんぴょん飛び跳ねて、
「ねーねーねーねー今の見た今の見た今の見たぁ!?!? 飛んでたよ!? ウィローさん飛んでたよへっへへへへへへへへ」
......アドレナリンってすごいね!
「翼使えたよ! 浮いてたよ!! 10秒くらい空飛んでたよ私っ、もう飛べるようになったと言っても過言じゃないよっ、飛行訓練卒業だよハーーーハッハッハ!!」
「あぁぁあぁぁぁあぁクソッ、マジかぁ!! 先越されたァこんちきしょーーー!!」
キャベツくんは崩れ落ちるように地面にうなだれて、ギリィッッて歯を食いしばる。ふへへへへっ、愉快愉快!
「クソぉ......お前ならもっと遅いと思ってたのに......オレらを置いていくのかよォ......ッ」
「きゃ、キャベツさん......大丈夫だよ、まだぼくも飛べてないから......」
オリーブくんは、その場でうずくまってるキャベツくんの横に座る。
彼の背中をぽんぽん撫でながら、私に優しい視線を向けてくる。
「すごい、ね、ウィローさん......! 最近頑張ってたみたいだったから、きっと努力が報われたんだよ!」
「うへっ......オリーブくんはキャベツくんと違って、いつも素直に褒めてくれるよね~!」
「本当にすごいと思うよ......! ぼくなんて、まだちゃんと羽を広げることすら......」
オリーブくんはちょっと恥ずかしそうに笑いながら、背中の羽をへにゃ...と下げた。
小さいとはいえ重いのか、それとも性格故なのか......オリーブくんの羽は、いつも下がりがちなんだよね。
「コツとか、あるの......? 天使の翼とインキュバスの羽だと、だいぶ感覚が違うかもしれないけど......」
「えっと、そうだなぁ............先生も言ってたけど、翼に力を入れすぎると——」
「認めねェ!! 認めねぇぞ!! オレはまだ負けてねェ!!!!」
キャベツくんは急に立ち上がって、オリーブくんをビクゥッてさせちゃってた。
子供みたいに地団駄を踏んで、残像が現れるくらい激しく首を振って......うわぁー。恥ずかしくないのかなー。
「だって!! だってよ!! オレはお前と違って色々デバフかかってんだぜ!? んなの不公平だろ!!!!」
「デバフ? あ、高所恐怖症のこと?」
「ちっっっっっ......そ、それもあるけどよぉっ、」
いま絶対『違う』って言いかけてたな......。いい加減認めればいいのに。
「ほ、ほら、オレはまだ下に飛び降りるとき、誰かと手ぇ繋いでねぇと無理だろ?? オレの翼は腕とくっついてるからよぉ、手繋いでると飛びづれぇし翼広げにくいしッ」
「それも高所恐怖症によるデバフじゃ......?」
「あああああああとあれだっ、お前の方が翼でっけぇだろ!? 体と翼の比率がオレよりずっと良い感じだろォ!?!?」
体と翼の比率とは! 言葉の通り、体と翼の比率のことである!
先生によると......翼が大きめかつ、体がちょっと小さめの方が飛びやすいんだって。
「オレは翼小さい方なのによォ、無駄に身長デケェせいでクソ重いし空中でぜんっっっぜんバランス取れねぇしッッ」
「高身長特有の悩みねぇ......なるほどなるほど......」
「だから別にお前は勝ってねぇっっ!! お前の方が飛びやすい体してんだから、先に飛べるようになんのは当たりめぇだろ!!」
「いいえ関係ありませーーん! ウィローさんは勝ってまーーす!! 悔しいからって負け惜しみはよしてくださーーい、ジュース奢ってくださーーーいっ!」
「ウッゼェェエェェエ」
キャベツくんの言うことはもっともだと思うんだけどね。
相手がキャベツくんだからね、私には煽る選択肢しかないんですよ(?)
「てめコラ面貸せやァ、こめかみのツボんとこグリグリってしてやるわッッッ」
「やだぁぁぁああぁああははっ、微妙に痛いやつーーーっ!」
追いかけられたので、私はオリーブくんの後ろに隠れました(最低)。
彼の背中を眺めてると、一瞬何かが足りないような気がして......あ、そっか。オリーブくん、最近髪切ったんだった。
「ふ、ふふっ......二人とも、喧嘩しないで......ふふふっ」
一応喧嘩を止めようとしつつも、彼はまったく笑いを堪えきれてなかった。いつもそうやって笑ってくれるから、私もキャベツくんも調子に乗っちゃうんだよね~。
......えへ......やっぱり......飛行訓練、二人と一緒でよかったな。
もし二人がいなかったら、こんなに早く飛べるようにはならなかったかもしれない。
多分。わかんないけど。
っていうかそもそも、まだ完全に飛べるようになったわけじゃないし......。
高いところから飛び降りれば、10秒くらいなら浮けるってだけだし......まだ喜ぶのは早いかm——
「そ......そうだ! せっかくなら、ウィローさんがキャベツさんを運びながら、空を飛んであげるのはどうかな? そうすればキャベツさんも、何かコツを掴めるかも......」
「おっ、いいなァそれ! それならオレも落ちるとき怖くねぇし!」
..............................え????
「えあのっ、ちょ、ちょっと待って?? 私まだそのっ、キャベツくんを運びながら空を飛べる自信は——」
「ガーディナーに手伝ってもらえりゃあ、空でインサイドループもスープレックスもトリプルサルコウも決められるよなっ!」
「なんて???? よ、よくわかんないけど絶対ム——」
「あんだけ調子乗ってたんだから、当然できるよな? なぁガーディナー??」
キャベツくんは『逃がさねぇよ』とでも言いたげに、ホラーゲームに出てくる福の面みたいな顔をしながら近づいてくる。
「『ウィローさんは勝ってまーーす』とか『ジュース奢ってくださーーーい』とか言って散々イキッてたくせによォ......まさか、今更できねぇとか言わねぇよなァ~......?」
「ピッッッぅ......い......いじめだぁ............っ」
私はできる限り目をきゅるきゅる~~ってさせながら、オリーブくんに助けを求めてみる。
だけど彼は口角を上げるだけで、むしろ頬を染めながらそれはもう楽しそうにっ、
「いってらっしゃい、ウィローさん!」
「集団いじめだぁーーーーーっ!!!!!!」
というわけで、私は無理やりキャベツくんに、ば、バックハグ、させられまし、て。
同調圧力さん(?)に塔から突き落とされまして。
......頑張ったよ。最初は頑張ったよ。
無我夢中で羽をバタバタバタってさせて、女の子がしちゃいけない顔までしちゃってさ。
「ン゛ォォオオォオォオグォォオオオッォォォオオォォッッッッッ」
野太い声まで出しながら、頑張ったんだけど。
当然翼がギブアップしちゃって。
もう、スン...ってなるしかなくて。
私はキャベツくんに腕を回したまま落っこち——
「————おやおや。二人とも、ずいぶん挑戦的ですネー」
......トランポリンに落ちたときの衝撃は、いくら待っても来なかった。
代わりにフワッと体が浮いて、危うくキャベツくんから手を離しそうになっちゃって。
「誰かを運んで飛べるようになりたいのなら、もっと効率の良い訓練方法がありマスヨー」
飛行訓練の先生こと、オクタゴ(ン)先生は私たちを魔法で浮かび上がらせる。
目が合うと彼はうっすらと微笑みながら、手に持っていたワイングラスに口をつけた。
助けてくれた......?っぽい。もし先生が来なくても、トランポリンに着地するだけだったんだけどね。
それよりも、い、いつ来たんだろ......? さっきまではどこにもいなかったのに......。
「!?!? センコー!? お前サボりじゃなかったのかよ!?」
「おや、失礼デスネー。ワタクシはずっと遠くから皆さんを見守っていましたヨー?」
私にもキャベツくんにも、薄紫のオーラみたいなのがまとわりついてる。
これ......キャベツくんから手離しても、もう大丈夫ってことだよね。落ちたりしないってことだよね。
......。
............。
「どうやらガーディナーさんは、少しは翼を扱えるようになってきたようデスネー」
「あ、は、はい......」
さ、寒いから、だからね。
キャベツくん体温高いからさ。いま冬だから......引っ付いてるだけだからね......?
......。
「それでしたら、あとは簡単デスー。地面からも飛び立てるようになるためにも、誰かを運びながら飛ぶためにも、とりあえず......筋力を鍛えればいいのデス」
オクタゴはワインを全部飲み干したけど、まったく酔ってなさそうだった。
そのままグラスをその辺に捨てて、魔法で消しちゃって。
小さな牙をキラッと光らせて——
「まず手始めに、ダンベルを翼で持ち上げてみまショー」
「「できるかっっっっっ!!!!」」
***
「——んでさぁ、もうすぐクリスマスだろ? 『笑顔拡散委員会』は今年もなんかやらかそうとしてるらしいんだけど、なかなか良いアイディアが思いつかねぇらしくてなァ」
キャベツくんは校庭に生えてる木にもたれかかりながら、さっきお店で買ってたかき氷を口に入れた。メロン味だね。
「絶賛アイディア募集中っつうことで、お前らなんか良い案ねェか?」
「なんであーしらに聞くねん」
「ぼ、ぼくはいたずらとかあんまり詳しくないから......」
「あらウィローちゃん、お口にチョコが付いちゃってるわ~。可愛いね~」
ミルルンは手に持ってたパフェを下ろしながら、私の頭を撫でてくれる。
持ってるのが私の好きないちごパフェだったから、ミルルンが見てない隙にこっそりつまみ食いした。
あれだからね、食堂のやつじゃないからね! マーケットで買ってたやつだったからね! だから食べてもセーフだよ!(?)
「確か去年は、全校生徒を笑い上戸にするとかやったやんな? そのさらに前は性転換だったような気が......」
「去年のあれは、す、すごかった、ね......危うく死人が出るところだったって聞いたよ......」
「あれは流石にあいつらも反省したらしいぜ......」
「ウィローちゃん、わたくしのパフェ食べたいの~?」
「!? なぜつまみ食いがバレた!?!?」
グループが半分に分かれて、それぞれ別の話をしだすのは友達あるあるなのかもしれない。
「っていうか、あーしらもそのいたずらの被害者になるんやんな?? やとしたら、かかってもあんま嫌じゃないやつ考えな......」
「おいおい、それだとつまんねェだろ!」
「はいウィローちゃん、あ~ん」
「くれるの!? やったー!」
日常は、今日も甘酸っぱい味がする。
なんて......ちょっとそのまんますぎるかな? ただのパフェの感想になっちゃった。
「せ、性転換は面白かったと思う......よ? ただ、もう一度経験したいかって言われると......」
「面白れぇいたずら考えるのって大変だなァ......」
「てかなんで毎年クリスマスなん?? ハロウィンじゃなくて????」
「はいミルルン、私のチョコたい焼きあげる! お返し!」
「んふふ~、間接キスだね~」
「......」
私はミルルンにたい焼きを分けてあげた後、ブレイズくんにもそっと差し出してみる。
ブレイズくんは目を泳がせた後、少し食い気味に首を横に振って、顔を逸らしちゃった。
そのまま彼は、ローリエと目を合わせる。
口を開くタイミングを見計らって、メガネのフチに触れて、
「......俺が知っている『いたずら』といえば、いつもミルフォイルがしてくるものしか思い浮かびませんが......」
「「「「「え?」」」」」
バラバラになってた私たちが、一つになった瞬間だった。
私もミルルンもローリエもキャベツくんもオリーブくんも、透明の糸でまとめられたビーズブレスレットみたいに、ブレイズくんを囲う。
「......?」
ブレイズくんはなんで見られてるのかわからないって顔してた。
「俺......何か変なことを——」
「ねぇ「ちょっと待てや詳しく「いつもしてくるいたずらってなんのこと「バターフィールドおまえ「教えて!!「仲良し「あらブレイズくん「爆発だぁーーー」
「一人ずつ喋ってください」
すると、ミルルンは誰よりも先に動いて、ブレイズくんの方へ一歩踏み出す。
彼の頬をそっとつついて、ジェラートのように微笑む。
「ブレイズくんったら~。わたくし、あのいたずらはブレイズくんにしかしないわよ~」
「......」
「あれを全校生徒にするのは、流石に大変だと思うわ~」
「............」
そこでようやく、みんながニヤニヤしてる理由がわかっちゃったのか、ブレイズくんは視線を落とす。
暴れる炎を見られないように目を逸らして、ただ静かに顔を染めて、
怒りと恥とその他諸々が混ざった息を吐いた、後。
「い゛っっってェ!??!」
「. . . . . .」
ブレイズくんはキャベツくんの足を蹴った。
「いでっ、いってぇ何すんだよ゛!?」
「お前のせいです」
「はぁ!?!? 八つ当たりやめろ!!」
「八つ当たりじゃないです」
「早口やめろっ」
二人が喧嘩してる間、私はミルルンの顔をそっと覗き込んでみる。
彼女は片方の頬に手を当てながら、月光のような目線を二人に向けていて。
エメラルド調の瞳の奥には、きっと、私の知らない物語が隠されていて。
また私の知らないところで、進展が......ふぅん............?
「なぁなぁ、ブレイズ? 知っとるか~~?」
すると、ローリエは頬に赤丸を描きながら、甘い空気を逃がすまいと口を開く。
「クリスマスにはな、毎年『ホリデーダンスパーティー』ってのがあるらしいで? 上級生から行けるやつでな、つまりあーしらも今年から行けるっつうことでな~~?」
............あ。
「そんで、その社交パーティー......恋人同士で行くのが推奨されとるらしいで~?」
ローリエはブレイズくんに。そして、ミルルンに。
最後に一瞬だけ、私とも。目を合わせてきた。
「......? なぜ今その話を俺にするのです?」
「いやそれはもうあんた鈍い超えてアホやで」
「んふふ~。......。............」
わかってる。
みんな、ミルルンとブレイズくんの話をしてる。
今は二人をいじる流れ。なんだろうけど。
私は、キャベツくんの方を見る自分を、止められなかった。
「ほぉーん? そんなもんがあんのか! オレ全然知らなかった!!」
キャベツくんは知らなかったらしい。パーティーのこと。
............。
......ホリデーダンスパーティー。私はね、知ってたよ。
なぜなら。
レ ベ ッ カ 先 輩 か ら 、 パ ー テ ィ ー の ペ ア チ ケ ッ ト を 譲 っ て も ら っ た か ら で あ る 。
現 在 進 行 形 で 、 私 の ポ ケ ッ ト の 中 に チ ケ ッ ト が 二 枚 入 っ て い る の で あ る 。
「..................................................................」
「俺はアホではありません」
「いやアホやろ、大馬鹿者やろ」
「......わたくしは~............」
「み、みんな、け、喧嘩しないでっ、」
レベッカ先輩が、ペアチケットを渡してきたってことは。そういうことだよね。
もう一枚、誰かに譲れってことだよね。
私の方から。
キャベツくんを誘え、って......ことで......——
「? ガーディナー?」
「エリンギッッッッッッッ」
「え? どした??」
急にキャベツくんと目が合っちゃったから、私は嫌いなキノコの名前を言いながらそっぽを向く。
これだけで心臓バクバクなのに。顔が発火して髪が燃えて今にもハゲちゃいそうなのに。
パーティーに誘う、とか。
しかも恋人同士で行くようなパーティーに。
そんな、告白同然のことっっ、
「ガーディナー? おーーーーい? 大丈夫かーーー?」
「..................無理ゲーすぎる......」
クリスマスまで、あと七日。
ホリデーダンスパーティーまでも、多分あと七日。
ウィローさんはそれまでに、キャベツくんをお誘いできるのか!?
「答えは~~~~っ、CMの後で!!」
「またガーディナーが1人で変なこと言ってやがるぞ......」
次話:告白したかっただけなのに
です。ちょうど125ですね




