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118話:不倫調査(なお誰も結婚はしていない)

私とキャベツくんは、なんか気がつけば『笑顔拡散委員会』に入ってることになってたよね。


晴れて(?)入部した私たちは、とりあえずレベッカ先輩以外の五人と廊下を歩いて、百鬼夜行ごっこしてたんだけど......。



「お前たちは何一つわかってないだに! アイスクリームこそが一日の質を左右する、朝のソウルフードだにっ!」



トロールの先輩こと『プニ先輩』は、さっきからず~~っとアイスクリームの良さを熱く語ってた。(語尾が『だに』だし、雰囲気もぷにぷにして可愛いから『プニ先輩』ね)


すると、まつ毛先輩は「オーーーーッホッホヘホッホ!」って笑いながら、どこからともなくフリルの扇子を取り出す。



「いやいや、ここは卵焼き一択でしてヨッッッ! 卵は栄養が豊富ですシッッ、肌に塗りたくれば美容効果があるのですわっっ!」

「今は美容の話じゃなくて朝食の話をしてるだにっ! テメェは引っ込んでろだにっ」


「違うゑ! コオロギだゑ! コオロギこそが一番の朝食だゑ!!」



ゴブリンの先輩こと『キラ目先輩』は、その場でぴょんぴょん跳ねながら、私たちと目線を合わせようとしてくる。(目が常にキラキラしてるから、『キラ目先輩』ね)



「コオロギは野菜だゑ! 野菜は体に良いゑ!! あと旨いゑ!」

「ジャスパー? 多分お前、コオロギとネギを間違えてるぜぃ。コオロギは虫だぜぃ」

「マジだゑ!?!?」



鬼の先輩こと、『一角先輩』はうんうんと頷きながら、ゆっくりと両腕を組んだ。(鬼の角が一本だけ生えてるから、一角先輩だよ)



「ちなみに我は、朝食にはステーキをおすすめするぜぃ!!......まぁ、我はそもそも朝食を取ることはほとんどないけどな、だぜぃ」

「普通すぎてつまらんだに。マーキュリー? お前はどう思うだに?」



プニ先輩はニコニコ顔にシワを寄せながら、マーキュリー先輩を指差した。顔は優しそうだけど、結構毒舌なんだよなぁこのヒト......。



「......僕? 僕にとっての朝食は......」



マーキュリー先輩は尻尾のヒレを揺らしながら、自分を運ぶディスクを撫でる。

そして、散っていく桜のエフェクトを出しながら、儚く目を細めて——



「そんなの、レベッカの熱い唇に決まっ」

「気色わりぃーーッ!!」

「知ってただに」

「死刑だゑ!」

「だぜぃ」



..................え~~~っと?


この流れ......次は私が答えなきゃいけない感じだよね......?



い、一番良い朝食?? そんな、朝ご飯なんてその日の気分によって変えてるしっ、


それに、ふ、普通のこと言ったら『つまらん』って言われちゃうかもだしえっとえっとぉっっ



そ、そうだ!! 多少は話を盛ってもバレない、と思う、し......。




「私は、そ、そぉだなぁ~~~? 業務用チョコ20粒——」


「ハッッッッ!?!? おいおまえたち!! アレを見ろですワッッッ!!!!」




と、いうわけで。ウィローさんは普通に無視されまして。


『助かった』って気持ちと『言いたかったぁ』って気持ちがミックスジュースになったけど、私は全部ちゃんと飲み込みながら、まつ毛先輩が差す方向を見たのでした。




あそこは......代理医務室の看板、だよね。


そして、その中に入っていくのは......——



「お、おいっ!! あれってレベッカ パイセンじゃねぇか!?」



キャベツくんが、私たち全員が思ってたことを口に出す。


あまりにもデカい声だったから、手で口を塞いでやるか迷ったけど......レベッカ先輩は何も気づかずに、代理医務室に入っていったっぽい。



私とキャベツくんと、『笑顔拡散委員会』の皆さんを含めた......七人は、キョロキョロとお互いの顔を見合わせた。



「......代理医務室ってよォ......トモル先生がいるとこだよな......?」



キャベツくんの問いかけに、全員がバラバラに頷いた。



「う、うん......今日は火曜日じゃないから、授業もないはずだし......多分いる............」

「レベッカは特に怪我とかはしてなかったはずですワッ! つまり......」

「ま、間違いないだゑ......」

「............」



『二人とも。もし入部するんだったら、一つだけ条件がある』

『解明してほしい秘密があるんだ』



......私たちは、おそるおそるマーキュリー先輩の方を見た。



『レベッカは、トモルと付き合ってる』

『それが本当なのか、一緒に確かめてほしい』




「..................」



ただ目をぱちぱちさせてるマーキュリー先輩の肩に、一角先輩は手を置いた。


一本だけ生えた角が彼に刺さらないように、ゆっくりと頭を下げて首を横に振る。




「ど......どんまいだぜぃ......」

「......」




そ、そうじゃん。マーキュリー先輩はレベッカ先輩のことが好き(どころか毎日キスまでしてる)じゃん、だ、だから、


レベッカ先輩とトモル先生が付き合ってる、って知ったら、めちゃくちゃショックを受けるはz



「ふ......ふふっ............」




..............................あ。




「そう、なんだ......レベッカには恋人がいて......それなのに、僕にキスされるとあんな顔......」



彼は無表情のまま、目をとろんとさせる。

淡い水色の頬に手を添えて、ぽぽぽぽって赤く——いや、青く染めて.....。



「......っふ............興奮する............っ」

「ここに異常者がいるゑ!」

「もはや無敵だに......」



マーキュリー先輩がいると、他のみんなが普通の感性を持ってるように見えるけど......みんなも全然ぶっ飛んでるんだよなぁ。忘れないようにしないと。


ま、まぁとりあえず、本人が嫌がってないなら結果オーライなのかな? これが公認不倫ってやつ?? いや二人は結婚してないし......いやそもそも付き合って............?

............やっぱり......私は............



「ね......ねぇ! 確かにレベッカ先輩、トモル先生に会いに行ったっぽいけどさ! まだ付き合ってるって決まったわけじゃなくない!?」



私はおそるおそる声を出してみるけど、みんな意外と真剣な顔で話を聞いてくれる。あ、マーキュリー先輩以外ね。先輩はもう完全に自分の世界に入り浸っちゃってる。



「二人って結構前から知り合いっぽいでしょ? 普通に仲が良いだけなんじゃないかな?? それか、レベッカ先輩がトモル先生にちょっかいかけに行っただけとか......?」

「確かに、その可能性は普通にありえるよなァ......」


キャベツくんは私の、隣に、立って......わ......こうして見ると、やっぱり背高いな......。


「元々『笑顔拡散委員会』ってよォ、よくトモルせんせーをベーコンにするなりなんなりしてんだろ?? 生徒指導の先生と、通称『いたずらサークル』のリーダーが仲良いのは別に不自然ではなくね?」

「「「「リーダーは【アテクシ】【我】【わたす】【俺】だ!!!!」」」」

「うぉっ!? そこいちいち突っかかってくんのかよ......」



背伸びしても、絶対にキャベツくんには勝てないんだろうなぁ。

そ、そうだ! 飛べばいいんじゃない? 最近飛行訓練でちょっとだけ浮けるようになってきたし......。



「こうなったら、アテクシたちの目で確かめるしかねーですワッ!! 不倫調査ですワヨッ」

「不倫といえばプリンだゑ、プリン食いたくなってきたゑ!」

「茶碗蒸しなら常に持ち歩いてるから、あげるだに~」



プリン......か......。


そういえば、もうすぐ冬になっちゃうよね。

冬になったらクリスマスで、その後はバレンタイン......。


............。



「オラッッッ!!!! 全員代理医務室へ突撃しますワヨッッッ!!!!」

「「「サーイエッサー!」」」

「お、オレも行くぜ!」











........................あれ?


あ、あれ!? なんかみんないつの間にいなくなってる!? もうあんなに遠くまで行って、




「ちょ、ちょっと!! 私を置いてかないでよーーーーっ!!!!」




私はみんなの後を——


......追う、前に。





「ふっ......くくっ............レベッカ............kiss......」

「............」




まだ私の隣にいた、マーキュリー先輩はとりあえず置いて行くことにして。


改めて、みんなの後を追いかけていったのでした。




............とはいえ、めちゃくちゃ遠くまで走らなきゃいけないわけじゃなかったけどね。代理医務室は見えるところにあったし。




「————クソッ! 鍵がかかってやがりますノヨッ! これでは中を見れないではありませんノッッッ!!」


まつ毛先輩はムキーーーッて顔をしながら、代理医務室の扉を容赦なく叩く。


「レベッカ!! トモル!! お前たちがその中にいることはわかっていますワッ!!!! とっととここを開けるんデスーーーーーーーーノッ!!!!......。............」



しばらくノックしまくった後、彼女はドリルヘアをパサァッてやって、ドアに耳を当てる。



「............何も聞こえませんノ」

「そ、そうだ! こういうときは、盗み聞きするときに使う魔法使えばいいよ! 耳を大きくして、地獄耳になる魔法!」



って、提案してみたはいいものの......先生たちには100%私たちの存在バレてるし、今更そんなことしても無駄な気が......。



「なら、オレが解錠魔法でドアの鍵開けてやろっか?」



すると、キャベツくんは翼を広げながら指パッチンして、手のひらに魔法の杖を呼び出し——って、それまだ私ができない魔法じゃん!! しかも無詠唱!!!!


こ、こやつ、いつの間に習得して......ぐぬぬ......う、羨ましくなんてないんだからね......!



「ずっと練習してきたから、この魔法は得意なんだぜっ! 代理医務室の鍵なんて、ちょちょいのちょいで開けてや——」


「その必要はないだに!!」



プニ先輩は背後から私たちを押しのけて、扉の前に仁王立ちする。


よく見ると、彼女の手には宇宙人が持ってそうな銃......?が握られていて。先輩の体が大きいから小さく見えるってだけで、近くで見てみると結構大きいレーザー銃。



「この銃さえ使えば、すぐに中に入れるだに!!」

「デボラ!? お主っ、いつもそれ持ち歩いてるんだぜぃ!?」

「危険すぎるゑ! 最悪死人が出るゑ!!」

「おいおいおいっ、オレらを置いてけぼりにすんな! その銃使ったら何が起こんだよ!?」



『オレら』の『ら』の中に入ってるのは、私......かな。私、だよね。


......? なんで私、こんなどうでもいいこと考えて——



「この銃を使えば!! 扉であろうとなんだろうとっっ、なんでもベーコンにしてしまえるだに!!」

「出たーーーー!! 『笑顔拡散委員会』の謎のベーコン推しっっっ!!!!」

「んなベーコン好きならっ、なんで『一番良い朝食』の話ンとき誰も——」


「早速発射するだに! お前ら全員下がれだにーーー!」



......なんか、もう。勢いで事が進んでしまいそうだったから、もうなるようになれって感じで。



私たちは大人しく後ろに下がって、プニ先輩を見守った。

彼女は斜め上を向いた耳を掻いて、足をドシッと言わせながら、レーザー銃の引き金を長押しする。


すると、銃の先から光の弾が現れて、『キュイーーン』って音と共にどんどん大きくなって、


辺りが真っ黄色に染まって、影にすら色移りして、



まるで空気魔法のように、一点に風が集まって——





「おや? 君たち、こんなところで——」





銃が放たれる前に、代理医務室のドアが開いちゃった。



そこには、トモル先生がいて。


プニ先輩は反応しきれなくて、今更レーザー銃を撃つのをやめることなんてできなくて、

レーザー銃の弾が完成して、


そのまま、





「「「「「「「ア」」」」」」」




レーザーを真正面から食らったトモル先生は、悲鳴を上げることすらもできずに発光する。

こっちも真っ黄色に光って、真っ白なシルエットを作り出して、


変形して、小さくなって——、、、、、、




..............................急に、トモル先生が出てきたことに。もっとびっくりするべきなのに。


ベーコンにされて、床にぺしょっと落っこちる彼を見ても。



『あ。いつものベーコンオチか......』で終わってしまった自分がいた。






「——————! レベッカはどこデスノッ!?」



一足先に我に返ったまつ毛先輩は、トモル先生(ベーコンの姿)の上を飛び越えて、代理医務室へ足を踏み入れた。


すぐに、舌打ちの音が聞こえてくる。



「おまえたち!! レベッカに逃げられましたワッッ!! どこにもいませんノヨ!!!!」



一旦トモル先生はほっとくことにして、私たちは順番に代理医務室を覗く。

扉の縁に掴まって、だるま落としみたいに全員頭を縦向きに並べて。



レース状のカーテンが、風に揺れている。

澄んだ空気が、私たちを嘲笑う。


......ベッドの横の窓が、開いてるって、ことは。

どこにもレベッカ先輩の姿が見当たらない、ってことは......。




「ムキーーーーッ!! レベッカのやつ!!!! 次こそは絶対に証拠を掴んでやろうと思ってましたノニーーーーッ!!!!」

「レベッカ......別に隠さなくてもいいのにゑ......」

「我たちは別に応援するのぜぃ!!......マーキュリーも満更でもなさそうだし、だぜぃ」

「そういや今更だにけど、マーキュリーのやつどこ行っただに??」





レベッカ先輩は、確かにこの中に入っていった。


そして......逃げた。多分、私たちに気づいて。

逃げたってことは、何かやましいことがあるってこと......で。



え......え?? ほ、ほんとに付き合ってるってこと? トモル先生とレベッカ先輩が?? あの二人が????


.............ありえない、よ。やっぱり、信じられない。



だって、トモル先生は確か、アポネ先生のことが好きなはずなんでしょ?

『笑顔拡散委員会』もレベッカ先輩も、彼の恋を応援してた、はず。


それに、レベッカ先輩だって、多分マーキュリー先輩が——




『先週は、僕の都合で講義をキャンセルしてしまってごめんね。メールでも伝えた通り、牡蠣にあたってしまって......』


『先週はごめんねぇ、牡蠣にひどいあたり方しちゃってさぁ』




————牡蠣。


二人で、一緒に牡蠣を食べた? だから二人とも仲良くあたっちゃって、講義もキャンセルにしちゃって、しかもまったく同じ日に、


......デート......



いやいやいやいやでも、いやでもそんなの、

そんなわけ、



そんな......わけ............





「アテクシは諦めませんノヨーーーーッ!! 絶対にこの秘密を解明して、レベッカの弱点を掴んでやるんデスノ!!!!」





............????










* * *


「っ......あ、んな......ちゃ............」

「......」

「あんなちゃ、ん......なんで......なんで、なのか、に、は......っ......」

「......」


「なんで............ママもパパもいないの............?」




............温度差で風邪を引きそうな皆さん、こんにちは。


大丈夫。ウィローさんもびっくりしてる。今日はあんなにめちゃくちゃでさ、ギャグに満ちた一日だったのに。眠りについた瞬間、これなんだもん。


でも私には、夢を選ぶ力はなくて。

記憶は川のように流れて。



私は——宇佐川なのかは、涙を零していた。




「だ、れも......おしえてくれないの......せんせーもおしえてくれないの......っ......」


「なのか、お、おぼえてない、から......ママのことも......パパのことも............」


「だからきい、ても......おしえてくれないのぉ............!」



これは。あんなちゃんが孤児院を出る前のお話。

私たちがまだ、幼い頃の物語。



「ね、ぇ............なんで......なのぉ............?」


「みん、な......ママとパパのこと、おぼえてる、のに............」


「なのか、だけ.............からっぽなの............」



この頃の私は、まだ理解してなかったのかもしれない。


それとも、本当はわかってて。でも、目を逸らして。


両親のことを覚えてるのは。必ずしも、良いことではないことを。

あんなちゃんに、こんなこと言うのは。酷だってこと。

私は......。



「おしえてくれないってこと......は、ママもパパも、もう、し、しんじゃってるってことなのかなっ」

「......」

「それとも、なのかがサンサイのとき、に、すてちゃったのかなっ」

「......」

「なのかのことすてちゃったのかなあっ」



それなのに。

あんなちゃんは、ずっと何も言わずに聞いてくれてたの。



「......あんな、ちゃん............なのか......っ......いっしょうママとパパのかおもわからないまま、しんでいくのかな......?」


「ママとパパがなのかのこと、すきなのかも、きらいなのかもわからない、まま、」


「..................ずっと......ひとりぼっちのまま......なの......っ............?」



知らない方が良いこともある。何も知らないままの方が、幸せなのかもしれない。

......わかってたつもりでも。わかってなかったのかな。

今なら、わかるのかな。



「......~~っ、......っ............あんな、ちゃ............」



幼いながらも。

めちゃくちゃなことを言っちゃってることだけは、わかってしまったの。


だから。



「ご、............ごめ......っ............」

「あーしはあんたのママにもパパにもなれん。でもな......」




でもあんなちゃんは、私に謝らせてくれなかった。


私の手を取って、指を絡めてきて。




「————あんたの、かぞくになら。なれるよ」




優しく微笑むことも、怒ることもせずに。

ただ、私しか知らない彼女の表情で。真っ黒な目に明かりを灯して。



「......かぞくになろうよ」


「いっしょに......いきよ?」


「せやから............」



あんなちゃんは立ち上がった。

私の手を引っ張って、無理やり立たせてきた。


孤児院の床は冷たくて。でも、私たちが座っていた場所は温かくて。



立ち上がると。下の階から、目玉焼きの匂いがしたの。

家の匂いが。したの。




「.............はやくあーしと、あさごはんたべにいこ?」


「もうはらがへってしゃーないねん!」





彼女は、私を日常へと引きずり戻す。


涙を無理やり拭うことはせずに。でも、空気に雲を足すようなこともせずに。



いつもそう。いつもそうだった。

安心できるように。家族のように。



あんなちゃんはいつも。私の涙を、あって当たり前のもののように扱ってくれた。




「~~~~~~~~~~っぁ、」




そんな、あんなちゃんのことを。



私は、本物のお姉ちゃんだって。思ってたの。

思って、たんだよ。




「ふぁぁぁぁあぁぁぁああぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁあ」

「はいはい、はよシタにおりような~」

「あんなちゃんすきいぃいいいぃいいいいぃいいいぃいいいい」

「はいはい......」






* * *




............ネルソービューは。


どうして、こんなに大事なことを。


私に忘れさせたの?






次話:ツギハギが始まる

です。嵐はもうすでに始まっています

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