123話:楽しみにしててね。
いま起こったことをありのままに話すぜぃ!
私とキャベツくんはワケあって、ブリッジしたまま動けなくなってるんだぜぃ!
いたずらでお腹の上にぬいぐるみ置かれたり、水入り紙コップ置かれたりでもう散々だぜぃ!
で。
そんな私たちに、一角先輩が放った一言がこれ。
「お前たちの友人の、ローリエってやつに......恋しちまったんだぜぃ......」
......以上。本日のニュースでした。
「「............」」
足腰の痛みとか全部吹っ飛んだ私たちは、目を見開いた絵文字みたいな顔をする。
何も言わずに顔を見合わせる。
その後、未だにテレテレ...ってしてる一角先輩に目を向けて。
「「どぉえぇぇええぇぇええぇえええええええええ!?!?!?」」
ブリッジしてるヒト二人が、しゃがんでる鬼さんに詰め寄るとか客観的に見てシュールな光景でしかないけどっっ今はそんなことどうでもよくてっっっ
「いつからいつからいつからーーーーっ!?」
「オマエッッ、あいつと接点あったっけ!?」
「あ、あれだぜぃ! ほら、ガーディナーを代理医務室に送ったときに出会って......」
そ、そうだ! 私が運ばれたとき、衝突事故に遭ったとかでたまたまローリエもそこにいて、ローリエもみんなに会ったみたいなこと言ってたような......!
「つまり一目惚れ、ってこと......?」
「そうなるぜぃ......へっ......」
一角先輩は自身の牙を舐めながら、目を泳がせる。おでこから生えた角のように赤くなって、長い爪と爪をつんつんして......。
ほ、本気のやつだ。本気のやつじゃん! え! え~~!!
「いーじゃんいーじゃん! 見る目あるじゃん! ローリエはねっ、すっごくいい子でねっ」
「オマエ......ロリコンだったのか......」
「キャベツくん????」
ブリッジした状態で『マジかよこいつ』顔するのは生まれて初めてだったよ。
「いやいやいやこれに関してはオレ間違ってねェだろ!! チビロリってマジでチビだしっ、鬼野郎と付き合うってなると、は、犯罪臭がっ」
「で、でもあれだよ? 確かに見た目は小さいけど、中身は多分私と同い年くらいで......」
「いやガーディナーはあいつより精神年齢低いだろ」
「はぁーーーーっ!?!? 突然のウィローさんディスですかぁ!? それを言うならキャベツくんの方が絶対——」
「お前たち! いい加減にしろゑーーー!!」
すると、キラ目先輩は両足も両腕もバタバタさせながら、私たちの会話に入ってきた。
片手にはまだ例のエビのおもちゃを持ってて、結構強めに握ってるっぽくて、
「植物野郎共がブリッジしながら虫みたいにちょろちょろしてるせいで、気が散って話が入ってこないゑ!! ふざけるのはやめろだゑ!」
「「ブリッジがやめられないのはお宅のせいですがぁ!?!?」」
「? あれ? そうだったゑ!」
キラ目先輩は『強制的にエビ反りさせると思いきやブリッジさせちゃったエビのおもちゃ』のボタンを押して、ようやく私たちを解放したのでした。
無事その場に崩れ落ちた私たちに、今までお腹の上に乗ってた水とかぬいぐるみとかが落っこちてくる。
「つめてぇっっっっ」
「はっ、はぁああぁぁあぁああっっ、き、筋肉痛で再起不能だよぉっ」
幸い水がぶっかかったのはキャベツくんだけだったから、私はその辺にあったウサギのぬいぐるみを抱きながら寝転んだ。う、腕痛い、腰痛いぃっ、
死ぬかと思った......頭に血のぼりすぎて爆発するかと思ったぁ............。
........................。
まぁ。
それは一旦置いときまして。
「ねぇねぇねぇ! それで! ローリエにはどうやってアプローチするつもりなのっ?」
「が、ガーディナーおまえっ、なんでそんな元気なんだよ、」
「まずローリエはね、さわられるのが嫌いだからボディタッチはNGだよ?」
私が喋り出すと、一角先輩はどっかからメモ帳を取り出して、律儀に書き記しだす。もしかして、意外と真面目......?
「それでね、初対面からグイグイ行くのも多分駄目で、」
「なるほどだぜぃ......!」
「あとローリエはよく暴の道に走るから、受け止められるくらいの力を持ってないと多分あれでしょ?」
「具体的にどれくらいの力が必要なんだぜぃ?」
「ビルを持ち上げられるくらい?」
「え?」
「あと『あーしはぜっっったいに恋愛とかせーへん』って言ってるから、まずは恋愛に対する嫌悪感をなんとかしないと......」
「ま、マジかよだぜぃ......」
一角先輩はメモ帳をしまいながらため息をついた。
フッと苦笑いして、赤目を濁らせて、急に遠くを眺めだす。
「ハッ......難易度が鬼高いことだけはわかったぜぃ......鬼だけに......」
「だ、大丈夫だよっ! 確かに難しいかもしれないけど——」
「〈あははっ! ボクの周りって、どこもかしこも春だらけだな~!〉」
すると、ずっと近くで私たちを見守ってたレベッカ先輩は、翼を畳みながら一角先輩の隣に正座した。
そして続きを言う前に、ニマ~~って笑いながら私と目を合わせてくる。
な、なに......? なんだよぉ......?
「〈ふふっ......そもそもライケルは、どうしてローリエ・ビューリューちゃんが好きになったの? 本当にただの一目惚れ?〉」
レベッカ先輩に視線を向けられると、一角先輩は頭の後ろを掻きながら、声を出さずに笑う。
暗くなってた赤目に光を宿して、おでこから生えた角を掴んで......。
「ちょ、ちょっと恥ずかしい話なんだぜぃ!!......だけどまぁ、どうしても話してほしいっつうんなら話してやってもいいぜぃ......」
「〈言っちゃえ言っちゃえ! 白状しちゃえっ〉」
「え、なにそれ私も聞きたい! 好きになった理由があるの!?」
私とレベッカ先輩が同時にズイッと近づくと、一角先輩は『どうにでもなれ』とでも言いたげに肩をすくめて、大きめな音を立てながら深呼吸をした。
「は、初恋の人に......似てるんだぜぃ............」
初恋の人......! え! なんか素敵じゃん!
見た目が似てるのかな? それとも性格の方?
「初恋ってか......元カノというか、だぜぃ......」
「カノジョ!?!?」
「一目見たときから、ピーンと来ちまったんだぜぃ......! 見た目に反して堂々とした立ち振る舞いと喋り方、そしてあの真っ直ぐな瞳......!!」
だんだん恥ずかしい気持ちが薄れてきたのか、一角先輩は両手を組みながら、うっとりと天井を見上げた。彼の視界には、ローリエの幻影がいるのかもしれない。
「箒の衝突事故で医務室送りになるところも、やんちゃで可愛らしいんだぜぃ! キャベツとの会話も微笑ましいんだぜぃ!」
「わかるぅ!!」
「アレのどこが微笑ましいんだよ????」
えへっ、えへへ、同じヒトが好きってだけでこんなに楽しいんだ! まぁ私は先輩と違って、恋愛的に好きなわけじゃないけど......。
あれだよあれ! 同担ってやつ!
「あとツンデレ系かと思いきや、ただのイケメンロリとかもう惚れるしかないぜぃ!!」
「わかるぅ......!! 一角先輩握手しよっ、同盟組もっっ」
「まぁ、そんな感じで......気が付けば、ローリエのことが頭から離れなくなったんだぜぃ」
一角先輩は両腕を組みながら、視線を落とす。
頬は赤いけど、照れというよりは......なんだろう。愛......?
「好きになった相手と、元カノの姿を重ねるとか、不誠実かもしれないぜぃ......でも......」
先輩はゆっくりと顔を上げる。
私とキャベツくんを順番に見て、口を横に広げながら笑って。
「きょ、協力とまではいかなくても......応援は......してほしい、ぜぃ............」
「「......」」
キャベツくんは私の方を見てきてたのかもしれない。でも私は、一角先輩から目を離せなかった。
実際、ローリエを攻略するのは鬼難易度が高い。
でもローリエは優しいし、思いっきり一角先輩を拒絶したりはしないだろうし......一角先輩の方も、きっとローリエのことわかってくれるだろうし......。
もしかしたら......案外............。
「......任せて」
私は前のめりになって、一角先輩に顔を近づけた。
ずっと抱いてたウサギのぬいぐるみも彼に寄せて、うさ耳を上げさせて、
「私、二人とも幸せになれるように——」
「「ライケルてめぇっ、彼女いたことねぇだろうがーーーーーー!!!!」」
................................................私が。
放心してる、間に。もう一角先輩は、遠くに吹っ飛ばされちゃってて。
彼を蹴っ飛ばしたプニ先輩とまつ毛先輩は、プルプル肩を震わせてて。
「なーーーにが『元カノに似てるから......』デスノッ!? 元カノどころか告ったことも告られたことすらもねーーーーーーでしょうがあなたっっ!!」
「息を吸うように嘘つくんじゃねぇだに!! ツッコむタイミング失っただに!!!!」
え?
......え?
あ、つまり、一角先輩には元カノとかいなかったってことで。
さっきまでの流れは全部......えっとぉ............。
『初恋の人』っていうのも......。
「い゛っっってぇぜぃ......あれ......? 我、元カノいなかったっけ......? だぜぃ......」
「こいつ想像の中で彼女作り出してますワッッ!!」
「哀れな存在すぎるだに......」
そんな感じで。
恋愛相談(?)は、よくわかんない感じで終わっちゃって。
どういう感情になったらいいのかわかんなくて。
私は。
「............ず............ズコーーーーーーッ!」
とりあえず、時間差でズッコケたのでした。
***
青空の中でも、転生観覧車は負けじと輝いていた。
虹を作る雲たちがいない代わりに、七色を世界に足していた。
草むらに落ちた天使の羽を踏みながら、私は歩く。
花束を抱えたまま、なんとなく跳ぶ。浮こうとしてみる、けど。せいぜい重力が月と同じくらいになっただけだった。
自身の羽を拾わずに、進む。
憎いくらい晴れた空から目を下ろして、息を吸う。
「......ゾディさん」
私は、誰もいない土の中に話しかけた。
魂のない砂を飾るだけの、石の前に腰掛けた。
ゾディさんとオートミールは、今日も一緒にいる。
この世のどこにもいないけど、今、目の前で、隣同士になっている。
「............ごめんね。最近あんまり来れてなくて」
お墓に話しかけるなんて、おとぎ話の主人公みたいだね。
......それとも。
おとぎ話なら、ハッピーエンドだったのかな。
銃も、死も、砂時計も。全部無い物語だったのかな。
「ゾディさん、お花は好き? あのね。マーケットで買ったんだけどね。お供えするお花は何がいいかって店員さんに聞いたら、この黄色い花くれたの」
二人のお墓のそばに、そっと花束を置く。
スターチス、って言うんだって。花というよりは、小さな桜の木みたいでね。幹から無数の小さな黄色が咲き誇って、それこそ星々のようで。
前、ここに来たとき置いた花は、誰かに持ち替えられちゃったのか、風に飛ばされちゃったのか......枯れちゃったのか......わかんないけど。
「お花屋さんの店員さんが、花言葉はどうのって言ってたけど......ウィローさんったら記憶力ないからさ、なんて言ってたか忘れちゃったなぁ......」
店員さんは、『愛』がどうのとか、『記憶』がどうのって言ってたような気がする。
「......オートミールも、お花......気に入ってくれるといいけど............」
..................もし、答えが返ってきたら。
もう一度だけ、声が聞けたなら。どんなに......
「............」
私は首を振った。
召喚術のことも、考えないようにした。
まだ、怖い。
まだゾディさんの死を悲しんでいたい。なんて。変なのかな。普通かな。
ゾディさんも、ずっとこんな気持ちだったの?
オートミールを蘇らせるって決めたとき。オートミールと再会したとき、ゾディさんも。
「ねぇ......あのね。もうすぐクリスマス、なんだって。もう冬なんだって......」
「ゾディさんが死んじゃったのは、夏だった、よね」
「あれからもう......半年くらい経っちゃいそうなんだよ。信じられなくない?」
私は今、どういう感情で笑ってるのか。自分でもよくわからなかった。
「......時の流れは、いつだって残酷だね」
花束から手を離して、ゾディさんとオートミールに向き合った。
二人の名前と、向き合った。
芝生の生えてない土の山と、............。
「っ............会いたい......なぁ......」
胸に、手を当てる。
鼓動はいつも通りなのに、心臓が針で締め付けられるように痛い。
「忘れられないよ......私......、ゾディさんのことも、ゾディさんとの思い出も、」
「一瞬だったかもしれないけど、私、まだゾディさんのこと何も知れてなかったのかもしれないけど、っ、」
ゾディさんを救えなかったこと。これからもずっとずっと、後悔し続けると思う。
この半年間。全部を忘れられる日なんて来ないんだって、思い知ったの。
痛みが薄まったと思ったら、夜になると波のように襲いかかってきたり。
何気ない日常の一部が、引き金になってしまったり。その繰り返し。
「............でもね。何も手に付かなかった頃とは違うんだ。普通に授業受けたり、部活に入ったり、また変なことに巻き込まれちゃったり......」
「あ、あとね、これはまだみんなには内緒なんだけどね、」
「ゾディさんに言うのが初めてなんだけどね、私、」
じわじわと、首の裏が熱くなる。耳を手で隠したくなる。
「......キャベツくんのことが............好き、なんだぁ............」
..................言っちゃった。
絶対に今じゃねぇだろって心の中の誰かにツッコまれちゃったけど、別にいい、よね。
み......認めちゃった。ゾディさんの前で。え、えへ............。
こういうことが言えるようになったのも、少しでも心が癒えた証なのかな。
それじゃあやっぱり、なんだかんだ私は前に進めてるのかな。
悲しみが、薄れていってるのかな。
「それは......それで寂しいけど............」
私は、両手を合わせた。
目を閉じた。
ゾディさんの魂が、安らぎを見つけられますように。
オートミールと、何かしらの形で再会できますように。
......私の知らないところで、もうすでに叶ってたりするのかな。そうだといいな。
「..............................ゾディさ」
「〈もしも~~~し? ガーディナーちゃん?〉」
立ち上がろうとしたその瞬間だった。
突然頭上から聞こえてきた声に、私は思わずひっくり返る。危うくゾディさんとオートミールにあげたお花を潰しちゃいそうになる。
「あばばばばばっっばっっっれ、レベッカせんぱっっぇえええぇえ」
ウィローさんは無事、ゾディさんとオートミールに醜態を晒したのでした。
「い、いいいいぃいいいいいつから、え、えぇぇえ、あ、」
背後から聞こえたような気がしたから、振り返ってみたんだけど............どこにもいない。
キョロキョロしてみても、レベッカ先輩の姿はどこにも見当たらない。
「〈今ね、ガーディナーちゃんの脳に直接話しかけてまーーーーす! 聞こえてたらいいんだけど......〉」
「で、出たぁ......テレパシー......」
この感じだと、結構遠くからテレパシー出してるっぽい。私の声は聞こえてないのかな。
そういえばゾディさんも、テレパシー使えてたよね......彼の場合は、道具じゃなくて魔法使ってたけど。
「〈これが聞こえてるガーディナーちゃんは、今日の放課後ボクに会いに来てください! 渡したいものがあるんだ~〉」
「渡したいもの?? それって大丈夫なやつ?」
「〈それじゃっ、また後で~~~〉」
プツリと切れる電話のように、先輩の声が聞こえなくなる。やっぱり、私の声は向こうに届いてないっぽい。
これは......行くしかないよねぇ......嫌な予感しかしないけど、楽しみな気持ちがないと言えば嘘になるからなんだかなぁ~~~~......。
「あ、あははっ......なんか締まらない感じになっちゃったけど......」
私はゆっくりと立ち上がって、翼を少しだけ広げる。
二人のお墓に、影を落とす。
「また来るね、ゾディさん。オートミールも......」
なんとなく、お辞儀した。ゾディさんに頭を下げるのは、なんか変な感じするけど。
そして私はまた、空を眺める。砂時計を失った観覧車に、背を向ける。
雨を降らせる気のない太陽に向かって、飛び立つように。未来に向かって走り出すように。
天使の羽を落としながら、お墓から離れたの。
「............?」
目。
目が、こっちを見たような気がした。
森からか、空からなのかすらもわからない。
いくら辺りを見渡してみても、再び視線を感じることはなかった。
青......いや、紫?の目だったような......??
いやいやっ、幻覚だよ幻覚、多分幻覚。うん。ちゃんと視界に入れたわけでもないのに、相手の目の色だけわかるとかおかしいし。
「............気のせいか......」
私は今度こそ足を止めずに、ゾディさんとお別れした。
次話:ムリムリムリムリ!!!!
です。恋愛の方は進展するのでしょうか




